2度死んだ王子は今度こそ生き残りたい

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第一部

土下座で解決

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 フレイを追い掛け、部活棟を下る。
 アーサーは部室でまだやることがあるらしく、部屋に留まるらしい。

 それにしても、10階ともなると下るだけでも少し疲れるな。
 確か3階あたりに売店があったはず、飲み物でも買うか。

 そう思い、売店の前で何を買うか悩んでいると首筋にひんやりとした感触と共に背後から声を掛けられる。

「お疲れ!これあげるから許して」

 振り返ると、フレイが舌を少し出しながら果物のすりおろしジュースを指し出きた。

「分かった」

 元々そんなに怒っていたわけじゃないしな。

「ありがと~、寛容で助かるよ~」

 と、無邪気に笑う。

「基本的にうちは週に3回、月曜と水曜、そして今日金曜日に活動してるから暇な時にでも来てよ。別に活動と言っても、毎回魔道具を作ってるわけじゃなくてだらだらじゃべってるだけの時もあるから気軽にね」

「潰されそうなんじゃないのか?」

「ん~、まあ目の敵にはされてるけど今すぐにってわけじゃないだろうし、それに急いで粗雑なものを作るよりもじっくりと練って高い品質のものを生み出した方が結果的にこの研究会のためになると思うし。
 それに、貴族の協力者を作れたから当分は安泰だろうしね」

 いくら優秀な者が所属していたとしても、相手が平民であるならば潰すのは容易だろう。しかし、貴族が相手だとそうもいかない。貴族と敵対するというのは、その家ひいては所属する派閥ごと敵対しかねない行為だ。慎重に行動しなければならない。

 自分達と違う価値観を取り入れたいという部分も本音ではあるのだろうが、たぶん貴族そ
 のものを取り入れたいというのがより大きな本音なのだろう。

 言動や性格は策謀とは無縁の天真爛漫な印象だが、意外と権謀家な一面もある。
 その性格のズレに俺は怖さを感じるよりも、嬉しさを感じていた。フレイという人間をより理解できた気がしたためである。

 前は発言に込められた意図、人の心情というものにそれほど関心を抱いていなかった。それは、人の目を気にしないという意味ではなく勝手に決めつけていたとい意味で。良く見える行いをすれば、良くみられると勝手に思ってた。たぶん、根本では接する全ての人間を下に見ていたのだろう。

 だから、心情を感じとれたことが何より嬉しい。
 リーナの助言通りちゃんと、人を見れているってことだからな。

「せっかく売店にきたし、何か食べる?」

「そうだな、お腹も少し空いて来たし」

 そうして、2人は売店前から伸びている長蛇の列の最後尾に並ぶ。
 しかし、5分経っても、10分経っても列が動く気配がない。

 前で何かあったのか?
 俺が前方をのぞき込むと、何人かが揉めているらしい様子が瞳に映る。
 その内の1人は華美な装飾を見るに、貴族だろう。
 揉めている相手が貴族か平民かは分からないが、少なくとも1人は貴族が関わっている以上面倒な事案に違いはない。

 でもまあ、このまま放置もできないよな。
 俺は揉め事の現場へと、足を踏み出した。

 いざ辿り着くと、身長が190cmを優に超えるであろう大男が2人の少女を恫喝していた。
 服装から判断するに大男がの方が貴族であり、少女達の方が平民だろう。

「そこをどけ」

「で、でも私達が最初に並んでて、、、」

「あ゛ぁ!並んでたら、売り切れちまうだろうが!!黙ってどけや」

 売店を見ると、期間限定かつ数量限定のパンが売り出されている。
 おそらく、自らの棟では売り切れていたのでこちらに来たのだろうが横暴に過ぎる。

 穏便に解決するならば列の順番を譲ればいいんだろうが、彼女達にそれを促すのも違うだろう。どうしたものか。

 俺が対処について思案していると、付いて来ていたのかいつまにか隣にいるフレイの横顔が目に入る。
 その表情を見た瞬間、背筋がゾクッと凍るのを感じた。
 彼女の表情は、今までの溌剌さを微塵も感じさせないような無の感情を表現していた。
 瞳には何も移さず、面持ちからは何の情動も感じられない。

「まあまあ、落ち着きなよ~」

 両者の間に割って入ったのはフレイであった。
 その明るく朗らかな表情からは先ほどまでの面影を一切感じ取れない。

 見間違いだったのか?

「そうだ、一旦落ち着こう」

 俺も少し遅れて、仲裁に入る。

 大男はキッとこちらを睨むと、凄みながら改めて恫喝してくる。

「関係ねぇ奴がしゃしゃんな!カスが」

 それでも、フレイは引く事なく妥協案を提案する。

「じゃあさ、この子達が買ったのをあーしが買い取るからそれをあなたにあげる。これなら、どう?」

 いくら貴族であっても、ここまで理路整然と語られては引かざるを得ない。
 だが、もしプライドが理性を上回るような自尊心の塊のような奴には逆効果に映ってしまうこともある。自分の正しさを妨害された、そう感じてしまうのだ。
 そして、俺の予感は見事的中した。

 大男はさらに激昂し始め、列に並んでいた2人だけではなくフレイも含め口汚く罵り始めた。

「誰に指図してんだ、平民風情が!てめえらは俺様達に服従すべき存在だろうが。言う事だけきいてりゃいいのに、一丁前に口答えしてんじゃねえよあ゛あ゛!!!」

 怒りに身を任せつつも俺とは目を合わさないところを見るに、この場に自分以外にも貴族がいるってことは認識してらしい。だったら、

 売店に足を進めるとこっそりとかつ手早く期間限定の品を買い、男に手渡す。

「はい。これでいいだろ」

 さすがに素性も分からない貴族と敵対まではしないだろう。
 おとなしく品を受け取ってくれるはずだ。

 しかし、予想を裏切って男の烈火は俺の方にまで飛び火してくる。

「引っ込んでろ低身長が!」

 確かに、目の前の男に比べると背は低いがそれでも平均身長だ。バカにされる覚えはない。
 それにしても、どうやら彼の目的は期間限定の品から自分の怒りを払拭するという方向に移行してしまったようだ。
 いよいよ収集が付かなくなってきた。

 そう感じた直後さすがに自身も収集が付かなくなってきた現状に気付いたのか、無理やり決着を付けにきた。

「チッ。土下座して、許しを乞いながら靴を舐めろ、それからパンを渡せ。それで許してやる」

 何の非もない少女達に膝を付かせ靴を舐めさせる。そんな行為は貴族として以前に人として認められない。
 だが、俺まで激情に駆られたとて暴動騒ぎとなりそれを止めらなかった周りの責任問題になりかねない。最悪の場合、退学もあり得る。貴族を相手にするなら、慎重にならないと。

 幸いなことに、過去革命を起こした人物の中には貴族もいた。怒りと自尊心に狂った人間への対処法ならばいくつか心当たりがある。
 その1つがこれだ。

「誠に申し訳ありませんでした!!!!!!!!!この通り、全身全霊を賭して謝罪致します。お望みとあれば命すら差し出す覚悟です!!」

 そう言い放つと、俺は土下座をしつつ自分の首を絞め始めた。もちろん、加減をしながら。
 しかし、ある程度は力を込めつつ呼吸を浅くしていくことで行動の真実性を担保する。

 相手が引くほどの土下座。そして、理解の範疇外の行動。過剰なまでの行動というのは、それを見た人間を逆に冷静にさせる。
 加えて、今の状況は明らかに誰がどう見ても大男の方に責がある。
 怒りの飲まれた状態ならいざしらず、1度冷静になってしまうと周りの視線を意識せざるを得ない。そんな状況で新たに理不尽を言ってくるほど、目の前の男は気狂いではないだろう。

「わ、分かった。これで勘弁してやるよ」

 俺の予想どおり、大男は少し引きつった表情をしながら手早くパンを奪い取ると足早に去っていった。

 ただ謝ったのでは、さらに相手を付け上がらせる。かといって、反撃しようものならさらに火種が拡大しかねない。
 だから、責め手が冷静になりなおかつ誰がどうみても自分は被害者である証明を振りまくことができる過剰な謝罪。
 これが最適解なのである。

 騒動が解決したことを確認すると、俺は先ほどまで土下座をしていたとは思えないほど自身に溢れた表情でゆっくりと立ち上がった。
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