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巡る想い2

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「あなたたち、そんなことがあったのね。」

この話しをもっと詳しく聞きたいのだろう。

エミリー先生が鑑定室の椅子に腰をかけた。

「それにしても王子って何だか余裕を感じるわよね。さすがだわ。」

そして机に肘をついて、まるで探偵のように続けた。

「反対にカトリーヌ先生にゆとりを感じないわねえ。」

エミリー先生はホットコーヒーを一口飲んだ。

「のん先生はどう思っているの?」

エミリー先生が核心に近い質問をしたのだから望美は驚いてしまった。

「・・・私は・・」

望美は手のひらに汗が出るのを感じた。

本当のことを言うのが怖いと思ってしまうのはどうしてだろうか。

エミリー先生のことだから本音を言わなくても見透かしてしまうだろう。

普段なら何でも話せる大切な存在なのに、今日は何だか遠くの存在のように思える。

大人だから自分の気持ちが分からないわけじゃない。

「・・・カトリーヌ先生のことが好きです。」

望美は言い出して恥ずかしくなった。

大人なのに『好き』だとかいう気持ちを言い出すなんて、子供っぽいって思ってしまったのだ。

エミリー先生は優しく微笑んでいた。

「そんな恥ずかしそうにされたら、こっちまで照れちゃうわよ。」

笑いながら言った。

「それにしても複雑な三角関係ねえ。」

「好きな人の好きな人に好かれているんです。」

望美が真面目にそう言うとエミリー先生は少し笑いそうになっていた。

「のん先生の表現って可愛らしいわよねえ。」

「それよりもうお店がオープンの時間ですよ。」

望美は照れ隠しで時計を見た。

そうは言ったものの今日は何だか働きたくない気分だ。

自分の気持ちに向き合うことは結構体力がいるものだ。

薄々気付いていた自分の気持ちを認めるとカトリーヌ先生と顔を合わせづらくもなる。

それに望美にとって久々の恋愛は『複雑な三角関係』ときた。

いくら大人の望美でも好きな人の恋愛を応援できるほど大人なりきれてなかった。

感情的になりそうな気持ちを望美は抑えていた。

そんな望美の顔を見てエミリー先生は言った。

「今日は2人でお休みしちゃいましょう。」

エミリー先生は相変わらず微笑んでいた。

望美は黙ったまま頷いた。

それから2人はビビアンに鑑定室を今日はお休みにすることを伝えて、櫻木町へ足を運んだ。

櫻木町の裏通りの立ち飲み屋は、まだ昼前だというのにもうオープンしていた。

望美は白ワインを注文して、エミリー先生は生ビールを注文した。

そしてエミリー先生が慣れた手つきでつまみをどんどんと注文していった。

2人はお酒を飲みながらエミリー先生の占い的中率の話しや政治家の愚痴を話しした。

恋愛の事は少し忘れることとなったが、このくらいが望美にはちょうど良かった。

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