きみと探す妖精物語

楢川えりか

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 まぶたの裏に明るい光を感じて、日向は目を覚ました。
 窓からまだ若い早朝の光が差し込み、部屋の中を照らしている。

「あれ?」

 ふと枕元を見ると、ハート型の葉っぱがあった。夢の中で、ジョシュが渡してくれたものに形が似ている。
 窓から入ってきたようにも見えないけれど、夢から持ち帰ったというのもおかしな話だ。

「起きたか」

 プーカの声がした。
 葉っぱの近くに横たわるプーカを、指先で軽く撫でる。

「おはよう、プーカ。昨日、きみは僕の夢にいた? 塔って、なんだかわかる?」

 そんな気がして、日向は尋ねたが、妖精は肩をすくめる。

「きみが私の夢を見たのだろう。私は知らないよ」
「そっか。あのね、昨日、きみの言うとおり、夢でジョシュと一緒だったよ。それから、父さんと母さんも」
「会いたい人に会えたか」
「うん。……ねえ、プーカ。僕はやっぱり、ジョシュにちゃんと話をする」
「そうした方がいい」

 日向は着替えて朝食をとると、まだ寝ている気配のする父宛てに、『ちょっと出かけてきます。出発の時間までには戻ります』と置き手紙をして、家を出た。
 葉っぱとプーカはポロシャツの胸ポケットに入れてある。
 ジョシュの家の、彼の部屋の窓を軽く叩いた。
 早い時間や遅い時間は、家族を起こさないようにこうやって、窓からコミュニケーションを取ることが多かった。
 ジョシュは起きていたのか、すぐ窓辺にやってきた。寝巻きなのだろう、ジャージ姿だが、うまく眠れなかったのか疲れているようだ。

「え、日向? 日向!」
「朝早くごめん。少し話せるかな?」
「あ、うん、待って着替えるから!」

 慌てた声がして、バタバタとうるさくなった。日向はぼんやりと朝日に照らされた木々を眺める。どの葉も美しく輝いていた。朝露が反射しているのか。
 日向は自分がこれから話そうとしていることを考えると、緊張する。
 でも、昨日彼が言ってくれたことに比べたら、自分も少しは勇気を出さないと。

「ごめん、お待たせ」

 窓を大きく開けるとジョシュが自室の窓から飛び降りてきた。
 慌てて準備したのか、セットされていない前髪が長いまま風に吹かれている。
 日向は改めて彼の端正な横顔を眺めた。かっこいい。
 日向は、ポケットから葉っぱを取り出して、ジョシュに見せた。

「ジョシュ。きみは昨日、僕と塔に行く夢を見た?」

 途端に、彼の顔がほころんだ。

「日向、きみも同じ夢を見たの? ミスター・ブラウンや、日向のお母さんが出てきた?」
「そうだよ!」
「そうか、楽しい夢だったね」

 思い出をかみしめるように、ジョシュが言った。

「あのさ、ジョシュ。昨日の夢の最後を覚えてる? 塔ってなんだろう。みんな行くって、ミスター・ブラウンが言っていたけど……」
「えっと、ぼくはきみにあそこで未来を見せると言ったっけ」

 未来というのはつまり、自分たちがどんなふうに終わりを迎えるのかということじゃないのだろうか。
 つまり塔は、天国みたいなところじゃないか?

「もし、夢を最後まで見ていたら、どんな未来だったかな」
「もう覚えてないけど、……悪い未来じゃないよ、きっと」

 ジョシュはそう言うとひかえめに微笑んだ。
 日向は、ジョシュが夢の中ほど自分に愛を誓ってこないことに気づく。
 夢の中のジョシュだったら、どんな未来でも自分のことが好きだとか、もう少し積極的なことを言うだろう。
 たぶん、彼は自分に遠慮しているのだった。昨日、自分が彼の申し出を断ったし、泣いたから。
 それは、彼のいいところでもある。
 日向は勇気を出して、葉を持っていない方の手を夢の中のように差し出して、そっとジョシュの手を握った。

「えっ、日向……」
「昨日は、ずっとこうしてたよね」
「あっうん、夢でね」

『大丈夫。失うことは、怖くはないから』

 日向は夢で、父が自分にかけた言葉を思い出す。
 大丈夫。
 心の中でつぶやいて、目の前のジョシュを見た。

「ジョシュ、僕は大丈夫。未来を見せてもらわなくても、今のきみの気持ちだけで十分だ」
「えっと、それって、どういう」
「僕もきみの恋人になりたい。遠く離れて暮らしても。僕もきみが好き」

 言葉を止めたら恥ずかしくて言えなくなる気がして、日向は一気に言った。

「えっ、あー……」

 ジョシュが恥ずかしそうに、つないでいない方の手を自分の口元に当てる。
 日向も恥ずかしくて、目は合わせられなかった。

「そっか、うん。嬉しい」
「昨日はごめんね、すぐ応えられなくて」
「いや、ぼくこそ、むりやり恋人になればいいとか言ったし」
「違うよ、昨日泣いたのはそのことじゃない。僕が悪いんだけど、僕の気持ちはそこまでじゃないって言われたのがいやで」
「ッ、あー……そう、そっか」

 ジョシュがちょっと嬉しそうだがどうしたらいいのかわからないといった感じの声を上げていた。日向も正直そうだ。自分たちはもう恋人なのか、それで恋人になったら何をどうしたらいいのか。

「ふたりとも! その気になったなら朝露が失われないうちに私の羽根を治してくれ」

 待ちきれない様子のプーカの声がして、日向はほっとする。そうだ、それがあった。

「そうだ、行こうか。木の下に」
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