45 / 92
問4 異なる2点間の距離を求めよ
答4-2
しおりを挟む
【刀身の苦無】のドロータイムが明け、引いたカードは【もちもちシューズ】だった。
今引いてもイマイチ……って事はないか。
俺は【もちもちシューズ】をアクティブ化させると、アバターのくるぶしの辺りにシューズを近づける。
パチンッと吸い付くように元のアバターの靴が換装され、つま先が大福のように大きく膨らんだ白いシューズが足を包んだ。
まだ倒れているストマックの動向を伺いつつ、俺は飛び上がった。
空中で右足を大きく振り上げ、頭の高さにつま先が来るような格好になる。体の硬いリアルでは到底無理な姿勢だが、ゲーム内ならイメージ通り動かせる。
ジャンプの最高到達地点にある高さのパイプに振り上げた足をかけた。
もちっとした独特の感触で、シューズがパイプに吸い付いたのを確認し、吸い付いた足を支点にそのまま体を引っ張り上げるように力を込める。
ぐんっと持ち上がった体を調整しバランスを保ちながら両足をパイプに乗せた。
「うむ。良好良好」
練習もせず久しぶりに使うので思うように動かせるか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
さっきまではジャンプの最高到達地点のパイプに手をかけ、大車輪の要領で体を回して次のパイプに飛び移っていたが、これなら足だけで高い場所まで駆け上がれる。
おかげさまで両手はフリーだ。
高い位置から、ストマックを見下ろす。
ようやく体を起こし、慌てて辺りを見回している姿が目に入った。
遅い。遅すぎる。
チョッキならとても不意打ちなど出来ない。
みずちは不意打ちはバッチリ決まりそうだが、すかさず反撃されて近接攻撃が飛び交うはずだ。
ミューミュー相手に正面からぶつかっていったら只では済まないだろう。
ストマックは、完全に無防備に被弾した上に状況把握すらおろそかな風に見える。
まさかそういう姿を見せて油断させようとしている? いや、そんなことをする意味が無い。
さすがに1度の接敵で許容出来ない削れ方をしているし、油断させているならそろそろ反撃するべきだ。
そうでないというなら、単に反応しきれていないだけなんだろう。彼はまだ本当に初心者なのかも知れない。
手札のカードは全てドロータイムが明け、攻撃の手札が揃った。
一方ストマックは姿が見えなくなった俺に我慢できなくなったのか、あらぬ方向にバレットカードを切っている。
お、これなら「どこを見ている、俺はこっちだ」ごっこ出来るじゃん。
俺はパイプを伝ってストマックの背後に回ると、高所から飛び降りながらまた引いた【刀身の苦無】をアクティブ化する。
「どこを見ている、俺は――」
空中で人差し指を彼に突きつけ、
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
「――こっちぐぇ」
振り返りながら混乱したような叫び声を上げ、無茶苦茶に放たれた彼の【烈破の暴風】をもろに食らった。
【烈破の暴風】は無数の斬撃ダメージを与えながら相手を後方に押し返えさせるショットカードで、威力と距離のコントロールに長けた使いやすいカードだ。
空中で食らった俺は、踏ん張ることも出来ず見事に吹っ飛ばされる。
一応俺の攻撃アクション判定は問題なかったようで、彼にも苦無が突き刺さるのが回る視界でほんのり確認出来た。
問:空中をすっ飛んでいる状態で、どうやって体を立て直せばいいんでしょう?
答:別の方向に大きな力を加えてコントロールしよう!
俺は焦った思考で手札のショットカード【濁流の垂下】をアクティブ化させる。
手を背中から膝まで大きく振り下ろすようにアクションすると、俺の正面を異物の混ざった大量の水が流れ落ち、ざばざばとパイプをへし折りながら下に届く様子が……ぐるぐる回ってそのまま飛んでいく俺の視界に映った。
しまった! これ体から出るタイプの攻撃じゃないから俺に何の反動も無いヤツじゃん!
「ふげっ」
結局途中のパイプを数本クッション代わりにしながら、金属の厚いパイプにぶつかってようやく止まった。
そのまま落ちる体を止めるべく、足をとっさに蹴り飛ばすように伸ばしてパイプに貼り付け、逆さまの状態で落ち着く。
「……だっせぇ感じになっちゃった……」
この姿をどこかで見ているミューミューの事を考えると、顔が燃え上がるように熱くなる気がする。
アバターに顔色が反映されなくて良かった。
油断大敵、一寸先は闇、窮鼠猫を噛む……。
よし、気を引き締めろ。
気合を入れ直し、俺は今度こそ慎重にストマックの仕草を見ながら再接近する。
彼のデッキが予想出来るほどカードを撃ってくれていない。ならば超接近戦で手札を使い合って見定めよう。
俺はロストアクションして手が止まったストマックの前に立つと、最小限のドロータイムで済むように考えながら順番に攻撃カードを切っていく。驚いた顔のストマックが手を前に突き出した。
「ちょっ!」
その手を切り裂くように斬撃を飛ばし、ダメージ判定でひるんだところで右手側に回る。
「まっ!」
ジャンプで彼を飛び越えるようにしながら、頭上でクラッカーを引くような動作でパンッと7色の光の線を撒く。
【降り注ぐ願いの短冊】によって現れた7本の平らな光線は重力に引かれるように彼に降り注ぎ、カラフルなダメージエフェクトを放ちながらストマックの体に突き刺さる。
「やめっ……!」
飛び越えて背後に着地した俺は【脚火】でそのまま背後から蹴りを叩き込む。シューズのせいでもっちりとした感触が伝わるが、吸い付かないように制御しているのでそのまま彼は蹴り飛ばされる。
3枚入っているとは言え、また引いてしまった追撃の【刀身の苦無】を飛んでいく彼に追いつくよう投げた。
ばっちり攻撃が届いた姿を確認したところで、さっきの【濁流の垂下】によって水浸しになった地面に手を付け、【激痛電】を撃つ。
水を媒介に電撃が俺の足元からストマックに伸び、彼のアバターに雷撃のエフェクトが走る。
全ての攻撃を余すこと無く全身で受け、プスプスと音を立ててストマックは膝から崩れ落ちた。
もちもちシューズは、足元からの電撃ダメージはシャットアウトする。カードに大きく書かれた効果がこれなので、ほとんどのプレイヤーはこれを目当てに使うのだろうか。
おかげでこうした電撃の余波を自分が食らわないようになっていて、ミューミューの調整が光る。
だがしかし――
「ロマン砲を決めるほどの時間も無ければ、キーカードは揃わずじまいで普通に勝ってしまったぞ……」
視界ディスプレイに大きく表示された「WINNER」の文字を見ながら、俺は拍子抜けするほどあっさりと初陣を終えた。
今引いてもイマイチ……って事はないか。
俺は【もちもちシューズ】をアクティブ化させると、アバターのくるぶしの辺りにシューズを近づける。
パチンッと吸い付くように元のアバターの靴が換装され、つま先が大福のように大きく膨らんだ白いシューズが足を包んだ。
まだ倒れているストマックの動向を伺いつつ、俺は飛び上がった。
空中で右足を大きく振り上げ、頭の高さにつま先が来るような格好になる。体の硬いリアルでは到底無理な姿勢だが、ゲーム内ならイメージ通り動かせる。
ジャンプの最高到達地点にある高さのパイプに振り上げた足をかけた。
もちっとした独特の感触で、シューズがパイプに吸い付いたのを確認し、吸い付いた足を支点にそのまま体を引っ張り上げるように力を込める。
ぐんっと持ち上がった体を調整しバランスを保ちながら両足をパイプに乗せた。
「うむ。良好良好」
練習もせず久しぶりに使うので思うように動かせるか心配だったが、どうやら杞憂だったようだ。
さっきまではジャンプの最高到達地点のパイプに手をかけ、大車輪の要領で体を回して次のパイプに飛び移っていたが、これなら足だけで高い場所まで駆け上がれる。
おかげさまで両手はフリーだ。
高い位置から、ストマックを見下ろす。
ようやく体を起こし、慌てて辺りを見回している姿が目に入った。
遅い。遅すぎる。
チョッキならとても不意打ちなど出来ない。
みずちは不意打ちはバッチリ決まりそうだが、すかさず反撃されて近接攻撃が飛び交うはずだ。
ミューミュー相手に正面からぶつかっていったら只では済まないだろう。
ストマックは、完全に無防備に被弾した上に状況把握すらおろそかな風に見える。
まさかそういう姿を見せて油断させようとしている? いや、そんなことをする意味が無い。
さすがに1度の接敵で許容出来ない削れ方をしているし、油断させているならそろそろ反撃するべきだ。
そうでないというなら、単に反応しきれていないだけなんだろう。彼はまだ本当に初心者なのかも知れない。
手札のカードは全てドロータイムが明け、攻撃の手札が揃った。
一方ストマックは姿が見えなくなった俺に我慢できなくなったのか、あらぬ方向にバレットカードを切っている。
お、これなら「どこを見ている、俺はこっちだ」ごっこ出来るじゃん。
俺はパイプを伝ってストマックの背後に回ると、高所から飛び降りながらまた引いた【刀身の苦無】をアクティブ化する。
「どこを見ている、俺は――」
空中で人差し指を彼に突きつけ、
「うわあぁぁぁぁぁぁ」
「――こっちぐぇ」
振り返りながら混乱したような叫び声を上げ、無茶苦茶に放たれた彼の【烈破の暴風】をもろに食らった。
【烈破の暴風】は無数の斬撃ダメージを与えながら相手を後方に押し返えさせるショットカードで、威力と距離のコントロールに長けた使いやすいカードだ。
空中で食らった俺は、踏ん張ることも出来ず見事に吹っ飛ばされる。
一応俺の攻撃アクション判定は問題なかったようで、彼にも苦無が突き刺さるのが回る視界でほんのり確認出来た。
問:空中をすっ飛んでいる状態で、どうやって体を立て直せばいいんでしょう?
答:別の方向に大きな力を加えてコントロールしよう!
俺は焦った思考で手札のショットカード【濁流の垂下】をアクティブ化させる。
手を背中から膝まで大きく振り下ろすようにアクションすると、俺の正面を異物の混ざった大量の水が流れ落ち、ざばざばとパイプをへし折りながら下に届く様子が……ぐるぐる回ってそのまま飛んでいく俺の視界に映った。
しまった! これ体から出るタイプの攻撃じゃないから俺に何の反動も無いヤツじゃん!
「ふげっ」
結局途中のパイプを数本クッション代わりにしながら、金属の厚いパイプにぶつかってようやく止まった。
そのまま落ちる体を止めるべく、足をとっさに蹴り飛ばすように伸ばしてパイプに貼り付け、逆さまの状態で落ち着く。
「……だっせぇ感じになっちゃった……」
この姿をどこかで見ているミューミューの事を考えると、顔が燃え上がるように熱くなる気がする。
アバターに顔色が反映されなくて良かった。
油断大敵、一寸先は闇、窮鼠猫を噛む……。
よし、気を引き締めろ。
気合を入れ直し、俺は今度こそ慎重にストマックの仕草を見ながら再接近する。
彼のデッキが予想出来るほどカードを撃ってくれていない。ならば超接近戦で手札を使い合って見定めよう。
俺はロストアクションして手が止まったストマックの前に立つと、最小限のドロータイムで済むように考えながら順番に攻撃カードを切っていく。驚いた顔のストマックが手を前に突き出した。
「ちょっ!」
その手を切り裂くように斬撃を飛ばし、ダメージ判定でひるんだところで右手側に回る。
「まっ!」
ジャンプで彼を飛び越えるようにしながら、頭上でクラッカーを引くような動作でパンッと7色の光の線を撒く。
【降り注ぐ願いの短冊】によって現れた7本の平らな光線は重力に引かれるように彼に降り注ぎ、カラフルなダメージエフェクトを放ちながらストマックの体に突き刺さる。
「やめっ……!」
飛び越えて背後に着地した俺は【脚火】でそのまま背後から蹴りを叩き込む。シューズのせいでもっちりとした感触が伝わるが、吸い付かないように制御しているのでそのまま彼は蹴り飛ばされる。
3枚入っているとは言え、また引いてしまった追撃の【刀身の苦無】を飛んでいく彼に追いつくよう投げた。
ばっちり攻撃が届いた姿を確認したところで、さっきの【濁流の垂下】によって水浸しになった地面に手を付け、【激痛電】を撃つ。
水を媒介に電撃が俺の足元からストマックに伸び、彼のアバターに雷撃のエフェクトが走る。
全ての攻撃を余すこと無く全身で受け、プスプスと音を立ててストマックは膝から崩れ落ちた。
もちもちシューズは、足元からの電撃ダメージはシャットアウトする。カードに大きく書かれた効果がこれなので、ほとんどのプレイヤーはこれを目当てに使うのだろうか。
おかげでこうした電撃の余波を自分が食らわないようになっていて、ミューミューの調整が光る。
だがしかし――
「ロマン砲を決めるほどの時間も無ければ、キーカードは揃わずじまいで普通に勝ってしまったぞ……」
視界ディスプレイに大きく表示された「WINNER」の文字を見ながら、俺は拍子抜けするほどあっさりと初陣を終えた。
0
あなたにおすすめの小説
クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました
髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」
気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。
しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。
「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。
だが……一人きりになったとき、俺は気づく。
唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。
出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。
雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。
これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。
裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか――
運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。
毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります!
期間限定で10時と17時と21時も投稿予定
※表紙のイラストはAIによるイメージです
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる