【完結】ひかりのそばで、またあした

香澄京耶

文字の大きさ
31 / 35

ep24 俺のこと

しおりを挟む
 どうにも納得がいかない。
 
 「魔法の件でご報告があります」と、わざとらしく敬語でもって、かつ、得意満面で呼んだセリアスとルーエンの顔は、とてもヒナタの高揚に追いついていなかった。
 わくわくとしていた気持ちだったのに、ぶすくれた気持ちで二人を見る。

「魔法というと、まさか額から“ビーム”か。」
「――いや、殿下。口から“波動砲”かもしれません。被害が出ないように障壁を張りましょう。」

 ひそひそと話す二人がわざとらしい。完全に馬鹿にしている。

「簡潔に言イマス。」

 ぜったい懇切丁寧になんか説明してやるか、という思いが出て、ブン、と魔法を展開した。
 
「女神となんやかんやした結果、異世界への扉が作れました。」


「え」
「は?」
 
 
 ぽかんとした二人の顔にようやく満足して、何度も頷いた。
 苦労した分、その驚き顔が見たかった。
 
 扉、とは言ったが実際ワープゾーンのようなものだ。
 四角いウィンドウのように表示されたそれは、うっすらと記憶に残るニホンの街並みを映している。
 
「ね、見て。これがトウキョーでね。建物が“ビル”。“コウコク”の映像もすごいでしょ――それから、」

「まて!!」

 セリアスが叫んだ。
 慌てたようなそれは正しく期待していた反応だ。
 
 最初からちゃんと聞いてくれればよかったのに、とは言わない。
 それを言うには、普段の行いが悪すぎた。
 言わない方がいいことは、わりと守るタイプだ。多分。

「いま、なんと?」
 
「元の世界への扉が作れちゃった。」
 
 へへ、と誇らしく思いながら言ったのは、女神とあーでもない、こーでもない、とイメージを擦り合わせて散々悩んだ結果の成果だったからだ。
 実はけっこう、大変だった――主に、女神が。

「……戻るのか。」
 事実に驚くより先、セリアスがくしゃっと顔を歪めたのを見て、こちらも眉を寄せた。
 
「なんでそうなるんだよ。戻んないよ。“誓約”もしただろ。」
 困って言っても、いまいち信用されていない気配を感じて、時間も限られているのでもう一つの報告も展開すると決めた。
 
「“俺は”ここに残るよ。大丈夫、セリアスと一緒にいる。」
「ヒナタ…!」

 こちらに手を伸ばすセリアスに待ったをかける。ここでくっつかれると報告が進まない。意外と時間がない。
 静止の手をそのまま隣へ伸ばして、ぱっと開く。

「そこでご用意したのがこちら。」
 
 多分この世界の人間には伝わらないニュアンスだ、と思いながらつい楽しんでしまった。
 両手を出した先に現れたのは――

「俺だね!」

 ぽん、と現れた同じ顔の人間。
 
 「――はああ?!」
 驚きすぎていたのか空気になっていたルーエンが叫ぶ。
 先生、キャラが崩壊してます。とは、もちろん言わない。
 
「ヒナタがふたり……」

 呆然と呟くセリアスにドッキリ大成功、の気分だ。
 やったな、と“俺”とハイタッチする。
 
「やー驚くよな。これは。」
「俺だってできるかも、くらいしか思ってなかったしな。」
 うんうん、と自分同士で頷きあう。
 
 ため息を吐いたルーエンが、メガネをくいとあげた。
 氷のような紫の瞳が光ったように見えた。
 実験動物を見るような目に見えるのは気のせいだろうか。むしろ気のせいと思いたい。

「……髪の色が違いますね。」
 指摘されて、初めて思い出した。
 
「あ、これが元の色だよ。むしろ、こっちに召喚された時に色が変わったみたい。」
 “俺”の若干茶色がかった髪を摘む。
「こっちの俺、黒染めしたみたいな色だよな。」
 “俺”がそう言って、こちらの髪を摘む。
 
 初めてこの世界へ来た時に気付いてはいた。
 髪の色が、やけに黒く青みがかった色に変化していたことを。でも、なぜそれを今まで言わなかったと言えば。
「なんでそんなに大事なことを……」
 そう言ったセリアスへ正直に答えた。
 
「いや、隠してた訳じゃなくて。どうでもよかったから。
 こっちの人たちカラフルな髪色してるし、関係ないかなって。」
 
 二人のショックを受けたような表情を見て考える。
 魔力で髪色が決まるこの世界では、もしかしたらすごく大切なことだったのかもしれない。
「いやたしかにぃ」と自分に同調して呑気に笑う隣の存在は、どこまでも“俺”だ。

「と、いう訳で、こっちの“俺”を元の世界に戻す、ということで。」
 
 小言が届く前に強引に話を戻した。
 満面の笑みでもって言えば、隣の“俺”が不満そうに唇をつきだす。
 
「えー、俺だって結構こっちに居たいのに。」
 
「そうしよう。二人とも私の傍に居るべきだ。」
 
 はっとしたようなセリアスがすぐに口をはさむ。
 わりと真剣な瞳に少しばかり苛つきながら首を振った。
 
「それは、俺一人だけじゃないといやだ。」
「ヒナタ……!」
「話が進まなくなるから、もう少しまって。」
 抱きつこうとするセリアスをきっぱり静止する。可哀想だけど今は時間がない。
 頷きながら「成長しましたね」と言うルーエンは、以前から確実にセリアスを刺しにいっていると思う。
 
「こっちの俺、よくばりだなあ。」
 のんびりと“俺”が言う。
「お前もだろ。」
「まあ、“俺”だし。」
「たしかに。」

 そしてやりとりして初めて気づいた――“俺”はうるさい。
 言葉というか、なんというか、存在が。
 これは長引く前に帰ってもらおう、と口を開いた。

「まあ時間もないし早く帰ってもらって。」
「展開がはやい。」
「それでこれが記憶な。」
「まあ受け取るけど。」
 うるさいが、行動は早い。
 自分対してどこか微妙な気持ちになりながら、女神にもらった記憶を埋め込んだ。

「ああ――なるほど。俺、帰るわ。」
「うん、よろしく。」
「そのうち、ここの記憶がなくなるのはちょっと残念だけど――みんなを待たせとけないもんな。」
「そーいうこと。」
 自分の顔と見合って笑うのは不思議な気分だ。

「そーいうことになるんだけど。びっくりした?」

 二人に口の端をあげた自分の隣で、“俺”がにしし、と笑う。

「びっくりというか、」
 あっけに取られたように、ルーエンが口を開く。
 
「もう、規格外すぎますね。」
「同感だ。」

 どこか疲れたような顔をする二人は、それでもようやく“あちら”の世界の風景を眺めはじめた。
 その映像の世界に、不思議と郷愁の念は沸かなかった。すべての記憶をもう一人の“俺”に渡したからかもしれない。

 映像に一瞬、乱れが走った。
 
 枠がじわじわと幅を狭まり始め、“俺”が焦ったように「もう行くわ!」と叫ぶ。
 焦るのも道理だ。この映像が閉じてしまえば、もう二度と開かない。
 
 女神の協力を得てどうにかなったもう一人の“俺”作成と、異世界の扉の開通は、女神が溜め込んだ数百年分の力を使ったらしかった。
 最後にそれを教えてくれた女神は、気にした様子もなく「お礼です」と言って微笑んでいた。

 最近の女神は明るい。
 望んでいた彼の魂の鱗片を見つけたらしい。
 
 すべて拾い集めるのは途方もない作業らしく、こちらに使った数百年分の力を使えば、それがもっと容易になったのでは――そう思って聞いてみたが、首を振って笑っていた。
 今までの時を思えば、それも楽しみなのだと――愛は、やっぱり偉大だ。
 
「みんなと、よくやってくれよ。」
 “俺”に託す。無意識に胸ポケットの手帳を触っていた。
 
 目の前の“俺”と一緒で、抜いてしまった記憶は名残だけだ。
 そのうちに元の世界の記憶は完全に消えてしまうだろう。
 
「まー任せとけ。俺はあっちで頑張るわ。」
 に、と笑った自分に頼もしさを感じて、は、と笑い声が漏れた。

「じゃーな。」

 映像に片足突っ込こもうとした“俺”が、ふと思い出したようにこちらへ戻ってきて、胸ポケットのペンとメモをひったくった。
 ざっと書いたそれを、こちらに見せてくる。

 なんと書いてあるか分からなくとも、下手な字なのは十分に分かった。女神もここまで似せなくていいのに、という感情は“俺”の言葉で途切れた。

「俺たちの名前――忘れちゃってるだろうからさ。」

 言われてはっとした。
 見つめた先の自分の顔は、どこか面白そうだった。

「これが、ヒナタ。……で、これが、ソラ。これが、ネ。」
「変な文字。」
 
 率直な感想を返すと、“俺”が笑った。
 
 
「もう、こっちの文字のが俺には分かんねーよ。
 
 日に向かう、空の音で、“日向空音”――それが、俺たちの名前。

 いい名前だろ。
 記憶が消えても、これだけは覚えとけよ。」
 

 にかっと笑いながら言った“俺”に、不覚にも、ちょっと感動した。

「ありがと、俺。……向こうのこと、任せた。」
 
「うん。」
 
 拳を突き合わせて、迷いなく映像に飛び込んだ“俺”を眺めながら、映像の縁取りの波形を見てふと気づいた。
 
「あ!!わりー!ちょっと設定時期間違えた!」
 
 咄嗟に叫んだ声は聞こえていたようで、「ふざけんなあぁ!」と怒鳴る声が返ってきた。
 まあ、元気そうだし大丈夫だろう、と完結する。所詮自分だ。あまり罪悪感はない。

 徐々に小さくなる映像に、なんともいえない気分を抱えた。
 もし記憶が残っていたとしても、この感情に名前はつけられないだろう。

 「――じゃあな。」

 ぶつん、と切れた映像に、小さく声をかけた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

沈黙のΩ、冷血宰相に拾われて溺愛されました

ホワイトヴァイス
BL
声を奪われ、競売にかけられたΩ《オメガ》――ノア。 落札したのは、冷血と呼ばれる宰相アルマン・ヴァルナティス。 “番契約”を偽装した取引から始まったふたりの関係は、 やがて国を揺るがす“真実”へとつながっていく。 喋れぬΩと、血を信じない宰相。 ただの契約だったはずの絆が、 互いの傷と孤独を少しずつ融かしていく。 だが、王都の夜に潜む副宰相ルシアンの影が、 彼らの「嘘」を暴こうとしていた――。 沈黙が祈りに変わるとき、 血の支配が終わりを告げ、 “番”の意味が書き換えられる。 冷血宰相×沈黙のΩ、 偽りの契約から始まる救済と革命の物語。

動物アレルギーのSS級治療師は、竜神と恋をする

葉空
BL
SS級治療師、ルカ。それが今世の俺だ。 前世では、野犬に噛まれたことで狂犬病に感染し、死んでしまった。次に目が覚めると、異世界に転生していた。しかも、森に住んでるのは獣人で人間は俺1人?!しかも、俺は動物アレルギー持ち… でも、彼らの怪我を治療出来る力を持つのは治癒魔法が使える自分だけ… 優しい彼が、唯一触れられる竜神に溺愛されて生活するお話。

【完結】ルガルの星―冷徹な社長は、僕の運命を知っていた―

綾波絢斗
BL
この世界には、二つの特別な称号を持つ者たちが存在する。 一つは、絶対的な権力を持つ王の称号――ルガル(lugal)。 もう一つは、ルガルと対をなし、その力を補う「番」――ムル(mul)。 ルガルは生まれながらに選ばれし存在。 国家からエリート教育と地位を与えられ、能力に応じて厳格なランク分けが行われる。 最上位のルガルは、政治さえも動かす絶対者だ。 一方で、ムルは生まれた瞬間にはその正体がわからない。 遺伝子検査や学力テストを経て候補が絞られるが、 最終的に「真のムル」かどうかを見極められるのは――ルガルだけ。 ムルが覚醒したとき、同じ場所に「紋章」が現れ、その瞬間から、ルガルとムルの力は共鳴し始める。 ムルの能力はルガルの力を最大限に引き出す。 ゆえにルガルたちは、自らのムルを求め、時には他人のムル候補を奪い合う。 そして、すべての出生データと遺伝情報を管理するのは、 巨大企業イルジオン――国家をも超える存在。 その頂点に立つ社長、一条レイ。 冷徹なルガルの頂点に君臨する彼が「自分のムル」と出会った。

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

【完結】父を探して異世界転生したら男なのに歌姫になってしまったっぽい

御堂あゆこ
BL
超人気芸能人として活躍していた男主人公が、痴情のもつれで、女性に刺され、死んでしまう。 生前の行いから、地獄行き確定と思われたが、閻魔様の気まぐれで、異世界転生することになる。 地獄行き回避の条件は、同じ世界に転生した父親を探し出し、罪を償うことだった。 転生した主人公は、仲間の助けを得ながら、父を探して旅をし、成長していく。 ※含まれる要素 異世界転生、男主人公、ファンタジー、ブロマンス、BL的な表現、恋愛 ※小説家になろうに重複投稿しています

処理中です...