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ep6 落ち着くところに落ち着きまして
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「なんか……今までごめんね……」
村の三人娘が謝ってくるのに、目を瞬いた。
てっきり泣かれるか、怒鳴られるかすると思っていたのに。
「いや……むしろごめん。」
「いいの!これを読んじゃったら、もう、涙が……!」
ずいと見せられた本に、うまく笑えなくなる。
――勇者の愛した男性。ルクシア国王も応援!
まさかの、陛下の言葉まで言質取っていたアウラの書いた記事は大きな反響を呼んで、本にまでなった。
なかなか売れていて、今度舞台になるらしい――なんやかんやで印税が三割ほど約束されているから、それはいいが。
いいけど、いまだに恥ずかしい。
「でも、気をつけなよ。村の中だって、外だって、あんた意外と人気あるんだから。」
「はあ?」
生まれてこの方、モテたことなんてないが。
「意外と鈍いわよ、あんた。口は達者なのに。」
「ほんとそう。」
「あんまり、レオンを振り回さないでよね。」
ぷりぷり怒ってくる三人娘の方向性が、今までと違って戸惑う。
「いや、」
こういう内容は初めての経験すぎて、得意な言葉が続かない。
「意外と人気って、誰のこと。」
ぎゅっと後ろから抱きつかれて、心臓が跳ねた。
隠す必要がないと分かってから、レオンの行動は顕著だ。
「あ、違うのよ、レオン!」
「大丈夫、そんな人達がいたら私たちが報告するから……!」
「うんうん!任せてね!村の案内役も三人で頑張るからね!」
「ありがとう。頼む。」
レオンが微笑みでもしたのだろう。
三人が赤い顔をしながらふらふらと去っていった。
「お前、罪づくりな奴だな……」
思わず言うと、「ルカの方が罪づくりだよ」と返される。
甘い空気になりそうで、無理やり話題を変えた。
「王都の店、順調だって連絡あった。――ありがとな。」
「よかった。」
レオンが嬉しそうに笑う。
結局、ルカ商店は王都と近隣の街に支店を出した。
ただ今までと違い、クレープ屋をメインに、併設スペースで少し薬品を取り扱っている。
関係が公になった以上、主力が精力剤というのはどうにも気が引けた。苦肉の策だ。
別にいいんじゃないかと言ったレオンは恐らく何も考えていない。
そもそも、あれはカウンセリングありきであったし、“勇者印の精力剤”なんて言われることは目に見えている。その未来は本当に笑えない。
結局、なんだかんだ上手くいっているのが不思議だ。
考えることは山積みで、新人教育も大変だけど、それでも一番幸せかもしれない。
一定数、「困ったら匿ってあげるから声をかけて」と言われたのは、居た堪れない気持ちになったけども。
「ルカ。」
夕食をとって、何気ない話をしていたところに、真剣な声を差し込まれた。
「結婚しよう。」
「は?」
飲み込めなくて、顔をまじまじと見返す。
「国王が認めたんだ。もうお前の憂いもないだろ。」
「あの新聞の?信用できんのあれ?」
「ほら。」
手渡された羊皮紙に固まる。
結婚を認めるという文章のあとに続いた文字に冷や汗が出る。
アウレリウス・ルクシア――紛れも無い、現国王だ。
眩暈がする。
「急にそんなこと言われても困るよな。まずは二人で住むところからでどう?」
「まあそれなら……。」
レオンが押しかけてくるから、基本的に同棲しているようなものだ。
「あ、これプレゼント。嵌めてみていい?」
「……いいけど。」
わくわくしたような顔が可愛くてぼんやり返答する。
指に触れたひやっとした感覚で正気に戻る。
「ん?指輪……?」
さらっと嵌められたそれを眺めて、何となく一度外そうとして気づいた――取れない。
「外せないよ、一生。」
にこにこと笑うレオンはずいぶんご機嫌だ。
「俺が死んでも取れない。」
あっけにとられる。
意味が飲み込めて、は、と笑った。
そうか。
レオンが勇者になった時、つまりは戦いに身を投じるということなのだと、それは死のリスクもあるものなのだと、何度も思った。
運命は変えられない。
勇者なんて、世界規模の役職を降りられるわけがない。
でも、もし、何があっても、俺はこの指輪で生きられるわけだ。
「おもてーな。」
指輪を光にかざして眺めた。
「俺は重いよ。」
「知ってる。」
「新居は、たっぷり湯が張れて毎日湯浴みができるところを選んだ。」
「新居まで決まってんのかよ。」
「温度も自動調節の魔道具付き。」
「さいこーじゃん。」
「結婚式はいつにする?」
「それはまだ保留。」
「なんで。」
ぶすくれた顔に笑う。
「いろいろ、早すぎんだよ。俺の心臓がもたない。」
「普段のルカとか、心臓に毛が生えてそうだけど。」
「お前相手だと違うんだよ。」
まあ、どうせ。
お前のお願いを俺が叶えないことなんて、きっとないけど。
「なあ。」
やさしい瞳にいたずら心が湧いた。
「もしさ、喧嘩したら。今度は全力で追ってこいよ――もう、探すななんて、言わないからさ。」
「俺、勇者だから一瞬で探せちゃうけど。」
「勇者つよすぎ。」
笑って、抱きしめて、口付けて。
少し、指輪を眺めるのは癖になるかもしれない、とぼんやり思う。
「諦めないでくれて、ありがとな。」
「諦めさせてくれなくてありがと。」
笑って口付けた。
きっと、こんなんで。
この先もずっと一緒にいられたらいいと思った。
村の三人娘が謝ってくるのに、目を瞬いた。
てっきり泣かれるか、怒鳴られるかすると思っていたのに。
「いや……むしろごめん。」
「いいの!これを読んじゃったら、もう、涙が……!」
ずいと見せられた本に、うまく笑えなくなる。
――勇者の愛した男性。ルクシア国王も応援!
まさかの、陛下の言葉まで言質取っていたアウラの書いた記事は大きな反響を呼んで、本にまでなった。
なかなか売れていて、今度舞台になるらしい――なんやかんやで印税が三割ほど約束されているから、それはいいが。
いいけど、いまだに恥ずかしい。
「でも、気をつけなよ。村の中だって、外だって、あんた意外と人気あるんだから。」
「はあ?」
生まれてこの方、モテたことなんてないが。
「意外と鈍いわよ、あんた。口は達者なのに。」
「ほんとそう。」
「あんまり、レオンを振り回さないでよね。」
ぷりぷり怒ってくる三人娘の方向性が、今までと違って戸惑う。
「いや、」
こういう内容は初めての経験すぎて、得意な言葉が続かない。
「意外と人気って、誰のこと。」
ぎゅっと後ろから抱きつかれて、心臓が跳ねた。
隠す必要がないと分かってから、レオンの行動は顕著だ。
「あ、違うのよ、レオン!」
「大丈夫、そんな人達がいたら私たちが報告するから……!」
「うんうん!任せてね!村の案内役も三人で頑張るからね!」
「ありがとう。頼む。」
レオンが微笑みでもしたのだろう。
三人が赤い顔をしながらふらふらと去っていった。
「お前、罪づくりな奴だな……」
思わず言うと、「ルカの方が罪づくりだよ」と返される。
甘い空気になりそうで、無理やり話題を変えた。
「王都の店、順調だって連絡あった。――ありがとな。」
「よかった。」
レオンが嬉しそうに笑う。
結局、ルカ商店は王都と近隣の街に支店を出した。
ただ今までと違い、クレープ屋をメインに、併設スペースで少し薬品を取り扱っている。
関係が公になった以上、主力が精力剤というのはどうにも気が引けた。苦肉の策だ。
別にいいんじゃないかと言ったレオンは恐らく何も考えていない。
そもそも、あれはカウンセリングありきであったし、“勇者印の精力剤”なんて言われることは目に見えている。その未来は本当に笑えない。
結局、なんだかんだ上手くいっているのが不思議だ。
考えることは山積みで、新人教育も大変だけど、それでも一番幸せかもしれない。
一定数、「困ったら匿ってあげるから声をかけて」と言われたのは、居た堪れない気持ちになったけども。
「ルカ。」
夕食をとって、何気ない話をしていたところに、真剣な声を差し込まれた。
「結婚しよう。」
「は?」
飲み込めなくて、顔をまじまじと見返す。
「国王が認めたんだ。もうお前の憂いもないだろ。」
「あの新聞の?信用できんのあれ?」
「ほら。」
手渡された羊皮紙に固まる。
結婚を認めるという文章のあとに続いた文字に冷や汗が出る。
アウレリウス・ルクシア――紛れも無い、現国王だ。
眩暈がする。
「急にそんなこと言われても困るよな。まずは二人で住むところからでどう?」
「まあそれなら……。」
レオンが押しかけてくるから、基本的に同棲しているようなものだ。
「あ、これプレゼント。嵌めてみていい?」
「……いいけど。」
わくわくしたような顔が可愛くてぼんやり返答する。
指に触れたひやっとした感覚で正気に戻る。
「ん?指輪……?」
さらっと嵌められたそれを眺めて、何となく一度外そうとして気づいた――取れない。
「外せないよ、一生。」
にこにこと笑うレオンはずいぶんご機嫌だ。
「俺が死んでも取れない。」
あっけにとられる。
意味が飲み込めて、は、と笑った。
そうか。
レオンが勇者になった時、つまりは戦いに身を投じるということなのだと、それは死のリスクもあるものなのだと、何度も思った。
運命は変えられない。
勇者なんて、世界規模の役職を降りられるわけがない。
でも、もし、何があっても、俺はこの指輪で生きられるわけだ。
「おもてーな。」
指輪を光にかざして眺めた。
「俺は重いよ。」
「知ってる。」
「新居は、たっぷり湯が張れて毎日湯浴みができるところを選んだ。」
「新居まで決まってんのかよ。」
「温度も自動調節の魔道具付き。」
「さいこーじゃん。」
「結婚式はいつにする?」
「それはまだ保留。」
「なんで。」
ぶすくれた顔に笑う。
「いろいろ、早すぎんだよ。俺の心臓がもたない。」
「普段のルカとか、心臓に毛が生えてそうだけど。」
「お前相手だと違うんだよ。」
まあ、どうせ。
お前のお願いを俺が叶えないことなんて、きっとないけど。
「なあ。」
やさしい瞳にいたずら心が湧いた。
「もしさ、喧嘩したら。今度は全力で追ってこいよ――もう、探すななんて、言わないからさ。」
「俺、勇者だから一瞬で探せちゃうけど。」
「勇者つよすぎ。」
笑って、抱きしめて、口付けて。
少し、指輪を眺めるのは癖になるかもしれない、とぼんやり思う。
「諦めないでくれて、ありがとな。」
「諦めさせてくれなくてありがと。」
笑って口付けた。
きっと、こんなんで。
この先もずっと一緒にいられたらいいと思った。
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