出来損ないの下剋上溺愛日記

にじいろ♪

文字の大きさ
3 / 28

麓での遭遇

しおりを挟む
「はぁ、遠かった~」

山羊に引き摺られるようにして、ようやく到着した麓まで、丸一日掛かった。
父さん達に担がれて山の中腹まで送ってくれたお陰で、何とか夜までに着いたが、一人ならもっと掛かっただろう。
あっという間に着く、というのは僕には適用しなかったらしい。

「あれ?もしかして、あれが新居かな?え、パッカ村の人が建ててくれたのかな」

夕方になり薄暗くなった麓。その開けた広場のような場所に、家らしき物が建っていた。リマ村が僕の為に家を用意するはずが無いから、きっとパッカ村の人だろう。
もしかして、結婚相手?!

「あのー、誰かいますかぁ?」

僕はクタクタな脚を叱咤しながら山羊と仔馬を連れて近付いた。もし、違かったらどうしよう、と不安になりながらも、どこかで期待に胸を踊らせていた。どんな女の人なんだろう。優しいと良いなぁ。

「あのー」

「あなたがリマ村の人ですか?」

真後ろから地響きのような低い声を掛けられて、僕は一旦飛び上がってから、ど派手に転んだ。
ズザザッと肘や膝を地面で擦り剥いた。

「わああっ!だっ、誰っ?!」

「驚かせてごめんなさい。大丈夫ですか?パッカ村のブレイブです。あなたがリマ村から来た私の婚儀相手かと思って声を掛けたのですが、間違えたでしょうか」

地面から後ろを振り仰ぐと、まるで巨人のような大男がいた。顔が暗い影になって全く見えない。

「ヒエッ!あわわわっ!!」

「あの······」

僕は、思わず恐くなって地面を後退った。薄暗がりだから、余計にその巨体がそら恐ろしく見えてしまっていてガクガク膝が震える。
巨人は、僕に手を伸ばそうとして、その手を引っ込めた。

「·····恐がらせてごめんなさい。もし泊まるのなら、この小屋は、あなたが使って下さい。雨除け程度にはなりますし、獣も入れない」

スッと後ろへ彼は下がり、そのまま森の中へと、その巨大な姿を足早に消した。

「·······へっ?!あっ、あのっ!」

思わず呼び止めようとしたが、その声は届かなかった。
地面にへたり込んだまま、少しだけ冷静になると、彼が人間だと気付く。
巨人に見えたけれど、身体が立派な大きな男の人だった。小さいのは僕の方なのに。
風の音と山羊の鳴き声、それにどこからか鳥の鳴き声だけが響く。

「·····行っちゃった?どうしよう。あれ?あの人、パッカ村の、何とかって言ってた·····まさか、僕の結婚相手?いや、どこから見ても男だったし、違うよね。結婚のための家を建ててくれた人かな?あぁ、御礼も言わないで悪いことしちゃったなぁ」

ブツブツと独り言を言いながらも立ち上がり、とりあえず山羊と仔馬の手綱を太い木に結ぶ。近くの草をむしゃむしゃ食べてるから大丈夫そうだ。
家に近づくと、随分と立派な造りだった。木を板状に切って組み立てたような見たことも無い造りだが、隙間風が全く入らない頑丈な建物だ。床も全てきっちりと板が敷き詰められていた。どうやって切ったんだろう。

「何これ、すごい。こんな家があるの?これなら雨が降っても足が冷たくならないよ」

それに中は大人が3人寝転んでも余裕がある程に広い部屋だった。
こんな素晴らしい家を作った人に御礼も言わないなんて、リマ村の人間は何て無作法なんだと言われてしまうかも。
いや、もう二度とあの村へは戻れないのだから、気にしたって仕方ないか。

「よし!あとは、結婚相手が来るのを待とう」

そうして、僕はゴロンと床へ横になった。不思議と温かい中で、僕は昼間の疲れがドッと押し寄せて、ぐっすりと眠った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝、家から出ると、目の前の広場には香ばしく焼かれた肉が置かれていた。

「え、何これ?」

よく見ると地面に文字が書かれていた。
『食べて下さい』とやたらに地面深く文字が刻まれている。こんなに深く刻んだら何日も何日も残るだろう。

「食べて良いのかな?誰から?·······僕の他に誰かいるってことは·······結婚相手?」

ハッとした僕は辺りを探して歩いた。けれど、誰も見つからなかった。昨日の彼も居なかった。何となく残念に思いながら結局、また元の場所へと戻る。
遠慮無く空腹を訴える腹に肉を収めていく。

「ウッ、うまっ!!なにこれ、すごっ」

見た目は普通のモサ鳥のようなのに、今まで食べた事が無い程に味が濃く身は柔らかく美味しかった。塩味も効いていて、最高だ。
食の細い僕が、丸々一匹をぺろりと食べてしまった。

「あっ!食べちゃった!もしかして、これ二人分だったのかも·····あのー、誰かいませんか?」

辺りに声を掛けると、今度は木の陰から、ヒョコリと誰かが顔を出した。
昨日の大きな男の人だ。遠くて顔が良く見えないけど、体格からして間違いない。

「あなたは昨日の!このお肉は、あなたが置いてくれたんですか?!」

僕は焦って喋りながら彼に近付いた。近付いた。近付いた。が、全然距離が縮まらない。あれ、僕、歩いてるよね?

「あれ?何で近付けないんだろ?僕、足がおかしいのかな」

「その肉は、俺が置きました······迷惑でしたか?」

全然縮まらない距離のまま、彼が話しかけて来た。うん、声はちゃんと聞こえる。

「とんでもない!ありがとうございます!それに、あの家も、あなたが建ててくれたんですか?」

「······はい。気持ち悪かったですか?」

何となくだけど、会話が通じているのか、いないのか良く分からない。他の村の人と話すのが初めてだから、こんなものなのかもしれないと自分に言い聞かせる。

「えーと、素晴らしい家ですね!僕とパッカ村の人が住む家ですよね?あなたはパッカ村の人ですか?」

「·······はい」

「良かった!昨夜は混乱して、御礼も言えずにごめんなさい。あんなに素晴らしい家を建てて貰ったのに。本当にありがとうございました」

頭をペコリと下げて御礼を言うと、彼の息を飲む音が聞こえた気がした。

「それと、お肉を全部食べてしまったんです。もしかして、これ二人分でした?」

肉を乗せてあった空の葉っぱを見せて尋ねると、首をブンブン振られた。

「それは、あなたの分です」

「あー、危なかった!あんまりにも美味しくて全部食べちゃったから、どうしようかと思って!」

ほんの少し、彼が木の陰から出て来た。

「·······美味しかった、ですか?気持ち悪くなかったですか?」

「??気持ち···?美味しかったです、とっても。こんなに美味しいお肉は初めてです。ご馳走様でした!」

気持ち悪いというのは、パッカ村では別の意味かもしれない。後で結婚相手が来たら聞いてみよう。

「······美味しい······初めて言われた」

俯いて、何かボソボソと喋っているようだ。それにしても、結婚相手はまだ来ないのだろうか。

「あの、ところで、僕はリマ村のアルトと言います。僕の結婚相手は、まだ到着しないんでしょうか?」

「········え」

「え?」

木の陰から、更に少し身体が前に出て来た。面白いな、この人。デカイ身体がほとんど木から見えてるのに隠れてるつもりなんだろうか。母さんみたいで、ちょっとかわいい。

「俺が、その······パッカ村のブレイブです。忌み婚儀の······結婚、相手です。やっぱり······嫌ですよね」

「え?は?あー、あ?」

何を言われているのか理解しようとして一回諦める。でも、聞かないと始まらないと思い直して彼に向き直る。

「えー·······男、ですよね?」

「不出来な男同士の婚儀です。不出来な子が産まれないように大昔にもあった神儀だそうです」

「神儀って·····えーっと、ちょっと待って」

僕は頭を抱える。
男同士で結婚??さっぱり分からない。けれど、どこかで腑に落ちた。
普通の相手ならば、あれ程に母さんが寝込んだり父さん兄さんが泣いたりもしないだろう。そういうことか。

「もしかして、知らなかったのですか?」

おずおずと心配そうに声を掛けられる。
僕は、そっと彼の方を見遣る。
さっきまでよりも、だいぶ近付いていた。野生の獣みたいだな。

「あ、かっこいい」

「え?」

キラキラ光る朝陽を浴びた彼、ブレイブは物凄く格好良かった。金色に輝く長い髪を後ろで結いて流し、そのキリリと吊り目がちの瞳は薄緑で美しかった。顔立ちも父さんや兄さんよりも、遥かに整って男前で贅肉の無い均整の取れた身体に息を飲む。着ている服も見たことが無い美しい布で作られていた。
僕の理想の男像が、ここにいた。
勝手に胸が高鳴ったのは一旦無視して冷静を装う。
話を進めないといけない。

「それで、その神儀?というのは一体、なんですか?」

「うっ·······それは、あの」

大きな身体を縮こまらせて彼が俯く。頬も赤らんでいるようで、なんだか余計に近付きたくなる。
彼が思い悩んでる間に更に近付く。その綺麗な瞳を、もっと良く見たい。出来れば僕を映して欲しい。

「僕、何も教えられて無いんです。どうか、詳しく教えて下さい」

そう言って近寄れば彼は、ウッと息を詰めて後退り横を向いてしまった。

「あんまり、その、近寄ると危険です」

「は?何か獣でもいるんですか?」

「いえ、俺がその、力が強くて危険だから」

確かに彼の筋肉は凄い。
父さんや兄さんみたいにムッキムキだ。
そう。見慣れたムッキムキだし、むしろ彼の方が綺麗な筋肉の付き方をしている。
全然暑苦しく無い。

「うーん·······普通じゃないですか?むしろ羨ましいです、その筋肉」

「······へ?」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる

cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。 「付き合おうって言ったのは凪だよね」 あの流れで本気だとは思わないだろおおお。 凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

ざこてん〜初期雑魚モンスターに転生した俺は、勇者にテイムしてもらう〜

キノア9g
BL
「俺の血を啜るとは……それほど俺を愛しているのか?」 (いえ、ただの生存戦略です!!) 【元社畜の雑魚モンスター(うさぎ)】×【勘違い独占欲勇者】 生き残るために媚びを売ったら、最強の勇者に溺愛されました。 ブラック企業で過労死した俺が転生したのは、RPGの最弱モンスター『ダーク・ラビット(黒うさぎ)』だった。 のんびり草を食んでいたある日、目の前に現れたのはゲーム最強の勇者・アレクセイ。 「経験値」として狩られる!と焦った俺は、生き残るために咄嗟の機転で彼と『従魔契約』を結ぶことに成功する。 「殺さないでくれ!」という一心で、傷口を舐めて契約しただけなのに……。 「魔物の分際で、俺にこれほど情熱的な求愛をするとは」 なぜか勇者様、俺のことを「自分に惚れ込んでいる健気な相棒」だと盛大に勘違い!? 勘違いされたまま、勇者の膝の上で可愛がられる日々。 捨てられないために必死で「有能なペット」を演じていたら、勇者の魔力を受けすぎて、なんと人間の姿に進化してしまい――!? 「もう使い魔の枠には収まらない。俺のすべてはお前のものだ」 ま、待ってください勇者様、愛が重すぎます! 元社畜の生存本能が生んだ、すれ違いと溺愛の異世界BLファンタジー!

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...