きらきら王子とハウスキーパー生活

にじいろ♪

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第一章

狂気

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僕は健吾にすがった。
なりふり構わず、涙も鼻水も垂れ流して、土下座して、健吾に兎に角すがりついた。

「おねがいだよぉ、けんごっ、ぼくには、けんごしか、いないんだよ、何でもするから、見捨てないでぇっ!」

しゃくりあげながら泣いて健吾のズボンの裾を掴む。

「唯人、俺、もう疲れたんだ」

健吾は真っ直ぐ前を見てる。
その視界に僕は入っていない。

「ううっ、ぐずっ、全部直すから、二度と女の子とは話さないっ、声かけられても絶対反応しないし、健吾が嫌なら職場でも無視したっていい。仕事だって止めたっていい。僕は、僕は…」

「吉田に金渡してたの?」

冷たい健吾の声に、一瞬、何を言われてるか分からなかった。
ぐるぐると記憶を辿って考えて、ようやく思い出した。

「吉田って、あの大学の時の吉田くん?」

健吾が頷く。
やっぱり前しか見てない。
ぎゅっと強く裾を掴む。
絶対に健吾を離したくない。

「お金に困ってるみたいだから、何回か融通したことはあったよ?仲間だし、困った時はお互い様だろ?」

僕は、あることを思い出していた。
健吾には知られたくないこと。
でも、絶対バレないはずだ。

「その金で俺のこと調べてたわけ?同窓会の金もお前が出したんだろ?」

僕は焦って立ち上がる。
健吾は変わらず僕を見ない。
ガラス玉みたいな暗い瞳に僕は映らない。

「ちがうんだっ健吾!あれは、ただ君に会いたくて」

「ちがうって、俺のストーキングしてたってこと?寮の部屋の鍵は吉田にスペアでも作らせた?」

身体中の血液が下がっていく。
これだけは知られたくなかったのに。
クズの吉田にも口止め料をかなり渡したはずだ。

「それは、でも、今はこうして僕達は一緒に」

「どんだけ俺に嘘ついてんの?」

健吾の目が僕を捉えた。
嬉しいはずなのに、足が震える。

「まだ隠してることあんだろ?言えよ。ほんとに全部言えたら考え直してやる」

僕は必死だった。
どうしても健吾をつなぎ止めたくて。
本当の僕なんて、健吾に嫌われちゃう。

「あと…隠してることは無いよ。ほんとに、これで全部だから」

そうして、僕は、また嘘をついてしまった。

「じゃあ、お前の部屋に入らせろよ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

唯人の部屋には、いつも鍵がかかっていた。
付き合ってからも、俺は唯人がいない時に部屋に入ったことは一度も無い。
唯人の部屋には常にしっかり鍵がかけられていて、その鍵を俺は持っていないから。
それも俺が唯人に信頼されていないと感じる大きな一因だった。

唯人は俯いてぶつぶつと呟くように話し出す。

「…僕の部屋は健吾の部屋と同じだよ。置いてある物も全部」

「いいから、入らせろ。ダメなら、今すぐここを出ていく」

唯人は泣きそうな顔になって少し考えてから、のそのそと鞄から鍵を出した。

「ほんとに…何も無いんだよ?」

往生際悪く言うが無視する。
早く開けろと顎で指図する。

ガチャ…キイ

唯人の部屋へ入る。
見た目は本当に俺の部屋と全く同じだ。

「ね?何も無いでしょ?」

笑って言う唯人が、机の上のPCにそっと近づく。
そっと背後に隠すようにするのを俺は横目で見ていた。

「そのパソコン見せろ」

びくりとしてから観念したように頭をかいて机から離れる。
俺はPCに手をかける。
今から俺は何をしようとしてるんだろう。
果たして、本当に開けていいのか。
自問自答をしながらも、震える指先で立ち上げる。

パスワードは唯人に入れさせる。
パスワードが俺の名前と誕生日を組み合わせていて、少しだけ胸がくすぐったくなる。
こういうところは変わらない愛を感じる。

でも、そこまでだった。

開いた画面の写真が何なのか、最初は分からなかった。
拡大され過ぎていて。
新種の生き物か何かかと考えた後、ようやく分かった俺の手が止まる。
ついでに思考も止まる。

「ふふっ、見られちゃった…きれいに撮れてるでしょ?」

俺の背後に回って後ろから抱き締めるように俺の手ごとマウスを握った唯斗が嬉しそうに笑う。
何を言ってるんだ、コイツは。
きれい?これが?

「僕のモノを抜いた後の健吾のアソコだよ?これ以上に美しいものは無いと思うんだ」

唯人が笑ってる。
完全に狂ってる。

「ほら、これが台所で料理をする健吾でしょ?このお尻の角度がセクシーだよね」

この住居のあちこちに仕掛けられたカメラで撮影されていたらしい動画を次々と再生していく。
まるで、作品を褒めてもらいたい子供ように説明しながら映し出していく。

「これ、僕達のキスシーンだよ。健吾ってば積極的だよね?ふふふっ」

「お風呂で健吾が一人で抜く時の顔も好きだな。このカメラの角度がイマイチだったけど」

一つずつ詳しく詳しく解説していく唯人。
これを見て俺が喜ぶとでも思っているのか。

「今日の唯人は…あれ?誰かと電話してた?」

そこには、俺がスマホで電話をする姿が映し出されていた。

「相手は誰かな。吉田?それとも…タカヒロ?」

俺は自分の身体が震え出すのを感じていた。
恐怖に声も出ない。
クス、と冷たく笑う唯人の声に背筋が凍る。

「あいつかー、健吾に余計なこと言ったのは。もう、ほんと最悪。吉田も、あんなに金渡したのにタカヒロに喋るなんてさ。友達甲斐の無い奴」

笑いながら文句を言う唯人。
俺の後ろにいる奴、一体、誰だ。
こんな奴、知らない。

「でもさ、こういう危機を乗り超えた先に真実の愛が芽生えると思うんだ」

俺にそう言う唯人の目が、肩越しに暗い画面に映る。
いつかの唯人と重なる。
俺と唯斗が、ただの雇用関係だった頃、他の仕事を探すようなことを言ったり、女の子の店に行こうとすると、こういう目で俺を捉えていた。
最近は、こんな目で見ることも無くなっていたから忘れていた。
元から、こいつは、こういう奴だったんだ。

「唯人、ちゃんと、話そう」

マウスから手を離そうとしても俺の手をマウスごと掴んだ唯人の力が強くて剥がせない。
決して痛くはないのに。
歴然とした体格と力の差を感じる。
同時に、恐怖も込み上げる。

「いいよ、もちろん。僕はいつでも健吾と話したいから」

手を離されて俺が立ち上がると向き合う形になった。
少しだけほっとする。
ここで万が一暴力に訴えられたら俺は負ける。

「じゃあさ、外に行かないか?アカネママのところへ」

唯人の目がすぅっと細くなる。
笑っているのか怒っているのか分からない。

「健吾、僕のこと恐がってる?」

図星を刺されて思わずギクリと身体が止まる。

「僕が健吾の嫌がることする訳ないでしょう?こんなに愛してるんだから」

すうっと首筋を指先で撫でられる。
俺はゾクリと震えて、後ろに後ずさる。

「かわいーなー、健吾。そんなに怯えないで?僕は健吾を傷付けたりしないから。愛してるよ、健吾」

そのまま口付けられる。 
俺は離れようとするが、後頭部を抑えられて離れられない。
口全体を覆われて舌を奥まで入れられて涙目になる。
ようやく離されて、大きく息を吸う。

「キスの時は鼻で息をするんだよ?けーんご?忘れちゃった?もう一度全部初めから教えようか?」

そう笑うのは、明らかにいつもの唯人じゃない。
やばい、やばい、やばい。
なんとか逃れる方法を。

「唯人、嘘だよ。ドッキリ」

唯人がキョトンとする。
俺はなんとか笑顔を作る。

「別れるって言ったら、唯人がどんな反応するか試しただけだよ。冗談。まったく大袈裟だな」

唯人が、ふにゃんとした、いつもの笑顔になる。
俺も、ようやく息が吸える。

「なんだ、そうだったのかぁ。もう、演技上手すぎだよぉ、信じちゃったじゃーん」

いつもの唯人に戻った。
俺はほっと胸を撫で下ろす。

「まだ食べ終わってないだろ?ほら、残したらお仕置だぞ?」

そう笑っていつも通りに過ごした。

俺の膝は、まだ震えていた。

早く、早くこの部屋を出なければ。
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