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第一章
アルジとサルシン
しおりを挟むとうとう、あのアルジと接触出来た。
我らの目的を果たす為には、彼がどうしても必要だった。
アルジの情報はあまりに少なく、そして接触するのは至難の技だった。
それでも金を積みに積んで、ようやくアルジの情報を手に入れた。
中性的な見た目で、こげ茶色の髪。
左耳に水色のピアス。
虫も殺せないような優しげな男。
一番のポイントは、左手首の痣。
これだけの情報を手に入れるのに、どれだけの金を払ったことか。
しかし、運の良いことに、そのアルジがこの街に来ているとの情報も掴んだ。
多くの裏の人間を雇い街中を探し続けること1ヶ月。
遂に、あのアルジを見つけたと報告が上がってきた。
すぐさま、アルジに接触をはかった。
あのお方からのご命令だ。
歯向かえば、ゴダール商会など消し飛ぶ。
しかし、この界隈では有名な失脚請負人。
一筋縄ではいかないだろう。
どう交渉を進めようか…そう頭を捻りながら出迎え、遂に目の前に現れたアルジ。
彼は…とても裏稼業で名を馳せているとは思えない出で立ちだった。
まるでパン屋の青年のような素朴な格好。
これも、アルジが街に溶け込む手段なのだろう。
パン屋で働いているとの情報も入った。
もしかすると、ここが彼の拠点なのかもしれない。
情報通り、左耳のピアス、こげ茶色の髪。
虫も殺せないだろう優しい表情。
左手首には、小さな痣がある。
そして…純粋に彼は美しかった。
肌は透き通るように白く、小さな唇は濡れた桃色で、黒目がちな目はパチリと大きく、見つめられると動けなくなる。
顔は小さくて顎も細いのに、睫毛が長くて、その影までもがドキリとさせられる。
背は平均程で体もスラリと細いのに、鎖骨にばかり目がいき、やけに色っぽい。
妖艶な夜の妖精といった見た目だ。
こんな形での対面でなければ、彼を自分のものにしたかった。
そんな己の欲望を押しとどめて、なんとか交渉は成立した。
素朴な青年という雰囲気を壊さないためか、あっさりと、こちらの要望を全て受け入れてもらえた。
これは、私の商人としての技量が、アルジを遥かに超えていた証かもしれない。
アルジは、殺しはしない。
請負うのは、地位や名誉ある人間の失脚や裏工作。
その手段は誰も知らないが、確実に成功させる。
普通は前払いだろうが、今回の報酬は任務遂行後とした。
そんなことは無いだろうが、念の為。
任務を放棄して金を持ち逃げされたら堪らない。
それに…出来ればまた彼に会いたい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ~~~ーっ、くそっ、朝か…」
俺は朝が嫌いだ。
また一日が始まると思うと、太陽さえ呪いたくなる。
俺の名はサルシン。
元孤児だ。
高名な魔術師だったじいさん、もとい師に拾われて育てられ、めちゃくちゃな修行をさせられた結果、とんでもない魔法の才能を開花させてしまったらしい。
王都に連れられて来て5年。
今や、魔術課の長官にまでなってしまった。
まだ23歳のうら若き男子なのに、だ。
でも、これはチャンスだと思った時もあった。
この若さで手に入れた肩書きと金。
俺、モテるんじゃないか?
それなのに、それなのに…
俺の個人情報は、とっくに世間にだだ漏れ。
孤児の癖に、若造の癖にと、職場での間接的な嫌がらせは日常茶飯事。
出会いを求めてみても、女はみんな、俺の見た目と地位を褒めるばかりで、俺の中身を知ると、すぐに去っていく。
「所詮、孤児ね」
最近、女に言われた捨て台詞が、これである。
女こわい。
俺は、魔術師として働くようになるまで、つまり18才まで、育ての師と山の中で二人きりで暮らしていた。
だから、洗練された会話も、もちろん物腰なんて皆無だし、流行りの物なんて全然分からないし興味も無い。
更にはスマートな女の喜ばせ方なんて知るわけない!!!
俺が得意なのは、木登りだ!!
俺を王都の魔術課に放り込んで、また旅に出た師を、思わず恨んでしまう。
もう少し、世間の常識を教えてくれても良かったのに!
魔術師になったって、全然モテないじゃんか!
「はーあっ、俺に来る手紙なんて、怪文書くらいだ」
引き出しの中から、例の怪文書をつまみ上げる。
俺も世間の情報を全く知らない訳では無い。
俺も、こんなだが一応は魔術課長官である。
特に暗躍している者には注意を払わなくてはならない。
私宛の怪文書も届いた。
『長官を辞任しなければ殺す』と。
国王にも伝えたが、あっさり流された。
そんなものを氷結の魔術師が気にしてどうする、自慢の魔法で払い除けよ、と。
あ、氷結の魔術師って俺の通り名ね。
かっこいいから自分で付けて広めた。
氷魔法をよく使うからだけど、ちなみに全属性使える。
俺だけ。
しかも、魔力は無限にあるから、はっきり言って、俺が本気出せば、この国くらい一日で滅ぼせるんだ。
師は、そうさせない為に魔術課に入れさせたんだろうけど。
あのたぬき国王にも、この国にも、女にも、もう嫌気がさして来た。
こんな国、消し飛ばしてしまおうか。
「全然、素敵な出会いなんて無いじゃないか…もう、森に帰りたい」
今日も、憂鬱な一日が始まる。
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