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第一章
初恋
しおりを挟むあの夜の秘密の会合から、僕はぼんやりとする事が増えたらしい。
父さんと母さんが、すごく心配してるのは分かってる。
でも、ゴダール商会との話は、決して誰にも言ってはいけないとゴダールさんからも釘を刺された。
そりゃそうだよね…だって専売だもの。
こんなこと、とても父さんや母さんには言えない。
これは、僕がリアーノパンの新しい主として乗り越えるべき最初の試練なんだ。
でも、こんな僕に魔術課との専売契約なんて取れるだろうか。
そう考えると心配で夜も眠れない。
「ムンス?心配事があるなら、言ってごらん?」
父さんが僕の肩を優しく叩いてくれる。
「うん…でも…」
「ねぇ、全部言えないのなら、私達に出来ることを教えて?ムンスの力になりたいのよ」
母さんは、既に涙目だ。
こんなに二人に心配をかけて、僕は、僕は…
そこで、ハッと閃いた。
ん?そうか、そうだ!
全部を父さん達に言うことは出来ない。
でも、協力してもらうことは出来るんだ。
一人より、三人で力を合わせれば、もしかしたら専売だってなれるかも!
きっと、僕達の可能性を信じてゴダールさんも話を持ち掛けてくれたに違いない。
「僕、魔術課のサルシンていう人に、パンを届けたいんだ!」
「「…うん?」」
二人の頭の上に?がたくさん浮かんだ。
僕は、必死に専売のことを言わないように気をつけて説明した。
「少し前、新聞記事に載ってた人だよ。覚えてない?僕と同じ孤児だったのに、魔術課の長官にまでなったすごい人。僕、その人に、僕のパンを好きになって欲しいんだ!」
二人の頭の?が、徐々に減っていく。
顔を見合わせて目配せしてる。
「ムンスは…どこかでその人を見たことがあるの?」
「ううん、無いよ!でも、すごい美形だって記事には載ってた!」
僕は知ってるサルシンさんのことを包み隠さず話した。
ふむふむ、と二人は頷き合っている。
「なるほど、そういうことか…そんな日がいつか来ることを考えて無かった訳じゃない。よし、分かった。私達も協力しよう」
「そうね、ムンスも、もう大人だものね…じゃあ、うちで一番人気のパンを、焼きたてで持って行くのはどうかしら?!」
父さんと母さんは、一番良い小麦粉を使って、最高のパン作りを手伝ってくれた。
大きな配達袋に焼き立てパンをたくさん詰めて、僕に渡してくれた。
「サルシンさん宛に、メッセージを入れておくといいわよ」
母さんが目配せしてきた。
なるほど!
偉い人だから、そう簡単には会えないだろうし、メッセージカードでリアーノパンをアピールしよう!
「分かったよ、母さん。僕、サルシンさんの為に心を込めて書いてみる」
僕は机に向かって、ウンウン悩みながら初めてのメッセージカードを書いていた。
後ろで、母さんの涙を父さんが拭いていることも知らず。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あのムンスが、遂に初恋をしたらしい。
相手は、まだ会ったことも無い魔術課長官。
まだ、淡い憧れのようなものだろうが、妻は少なからずショックを受けていた。
この国では同性同士の結婚は珍しくはない。
しかし私達は、自然とムンスによく似た子供を抱く日を夢見てしまっていたのだ。
同性同士の場合、養子をとるのが一般的だ。
そうでなくとも、うちのように子供が出来なければ養子をとるのは、ごく普通のこと。
それでも、自分達が叶えられなかった夢を、いつの間にかムンスに願ってしまっていたのだろう。
「いいじゃないか。ムンスが好きな人と幸せになることが、何よりも大切なんだ」
「分かっているわ。ムンスがいてくれるだけで幸せなのに、私ったら、ほんとにバカで…もう嫌になっちゃうわね」
妻は、泣きながら笑う。
本当に心優しく素晴らしい妻だ。
大丈夫。
彼女は涙を流したら、必ず現実を受け入れて、ムンスを心から応援出来る人だ。
妻の清らかな涙を拭う。
「私達のように、歳をとっても愛し合える相手と出会えるといいわね」
ふんわり笑う妻の額に口付けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「長官、お届け物です」
衛兵から届けられたのは、大きな配達袋だった。
「長官のファンですかね、きれいな人でしたよ」
にやにやと笑いながら衛兵は去っていく。
何を言っているのか。
俺にファンなんているわけない。
怪文書が頭を過る。
これは…もしや…
毒物?
俺は早速、光魔法で毒物を調べた。
袋にも、その中に詰め込まれた大量のパンにも。
そのどちらにも毒物反応はない。
中には綺麗な手書きのメッセージカードが入っていた。
『お仕事お疲れ様です。いつも応援してます。リアーノパンの主より心を込めて』
リアーノパン?知らないな。
焼きたてらしいパンは、まだふんわり温かくて良い匂い。
毒物も入っていないなら、と恐る恐る一口食べてみる。
美味い。
美味い!!
うまーーーーいい!!!!
何口食べても、とにかく美味い。
なんだろう、太陽と幸せの味がする。
コンコン
ノック音で我に返って、急いで椅子にふんぞり返る。
これも長官の威厳を保つ為だ。
「長官、書類をお持ちしました」
秘書のケルビンだ。
「…長官、これは一体?」
俺の机に積まれた山のようなパンと俺を見比べている。
「あー、先程、俺に届いた物だ。良ければ皆で分けてくれ。こんな量、とても1人では食いきれない。ファンだかなんだか知らないが、全く迷惑なものだ」
俺が言い終わる前に、ケルビンは手際よく配達袋にパンを詰め込んだ。
あ、もう一個食べたかったのに…え、うそ、まさか全部持ってく?
俺のパンなのに?
「では、書類の確認をお願いいたします」
さっさとパンを担いで部屋を出ていく有能な秘書。
もうちょっと世間話してくれたっていいのにさ。
俺は一日中、この長官室と、厳つい爺さんばっかの会議室の往復で、うんざりなんだ。
書類と睨めっこより、野山を走りたい。
こんな長いローブなんて、ただの見栄で羽織ってるだけで、ほんとはすごく邪魔だ。
「はあ、なんだよ、もう」
それにしても、さっきのパンは美味かった。
また食べたいけど、リアーノパンか。
リアーノパンの主ねぇ…
ん?主?アルジ…
俺は引き出しの鍵を開けて、情報筋からの報告書を引っ張り出す。
『ゴダール商会、アルジと接触した模様』
まさか…主というのは、アルジを示す暗号?
これは、アルジからの宣戦布告?!
な、なんてことだ!
あの謎の失脚請負人、アルジが俺に差し向けられていた!
やはり、あの怪文書は虚言や戯れではなかったのだ。
しかし、国王は何を言ってもさらりと流し、全く当てにならない。
けれど俺も黙ってやられてたまるか。
孤児だって、俺には師が与えてくれた魔術があるんだ。
やられる前に、先手を打ってやる。
なにせ、俺は謎多きアルジの情報も既に手に入れていたのだ。
中性的な顔、こげ茶色の髪。
左耳には水色のピアス。
左手首に痣。
こんな情報を手に入れられるのも、俺が魔術課長官であり、常に暗躍する者達に目を光らせているからだ。
この数年で張り巡らされた情報網は、伊達じゃないぜ。
見てろよ!アルジ!!
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