不本意恋愛

にじいろ♪

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篠山涼という男

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僕は篠山 涼 30歳。
大学を卒業してから地方公務員をやっていたけど、先月退職した。
現在、無職。
だって、愛ちゃんを射止めることが最優先だから。
これから半年間で、完全に愛ちゃんを僕のものにする為に仕事も辞めた。
今の僕の見た目は愛ちゃんの好きなタイプ、のはず。
はず、というのは、絶対とは流石に言い切れないから。
でも、様々な調査を重ねて限り無く愛ちゃんの好みに近いと確信を持ったから彼女に接触したんだ。
永く永く待った。
ここまで、僕は良く頑張った。
自分で自分を褒めてあげたい。

「愛ちゃん……」

その唇の柔らかさを堪能する。
どれ程、この時を夢見たことか。

「かわいいね……ああ、かわいい……」

そう、愛ちゃんはかわいい。
そして彼女の可愛さを知っているのは僕だけで良い。
絶対に、一欠片も他の男に触れさせたく無い。

あの病院長は完全に枯れてるから、まだ良いとして。
他の奴らは許せない。
愛ちゃんに言い寄るクソジジイ共。
僕は知ってる。
愛ちゃんは冗談だと笑って済ませているけれど、あのジジイ共は愛ちゃんのお尻や太腿を偶然を装って触っている。
僕の天使、いや神の愛ちゃんの身体を触るなんて耐えられる?いや、耐えられない。
だから、ほんの少し後押ししてやる。
あの世への後押しを。

「涼さんっ、あのっ」

愛ちゃんが全身を真っ赤にしながら涙目で見上げてくる。
ああ、全部食べてしまおうか。
半年かけようと思っていたけれど、もう我慢出来ない。

「愛ちゃん、僕に全部ちょうだい」

耳の中も足の指も、全部、全部、全て舐め尽くしたい。
愛ちゃんの全てに僕の印を残そう。
絶対に他の奴に取られないように。

「涼、さん……」

か細い彼女の声に喉を鳴らして、その耳たぶをしゃぶる。
甘い、甘い、どこもかしこも。

愛ちゃん、僕は君の理想になった?


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

僕が公務員になった理由は一つ。
愛ちゃんを見つけるため。
愛ちゃんが住んでいる県までは特定出来たけど、そこから先が一般人の僕では分からなかった。
だから、公務員になった。
両親は、ずっと僕を頭のおかしな息子扱いしていた。

「涼、一体、誰なんだ、その早乙女愛というのは。本当はいないんじゃないのか!目を覚ませ!」

「お父さん、止めて。涼、病院に行きましょう?先生が落ち着くお薬を出してくれるから」

ね、おかしな両親でしょ。
僕は、物心ついた時から、愛ちゃんを探してたのに理解してもらえなかった。

僕には前世の記憶というものが存在した。
前世で、僕は幼いながらも愛ちゃんと婚約していた。
勿論、正式なものじゃない。
公園で指切りした子供同士の遊び。
なんて思う大人は死ねばいい。
僕は本気だったし、愛ちゃんも本気だったはず。
だから、成長するにつれ愛ちゃんが居ないことが苦しくて、ずっと探していた。

「お母さん、愛ちゃんを探したいんだ」

そう母親に伝えると、いつも困った顔をされた。

「そんなお友達いないでしょ?ほら、一緒に公園に行きましょう」

近所の公園は全て、くまなく何年も通った。
それで分かったことは、愛ちゃんは僕の近所には住んでいないということ。
分かった頃には僕は中学生になっていた。

インターネットも使っても、愛ちゃんの情報は見つからない。
前世の記憶は、どんどん薄れていく。
必死に薄れる記憶を手繰り寄せて、色んな情報を擦り合わせて、かろうじで住んでいた県までは特定出来た。
でも、そこから先は当時の僕には掴めなかった。

「探偵を雇ってもらえない?」

高校生になって、両親に遂に頼み込んだ。
もうこれしか無いと思ったから。
その時の両親の顔は今も覚えている。

「……病院へ行こう」

俯く父親の震える肩。
母親は泣き崩れていた。
僕は愛ちゃんに会いたいだけなのに、どうして薬を飲まされるのか。
頭がぼんやりとする薬を飲まされ、僕は両親を頼ることを止めた。
愛ちゃんのことを両親に言うことも止めた。
そして、ひたすらに勉強をして大学へ入学し、公務員になった。
勿論、愛ちゃんを見つけるため。

公務員は、業務上知り得た情報を悪用してはならない。
当然、僕も悪用していない。
ただ、利用しただけ。

公務員として働き始めてしばらくして、周りに気付かれないように愛ちゃんの情報を調べた。
ようやく愛ちゃんを見つけることが出来た。
でも、写真が無いから同姓同名の可能性もある。
その日、僕は早退して彼女の家へ行った。
残念ながら不在だった。
そのまま有休を取って家の周りに張り込んだ。

遂に彼女を見つけた!!
そう、彼女は間違い無く愛ちゃんだった。
僕の婚約者、早乙女愛ちゃん!!
すぐに走り寄ろうとして、ハッと気付く。
僕は、あの頃の僕とは別人だ。
なにせ、生まれ変わってしまったのだから。
愛ちゃんは、僕を分かってくれる?いや、無理だろう。
見た目も何もかも違うんだから。
見た目も……そうか。それなら、いっそのこと彼女の好みに生まれ変われば良いんじゃないか。
幸運にも彼女はまだ僕の存在を知らない。

「よし、まずは好みを調べよう」

運命の再会を取り止めて、僕は調査に打ち込んだ。
その時の愛ちゃんは31歳、独身で綺麗な部屋に住んでいた。
切り花も飾られて女のコらしい香りが漂う部屋で、僕は何度も自慰をした。
だって、愛ちゃんの物に僕の香りを付けたかったから。
冷蔵庫の飲み物のうち寝る前に飲むペットボトルに睡眠薬を混ぜれば朝までぐっすり眠ってくれる。
すやすやと寝ている彼女の顔を見るだけで僕は幸せだった。
彼女の読む雑誌や本は全て読み、録画されたテレビ番組も全て観た。
特に彼女は筋肉自慢の男が表紙の雑誌を買うことが多いと分かる。
僕達は、直接会話していないだけで、ほぼ同棲していた。

あとは、職場での雑談。
これは彼女のバッグに仕込んだ盗聴器でしか聞けなかったが、貴重な情報源だった。

「えー!ああいう男が好きなの?早乙女ちゃん!」

「格好良いじゃないですか!筋肉あって、顔も綺麗で。私、こういう人と結婚したい~」

「そんなこと言ってるから結婚出来ないのよ!!」

アハハハと笑い声と共に聞こえたそのセリフで、僕は決めた。

よし、整形と肉体改造だ。
僕は元々、ごくごく平凡な容姿のヒョロヒョロした男だったから。

それから僕は貯金と肉体改造に勤しんだ。
仕事は一応していたが、真面目だったかと言われれば疑問だ。
何よりもトレーニングが大切だったから。
それに、お金を貯めては整形を繰り返した。
元々喋らないタイプではあったけれど、どんどん変わっていく僕に話しかける人間は居なかった。
僕が公務員になって、驚きながらも喜んで泣いていた両親は、変わっていく僕を見る度に青褪めていった。

「どうして、そんなことをするんだ」

「お願い、涼。理由を教えて?力になりたいの」

「じゃあ、お金くれる?整形に必要だから」

そう言えば、金は出さずに泣くばかり。
一人息子なんだから、少しは協力してくれても良いのに。
僕はこの両親はあまり好きじゃない。

でも、愛ちゃんのご両親は好きだった。

「結婚なんて無理にしなくて良いんだぞ」

「そうよ。そのうち愛にピッタリの人が現れるわよ。焦る必要なんて無いわ」

彼女を溺愛するご両親は愛ちゃんに結婚を無理に勧めることはせず、自由な暮らしを応援していた。
僕も同意見だ。
僕以外の人間との結婚なんてあり得ないのだから、僕と運命的に再開するまで待っていて欲しい。

だから、ご両親の事故は僕もショックだった。
車の整備不良が原因らしい。
僕も何度も盗聴器を仕掛けていたけれど全く気付かなかった。良い人はどうして早く亡くなるのだろうか。
葬儀には出席出来なかったけれど、何度も墓参りはした。
僕の義理の両親になるはずだったのだから。

夜になると彼女は寝ながら泣いていた。
だから、僕は何度も彼女の涙を拭った。
そして頭を撫でて優しく優しく語りかけた。

「大丈夫だよ、愛ちゃん。僕がずっと側にいるからね」

睡眠薬でぐっすり眠る彼女の身体に僕の香りを纏わせれば、彼女は泣き止んだ。
僕の香りに慣れた彼女には僕の体液は安心するものなんだと思えば嬉しかった。

その頃、僕は整形や肉体改造と平行して新たな取り組みを始めていた。
彼女に寄り付く虫を効果的に追い払う方法。
それは、生霊。

なんでも、生霊の出すエネルギーというものは凄まじく、そのパワーが強ければ強い程、周りの害虫を寄せ付けなくなるという。
僕は勉強した。彼女を守るため。
毎日が忙しく充実していたけれど、この生霊として愛ちゃんを守るのに慣れるまでは相当に大変だった。
彼女への想いを高めて高めて、離れていても愛さんに寄り添うことが出来るまで時間がかかったのだ。
特に仕事中、同僚に話し掛けられると意識が逸れやすくて、二度と話しかけるなと何度も注意したが、仕事上どうしても必要なこともあって、渋々受け入れていた。
業務以外で僕に話しかける人間が居なかったのは不幸中の幸いだった。

そのうちに、段々と生霊を愛ちゃんに寄り添わせることにも慣れた頃、彼女の部屋は荒れて行った。
床に散乱した物は、間違って踏んでしまうと大きな物音を立てる。
最近、愛ちゃんは僕の睡眠薬入りの飲み物を飲まなくなってきて、仕事帰りにコンビニで買った物だけを飲む。
ご両親が亡くなって自暴自棄になっているのかもしれない。
寝ている愛ちゃんの下には大量のペットボトルやゴミの山が積まれるようになった。
これでは、僕は近付けない。
生霊を習得していて良かった。

「愛ちゃん、もう少し待っててね。もう少しで完璧に君の理想になるから」

整形費用を捻出する為に貯金していたけれど、僕は耐えきれず彼女の隣へ引っ越した。
3年前に。
それから、ようやく準備が整って仕事も辞めて。
彼女との運命的な再会を果たしたんだ。
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