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第一章 悪役令嬢は動き出す

29.悪役令嬢は王女様に説明する

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「はぁぁぁぁ????」

 彼女は大きな声でそう言った。それはショックを受けたような大口を開けて。うん、王女様……認識阻害の術式が発動してなかったら色々大変だぞ。

「まず、この大帝国を中心とした国々では最も優先されるのが女性継承よ」
「女性継承?」
「そうよ。まぁ男性が家を継ぐことも当然あるけど、まず第一優先は女性になる。これは古代から天帝がそう継承しているからという慣習的な話と、魔力の性質が受け継がれる時に女性の影響が最も大きいから。と、言うのが現在の学説よ」

 これは歴史書でも書かれており、お母様の講義でも聞いた話なのだ。魔力の質、量が高い男性と魔力の質、量が低い女性の間では男性の魔力傾向を持った子が生まれることは稀で基本的に母親の魔力量や質を主に受け継ぐ傾向にあり。ハーブスト公爵家の当主はお父様であるが、本来であればお母様が当主となってもおかしくは無い話なのだ。

「えっと、どういうこと?」
「だから、現在で考えると第一王子と第二王子より、王位継承権で言えばアリエル王女が一番上位にあたるわけ。そもそも『とにキラ』のゲームの方でも悪役令嬢として登場するけど、本来であれば王位継承権第一位のハズの王女が何かやらかした過去があったのか分からないけど、王位継承から外されてたんじゃない?」
「えー、って、ことはさ。私が王位につければ『とにキラ』みたいにエステリアが断罪されることもないってこと?」
「それは分からないけど、可能性としては……」

 ただ、私自身あまり考えていなかったけれど、強制力というものが存在するのであればもしかするとどんな事をしても未来の結果はあまり変わらない可能性はある。

 でも、何もしないで諦めるってのは選択肢としては絶対にありえないけどね。

 それに少し気になっている事もある。前世の記憶なのだけど、思っているより曖昧で『とにキラ』や知識的な部分は思っているより覚えているけど、自身の事や友人、家族の記憶に関しては全く思い出せない。靄にかかったような感じがする。

 他にもキャラの性格に引っ張られている可能性も捨てきらない。大きくは前世の性格だと思うけれど、自身がハッキリわからないので判断がついていない。

「じゃぁ、もし私がヒロインを見つけてヤッちゃってたら……」
「なんとも言えない話だけど、第一王子か第二王子に外戚の女系血脈の女子を――」

 そこまで言って、私は気が付く。クッ、だからクリフト殿下の婚約者になったんか!

 自分が最も女王に近い血を持ち魔力や性質もお母様と叔母である女王キャロラインとも似ている事を考えれば脈々と受け継いでいるわけですよ。

 しかも、貴族派はアレだ前世で言うところの自称リベラルな人が多いらしい。これもお母様の講義で分かったことだけど、現在、政治的派閥を区分けすると兎に角新しいことは拒否する超保守派閥。王政を堅固しつつ改革出来る所はやっていこうとしている改革保守。兎も角改革! 王政なんざ廃止だ! ザ・改革派閥。最後が改革派を装った他国のスパイみたいな人達の派閥。これは完全にヤバい人達の集まりだけど、その集まりの意見もバラバラで結束力という点では他の派閥に比べて弱い――のだけど保守系の派閥のやることをとりあえず反対して足を引っ張り、謀なんかもしまくりの一歩間違えれば反社会的勢力である。

 貴族であるってことだけが、ある意味存在理由なのかもしれない。ただ、現状でいえば勢力図の中では最も勢いがあって、多分だけどゲーム開始時の頃は改革派を吸収して一大勢力になっていたのかもしれないわね。

 まぁ、推測の域を出ないけど。

「エステリアがクリフト兄様の婚約者だったってことは私はゲーム開始以前に何かやらかしてたってこと?」

 この娘、意外と感がいいわね。

「多分ね。貴女が頑張ってくれれば、もしかしたら私も断罪回避可能かもしれないし」
「ふーん、結構ドライな反応を見たところ、メインキャラには推しは居ないってこと?」
「まぁね。私の推しを教える気はないけどね」
「マジか……」

 そんなにショックを受けないで欲しいところなんだけど。と、いうか分かり易い反応を見せる彼女に対して、王宮でやっていけるのか不安になる。ってか、マジ止めて。

「兎も角よ、失点に繋がるような事をしなければ、余程の事が無い限り問題無いハズよ」

  と、言ったところで彼女は微妙な表情で私を見た。うわぁ、嫌な予感しかしないわぁ。
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