パン屋の裏稼業?そんなものやってません!

にじいろ♪

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第一章

プロポーズ

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僕は、泣いていた。
こわかったんだ。
今までの自分が、どこかへ居なくなって、まるで快感を貪るだけの存在になったようで。
サルシンのことさえ、視界が霞んで見えなくなってしまった。
分かるのは、体に電流のように走る快感だけ。
あらゆる液体を垂れ流しながら、ただひたすら快感に揺れる体。

ただ、抱きしめて欲しかった。
僕は、泣いて泣いて、謝りながら優しく抱き締めてくれるサルシンの腕の中で眠ってしまった。



目が覚めると、そこは僕の部屋の寝台だった。
あれは、夢だったんだろうか?
でも、身体にはあの感覚が確かに残っている。

居間から静かな話し声が聞こえる。

「本当に申し訳ありません…」

サルシンの声だ。
胸が高鳴るけど、急に不安にもなる。

「そんなに謝らないで下さい」

「ムンスもあなたを好いていますから」

サルシンと父さん母さんが話してる。
きっと、僕のことだ。

「このようなことになりまして、どう責任を取れば良いのか…」

サルシンの謝罪の言葉に胸が締め付けられる。
僕のことで、サルシンがあんなに謝ってる?
サルシンに悲しい顔なんて、辛い思いなんてして欲しくないのに。
僕の、僕のせいで…
そっと居間を覗く。

「そんな、責任だなんて…」

2人が、サルシンをなだめている。
項垂れたサルシンの背中が小さく見える。
今をときめく魔術課長官なのに。
扉をゆっくり開けて、僕は中へと入って行く。

「父さん、母さん、ごめんなさい」

僕が登場したことに、3人とも驚いてる。

「…!!大丈夫か?ムンス?!」

サルシンが、僕に駆け寄ってローブを肩からかけてくれる。
嬉しいけど、そんなに近寄られたら恥ずかしくて顔が見れない。
あんなことをした後に、父さん母さんの前でどうやって顔を合わせればいいか分からない。

「大丈夫です。あの、サルシンさんも、ごめんなさい、こんな、あの、心配かけてしまって」

両親の方にも向いて、深々と頭を下げる。

「父さんも母さんも、ごめんなさい。サルシンさんは、悪くないんです。僕が、その…」

なんて言えばいいか分からなくて、顔が真っ赤になって泣きそうになる。

「いいよ、分かってるよ」

「ムンスは、サルシンさんのことが好きなのよね?」

余計に真っ赤になってしまうけれど、これはきちんと話さなきゃいけない。

「はい、僕はサルシンさんのことが好きなんです。すごく、すごく…だから、今回のことも後悔はしてません」

はっきりと父さん母さんを見ながら言った。
後ろからサルシンが抱き締めてくれる。
暖かい腕に僕の身体が馴染んで沈み込みそうだ。

「俺も一緒だ。愛してる、ムンス」

恥ずかしいけど、すごく嬉しくて涙が出る。

「嬉しい、ありがとうございます」

くるっと僕の体の向きを変えられ、ちょうどサルシンと向かい合う形になる。
僕の目をしっかり見てから、サルシンが跪く。
父さん母さんが後ろに居ることは、もう僕の頭には無かった。

僕の手を恭しく掴み、サルシンが僕の手の甲に、優しく口付ける。

「俺、いや、私サルシンは、この命をかけて貴方を守り愛し続けると誓います。どうか、私と結婚して下さい」

ふえっ?!
突然のプロポーズに、アワアワと慌てる。

「えっと?そのっ」

本気?と聞こうとして、サルシンと目が合う。
その瞳は間違いなく本気だった。
真剣に誠心誠意、僕を見つめていた。
本気で僕に結婚を申し込んでくれている。

僕は、深く息を吸って、吐いて、一度気持ちを落ち着けてから考えて、そして答えた。

「はい、僕も貴方を守ります!」

父さんと母さんは、わあっ!と抱き合って喜んでくれた。
母さんは、やっぱり泣いていたけど、笑っていた。

僕は、とても幸せだ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


アルジからの報告が、全く無い。
あの長官も未だに在籍していて、失脚の噂も全く無い。

「アルジからは、報告はまだかっ!?」

執事に怒鳴ると、溜息をつきながら報告を上げてきた。
あの方からのご命令だというのに、こんなに時間がかかるとは!何が失脚請負人だ!けしからん!

「それが、その…はっきりと分からないのですが…」

「なんだっ!早くしろ!」

イライラが止まらない。
早くこの件の報酬を払って、あのアルジを自分のものにしたいのに。

「えー、あの長官が結婚したようです」

「あ?結婚?だから、なんだ?」

あんな者が結婚しようが、しまいが、そんなことは関係ない。

「その結婚相手が、あのアルジに非常によく似てまして…」

「はぁ?」

空いた口が塞がらない。

「それは、本当にあのアルジなのか?」

「いえ、それが…見た目は、アルジそのものなのですが…」

「ならば、アルジではないかっ!」

唾が飛ぶ。
ふざけるな、私のモノにしようと思っていたのに!
そもそも失脚させるはずが結婚?!

「しかし…左手首の痣が無いのです」

「ならば、アルジでは無いだろう!」

一安心する。
あの美しいアルジを、よりによって、あの長官に取られたら悔しくて生きた心地がしない。

「はぁ、そうすると、アルジがどこへ行ったのか…」

「探せっ!もう一度、アルジの特徴を手の者に伝えて、この街中をくまなく探し出せ!」

全く、役立たず共めと床を踏み鳴らす。

そこへ、あの方からの封書が届く。
まずいぞ、長官を失脚していないことのお叱りか…



「へっ?今、なんと?」

夜中にお忍びで来たあの御方は、笑っていた。
この国を治める、あの御方だ。

「あの化け物を失脚させて、どこぞで始末しようと思っておったが。なんと男と結婚して、すっかり尻に敷かれて大人しくなってなぁ」

「はぁ…?」

この国で最も尊い御方は、悪い顔で笑う。

「あれの子供が産まれたら厄介だったが、それもこれで心配無くなった。今となっては、前より使いやすくなったのでな。あれは、あのままで良い」

カカカ、と笑う。

「さ、さようですか…」

肩の力が抜けて、へたり込みそうになる。

「そちにも迷惑をかけただろう。例の許可証は授ける。自由に使うが良い」

「ははーっ!有り難き幸せ」

この世界中を自由に渡れる許可証の為に頑張ってきたが、なんだか拍子抜けしてしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「アルジが見つかりました!」

それから間もなく、アルジが見つかったとの報告を受けた。
執事からは、見た目がどうとか言われたが役立たずの話など聞く必要もない。
条件は全て満たして、確かにアルジだそうだ。
ならば間違いないだろうに。

執事は役立たずだ。
これが終わったら、すぐさまお払い箱にするつもりだ。

わしの部屋でアルジを待たせるよう伝え、私も身支度をして部屋へ向かう。

アルジに仕事の中止を告げ、謝礼を渡し、そして、この私と…期待に胸と股間が膨らむ。

扉を開けると、そこに夜の妖精アルジが…

「……だれ?」

そこにいたのは、歳をとって男か女か区別がつかなくなった、限りなく爺さんだった。
茶色の髪と瞳は…白髪混じりでパサパサだが、確かにそうだろう。
左耳には水色のピアス…うん、確かにでろんと垂れ下がった耳にある。
左手首には、痣?シミ?いや、シワシワすぎて、もはやよく分からんわ。

「間違いなくアルジです」

執事が、ドヤ顔で言ってる。
コイツ、なんでそんなドヤ顔出来るんだ?
この状況で。

「では、失礼致します」

扉がパタンと閉まる音が響いて、執事が出て行った。

残されたのは、わしの命令通りに薄手の絹で作られた水色のセクシーな寝間着を来ている本物のアルジ、ただし、シワシワ。

廊下に、執事の笑い声が響いている。

「わしゃーアルジじゃが?こりゃ、一体、何の仕事じゃ?わしの仕事は、裏で糸を引いて人を失脚させることなんじゃが…お前さんを失脚させればいいのか?」

帰ってくれ、と繰り返し頼んだ。
最終的には、泣いて頼んだ。

「へ?は?なんじゃ?よく聞こえんなぁー。あんた、案外わしの好みじゃ。よーし、天国へ連れてってやろう」

執事は、さっさと辞めて行った。

私は、いろんなモノを失った。
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