6 / 8
俗世
懐かしい声
しおりを挟む佑太はエプロンをして料理をする恵美子の姿を振りむいて見ていた。
両親が離婚して、母親に引き取られたが再婚相手とはそりも合わなかった。
後から生まれた異母弟に愛情を注ぐ、母親を見て自分は嫌われている。
そう感じた佑太は家族愛を感じることなく、自分の殻に閉じこもるようになった。
金沢の高校を卒業すると、現役でT大学に合格した。
高校時代の彼は世間の同学年とは違い、ひたすら受験勉強に明け暮れていた。
それは自分の将来を考えてではなく、自分の居場所がない金沢の実家を出たいという一心からだった。
T大学に入学して、数人の女性と付き合ってみたが、自分とは合わずいずれも短期間で終わった。
就活が終わり、暇を持て余していたとき、出会い系で知り合った恵美子は運命の女性だと思った。
包丁の音、鍋で食材を煮る音が聞こえてくる。
楽しそうに料理をしている恵美子を女性として、自分が求めている母親像と重ねて見ていた。
母親の愛情に飢えた佑太にとって恵美子はそれを満たしてくれる存在だったのだ。
カレーが出来るとトレーに載せて恵美子がテーブルに運んできた。
テーブルには御飯の上にカレーがよそられ、湯気と共に香辛料の香ばしい匂いが鼻をつく。
「恵美子、美味しそうだね」
「そうでしょう? 腕によりをかけて作った、愛情のこもったカレーだからね」
誇らしげな表情を見せてそう自慢気に言った。
佑太は両手を合わせて
「いただきます」
と言うとスプーンで一口食べる。
「美味しい! こんなカレーは食べたことないよ」
「嬉しいわ、作った甲斐がある、このカレー隠し味にチョコレートを入れたの」
「チョコレートを?」
「そう、チョコを入れるだけでコクが増してまろやかな味になるのよ」
「意外だったな、チョコレートか」
佑太は感心しながら、次々にカレーを口に運びあっという間に平らげた。
「あら、もう食べたの?」
「だって、恵美子の作ったカレーだから」
「あら、気の利いた台詞ね、さすがはT大学の学生さんね!」
恵美子は佑太の皿を持って台所に行き、御飯と鍋に入ったカレーを掬って入れた。
皿をテーブルに置くと、佑太は子供のようにムシャムシャとカレーを貪り食べた。
そんな様子を恵美子は嬉しそうに眺めながら、自分もカレーを食べる。
カレーを半分食べた頃、恵美子の携帯が鳴った。
恵美子のパンツのポケットから携帯を取り出して応答した。
「はい、もしもし」
「恵美子さん?」
「もしかして由美子さん?」
「はい、そうです」
電話は川田由美子からだった。
以前、座禅会でよく一緒になる女性だ。
会社勤めの32歳のOLである。
「どうしたの?急に」
「実は私、得度することなったんです」
「在家で?」
「いえ、本格的に、恵美子さんが決心したので、私もと」
「本当に?」
恵美子は驚いた表情を見せた。
「はい、実は明後日、栃木県の実家の近くのお寺さんが後継者を探していて、私が立候補したんです」
「良く決心したわね」
「栃木県の小山にある成願寺というお寺で得度式をするので、是非、恵美子さんにも来て欲しいと」
「分かったわ、そうなると私よりも先輩になるわね」
「そうですね」
由美子の苦笑する声が受話器を通して聞こえる。
「時間は?」
「明後日のお昼からです」
「じゃあ、午前中にお話ししたいね」
「では、小山に着いたら電話を貰えますか、迎えにいきますから」
「わかったわ、それじゃあ」
そういうと電話を切った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる