サンダルで駆け抜ける異世界ライフ

medaka

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Season 3

第二十二話:氷と風のフリーズドライ革命

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エリクサの午後の陽光が雑貨屋クロノスの店先に差し込む頃、アリスは店の奥で、保存食用の魚やキノコを魔法で乾燥させていた。
学園の授業が終わって店に戻った今も、ミャウが店番を引き受けてくれているおかげで、ゆったりと作業に集中できるのだ。

そこへ、冒険者風の客がやってきた。革の鎧を着た屈強な男で、棚の商品を眺めながらミャウに話しかけている。ミャウは猫耳をピクピクさせながら、客の言葉を聞き、アリスに伝える。
「アリス、お客さんがエリクサメイト以外の保存食はないかって言ってるよ。ダンジョン探索で持っていけるもの、軽くて栄養あるやつがいいんだって。重い荷物は避けたいし、簡単に食べられるのが理想だってさ」。

アリスは目を丸くし、「エリクサメイト以外? 干物とかキノコの乾燥品はあるけど、もっと便利なの欲しいの?」
客は頷き、「ダンジョンじゃ重い荷物は命取りだ。長持ちして、簡単に食べられるものがあればな。」。
アリスは少し考え込み、アルフレッドの厨房へ相談に行く。

「アルフレッド、保存食で、ダンジョン向きのって何かない?」
「ふむ、アリス。地球での知識を思い出すんだ。フリーズドライ食品を作る時が来たんじゃないか。軽くて栄養満点、冒険者にぴったりだぞ」。

アリスは思い出した。地球でブラック企業に勤めていた頃、残業続きの毎日でまともな食事が取れなかった。デスクでこっそり食べるフリーズドライのインスタントスープやご飯が、唯一の救いだった。
「あ、そうだ! 地球でブラック企業にいた頃、よくフリーズドライのスープやカレー食べてたよ。軽くてお湯かけるだけで本格的な味になるんだよね。疲れた体に染み渡って、ちょっと幸せ感じてた…。あれをここで再現できたら、冒険者さんたちも喜ぶかも!」とアリスは目を輝かせる。
アルフレッドは笑って、「それだよ。アリス、君の風魔法を活かせば、きっと作れるさ」。

アリスはピンと来て、「そうか、私の乾燥魔法を使えば! 風で一気に水分飛ばせばいいよね!」
だが、アルフレッドは首を振り、「いや、ただの乾燥じゃダメだ。フリーズドライは凍らせてから水分を昇華させるんだ。普通の乾燥みたいに熱で蒸発させるんじゃないよ。素材の味が損なわれないのがポイントだ」。
アリスは「昇華? 凍らせる必要があるんだ…。じゃあ、氷魔法の専門家を探さないと!」と呟き、解決策を探すことにした。

その日から、アリスは学園中を聞き込み調査。ルビーに「氷魔法の専門家知らない? 誰か紹介して!」と尋ね、エマに「本で氷の研究してる人、載ってない? 図書館の知識、頼むよ!」と相談。

リアノンも手伝い、「私の知り合いに、氷の魔法を研究してる生徒がいるわ。名前はエリオット・フロスト。あの有名な元S級冒険者“氷の微笑”リディア・フロストの甥よ」。
アリスは「リディア⋯?誰?」と首を傾げる。リアノンは詳しく説明を続ける。
「リディア・フロストは、ヴェルディアの冒険者ギルドの受付嬢で、青い髪の美人さんだけど、鋭い目と冷たい態度で有名。S級冒険者として“氷の微笑”の異名を持ち、氷魔法で敵を凍てつかせて微笑む姿が伝説よ。エリオットはその甥で、叔母に似て冷たいけど、氷魔法の天才なの。研究室にこもりがちだけど、才能は本物よ」。

エリオットは学園の研究室にこもり、氷魔法の応用を追究する生徒。叔母のリディア同様、かなり冷たい態度で知られ、周囲から距離を置かれている。
アリスは勇気を出して研究室を訪ねる。「あの、エリオットさん? 氷魔法で協力してもらえませんか? フリーズドライ食品を作りたいんです!」

エリオットは銀色の髪を掻き上げ、冷ややかな視線を向ける。「…何の冗談だ? 俺の魔法は研究用だ。遊びで使うものじゃない。無駄な時間は費やせないよ」。

だが、アリスがアルフレッドの作った栄養満点のキノコスープを持ち込み、「これを凍らせて、乾燥させてみたいんです! 冒険者の役に立つはず! 地球の思い出の味を再現したいの」と熱く語ると、彼は少し興味を示し、ため息をつき、「…叔母の教えで、人の役に立つ魔法は拒まない。仕方ない、協力するよ。ただ、失敗したら二度と来るなよ」と了承した。

二人は実験を開始。まず、エリオットが氷魔法を唱え、「『アイス・フリーズ』!」とスープを瞬時に凍らせる。完璧な低温で、素材の細胞を壊さず凍結。
次に、アリスが風魔法を集中。「『ウィンド・ドライ・エンハンス』!」と風を操り、水分を一気に飛ばす。

(ここで、フリーズドライの原理を説明すると、まず食品をマイナス18度以下で凍らせて、水を氷の結晶にする。その後、真空状態のように圧力を下げて、熱を少し加えて、氷を直接気体に変える。これを昇華という。こうすると、食品の形や栄養、風味がほとんど失われず、軽くなるし、常温で長く保存できる。)

アリスは興奮気味に、「水分をブワッと一気に昇華させてスカスカの干物みたいにっ! 地球のブラック企業時代、こんなの食べて乗り切ったんだよ!」と簡易的に言う。
エリオットは興味深げに頷き、「へえ、昇華か。俺の氷魔法で凍結を完璧にすれば、君の風魔法で擬似真空を作れるかもな。面白い実験だ」。

そして、アリスの魔法がただの風による乾燥ではないことを、エリオットが指摘。
「君の風魔法、適性Dとは思えない。普通の風乾燥は熱で蒸発させるけど、君のは空気の流れを制御して低圧環境をシミュレートしてるみたいだ。水分を強制的に昇華させてる…まるで古い遺産の力だな」。
アリスは黄金の輝きを思い浮かべ、「えへへ、なんか不思議だよね。でも、これでフリーズドライ完成!」。

出来上がったのは、軽い塊状のスープ。エリオットは珍しく目を細めて、「…予想以上の出来だ。叔母の氷魔法と組み合わせると、こんな応用ができるとはな。実用的だぞ、これ。凍らせるだけでは倒せないトロルの再生能力もこの方法なら…」。
そこへ、エマとルビーがタイミングよく訪ねてきて、「アリス、何作ってるの? 研究室の扉開いてるから入っちゃった!」と興味津々。
アリスは「2人ともナイスタイミング!ちょっとこれにお湯を注いでみて!」。

ルビーが火魔法で素早くお湯を沸かし、エマが水魔法で注ぐと、塊がお湯に溶け、元の熱々スープに戻った。
「わあ、香りも味もそのまま! すごいわ、これ! お湯だけで元のスープに戻るなんて、まるで魔法の食事よ!」ルビーが興奮し、エマは本を閉じて静かに頷く。
「…本でも読んだことない…保存食の革命…。これ、栄養素も残ってるよね…。乾燥状態なら…腐ることもない…。アリス、すごい…」と珍しく言葉を増やして感心する。

アリスはみんなの反応に笑顔で、「みんなありがとう! 地球の思い出が、異世界で役立つなんて嬉しいよ!」。

アルフレッドも後で駆けつけ、冒険者用に新しいメニューを持ってきた。「アリス、成功したな! 次はこれ、肉と野菜の煮込みシチューだ。ダンジョンで温かい食事取れるぞ。地球のインスタントみたいに、冒険者のスタミナ回復にぴったりだ。エリクサメイトもさらに保存期間が延びるな!」。

このフリーズドライスープは学園でも大人気となり、クロノスの雑貨屋でも人気商品となった。客が殺到し、「ダンジョンでこれがあれば、荷物軽くなるぜ! 味も本格的だ!」と喜ぶ声が響く。
マカロンはこの需要に目をつけ、商会で湯沸かし器の販売を企画。「フリーズドライが流行ったら、お湯を簡単に沸かせる道具が売れるぜ! デイジー、商会直々の依頼だ。小型の湯沸かし魔道具、作ってくれよ。君の腕前なら、完璧なのができるはずだ」。

デイジーはマカロンからの直の依頼に頰を赤らめ、張り切る。「マカロンさん、任せて! 父の信念を込めて、軽くて持ち運びやすい湯沸かし器を作ってみせるわ。魔石で即沸騰するように設計するね!」と工房で徹夜続きになる。マカロンは緑の目を輝かせ、「さすがデイジーだ。商会もこれで儲かるぜ!」。

学園の教授室でもフリーズドライスープは人気だった。「あのアリスという生徒、たいしたもんじゃ」
など称賛の声が飛び交う中、一人の教授が、お湯を注ぎながら独り言のように呟く。
「この魔法⋯。桜ノ宮アリス、やはり危険か⋯」。
彼の視線は遠く、星見の塔の影に向けられ、かすかな黄金の輝きが一瞬閃いた――。その瞬間、塔の奥で何かが動き出す気配が、エリクサの春に不穏な影を落としていた。
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