拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬@書籍発売中

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4巻

4-3

「あの男、ソータたちが騎士になることを反対する者がいると言っていたが、騎士の位の授与はもう決まっているのだろう?」
「うん、そのはずだよ。なんだろう、調子に乗るなって言いたかっただけなのかな?」

 ケルの言う通り、すでに俺たちが騎士になるということは決まっている。現時点で反対する人がいても、騎士の位を貰うことに支障はないはずなのだ。
 サラさんは俺たちのやり取りを見て頬を掻く。

「やっぱり、貴族からすると冒険者上がりっていうのはいい目で見られないのかもね」
「そういうことかもしれませんね」

 俺がサラさんの言葉に頷くと、ケルが口を開く。

「ふむ。果たしてそれだけだろうか」
「どういうこと?」
「ようやく出会えたのかもしれん。探していた愚か者に」

 ケルは機嫌よさげに尻尾をフリフリと振っていた。ケルの生き生きとした顔を見るに、全く根拠なくグスマンを疑っているようには思えない。
 ……ケル、新しいおもちゃを見つけた顔をしているな。
 俺が目を細めていると、大聖堂の扉が開かれ、扉の奥から不機嫌そうな男が現れた。男は俺とサラさんをじっと見てからため息をく。

「ソータ様とサラ様でお間違いないですか?」
「は、はい」
「それじゃあ、中へどうぞ。皆さんすでにおそろいですから」

 男はぶっきらぼうにそう言うと、俺たちを大聖堂の中へと招き入れた。一斉に大聖堂の中にいた人たちが俺たちの方に視線を向ける。おそらく、皆グスマンと同程度の身分を持った貴族なのだろう。彼らから向けられる視線に好意的な感情は一切なく、恨みの感情が強く込められているようだった。

「なんだあの子供は。あんなのに騎士の位を与えていいのか?」
「隣の女もかなり若いぞ。とても実力のある剣豪には見えん」
「こんな奴らに騎士の位を与えてはならんだろう……権力を持たせるわけにはいかん」

 貴族たちは俺たちを睨みながら、そんな言葉を次々に口にしていた。そして、そんな貴族たちの中でただ一人、グスマンだけがニヤッと嫌な笑みを浮かべていた。
 すると、サラさんが俺の耳元でささやく。

「ソータ。あんまり歓迎ムードじゃなさそうだね」
「そうですね。グスマンが言っていた言葉も本当だったみたいですね」

 俺たちがそんなことを話していると、ケルがちょこちょこっと俺たちの前に回り込んで顔を上げる。

「ソータ、サラよ。そんなことはないぞ。おそらくこれには種がある」
「種?」
「ふむ。せっかくなので、少しの間だけ泳がせてみるとしよう」

 ケルはそう言うと、グスマンの方を見て嬉しそうに尻尾を振っていた。
 もしかして、グスマンが何かしてるってこと?
 でも、なんでグスマンがそんなことをするんだろう?
 そこに、グスマンが笑みを浮かべたまま俺たちの方に近づいてきた。そして、周囲にいる貴族たちをあおるように口を開く。

「皆も感じているようだが、こんなちんちくりんな子供と、華奢きゃしゃな女に騎士の位を与えるのは間違っている!」

 グスマンの言葉が大聖堂に響くと、俺たちを見る他の貴族の目が一層厳しいものになった。また俺たちを非難する声が聞こえ始め、グスマンが満足げな顔をして俺たちを指さす。

「そもそも貴様らの実績というのが胡散臭うさんくさい。悪魔や地獄からの侵略者を退治たいじしたと言うが、それは本当か? 何か証拠はあるのか?」
「証拠はありませんけど、俺たちの戦いを近くで見ていた人たちはいます」

 俺は少しむっとして言い返すが、グスマンはそんな俺のことを鼻で笑う。

「そんなの口裏を合わせればいいだけではないか。そもそも、エクソシスト風情ふぜいが騎士の位を貰うなんておかしいのだ」
「エクソシスト? 私たちは冒険者ですけど」

 サラさんはそう言って首を傾げる。
 エクソシストというのは、悪いきものが憑いたときに払ってくれる存在だ。だから、仮に俺たちがエクソシストだとしても、馬鹿にしたような態度を取られることはないのだが……
 すると、グスマンはやれやれといった様子で肩をすくめる。

「はんっ、こんな華奢な奴らが冒険者なわけがないだろう。どうせ、冒険者ギルドもグルになって実績をでっちあげたのだろうな。それ以外に考えられん。仮にも聖職者でありながら権力にすがるとはみっともない」

 グスマンが何か言う度に、周囲の貴族たちの俺たちを見る目が険しいものに変わっていく。
 ……何かがおかしい。
 そう気づきながらも、あまりにもアウェーすぎる状況を前に、俺は言い返すことができずにいた。すると、グスマンが今の状況に気をよくしたのか、勝ち誇ったような笑みで言葉を続ける。

「こいつらに騎士の位を与えるだけの力があると思う者はいるか?」

 グスマンが片手を挙げてそう言うと、貴族たちは俺たちを睨みながら黙り込む。
 それから、歯ぎしりをさせていた一人の貴族が声を荒らげる。

「辞退しろ! 実績をでっちあげて、騎士の位を貰うなど許せん!」

 すると、その貴族の声を皮切りに、色んな所から俺たちを非難する声が上がっていく。

「そうだ、そうだ! このエセエクソシストが!」
「今すぐこの場から立ち去れ! 貴様らに与える位などないわ!」

 ボルテージが最高潮さいこうちょうに上がった頃、グスマンが貴族たちを軽くなだめてから、貴族たちの言葉を代表するように口を開く。

「どうやら満場一致のようだな。授与式を辞退しろ、権力にすがる醜いエクソシストが」

 グスマンは得意げに首を掻っ切るジェスチャーをしてニヤッと笑う。すると、そんなグスマンの言葉を聞いて、周囲の貴族たちがまた声を荒らげる。

「「「辞退しろ、辞退しろ、辞退しろ!」」」

 貴族たちのそんな声を前に、俺は思わずたじろぐ。サラさんがかばうように前に立って、俺の方を振り向いた。

「ソータ、下がっていて。少し雰囲気がおかしいよ」
「俺もそう感じていました。異様な空気になってますね」

 各々おのおの感情のままに言葉を発しているように見えるが、どこか統率が取れている。まるで誰かに操られているようだ。

「ふむ。そろそろ頃合いだな」
「ケル?」
「少しの間だけ待っていてくれ。すぐにこの状況を打開してくれよう」

 ケルはそう言い残すと、嬉しそうに尻尾を振りながら貴族たちのもとに走っていった。
 この状況をなんとかするって、一体どうするつもりなんだろうか。
 ケルが何をするのか見ようと視線を向けると、なぜかケルは貴族たちの足元に体をこすりつけてじゃれ始めた。

「え? ケ、ケル?」

 初めはふざけているのかと思って見ていたが、ケルがじゃれついた貴族たちは次第に正気を取り戻していくようだった。

「あれ? 私は一体何を?」
「なぜあれほど騎士になるのを反対していたんだ?」

 貴族たちがぽかんとしている中、ケルは次々に他の貴族たちの足元にじゃれていく。そして、その度に貴族たちは正気に戻っていき、辞退しろコールが徐々に小さくなっていった。

「ほら、早く辞退しろ! 辞退しろ!」

 ケルはグスマン以外の貴族たちを全て正気に戻した。しかし、それでもグスマンは周囲との温度差に気づいていないのか、一人になってもひたすら「辞退しろ」コールを浴びせてくる。
 それからしばらくして、周囲にいた貴族の一人が気まずそうに口を開く。

「えっと、グスマン伯爵。ソータくんたちに騎士の位を与えるというのはすでに決まっていることだから」
「辞退しろ! 辞退しろ! 辞退し……え?」

 グスマンは指摘されて、ようやく自分が一人きりで「辞退しろ」コールをしていたことに気づいたようだった。
 四十を超えた男が子供と女性に対して、前のめりで声を張り上げる。そんな光景が異様に映ったのか、他の貴族たちはグスマンの行動に引いていた。そして、グスマンが黙ったことで大聖堂は一瞬しんとしてしまった。
 すると、ケルがグスマンに近づいていき、嬉しそうな表情で顔を上げる。

「ふむ。大の大人が一人で騒いで駄々をこねる……まるで、子供のようではないか」

 ケルはヘッヘッという息遣いをして、ご機嫌に尻尾を振っていた。

「なっ!? こ、このっ!」

 グスマンは小さく言葉を漏らしてから、顔を真っ赤にさせる。それから、肩をプルプルと震わせて貴族たちを睨んだ。

「お前たちもさっきまで反対だっただろうが! なぜ急に黙り込む! こんな平民のガキたちが権力を持とうとしているんだぞ! 悔しくないのか、憎くないのか!!」

 他の貴族たちはグスマンの言葉に首を傾げ、目をぱちぱちとさせた。

「別に、実力のある者が騎士になるのだからいいのではないか?」
「授与式に参加する貴族が辞退を迫るというのはいかがなものか」
「悔しさも憎さも特にありませんね。なぜそこまで強く辞退を迫るのでしょうか?」

 グスマン以外の貴族たちは、極めて落ち着いた様子でそんな言葉を口にした。まるでさっきとは別人のような貴族たちを前にして、俺はいぶかる。
 ちょこちょこっと足元にやってきたケルに、かがんでから声を潜めて言う。

「ケル。一体、何が起きてるの?」
「一種ののろいのようなものがかけられていたのだ。だから、我がそれを解いてきた」

 ケルはなんでもないことのように、そう口にした。
 呪い?
 さっきまでやけに攻撃的だったのは、その呪いみたいなものが原因ってことなのか。でも、ケルって呪いを解くようなことしてたっけ?
 すると、サラさんが何かに気づいたような声を漏らす。

「もしかして、さっき貴族たちにじゃれついてたのって……?」
「左様。あのくらいの呪いの解除など容易たやすい、容易い」

 ケルは笑みを浮かべて得意げに首を反らした。
 ……あれって、ただ遊んでただけじゃなかったんだ。
 どうしてもケルがじゃれていた光景と、呪いの解除という言葉が結びつかない。
 顔を真っ赤にして貴族たちに叫んでいるグスマンをケルがちらっと見る。

「まぁ、一人だけ呪いをかけられてはいないようだったがな」
「呪いをかけられてなくて、必死に俺たちが騎士になろうとしていることに反対している……もしかして、魔物を俺たちに仕向けたのもグスマンなのかな?」
「その可能性が極めて高いだろうな。ソータたちが騎士になると困ることでもあるのだろう」

 俺とケルがそんな話をしていると、サラさんも屈んで口を開く。

「私たちが騎士になって困るってことは、もしかして地獄の者との繋がりがあるってこと?」
「詳しいことは分からんが、呪物か地獄関係だろうな」

 俺はケルの言葉を聞き、グスマンを見る。どうやら今回もケルが好きな愚か者が関わっているみたいだ。そうなると、グスマンを放っておくことはできないだろう。

「我らの実力も測れず、呪いを解かれたことに気づかない……非常に愚かな者とみた」

 ケルは目をキラキラとさせて、尻尾を勢いよく振っていた。
 俺たちが放っておいても、ケルが好物である愚か者を逃がすはずがない。

「くそっ! な、なんだ! 何がどうなっているんだ!」

 グスマンは取り繕うことをやめて頭を掻きむしり、取り乱していた。
 すると、一人の貴族がグスマンを白い目で見ながら、俺たちに近づいてきた。

「ソータくん、サラさん。変に騒ぎ立ててしまって申し訳ない」

 俺は貴族に謝られたことに少し驚きながら、手を横にぶんぶんと振る。

「い、いえ、気にしてませんから」
「本当に申し訳ないことをした。なぜあんなことを言ったのか、心当たりがまるでないんだがね」

 貴族の男は俺から視線を逸らして、考え込むように眉をひそめていた。おそらく、本当にさっきまで辞退コールをしていた理由が分からないのだろう。それだけ、グスマンが強い力で他の貴族たちを操っていたことになる。
 同時に多くの人の心を操る呪物か、地獄からの使者――グスマンだけならただ面倒な相手で済むけど、その背後にいる者は結構厄介なのかもしれない。

「私たちは平気ですので、授与式当日のお話を聞かせてもらってもいいですか?」
「ああ、そうだったね。それでは、奥の方で授与式当日の流れを説明しよう。こちらに来てくれ」

 俺たちはその貴族に誘導ゆうどうされて、大聖堂の祭壇さいだんへと歩いていく。

「ま、待て!」

 すると、またすぐにグスマンの大声が大聖堂に響いた。

「実力のない者を騎士にしてどうすると言うんだ! 皆もどこかで悪魔や鬼の討伐をしたということを疑っているはずだ! 現実的に考えてありえないだろ!」

 グスマンの叫びを聞いて、周囲にいた貴族たちはなんとも言えない表情をした。
 確かに、俺たちの実績は現場を見ていない人からすれば、嘘ではないかと思うようなものだ。ここにいる貴族のうち一定数は、俺たちの力を認めていないのかもしれない。
 俺がそう考えていると、ケルがグスマンの方に振り向いた。

「実力があることを証明できればいいのだな?」
「ん? な、なんだこの犬。なんでしゃべってんだ?」

 グスマンがケルが喋ったことに驚いていると、ケルは得意げな表情を浮かべる。

「なんでも持ってくるがいい。どんな魔物の討伐でもしてくれよう。そして、ここにいる全員にソータたちの力を認めさせてやろうではないか」

 グスマンは一瞬おでこに青筋あおすじを立ててから、ハッとした顔で俺を見た。それから、にやりと嫌な笑みを浮かべてケルに視線を戻す。

「ほう、大きく出たな。そう言うからには、失敗したら騎士を辞退してもらうぞ」
「ふむ、そうくるか。ソータよ、どうだろうか?」

 ケルがこちらに振り向いた。
 一応確認を取ってくれてはいるが、ケルはすでにグスマンの提案を受け入れるつもりなのだろう。それが見て取れるほど、ケルは前のめりになっていた。
 正直、緑鬼の討伐と地獄の門を空間転移できたのは、ハーデスの力があったからだ。だから、今回騎士の位を貰うことになったのも、ハーデスの力も含めて評価されたからではないかと考えていた。俺の実力を正しく評価してもらうためにも、グスマンからの提案には乗るべきなのだろう。グスマン以外の貴族たちに俺たちの力を認めてもらうためにも。
 俺はそう考えて力強く頷く。すると、ケルがグスマンに視線を戻して尻尾をぶんぶんと振った。

「だそうだ。よかったではないか、駄々をこねた甲斐かいがあったな」
「こ、このっ! 覚えていろ、クソ犬とクソガキが!!」

 グスマンはそう言い残すと、怒りをそのままに大聖堂から飛び出して行ってしまった。
 一体、どんな無茶むちゃぶりをしてくるのだろう。
 そんな俺の心配をよそに、ケルは新しいおもちゃを見つめるような表情で大聖堂の扉を眺めていた。


 ◆


「くそくそくそっ! あいつら、俺を馬鹿にしやがって!」

 グスマンは屋敷に戻るなり、真っ先に餓鬼たちがいる離れへと向かった。
 前回ソータたちの抹殺が失敗に終わったということもあり、今回は以前の数倍の貢ぎ物を用意した。餓鬼たちに用意するよう言われたのは、多くの高価な酒や食べ物。そして、宝石や美術品の数々だった。前に用意したのより数段高価な物を要求されたが、グスマンは必要経費だと自分に言い聞かせて大枚をはたいた。
 しかし、結果は大失敗に終わった。それどころか、多くの貴族たちの前で大恥をかくことになってしまった。グスマンはその怒りをぶつけるように、離れの扉を勢いよく開け放った。

「おい! どうなっているんだ!! 今回は上手くいくって話だっただろ!」

 グスマンの怒号どごうが離れ中に響くと、酒を飲んでいた餓鬼の一人が驚いて酒瓶を落としてしまった。高級な酒が半分以上も床にこぼれる様子を見て、グスマンは苛立ちで肩を震わせる。

「……一体、その酒がいくらしたと思っているんだ」

 そんな以前よりもキレているグスマンを前に、餓鬼たちは静かになる。すると、グスマンは入り口付近の壁を力いっぱい殴り、餓鬼たちをキッと強く睨む。

「また失敗だったぞ! 何が『権力に縋る欲を高めることで、他の貴族たち皆が俺の意見に賛同する』だ! 俺の意見に賛同したのなんて始めだけだったぞ!」

 グスマンの怒鳴り声を聞いて、餓鬼たちは今回の作戦の実行役である餓鬼の方を振り向く。
 一斉に視線を集めた餓鬼は力なく首を横に振る。

「そんなことはないはずだ。俺はやることはきちんとやった」
「じゃあ、なんであいつらは途中から俺の意見に賛同しなくなったんだ!」
「……目の前でその呪いを解除されたんじゃないか?」

 グスマンは力なく笑う餓鬼の言葉に歯ぎしりをして、その餓鬼を強く睨みながら口を開く。

「俺の目がそんなに節穴なわけないだろ! 怪しい動きをしている奴なんて一人もいなかったぞ!」

 それから、グスマンは頭を掻きむしって声を荒らげる。

「くそっ、全く願いを叶えてくれないではないか! 俺がいくらつぎ込んだと思ってるんだ!」

 すると、そんなグスマンの言葉に答えるように、テレパシーを使える餓鬼の言葉がグスマンの頭に流れてきた。

『欲が満たされない』
「満たされない? は? どういうことだ?」

 グスマンは天井を見上げて声をよく聞こうとする。すると、以前よりもどこか元気のない声がテレパシーとなって、グスマンの脳内に直接響く。

『欲を満たしてこそ、本来の力を発揮する。まだ貢ぎ物が足りない』
「何を馬鹿なことを言っているんだ。これだけの物を用意させて欲が満たされないはずがないだろっ」

 グスマンは訝しげな表情を浮かべて辺りを見渡す。そこでようやくグスマンは餓鬼たちの様子が以前と違っていたことに気がついた。

「酔えない……全然酔えない。くそっ」
「食べ物が取れないぃ! なんで食い物が逃げるんだぁ!」
「ああ、まただ。また金を触ろうとすると土塊つちくれに変わりやがった!」

 酒を飲もうとした餓鬼は、喉に流し込む前に酒が蒸発してしまい、いくら酒瓶を傾けても酒を飲むことができずにいた。
 その近くにいた餓鬼は、口に運ぶ前になぜか食べ物がパッと消えてしまった。
 そして、別の餓鬼が金に触れると、金はたちまちただの土塊に変わってしまう。
 餓鬼は常に満たされない欲に苦しむ生き物である。欲を満たせるものが目の前にあるにもかかわらず、全く欲を満たせずにいた。失敗すると分かっていながら、欲望に支配されている彼らはただ同じ方法を何度も繰り返す。これが餓鬼の業の報いである。
 グスマンはそんな餓鬼たちを見て顔を引きつらせる。

「な、なんなんだ、こいつら。触れることもできないくせに、なぜそこまで物を欲するんだ……これではいくら金をかけても意味がないではないか」
『黙って俺たちの欲を満たすんだ。そうでなければ、貴様の願いを叶えることはできん。それとも、もう資金が尽きたか?』
「資金が尽きたかだと……俺を誰だと思っていやがるっ! いいだろう! 貴様らが欲するものを全て用意してやる! だから、早く俺の願いを叶えろ!」

 グスマンは軽く煽られただけで、簡単に乗せられてしまった。

『良い答えだ。俺たちの欲望を叶えた後、貴様の願いを必ず叶えてやろう』

 グスマンは確証もないそんな言葉を信じて、強く拳を握る。
 そして、ソータたちを騎士から引きずり下ろせるということと、貴族たちの前で馬鹿にされた仕返しができると考えてニヤリと笑う。

「今に見ていろ、クソガキども。貴族の本気というやつを見せてやる」

 こうして、グスマンはまたりずに大金を使うのだった。
 権力と今の立場を守るため、身を滅ぼすほどの大金を注ぎ込む者と、満たされるはずのない欲を満たすため、権力に縋る者をだまそうとする者。
 そのどちらも愚か者に違いなかった。

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