ロマン砲主義者のオーバーキル

TEN KEY

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問4 異なる2点間の距離を求めよ

問4-5

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「じゃあつまり……」
「行きましょうか、ランク戦」
「一人で?」
「もちろん」

 俺たちの方針が決まった。
 元の予定ではまずはペアダンジョンでお互いの動きを確認し、闘技場でのペア戦に向けて息を合わせる練習の予定だったが、それはパーティで複数回のダンジョン攻略を行った事である程度は把握出来ていた。
 ならば早速ペア戦へ参戦を……と話を進めようとしたが、よくよく確認すると、ペア同士のソロランクの差が大きすぎると闘技場での公式戦には参戦出来ないことが分かったのだ。
 ランクの差が許容されるのは1万まで。1万ならかなり余裕だろう……と思いきや、ミューミューのランクが高すぎるために、俺は結構な努力をしなければいけないようだった。

「結局何勝くらいすれば良いんだ?」
「どうなんでしょう……? 今期のランク戦参加プレイヤー数によるので。調べて見ますね」

 ミューミューはテーブル上のタッチパネルを操作し、壁のスクリーンに投影させた。

「今期のソロランク参戦者は……」
「76万1965人」
「え? 約70万人超? そんなに?」
「いつもシーズン終了時には120~150万人くらいなので、シーズン開始直後でまだ少ないですね」
「ということは、1万位以内に入るためには……」
「ざっくり上位1%に入る必要があるって事です」

 上位1%とな。あれ? そこから今度はペア戦のランク上げ? 間に合わないのでは?

「そんな絶望したような顔しないで下さい。同ポイント帯の低ランクプレイヤーが多いので、実際は簡単に上がれますよ」
「そういえばそのランクポイントシステム、俺あまり分かってないかも」
「本当にランク戦に興味が無かったんですね……」
「すいません……ご迷惑おかけします」
「いえいえ、こちらこそ。不束者ふつつかものですが」
「よろしくお願いします」

 ぺこりとお互い頭を下げる。
 脳内のチョッキが「新婚か!」とツッコミを入れてきたので、脳内みずちに引っ張って行ってもらった。

「では早速ご説明を。――ランクポイント、略称RPがより高いプレイヤーが高いランクに位置づけられます。得る方法は簡単。闘技場の公式戦で相手に勝ったらプラス、負けても何も無し。プレイヤー間のやりとりは無く、加算されるだけです」
「へぇ、負けても減らないんだ」
「そうです。それが良いことでもあり、厄介でもあります」
「なるほど…………分かった。勝者がどんどん差をつければ、下に落ちる事が無い分上位が固定されやすいって事か。ただ、ランク戦に長期間参加しなければすぐにでも抜かれてしまう心配がある、と」
「その通りです。ただ、そのルールの下だと単純に参戦数が多いプレイヤーが有利になってしまいます。例えば……お仕事をされてい無い方とか、学校に通われていない方とか」
「ニートね」
「……角が立たないように言ったんですけど」
「いいよ、俺達しかいないんだし。あ、ちなみに俺は学生だよ、一応」
「私もです。でも、リアルの話は禁句ですよ?」
「もちろん、わきまえてるよ」

 リアルの話にずけずけと踏み込まないのはネットマナーの基本だ。ただお互い学生という事を知っていれば、時間や都合が付きそうなタイミングは分かるだろう。
 彼女の事はまだ声だけで推し量るしかないので、学生と言えどもそれは高校生か大学生か、全く判断出来ない。流石に中学生ではなさそうだが。

「話を戻しましょう。負けることにデメリットが無いと、参戦し放題になってしまいます。なので、連戦をし続けるためには条件が設けてあるんです。条件をクリア出来ないプレイヤーは一定時間の公式戦への参加が止まります。……具体的には、翌日の朝4時に参戦ペナルティが消えるようになってます」
「ほうほう。条件って……あ、待って、そうだな…………勝利し続ける事とか?」
「素晴らしい。その通りです」
「褒められるようなことじゃないよ。だってそれしかないし」
「そうでしょうか?」
「その条件があれば、勝ち続けられる強いプレイヤーは上位へのチャンスがいつでも用意されていて、すぐに負けるけど時間はあるプレイヤーが上位に上がるチャンスは大きく減る。バランスは良さそうだね」
「理解が早くて助かります」
「ちなみに、勝ち続けられる上に時間があるプレイヤーっているの?」
「高ランク帯になれば実力も拮抗してくるので、そうそう上手くは行きません。ですから、下からは上がりやすく、上は滞りやすい仕組みなんです」
「なるほどね」
「ですから、シトラスさんは1万位代になるまで勝ち続ければいいんですよ。簡単ですね」
「いや、言うのは簡単だけど、やるのは難しいのでは……?」
「何言ってるんですか。昨日の一勝がただの偶然では無いってこと、もっと沢山の観客に見せてあげて下さい」

 部屋のスクリーンに、何かが投影された。
 あれ、この映像の場所、いつもの滝前だ。

 滝前に集まる大勢の人間と、大きなスクリーンに映し出された俺とミューミューの試合画面が映像の中に映る。
 画面が白く瞬き、俺の【迸る鶴翼の閃光】がスクリーンを埋め尽くす。そして映像の中の群衆から、大きな歓声が上がった。

「……これは?」
「昨日の会見前、皆さんでこんなリアルタイムの上映会があったそうです。あの会見場に居た多くの人は、ここから流れて来たそうですよ?」
「なるほど……これは……」
「いかがですか?」

 画面にアップで∨サインと大きな笑顔を並べたみずちが入ってきた。
 熱狂はなかなか冷めず、ざわつく群衆も背後に見える。


「じゃあ、再現していきましょう。これを――何度でも」
「よっしゃ、それならまずは……」

「「組みますか!」」

 大きなテーブルを出現させ、二人でずらずらとカードを並べ始めた。
 ネタがバレても勝てるデッキを作る。でも、それは勝つことに特化させた無機質なものではなく、誰もが驚き、目を見開くような最高に楽しめるデッキでなければならない。
 俺たちは最初の難問ビルドに挑む。
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