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PART 3
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「……っあ、ミケーレ、あ、あ!」
腕の中のテオが、身をよじらせる。腕の中の恋人は、さっきまですっかり冷え切っていたのが嘘のように、その体を火照らせている。
ふだんは年上めいた態度の彼が、腕の中では自分のなすがままなのは、本当にかわいいと思う。
ミケーレは後ろから抱き込んで、手の中にある恋人の分身を丁寧に愛撫していた。恋人は時々逃げるしぐさをするが、強すぎる快楽から逃れようとしているだけで、嫌がってはいないようだ。その証拠に何度か、自分から口づけてきたし、その唇からは快楽の混じった甘い声がひっきりなしに漏れていた。
安宿の壁が薄いのが気になったが、雨が降っているとはいえ、カーニヴァルだ。きっと、隣の部屋に人はいないだろう。
「気持ちいい?」
後ろからキスを落とすと、テオは熱に浮かされたようにうっとりとした顔のまま小さく頷いた。
「ん、」
無意識だろう。毛布を握りしめているテオの左腕から血がにじんでいるのに気づいて、そっとその手を空いている方の手で開かせた。自分が昨日、傷つけたところだ。心が痛むのを感じながら、優しく指先をからませる。
「力抜こ。痛いでしょ」
「ぅ、ん」
「テオ、ごめんね」
「大丈夫、」
血がにじんでいるのに、大丈夫もないだろう。
ミケーレは気をつけて、彼の脇の下に自分の腕を差し込んで支える。テオが左手に力を入れないようにだ。
「ぅ、んッ、ミケ……レっ、ね、触って」
ミケーレが左腕に気を取られたのに焦れたように、テオの右手がミケーレを呼び戻した。
いざなわれてミケーレの掌が、テオの中心に触れる。すでに先端からあふれ出していた欲望に指を滑らせて、そのぬめりにまかかせて周囲を緩く指で撫でると、その程度でも刺激になっているのか、テオはびくりびくりと体を震わせた。感じやすくなっている。
ミケーレがさらに手を動かすと、テオの体がまた反応した。気づいていないのだろうけど、いつもより情熱的で、とろけるような体の動きをしている。
場所がいつもと違うから? これからどこか遠くに行くから? たぶんテオはいつもより興奮していて、それに自分も、今までになく興奮していた。
「ああ、待っ」
ミケーレの掌に、テオはおさまりきれない熱を迸らせた。
掌にドキドキとしているテオの感覚が伝わってくる。掌で受け止めてもまだ熱を吐き出しきれていないように荒い息をくりかえす恋人に、口づけを落とすと、そっと手を後ろに滑らせて恋人の内側に触れた。
「う、……ぁっ、あっ、ミケー…レっ」
ひときわ高い声がテオから上がった。また傷ついたテオの左腕に力が入りそうになるのに気づいて、ミケーレは恋人の指先を優しくほどいた。
大きく開かれた恋人の太腿が薄紅色に色づいて、まるで夕日をとおした透明なガラスの影のようだ。
「かわいいよ、テオ」
「ばか、かわいいのは、おまえ…ッ」
ミケーレはくすくす笑って、そのまま恋人の髪の中に顔をうずめる。もう大人になったら、どっちがかわいいかなんて、どっちでもいいのに。
「ね、このまましてもいい?」
「ん、」
「じゃあ、腰上げて」
そう言いながら恋人の太腿に手を添えて、腰を浮かせさせた。
「んん……ああ、あ、ああッ」
そのまま恋人の体を自分の上に沈めさせる。苦しげな恋人の喘ぎ声に、腰に手を回して後ろから優しく抱きしめた。
「大丈夫?」
悩ましげに目を閉じたテオは、何度か小刻みに頷く。その瞼の端からは透明な涙のかけらが見える。
恋人の息が落ちついてくるのを待って、それからゆっくりと腰を動かした。自分が動くたびに恋人から小さな悲鳴が上がる。
「ねえ、好き。すき。愛してるよ、テオ」
「んッ、わか…ってる、から」
「だから、ずっと一緒にいてっ、ね」
恋人の答えは喘ぎ声に紛れて聞こえなかった。
震える恋人の腰を抱いて、何度も腰を打ちつける。なじんできたテオの腰が自分にあわせて、同じように腰を動かしてくるのが嬉しい。それに誘われるようにさらに体を押しつけた。何度も一緒に動かした下半身がどろどろに溶けて、お互いの境目がわからなくなる。
ずっと、このままならいいのに。
そんな思いがミケーレの心に飛来した。
ガラスだったら溶解炉に入れて溶けてしまえばひとつのものになるのに、自分とテオは、どんなに体を溶けあわせてもひとつにならない。熱が冷めたら、ばらばらに戻ってしまう。ずっと、熱が冷めないままでいられたらいいのに。
そうしたら、もう離れてしまうことなど、怖れなくてよくなるのに。
枕元から水音がする。雨だけではない。運河の水が、宿の壁に打ち寄せているのだ。いつも船の中にいるような、夢の中にいるような音。自分もいつまで夢の中にいたのかわからない。テオに再会したことも、今腕の中に彼がいることですら、全部夢の中の出来事のような気もした。
次に目が覚めたら、故郷の島にいないだろうか。自分も、テオも、まだ子供で。父親も元気で、テオの両親も健在で。母親の作ったパスタをみんなで食べて。テオは遠くに行きたがらないし、自分は結婚なんて望まない。
「ミケーレ。お見合い、いつだっけ?」
テオがぼんやりと言った。いつだったっけ。思い出せなかったが、もうどうでもいいことだった。
「いつだって、どうでもいいよ」
「どんなお嬢さんだって、かわいそうだよ。ちゃんと断らなくちゃ」
投げやりに言ったミケーレの髪を撫でながら、テオは言った。ミケーレにその気がないのに、まるで気がついてもいないような口ぶりで。
腕の中のテオが、身をよじらせる。腕の中の恋人は、さっきまですっかり冷え切っていたのが嘘のように、その体を火照らせている。
ふだんは年上めいた態度の彼が、腕の中では自分のなすがままなのは、本当にかわいいと思う。
ミケーレは後ろから抱き込んで、手の中にある恋人の分身を丁寧に愛撫していた。恋人は時々逃げるしぐさをするが、強すぎる快楽から逃れようとしているだけで、嫌がってはいないようだ。その証拠に何度か、自分から口づけてきたし、その唇からは快楽の混じった甘い声がひっきりなしに漏れていた。
安宿の壁が薄いのが気になったが、雨が降っているとはいえ、カーニヴァルだ。きっと、隣の部屋に人はいないだろう。
「気持ちいい?」
後ろからキスを落とすと、テオは熱に浮かされたようにうっとりとした顔のまま小さく頷いた。
「ん、」
無意識だろう。毛布を握りしめているテオの左腕から血がにじんでいるのに気づいて、そっとその手を空いている方の手で開かせた。自分が昨日、傷つけたところだ。心が痛むのを感じながら、優しく指先をからませる。
「力抜こ。痛いでしょ」
「ぅ、ん」
「テオ、ごめんね」
「大丈夫、」
血がにじんでいるのに、大丈夫もないだろう。
ミケーレは気をつけて、彼の脇の下に自分の腕を差し込んで支える。テオが左手に力を入れないようにだ。
「ぅ、んッ、ミケ……レっ、ね、触って」
ミケーレが左腕に気を取られたのに焦れたように、テオの右手がミケーレを呼び戻した。
いざなわれてミケーレの掌が、テオの中心に触れる。すでに先端からあふれ出していた欲望に指を滑らせて、そのぬめりにまかかせて周囲を緩く指で撫でると、その程度でも刺激になっているのか、テオはびくりびくりと体を震わせた。感じやすくなっている。
ミケーレがさらに手を動かすと、テオの体がまた反応した。気づいていないのだろうけど、いつもより情熱的で、とろけるような体の動きをしている。
場所がいつもと違うから? これからどこか遠くに行くから? たぶんテオはいつもより興奮していて、それに自分も、今までになく興奮していた。
「ああ、待っ」
ミケーレの掌に、テオはおさまりきれない熱を迸らせた。
掌にドキドキとしているテオの感覚が伝わってくる。掌で受け止めてもまだ熱を吐き出しきれていないように荒い息をくりかえす恋人に、口づけを落とすと、そっと手を後ろに滑らせて恋人の内側に触れた。
「う、……ぁっ、あっ、ミケー…レっ」
ひときわ高い声がテオから上がった。また傷ついたテオの左腕に力が入りそうになるのに気づいて、ミケーレは恋人の指先を優しくほどいた。
大きく開かれた恋人の太腿が薄紅色に色づいて、まるで夕日をとおした透明なガラスの影のようだ。
「かわいいよ、テオ」
「ばか、かわいいのは、おまえ…ッ」
ミケーレはくすくす笑って、そのまま恋人の髪の中に顔をうずめる。もう大人になったら、どっちがかわいいかなんて、どっちでもいいのに。
「ね、このまましてもいい?」
「ん、」
「じゃあ、腰上げて」
そう言いながら恋人の太腿に手を添えて、腰を浮かせさせた。
「んん……ああ、あ、ああッ」
そのまま恋人の体を自分の上に沈めさせる。苦しげな恋人の喘ぎ声に、腰に手を回して後ろから優しく抱きしめた。
「大丈夫?」
悩ましげに目を閉じたテオは、何度か小刻みに頷く。その瞼の端からは透明な涙のかけらが見える。
恋人の息が落ちついてくるのを待って、それからゆっくりと腰を動かした。自分が動くたびに恋人から小さな悲鳴が上がる。
「ねえ、好き。すき。愛してるよ、テオ」
「んッ、わか…ってる、から」
「だから、ずっと一緒にいてっ、ね」
恋人の答えは喘ぎ声に紛れて聞こえなかった。
震える恋人の腰を抱いて、何度も腰を打ちつける。なじんできたテオの腰が自分にあわせて、同じように腰を動かしてくるのが嬉しい。それに誘われるようにさらに体を押しつけた。何度も一緒に動かした下半身がどろどろに溶けて、お互いの境目がわからなくなる。
ずっと、このままならいいのに。
そんな思いがミケーレの心に飛来した。
ガラスだったら溶解炉に入れて溶けてしまえばひとつのものになるのに、自分とテオは、どんなに体を溶けあわせてもひとつにならない。熱が冷めたら、ばらばらに戻ってしまう。ずっと、熱が冷めないままでいられたらいいのに。
そうしたら、もう離れてしまうことなど、怖れなくてよくなるのに。
枕元から水音がする。雨だけではない。運河の水が、宿の壁に打ち寄せているのだ。いつも船の中にいるような、夢の中にいるような音。自分もいつまで夢の中にいたのかわからない。テオに再会したことも、今腕の中に彼がいることですら、全部夢の中の出来事のような気もした。
次に目が覚めたら、故郷の島にいないだろうか。自分も、テオも、まだ子供で。父親も元気で、テオの両親も健在で。母親の作ったパスタをみんなで食べて。テオは遠くに行きたがらないし、自分は結婚なんて望まない。
「ミケーレ。お見合い、いつだっけ?」
テオがぼんやりと言った。いつだったっけ。思い出せなかったが、もうどうでもいいことだった。
「いつだって、どうでもいいよ」
「どんなお嬢さんだって、かわいそうだよ。ちゃんと断らなくちゃ」
投げやりに言ったミケーレの髪を撫でながら、テオは言った。ミケーレにその気がないのに、まるで気がついてもいないような口ぶりで。
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