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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

96.悪役令嬢達はワクワクが止まらない

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「ってか、エステリアは400年から500年分の歴史をすっ飛ばすつもりだな」

 アリエルがどこか呆れたように言ったけれど、その表情は楽しそうだ。まぁ、私がもっと生活を豊かにしたいというのはあるんだけど、実はもうひとつの狙いがゲームのシナリオが介入できないくらいに技術革新させて、国内にシステムを作り変えてやろうというのがもう一つの目的なのだ。

 実は既にお母様にはある程度――皆と共有している話以外の技術革新と政治システムに関してミストリア内で定着させてやろうという魂胆――は話していて、協力して貰える旨は約束済みなのだ。

 術式面ではお母様の右に出る人物はいないのだけど、魔導回路においては勝手が違っていて、私の方がそこは得意なのだけど、正直言って煮詰まっている。そう、イノベーションが必要なのだ。基礎は作ったけど、ここからさらに伸ばしていくところで障害になっている点が幾つかあるのを突破するアイデアが必要なのだ。

「って、電話って通信網を作るってことよね?」

 アリエルが不思議そうな顔をしてそう言った。なぜ、そんな不思議そうな顔をしているのか私には全くもって分からないけれど。

「何か気になることでもあるの?」
「いやぁ、電波を魔法で受信するって感じなの?」
「いいえ、『魔法』で言えば『念話』って魔法がその昔はあったらしいから再現しようと思えば出来ると思っているのよね」

 そう、かなり昔の時代にある逸話で遠く離れた者と会話する為の魔法というのがあったと、幾つかの文献に記載があった。概念としては、なんとなく構築出来ているんだけど、まだ机上の空論でしかない。

「『念話』の魔法はどっちかというとテレパシーみたいな感じかしら? でもね、結局どういう仕組みで相手と通話するのかを魔術的に考えてみたのよ」
「魔法の効果って魔力が飛んで、相手に届いたら??? いや、わかんね」
「たぶんだけど、離れた相手といっても精々街一つとか、そういうレベルだと思うのよね。なんでかって言うと魔力波は分かるわよね?」

 私がそう言うとアリエルは「それは分かる」と即答する。魔力波というのは魔力を使った時や魔力を放出した時に並みの様に広がっていく微小流出魔力で魔法の痕跡や個々の魔力における個人判別などにも利用される。知っている人の魔力であれば、感じ取れば「ああ、この人の魔力だ」と、分かるくらいに意外と微小流出魔力は発散されている物だ。

「その魔力波を人じゃなくて魔術によって作ることが出来れば、特定の魔力波を電波みたいな使い方が出来ないかなって思って」
「でも、それだったら魔術とかで電力とか電波とか使った方がいいんじゃないの?」
「とーぜん、それは考えた。計算機で幾度も失敗したのはソレなのよ。電力とかに変換してその先がどーにもわかんないから、先に進めない」
「えっと、リア様。電力や電波を魔術的に使うことは可能なんですか?」

 リンリィは目を輝かせてそう言った。

「残念だけど、電力を生み出したり、電波を飛ばしたりは出来るけど、出すだけで受けてそれを魔力的に扱うことは出来ないのよ。魔力への変換とかフィードバックをする方法論を考えたらもしかしたら可能かもしれないけど……」

 魔法や魔術で生み出したものを魔力に還元するという方法は出来ない――いや、出来なくはないんだけど術式に満ちて現象を生み出した後の現象を魔力に戻すことは出来ないけれど、現象を生み出す前であれば、術式を不成立化して魔力だけ戻す。ってのは方法論として出来るのよね。

「電話も魔力で動かしていたら、すごく魔力使いませんか? 長電話で下手すると死んじゃうとか笑い話にもならないですよ」

 魔道具とかでは一度魔力を通した時に術式内にある現象を維持する術式で、その状態を記憶や固定を行っていて、魔力を通して再度起動する時にそれを解除して再び魔力を使用して維持をする。みたいな感じになっているのだけど、相互的に会話を行うような感じにしたら、びっくりするくらいに魔力を消費しそうなのも実は問題なのだ。

「うん、それは突っ込まれると思ってた。これを見て欲しいのだけど」

 と、私は別の魔道具をテーブルに置く。

「ランプ……ですか?」
「ええ、今までのランプは灯を灯す魔法や魔術を使っていたけど、あれは少ない魔力で数時間効果があるから、誰も気にしていなかったかなって思うんだけど、これは少し違う機構で作られているランプなの」

 私はそれに魔力を使わずにスイッチを押す。少し間があってからランプが点灯する。

「あれ? 今、魔力使わなかったですよね?」

 ウィンディがいち早く気が付いてそう言った。

「正解。これは魔力を使わなくても使える魔道具で、この魔道具の下にあるボックスを見て欲しいのだけど……」
「何このビン? 筒なのかしら……何か液体みたいなのに魔石が入ってるけど……」

 魔石と魔晶石の新たな使い方なのよね。魔石には魔力を貯める効果があるのは誰もが知っているけれど、魔力を引き出す為には人が魔力を通す事で出したり、入れたりできる。魔石のまま使っても良かったんだけど、魔石がいくらあっても足りないという事情もあって、作ってみたのだ。

「その魔石は超極小の魔石で、液体は特殊な処理をした魔晶石よ」
「で、まさか……これが電池とか言わないよね?」
「そのまさかでーす。魔晶石って魔力を通す道としても使えるんだけど、液化した魔晶石の中に魔石を入れた後に魔石に魔力を入れると増幅器としての効果もある事に気が付いたの。これによって極小の魔石にしてもランプを点けるくらいに十分な魔力を出力出来るようになったのよ」

 ランプなら魔力電池の効果はだいたい一年くらいは持つハズ。あくまでも理論値だけど、色んな魔法銀や魔法金、魔白金なんかも媒介に出来そうだけど、他の素材とかも考えないとコスト面が本当に問題になってきそう。

「まだ、複雑な魔法なんかを使うほどの魔力は生み出せないし、もっと小型化しないとダメだし、問題山積だけど、可能性は示せたと思うんだけど、どうかしら?」
「なるほどです。長い道のりになるかもしれませんけど、協力させてください。それから、応用魔術理論に関してハーブスト公爵夫人に教えて頂きたいのですが……」

 まぁ、私よりもお母様の方が教え方も上手いしなぁ……ただ、超スパルタだけど大丈夫かしら?

「お母様に言ってみるわ。ただ、アリエルは知っていると思うけど、超スパルタだからね?」
「が、がんばります……」

 と、リンリィは少し顔を青くしてそう言った。思わず皆は笑ってしまう。
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