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話し合う

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次に目覚めた俺が一番にしたこと。
ドロドロの穴を拭くよりも先に。

「アルトさん、これからのことを話し合いましょう」

「へっ?!はっ、はい!!」

うっとりと俺を撫でようとしていたアルトさんの手がピタリと止まった。
掠れた俺の声は、大分低かったかもしれない。アルトさんの頬が引き攣るくらいには。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

静かに互いに水浴びを色々な物を落として、きちんと衣服を着て向かい合って床に座り込む。こうして素で向かい合うのも久しぶりな気がする。
ただでさえ色白なアルトさんの顔色が青褪めて見える。指先が白くなる程に握り締めている。そんなに握ったら大切な指を痛めてしまうのに。

「あの、アルトさん·········」

「ひゃっ、ひゃいっ!!すみませんでしたぁ!!」

いきなり謝罪と共に深々と頭を下げられた。床に額が着いている。その突飛な行動に俺も慌ててしまう。アルトさんは、俺に対しても未だに不安を抱えているらしい。
俺は、そんなアルトさんに恐怖を与えてしまったのだろうか。

「頭を挙げて下さい、ちゃんと話しましょう。アルトさん」

「ごっごめんなさいっ、ブレイブさん!貴方の優しさに甘えて僕は、僕はっ」

ボロボロとアルトさんが泣き出した。
その泣き顔も涙も美しい。やっぱりアルトさんは俺の神だ。心底崇めたい。崇拝したい。
いや、違う。頑張れ俺。今はそこじゃない。
バチン!!と自分の頬を思い切り一度叩いて正気に戻す。目の前に星が散ったが、気の所為だ。

「ブレイブさんっ?!大丈夫ですか?凄い音がしましたけど······」

俺の頬に細く繊細で白く美しい指先が伸びてくる。それだけで、何もかもアルトさんに委ねたくなる。正気を失って奇声を挙げながら俺の全てを舐られたい。
だから、違うだろ、俺!!
頭をブンブンと振って欲望を押し留める。

「その、神儀に、着いてですがっ!!」

「うっ、やっぱり······嫌でしたか。ごめんなさい·······」

アルトさんが、泣きながら床にめり込む程に落ち込んでいる。もはや身体の半分埋まってるんじゃないだろうか。それ程に沈んでいる。精神的に。

「違うんですっ!嫌じゃないんです!話を聞いて下さい、アルトさん」

半分以上床に埋まったかのように落ち込むアルトさんが、微かに視線を上げる。視線が絡まれば、たちまち胸が鷲掴みされる。
やはり、その瞳に俺の心は折れかけるが、グッと奥歯を噛み締めて我慢する。ギリギリと音がする程に噛めば、何とか正気を保てる気がした。

「俺達二人きりで街へ出てきて、まだ生活が確立していない今、神儀は少し抑えて、まずは、ここでの暮らしを整えませんか?」

「えっ、暮らし??······なるほど、確かに」

俺は少しほっとして息を吐く。どうやら、床に沈み込んでいた所からは少し浮上してくれたようだ。

「まだアルトさんの織物を売る目処さえ付いてませんし、会ったばかりのルンブレンさんに全て頼ることは出来ませんよね?」

アルトさんは、その美しい瞳を目いっぱい開いて考えたようで、しばらく間を置いてから、コクリと頷いた。俺は深く息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出す。

「分かって貰えて良かったです。俺達、まだ食料を調達する手段もないですから。森で狩りが出来るなら良いですが、山と街では色々と勝手が違うでしょうし。暮らしが安定するまでは、神儀は少しの間だけ控えましょう」

「え······全くしない、という事ですか?」

「それは········」

俺は目を閉じて思考を巡らせる。めくるめく官能の日々。正直、毎日したい。出来れば丸一日、全てをアルトさんに暴かれたい気持ちはある。というか、そればかりだ。
けれど、それでは俺の身体は二度と抜け出せない深みに嵌る一方だし、こんな暮らしでは、すぐに二人共が生きて行けなくなるのが目に見えている。せっかく街へ出て来たのに、爛れた生活で餓死はアルトさんのご家族にも申し訳が無い。
何より、あのルンブレンさんに借りをこれ以上作りたくない。初めて会った時に、アルトさんを見る目に僅かに欲が含まれていたのを俺は知っている。

「三日に一度、というのはどうですか?」

俺の提案に、浮上し掛けていたアルトさんの顔色が、みるみる青褪めていく。パクパクと口を開いて閉じて、決心してように話し出した。

「······あまりに少ないかと·······我慢出来そうもありません。そこをなんとか、二日に一度ではどうでしょう?」

「それならば、一度に一刻まで、というのはどうですか?短い時間ならば仕事にそれ程影響は無いでしょうから」

アルトさんが、床に伏せて泣き始めた。かわいい。抱き締めたい。

「そんなっ!たった一刻なんて、とてもじゃないけど最後まで出来ないですっ!せめて三刻程は必要ですっ!」

「し、しかし······時間が長くなるとアルトさんは俺の全身をくまなく弄るから、もう全身が敏感になり過ぎてるんです。それに、それを期待している自分もいて········こんな風に毎日毎日乱れていたら、取り返しがつかなくなりそうで恐いんです」

俺は正直に自分の気持ちを伝えた。恥ずかしいけれど、これが今の俺の気持ちだ。
アルトさんの喉がゴクリと鳴って腿を擦り合わせている。なんて扇情的な仕草をするんだろう。煽られない為に舌を強目に噛んで我慢する。自然と涙ぐむ。

「わかりました·······では、一日二刻までというのは、どうでしょう?」

「二刻、ですか······そうですね。では、朝は一日の暮らしに支障が出るので、神儀は必ず夜にしましょう」

「夜·········それも、いいですね」

アルトさんの瞳が、ギラリと光ったことは見ない振りをした。胸の高鳴りは気付かない振りをした。このままでは、互いに抑えきれずに再開してしまう。
俺は雰囲気を変えようと努めて明るく提案した。

「では、今から街を見に行ってみませんか?」

「わぁ、行きたい!ブレイブさんと二人で歩きたいです!」

「俺もです、アルトさん」

手を取り合い、見つめ合う二人。
自分達の住まいも端とは言え、一応は街だが二人共、完全に忘れている。
いそいそと用意をして、二人並んで歩き出す。指と指を絡めれば、どちらともなく優しく握り締める。
外は夕刻が迫っていた。太陽が沈んでいく様は心を開放させる。

「まずは、アルトさんの織物を買ってくれる商人を探したいですね」

「いるかなぁ?でも、ブレイブさんは出来ることが多いから、きっと大活躍しますよ」

二人で手を繋ぎながら街までの道すがら、ゆっくりと会話する。

思えば、こんなに穏やかに会話するのも久しぶりかもしれない。いつも、見つめ合えば自然と神儀が始まってしまうから。

俺を見上げるアルトさんの瞳の輝きに胸が撃たれて撃たれて、既に穴だらけだ。息をしていることが不思議なくらい。

「ここがルンブレンさんとも歩いた大通りでしたよね?」

アルトさんは、ルンブレンさんのことを頼りにしているようだ。腸が煮え繰り返る。

「ええ、そうでしょうね。地面が全て石で造られているなんて驚きです」

「周りの家も、木や草では無くて、同じ形の赤い石のような物で造られてますよ?こんなに同じ形の石が取れるんですね」

ブハッ!!と近くで笑い声がした。気がしたが無視した。

「おいおいおい、お前ら、どこの田舎から出て来たんだよ?今時、煉瓦も知らねぇのか?全く、これだから田舎もんは」

俺達は一切無視した。が、向こうが近付いてくる。なんて迷惑な奴だ。

「おい、待てよっ!この俺様が街での暮らし方をきっちり教えてやるから!」

ガッシリとアルトさんの腕を掴んで来た。アルトさんの細腕を。繊細で美しく、神の使いたるアルトさんの腕を。

許すまじ。

俺は、その男の腕を捻り上げた。
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