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Season 2
第十五話:トレッドミルの完成、未知への転移
しおりを挟むエリクサの静かな路地に佇むデイジーの工房は、長い試行錯誤の末、活気に満ちていた。冬の陽光が窓から差し込み、木の床に温かな光を投げかけていた。
工房の中央には、完成したばかりのトレッドミルが堂々と置かれ、アリスとデイジーはその前に立ち、誇らしげに見つめていた。ワイバーンの鱗と骨を活用した軽量で耐久性のあるフレームは、銀色に輝き、虹色サラマンダーの魔石が埋め込まれたベルトが微かな光を放っていた。急停止機能と転倒防止魔法が施され、貴族向けの紫と金の装飾が施されたこの装置は、二人の情熱と努力の結晶だった。
「やっと完成したね、デイジー!」アリスは目を輝かせ、興奮を抑えきれずに言った。彼女の声は工房に響き、壁に飾られた魔道具の設計図が小さく揺れた。「これで冬でもランニングを続けられるし、健康を求める人たちを支えられるよ! 雪の日でも、エリクサの冒険者たちがトレーニングできるなんて、夢みたい!」
デイジーは少し照れくさそうに眼鏡を押し上げ、頬をほのかに赤らめた。「アリスさんのアイデアがなければ、ここまで形にできなかったわ。貴族向けの紫と金の装飾も加えたし、安全性もバッチリ。私の父も、この装置を見たら喜んでくれると思う」と答えた。
彼女の手には、父から受け継いだ魔道具師としての誇りが感じられた。デイジーの父は、命を守る魔道具を作ることを信念としていた。その遺志を継ぎ、トレッドミルを通じて人々の健康を支える装置を完成させたことが、彼女の心に深い満足感をもたらしていた。
二人は互いに顔を見合わせ、達成感に満ちた笑顔を浮かべた。「お祝いだね!」とアリスが言うと、デイジーが「そうだね、少し休憩しようか」と提案した。工房の隅に置かれた小さなテーブルに移動し、二人はマタタビ茶を淹れて乾杯した。カップから立ち上る甘い香りが工房に広がり、花の香りと共に、達成感が漂っていた。
アリスは一口飲んで、「この香り、落ち着くね。トレッドミルが完成した瞬間を、こうやって味わえるなんて最高だよ」と呟いた。デイジーも「うん、父さんが生きていたら、このお茶を飲みながら一緒に祝えたかもしれない」と懐かしそうに微笑んだ。
「さて、試運転をしてみよう!」とアリスが立ち上がり、トレッドミルに戻った。彼女は楽しそうに準備を始め、ランニングウェアに着替えた。青とオレンジのストライプが特徴的なエリクサンダルを履き、軽快なステップでトレッドミルの立ち位置についた。
デイジーは魔法結晶の調整パネルを手に持ち、「準備はいい?」と確認した。アリスが「もちろん!」と元気よく答えると、デイジーは結晶に手を触れた。トレッドミルのベルトが静かに動き始め、微かな魔法の振動が工房に響いた。
アリスはゆっくり歩き出し、ベルトの感触を確かめた。「おお、いい感じ! ベルトの動きが滑らかだよ」と感想を述べ、笑顔がこぼれた。ワイバーンの鱗と骨で作られたフレームは、軽量ながらも安定感があり、虹色サラマンダーの魔石が放つエネルギーがベルトをスムーズに動かしていた。
「本当にすごいよ、デイジー。こんなにしっかりした動き、初めてだよ」とアリスが感心すると、デイジーは「魔石の調整に何日もかかったから、その言葉、嬉しいな」と照れ笑いした。
「速度を上げてみる?」デイジーが提案すると、アリスは「もちろん! もっと走りたい!」と即答した。デイジーが結晶を調整し、速度を上げると、ベルトがさらに速く動き始めた。アリスは自然に走り出し、軽快な足音が工房に響いた。彼女はトレッドミルの傾斜を試すためにレバーを動かし、地面が上り坂のように変化する機能をテストした。
「うわっ、上り坂でも安定してる! これ、冒険者のトレーニングにぴったりだよ!」とアリスは息を弾ませながら叫んだ。
風を切る感覚はないものの、室内で自分のペースで走れる喜びに心から満足していた。
デイジーは装置の動きを細かく観察し、メモを取った。「魔法エネルギーの流れも安定してるし、安全装置も問題ない。急停止機能もちゃんと反応してる。アリスさん、最高のテストランナーね」と褒めた。
彼女はトレッドミルの側面に取り付けられた小さな水晶パネルをチェックし、エネルギー出力が安定していることを確認した。アリスは走りながら、「デイジー、ありがとう! これなら貴族たちにも自信を持って勧められる! 次は手頃な素材で、一般向けのバージョンも作ろう! ゴブリンウルフの革とか使えば、コストも抑えられるよね」と未来を見据えた。
試運転が終わり、アリスがトレッドミルから降りた瞬間、異変が起きた。トレッドミル全体が青白い光に包まれ、虹色サラマンダーの魔石が異常な輝きを放ち始めた。魔石から小さな火花が散り、工房の空気が一瞬にして重くなった。アリスは驚いて一歩後ずさり、「えっ、何!? どうしたの!?」と声を上げた。彼女の心臓がドキドキと高鳴り、目の前の光景に目を奪われた。
「アリスさん、危ない!」デイジーが叫んだその時、トレッドミルの表面が渦巻くポータルへと変貌した。光の渦がアリスを飲み込もうと迫り、彼女はバランスを崩して吸い込まれそうになった。ポータルの中心から発する風圧が工房の道具を揺らし、設計図が床に散乱した。
「何!? 魔石が暴走してる!?」デイジーが叫びながら、ポータルのエネルギーを解析しようと工具を手に持ったが、状況はあまりにも急だった。
「デイジー!」アリスが手を伸ばした瞬間、デイジーは咄嗟にその手を掴んだ。「アリスさん、離さないよ!」と叫んだが、ポータルの力はあまりにも強く、二人は一緒に光の中へと引き込まれた。
工房は一瞬にして静寂に包まれ、トレッドミルだったものは消え、空っぽの空間が残された。窓から差し込む冬の陽光だけが、静かに床を照らしていた。
ポータルの光が消えた瞬間、アリスとデイジーは異様な空間に立っていた。目の前には、巨大な歯車が低く唸り、水晶管から淡い光が漏れる地下研究所が広がっていた。金属と石の壁に囲まれ、蒸気が薄く漂う中、床には複雑な魔法陣が刻まれていた。二人の足元にはトレッドミルが転がり、虹色サラマンダーの魔石がまだ微かに光を放っていた。アリスのポケットの中で「クロノスの鍵」が温かく脈打ち、トレッドミルと共鳴したのが転移の原因だと直感した。
「うわっ、どこ!?」アリスが目を丸くして辺りを見回した。彼女の声には驚きと戸惑いが混じり、エリクサンダルが埃っぽい床に小さく音を立てた。研究所の空気は冷たく、どこか金属的な匂いが漂っていた。デイジーは工具を握り締め、眼鏡を押し上げながら「トレッドミルの魔石が暴走して、空間転移を引き起こしたみたい」と分析した。だが、声が途中でかすれ、咳き込んだ。「うっ、息苦しい…ここ、酸素が薄いのかも…」
突然、床に刻まれた魔法陣が光り、青白い光の鎖が伸びて二人の手足を拘束した。「何!? 鎖!?」アリスが慌てて身をよじるが、一般人の力では抜け出せない。鎖はまるで生き物のように締め付け、冷たい感触が肌を刺した。デイジーも「これは…強力な魔法? 魔力の波長が…見たことない」と呟き、鎖の構造を観察した。彼女の魔道具師としての知識でも、この魔法の仕組みはすぐには理解できなかった。
その時、研究所の暗がりから足音が響き、冷静で鋭い声が聞こえた。「何者だ?」
暗がりからゆっくりと姿を現したのは、ゴーグルを頭に載せ、油に汚れた作業着を着た女性だった。
彼女の腰まで伸びた青いウエーブの髪は、研究所の薄暗い光の中で水面のように揺れ動き、神秘的な雰囲気を漂わせていた。
「私はアクア、革新の水。この研究所は我々の領域だ」と自己紹介した。アリスは鎖に縛られたまま、驚きと緊張の中でアクアを見つめた。
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