上 下
9 / 13

初めて

しおりを挟む
何事も初めてということがある。
私も、初めてだ。
何って、番との子作りが。

本能で、なんとなく分かるものの、私も長年、本能を忘れて日本の現代社会を生きて来た。
すっかり、グー○ルなどに染まってしまっていたから、やはり、少し本能は退化したのかもしれない。
 
はっきり言おう。
ヒロとの子は、どうして直ぐに産まれないのだ。

グー○ル先生も、教えてくれないし、知○袋なんて、ツリだと思われて叩かれた。酷い。
愛し合っている者同士の交尾によって産まれるはずの子が産まれないということは…
まさか、愛が足りないというのとなのか…?

私は、隣で眠るヒロに口付けを落とす。

「…そんなはずはない。それに…」

するすると、眠るヒロの頬に触れる。

「例え子が出来なくとも、ヒロと二人で生きて行くのも、また楽しいだろうな」

ヒロとの未来に思いを馳せると、胸が温かくなる。
笑ったヒロは、かわいかった。
焦るヒロは、愛おしかった。
その全てが、私を狂わせ、安堵させる。

「これを、愛と呼ばずして、何と呼ぶのか」

ちゅっ、と頬に口付けを落とす。

「ヒロを毎日愛せる幸せを噛み締めよう」

私も共に眠りについた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「おい、ヴァン」

低めの囁きで起こされた。
外は既に明るく、太陽も高く昇っていた。

「ん…ヒロ?すまない、私が起きるのが遅くなってしまって。すぐに朝食を」

「トイレ」

両手を、ん、と私に向けて広げられて、ようやく理解する。
ヒロは、歩けないのだ。
抱き潰し過ぎて。
思わず嬉しくて破顔する。

「ふはっ!ヒロ!ヒロには、私が必要なんだね?!」

軽々と抱き上げ、トイレへと向かう。
このまま永遠と歩きたい。

「お前が無茶苦茶するから…」

ヒロが、ささやかに私の胸を叩いている。
ほんの少しだけ、ドフゥッ!と噎せてしまったが、喜びに浸る。

「でも、ヒロが、私の全てを受け入れてくれるなんて、夢のようだよ」

額に口付けを落とすと、また胸を叩かれる。
ドフゥッ!と噎せてしまった。

「…お前、あんなの反則だろ」

ブツブツと呟くヒロは、首筋まで真っ赤で、食べ頃の果実のようだ。

「反則?あれが、私の本当の姿だが」

「…ヴァンって…いや、なんでもない」

トイレを済ませて、リビングへと連れて行く。
今度、二人で座れるソファを買おう。
小さくてもいい。
ぴったりくっつけるから。

「今、朝食を作るからね」

「あ、ああ…お願いします…」

強気なのに、控えめで、こうして私にも丁寧に接してくれる。
決して私を無下にはしないヒロ。
いきなり私と番になるという人生の急変に襲われたにも関わらず、戻って来てくれた。

「はい、出来たよ。スクランブルエッグは好き?目玉焼き派?」

「どっちも好き派」

笑いが止まらない。
好き派って!!
あー、かわいい。

「ふふふ、じゃあ、毎日、いろんな卵料理作るからね」

「うん、楽しみ。ありがとう」

ありがとう…?!
私に対して、ありがとう…?!

「神だ…」

「ん?どしたの?」

キョトン、と首を傾げるヒロ。
神は、ここにいた。

「いや、何でもない。幸せ過ぎて、幽体離脱しかけていた」

「へぇー!そんなん出来るの?!ヴァンって、やっぱり神様なんだなー」

いや、出来ない。
冗談だ。
インターネットに載っていた、ウケる冗談というのを使ったが、ヒロが純粋過ぎて、そのまま信じられてしまった。
どうしよう。
修整すべきか…

「ヴァンってさ、ほんと凄いよな。何でも出来て。俺にも、いろんなこと教えてくれよな。あ!そういえば俺の大学って、ここから何時間くらい掛かるだろ?」

急に話が変わって、うん?と私が今度は首を傾げる。

「一応、車は持って来てあるけど、やっぱり一度、アパートに帰った方がいいかな」

「…ヒロ?それは、どういう…」

目の前が真っ黒に染まっていく。

「ここ来た時は夏休みだったし、全部履修終わってたから、しばらく大学行かなくて良かったけどさ。俺、就職活動とか、卒業の為の諸々も、まだ少し残ってるから」

「ヒロは…大学生だったんだな」

そんなことも知らなかった私。
番の癖に、何もヒロのことを知らなかった。
自分のことばかり喋っていたのか。

「もう少しで、卒業だけどな。だから、一度一人暮らししてたアパートに帰って、時々、ここに来るように」

ひしっとヒロを抱きしめる。

「ヒロ…お願いだ…行かないでくれ…」

私は、ヒロに縋るしかない。
ヒロと離れるなど、考えられない。
それに、またヒロがどこかで、誰かと…考えただけで身体が震える。

「私がヒロの分も働くから、この家にずっと居て欲しい」

「はあ?なにそれ、専業主夫的な?俺、家の事なんて何も出来ないし」

更に、ぎゅうぎゅうとヒロを抱き締める。

「そんなことはしなくていい。全て私がやるから。ヒロは、笑ってくれれば、それで良い」

「あー…もしかして、子供産め的な?」

私は、ヒロの首筋に顔を埋める。
ヒロの香りに包まれて、安堵と欲が同時に出る。

「いや、ヒロがいてくれれば、子供は出来なくても良い。ヒロさえ、居てくれたら、他に何も要らない」

震える指で、ヒロの服の端を掴む。
決して離したくない。

「んー…まあ、どうにか通えない訳でも無いか?深夜に出発すれば…どうせ、あと数回行けば済む話だし」

ヒロが、私の頭をポンポンと優しく撫でる。
嬉しい。もっと。

「じゃあ、アパート解約しないとな。勿体無いし」

ぶんぶんと頭を上下に振り、ヒロに頬擦りする。
ヒロは、優しい。
決して私を無下にしない。

「分かった、分かった。ずっとここに住むから…俺、住んでも、いい?」

口付けする。
しないで居られない。

「…はあっ、勿論だよ、ヒロ。寧ろ、住んで下さい。二人の愛の巣で、これからも愛を育もう」

「あー、うん。愛の巣、ね。巣…ま、いっか」

私達の幸せ過ぎる暮らしは、これから始まる。

しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ロリ妖精が培養槽に入れられ永遠に卵を産まされる話

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:56pt お気に入り:50

【R-18】♡喘ぎ詰め合わせ♥あほえろ短編集

BL / 連載中 24h.ポイント:1,128pt お気に入り:28

全校生徒の肉便器

BL / 完結 24h.ポイント:191pt お気に入り:388

キツネの嫁入り

66
BL / 連載中 24h.ポイント:4,168pt お気に入り:321

[完結]檻の中で

66
BL / 連載中 24h.ポイント:688pt お気に入り:171

[完結]チート異世界転生なのに可哀想な展開に

66
BL / 連載中 24h.ポイント:291pt お気に入り:822

底辺αは箱庭で溺愛される

BL / 連載中 24h.ポイント:8,734pt お気に入り:1,160

処理中です...