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ep2 演習と鬼と獅子
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第一騎士団と、第三騎士団の軋轢は、何度目かの合同演習の日にも続いていた。
二週間経ってもまだ相入れないらしい。
元より互いに気に食わないのだ。すぐに馴れ合うとも思っていない。だが、このままでは任務が滞るのは目に見えて明らかだった。
演習の動きがあまりに悪い。
互いの団員との交流を避けていて、全てがおざなりだ。
「どう思う。」
問いかけると、ルシオンが低く唸った。
「参考にならずすまないが、実力で捻じ伏せた事しかない。
他の部隊と馴れ合うなど今までなかったからな。正直勝手が分からん。」
非常に分かりやすい回答だった。この男らしい。
そして、まさしくカイルも同意見だった。
「なら、手っ取り早く解決する方法があるな。」
模擬剣で肩を叩きながら、互いに棘を立てている連中へ、その切っ先を向ける。
「おい、お前ら。……今回の件で異議があるなら、俺が相手してやる。まとめてかかって来い。」
「なるほど。それは分かりやすくていい。」
隣の気配が笑う――ああ、やっぱりこいつも“同族”だ。
演習場に居る団員を見やる。見回りに出払っている団員を除いて、大体8割程度だ。
第三の一部から悲鳴が上がったのは聞かないふりをする――たるんでいるが、教育は後回しだ。
「今居る奴ら、全員で俺らにかかってこい。
――言っておくが。第一も第三も、副団長不在のままどうにかなってる部隊だ。
理由は分かっているな?全力で来い。」
「互いの部署の特徴を知るにもいい機会だろう。
味方に当たるとややこしい。身体から離れる魔法攻撃は禁止でいいな。
致命傷と思われる場所に剣を受けたものは撤退しろ。――それでもやりたいなら、好きにしろ。」
そう口にするルシオンの気配は、ひどく楽しげだった。
この男も、自分の団員がこちらに剣を向けるとは思っていないに違いない。
どうせお互いの団員が剣を向けてくる――それが、面白い。
団員には、それぞれの団長の“癖”が現れる。そこに楽しみを感じているルシオンも、まさしく騎士団長といえた。
「撃破数でも賭けるか?」
愉快げにルシオンがこちらを見る。
「悪くない――が、賭けられる程やわなら基礎訓練に問題があるな。」
「違いない。」
にやりと口端を上げるルシオンから滲む圧に、負ける気は微塵もない。
合同演習場は広い。先程までの演習で土の匂いが立ち込めていた。
ブーツを汚した団員たちが剣を向けてくる。
真剣な表情は、やはりこちらの意図に沿うように動いていた。期待通りだ。
「カイル!多少手は加えろよ。使い物にならなくなったら敵わん!」
微塵もくらってやろうという意識のない男に、思わず、くは、と喉の奥で笑いがこぼれた。
「お前がな!」
不敬と言われても仕方がない言い方をしたのは、相手が敬称を省いたからだ。おそらくこの男は気にしないだろう。
「さて。」
じりじりと機会を伺う第一騎士団に、ずいと歩み寄る。
「言っておくが。
これからお前らが対峙する組織は、今まで相手をしてきたような輩とは違う。
つまり、そうやって品よく間合いをとるという事を知らないと言う事だ。」
とん、と二度、地面を剣で叩く。
「――要するに、俺は今非常に暇だ。一気にやられたくなければ、先にかかってこい。」
煽りに乗った数人の団員が踊りかかってくる。
見通しのいい場所で、正面から馬鹿正直に襲いかかるなど悪手だ。
魔力を纏った斬撃で一気に裂いて、後ろに回ろうとした人影には柄でそのまま昏倒させる。
「人数の理を活かせ。感情的になるやつほど早く死ぬ――冷静にかかってこい。
……見ろ。真っ先に襲いかかってるあいつらの方が善戦している。
まあ、あいつらは逃げ足も早いがな。」
それはカイルが教えた事でもあった。
奇をてらえ、だが命を大事にしろ、と教え続けた成果があってどこか誇らしい。
「……本気で行かせていただきます。」
一人がそう言いながら魔力を纏った。
「最初から来いよ。言い訳にしか聞こえねえ。」
わざと嗤えば、挑発には乗らないとばかりに固い顔を見せた。
「いいだろう。来いよ。」
自身も遠慮なく魔力を纏い、剣先に静かにのせる。
複数人から降りかかる斬撃を、経験で捌いた。
――いい、動きだ。
口を叩くだけはある。
日々鍛錬している者達のそれは、流石に軽くない。
刹那、目の端に閃光が見えた。ルール違反の魔法だ。
いいじゃねえか、と思う。
そういう奴がいなきゃ面白くない――その場に飛び込み、わざと掌で潰してやる。
――そう。世の中にはお前の魔法を、いとも簡単に握り潰せる輩がいる事を、今学べばいい。
「第一全員の訓練内容追加な。」
笑って告げて、他の団員よりも重めに打ってリタイアさせる。
その隙をついて踊りかかってくる団員に感心する。
「やれば出来るじゃねえか!」
だが、それで攻撃を受けるほどの鍛え方はしていない。
はっと笑って魔力の斬撃を送れば、一閃に巻き込まれた奴らは吹っ飛んだ。
そろそろ、残っている奴らの技術は高い。
数は確実に減っているが、逆に言えばそれだけしぶとい団員しか残っていなかった。
あらゆる方向から襲いかかってくる剣を捌くうちに、気が付けばルシオンと背中合わせになっていた。
「流石、鬼の団長は容赦がない。」
「訓練追加の件か?必要だろ。ああいうのは連帯責任が一番効く。」
どうやら勝手に言った事は気にしていないらしい。
興奮のなか笑っているからか、獣のようなぐる、と唸るような声が聞こえた。
「お前の団員もやるな。」
「そっちもな。」
一瞬、隙をついた攻撃が、ルシオンの頬を掠りかけた。
咄嗟に防ぐと、少し驚いたような顔をしたルシオンに、にやりと笑む。
「共同戦線、なんだろ。」
聞いて、獅子が吠えるように楽しんでいた。
受けてもいいと思っていた脇腹に掠りかけた攻撃を、今度はルシオンが払った。
それからは、ずっとお互いに動いていたからか、ひどく戦いやすかった。
戦いの最中だというのに、まるで予め計算されていたかのように動きが噛み合う。無駄のない動きに、現実感が薄れていくような不思議な思いがした。
初めは、どこかこの男との勝ち負けを考えていたのに。
――悪くねぇ。
こんなに息が合うのは初めてだった。
久しく忘れていた高揚が、静かに灯る。
第三騎士団にこれまで副団長がいなかったのは、カイルの勢いについて来る者が居なかったからに他ならない。
結局、何とかなってここまで来てしまったが、それは恐らく目の前の相手もそうなのだろう。
冷静さを欠いていたと気づいたのは、立ち上がる団員が居なくなってからだった。
「おい、これ大丈夫か。」
多少、夢中になりすぎた自覚はある。
ルシオンを見上げると、なんとも言えない顔で目を逸らす――恐らく同じ心境なのだろう。
だが、第一のぼろぼろ具合に比べて第三は妙に綺麗だ。どうやら余力があるようだった。
視線を向けると、示し合わせたように一斉に首を振った。
「違います団長!命大事に、です!」
「体力温存のため深追いはしない!この後何があるか分からない!そうですよね!」
「そうです!言いつけは守ってます!団長!」
「頑張りました!慈悲をください!」
最後の声の主に、どこからか阿呆、と頭を叩く手が伸びている。
「俺は何も言ってないが。」
いちいち声を張って、聞いてもいない言い訳を並べるのは、軟弱な証拠だ。
「喜べ。褒めてやろう。――まずは外周を十周してこい。」
悲鳴が上がるが反論はない。
反論すればさらに追加される事が分かっているからだ。
「いい団員だな。」
ルシオンが面白そうに見やる。
「ああ。あいつらは、よくやってる。――レグナード卿の団員も、根性のあるいい連中だ。うちは粗雑だが……それも“味”だろう?」
にやりと問いかければ、ルシオンも低く笑みを洩らした。
「そうだな――実に、相性がよさそうだ。」
同意見で気分がいい。気質は違えど、うまくやれる確信が持てた。
第一騎士団が立ち上がれない程に向かってきたのは、単純に彼らの矜持ともいえた。多少不器用に感じるが、倒れるまでかかってくる根性は実直で悪くない。
「お前達もよく善戦したな。」
ルシオンが一声かけた時の第一団員達の表情を見れば、普段の関係性も見てとれた。
思わず笑みが溢れれば、身体が勝手に動いた。
「楽しませてもらった礼だ。」
全員に行き渡るよう回復魔法を散らした。
この大事な時期、疲れが明日に響いては困る。
カイル自身が回復酔いをしやすいため、普段は魔力の温存を兼ねてあまり使わないようにしているが――まあ、今日はいいだろう。
ぱっと広がった光に、離れた場所から声が届く。
「団長おぉ、ありがとうございます!俺頑張って走りますぅぅ」
「速攻で走り切って戻りますー!」
――うちの団員は、うるさいのが玉に瑕だ。あんなに遠くからわざわざ叫ぶとは。
「うるさくてすまんな。」
「いや。面白くていい。しかし……凄いな。俺は、回復魔法は苦手でな。」
魔力の波動をどこかぼんやりと見ながら、ルシオンが呟く。
「正直、レグナード卿がここまで許してくれるとは思わなかったからな、その礼だ。」
ルシオンはどこか釈然としない顔で、言葉を失ったように視線を落とした。
「俺は、平民かどうかで態度を変えたりはしない。」
「分かっている。だがそういうものだ、仕方ない。……だろ?」
「俺は少なくとも、お前を認めた。」
「俺も認めてるさ。」
そう答えれば、数拍――深い青の瞳にじっと見つめられて戸惑った。
「……ルシオンと。」
「は?」
なんのことだ、と見つめ返せば深い青が揺れた。
一瞬、言うか迷っている――そんな気配だ。先ほどまで縦横無尽に駆け回っていた獅子のような男とは思えなかった。
「――ルシオンと、呼んでくれ。 『レグナード卿』ではいささか心地が悪い。」
最大限、気を使って心地が悪いとは何ごとだ。そう思ったが、口には出さなかった。
身分の高い奴らはそういった、良く分からない生き物だ。
「ではルシオン――ま、今日の訓練は有意義だった。少なくとも俺はな。」
「ああ――俺も。有意義な、一日だったさ。」
どこか余白を含んだ声だったが、問いかける気は起きなかった。
二週間経ってもまだ相入れないらしい。
元より互いに気に食わないのだ。すぐに馴れ合うとも思っていない。だが、このままでは任務が滞るのは目に見えて明らかだった。
演習の動きがあまりに悪い。
互いの団員との交流を避けていて、全てがおざなりだ。
「どう思う。」
問いかけると、ルシオンが低く唸った。
「参考にならずすまないが、実力で捻じ伏せた事しかない。
他の部隊と馴れ合うなど今までなかったからな。正直勝手が分からん。」
非常に分かりやすい回答だった。この男らしい。
そして、まさしくカイルも同意見だった。
「なら、手っ取り早く解決する方法があるな。」
模擬剣で肩を叩きながら、互いに棘を立てている連中へ、その切っ先を向ける。
「おい、お前ら。……今回の件で異議があるなら、俺が相手してやる。まとめてかかって来い。」
「なるほど。それは分かりやすくていい。」
隣の気配が笑う――ああ、やっぱりこいつも“同族”だ。
演習場に居る団員を見やる。見回りに出払っている団員を除いて、大体8割程度だ。
第三の一部から悲鳴が上がったのは聞かないふりをする――たるんでいるが、教育は後回しだ。
「今居る奴ら、全員で俺らにかかってこい。
――言っておくが。第一も第三も、副団長不在のままどうにかなってる部隊だ。
理由は分かっているな?全力で来い。」
「互いの部署の特徴を知るにもいい機会だろう。
味方に当たるとややこしい。身体から離れる魔法攻撃は禁止でいいな。
致命傷と思われる場所に剣を受けたものは撤退しろ。――それでもやりたいなら、好きにしろ。」
そう口にするルシオンの気配は、ひどく楽しげだった。
この男も、自分の団員がこちらに剣を向けるとは思っていないに違いない。
どうせお互いの団員が剣を向けてくる――それが、面白い。
団員には、それぞれの団長の“癖”が現れる。そこに楽しみを感じているルシオンも、まさしく騎士団長といえた。
「撃破数でも賭けるか?」
愉快げにルシオンがこちらを見る。
「悪くない――が、賭けられる程やわなら基礎訓練に問題があるな。」
「違いない。」
にやりと口端を上げるルシオンから滲む圧に、負ける気は微塵もない。
合同演習場は広い。先程までの演習で土の匂いが立ち込めていた。
ブーツを汚した団員たちが剣を向けてくる。
真剣な表情は、やはりこちらの意図に沿うように動いていた。期待通りだ。
「カイル!多少手は加えろよ。使い物にならなくなったら敵わん!」
微塵もくらってやろうという意識のない男に、思わず、くは、と喉の奥で笑いがこぼれた。
「お前がな!」
不敬と言われても仕方がない言い方をしたのは、相手が敬称を省いたからだ。おそらくこの男は気にしないだろう。
「さて。」
じりじりと機会を伺う第一騎士団に、ずいと歩み寄る。
「言っておくが。
これからお前らが対峙する組織は、今まで相手をしてきたような輩とは違う。
つまり、そうやって品よく間合いをとるという事を知らないと言う事だ。」
とん、と二度、地面を剣で叩く。
「――要するに、俺は今非常に暇だ。一気にやられたくなければ、先にかかってこい。」
煽りに乗った数人の団員が踊りかかってくる。
見通しのいい場所で、正面から馬鹿正直に襲いかかるなど悪手だ。
魔力を纏った斬撃で一気に裂いて、後ろに回ろうとした人影には柄でそのまま昏倒させる。
「人数の理を活かせ。感情的になるやつほど早く死ぬ――冷静にかかってこい。
……見ろ。真っ先に襲いかかってるあいつらの方が善戦している。
まあ、あいつらは逃げ足も早いがな。」
それはカイルが教えた事でもあった。
奇をてらえ、だが命を大事にしろ、と教え続けた成果があってどこか誇らしい。
「……本気で行かせていただきます。」
一人がそう言いながら魔力を纏った。
「最初から来いよ。言い訳にしか聞こえねえ。」
わざと嗤えば、挑発には乗らないとばかりに固い顔を見せた。
「いいだろう。来いよ。」
自身も遠慮なく魔力を纏い、剣先に静かにのせる。
複数人から降りかかる斬撃を、経験で捌いた。
――いい、動きだ。
口を叩くだけはある。
日々鍛錬している者達のそれは、流石に軽くない。
刹那、目の端に閃光が見えた。ルール違反の魔法だ。
いいじゃねえか、と思う。
そういう奴がいなきゃ面白くない――その場に飛び込み、わざと掌で潰してやる。
――そう。世の中にはお前の魔法を、いとも簡単に握り潰せる輩がいる事を、今学べばいい。
「第一全員の訓練内容追加な。」
笑って告げて、他の団員よりも重めに打ってリタイアさせる。
その隙をついて踊りかかってくる団員に感心する。
「やれば出来るじゃねえか!」
だが、それで攻撃を受けるほどの鍛え方はしていない。
はっと笑って魔力の斬撃を送れば、一閃に巻き込まれた奴らは吹っ飛んだ。
そろそろ、残っている奴らの技術は高い。
数は確実に減っているが、逆に言えばそれだけしぶとい団員しか残っていなかった。
あらゆる方向から襲いかかってくる剣を捌くうちに、気が付けばルシオンと背中合わせになっていた。
「流石、鬼の団長は容赦がない。」
「訓練追加の件か?必要だろ。ああいうのは連帯責任が一番効く。」
どうやら勝手に言った事は気にしていないらしい。
興奮のなか笑っているからか、獣のようなぐる、と唸るような声が聞こえた。
「お前の団員もやるな。」
「そっちもな。」
一瞬、隙をついた攻撃が、ルシオンの頬を掠りかけた。
咄嗟に防ぐと、少し驚いたような顔をしたルシオンに、にやりと笑む。
「共同戦線、なんだろ。」
聞いて、獅子が吠えるように楽しんでいた。
受けてもいいと思っていた脇腹に掠りかけた攻撃を、今度はルシオンが払った。
それからは、ずっとお互いに動いていたからか、ひどく戦いやすかった。
戦いの最中だというのに、まるで予め計算されていたかのように動きが噛み合う。無駄のない動きに、現実感が薄れていくような不思議な思いがした。
初めは、どこかこの男との勝ち負けを考えていたのに。
――悪くねぇ。
こんなに息が合うのは初めてだった。
久しく忘れていた高揚が、静かに灯る。
第三騎士団にこれまで副団長がいなかったのは、カイルの勢いについて来る者が居なかったからに他ならない。
結局、何とかなってここまで来てしまったが、それは恐らく目の前の相手もそうなのだろう。
冷静さを欠いていたと気づいたのは、立ち上がる団員が居なくなってからだった。
「おい、これ大丈夫か。」
多少、夢中になりすぎた自覚はある。
ルシオンを見上げると、なんとも言えない顔で目を逸らす――恐らく同じ心境なのだろう。
だが、第一のぼろぼろ具合に比べて第三は妙に綺麗だ。どうやら余力があるようだった。
視線を向けると、示し合わせたように一斉に首を振った。
「違います団長!命大事に、です!」
「体力温存のため深追いはしない!この後何があるか分からない!そうですよね!」
「そうです!言いつけは守ってます!団長!」
「頑張りました!慈悲をください!」
最後の声の主に、どこからか阿呆、と頭を叩く手が伸びている。
「俺は何も言ってないが。」
いちいち声を張って、聞いてもいない言い訳を並べるのは、軟弱な証拠だ。
「喜べ。褒めてやろう。――まずは外周を十周してこい。」
悲鳴が上がるが反論はない。
反論すればさらに追加される事が分かっているからだ。
「いい団員だな。」
ルシオンが面白そうに見やる。
「ああ。あいつらは、よくやってる。――レグナード卿の団員も、根性のあるいい連中だ。うちは粗雑だが……それも“味”だろう?」
にやりと問いかければ、ルシオンも低く笑みを洩らした。
「そうだな――実に、相性がよさそうだ。」
同意見で気分がいい。気質は違えど、うまくやれる確信が持てた。
第一騎士団が立ち上がれない程に向かってきたのは、単純に彼らの矜持ともいえた。多少不器用に感じるが、倒れるまでかかってくる根性は実直で悪くない。
「お前達もよく善戦したな。」
ルシオンが一声かけた時の第一団員達の表情を見れば、普段の関係性も見てとれた。
思わず笑みが溢れれば、身体が勝手に動いた。
「楽しませてもらった礼だ。」
全員に行き渡るよう回復魔法を散らした。
この大事な時期、疲れが明日に響いては困る。
カイル自身が回復酔いをしやすいため、普段は魔力の温存を兼ねてあまり使わないようにしているが――まあ、今日はいいだろう。
ぱっと広がった光に、離れた場所から声が届く。
「団長おぉ、ありがとうございます!俺頑張って走りますぅぅ」
「速攻で走り切って戻りますー!」
――うちの団員は、うるさいのが玉に瑕だ。あんなに遠くからわざわざ叫ぶとは。
「うるさくてすまんな。」
「いや。面白くていい。しかし……凄いな。俺は、回復魔法は苦手でな。」
魔力の波動をどこかぼんやりと見ながら、ルシオンが呟く。
「正直、レグナード卿がここまで許してくれるとは思わなかったからな、その礼だ。」
ルシオンはどこか釈然としない顔で、言葉を失ったように視線を落とした。
「俺は、平民かどうかで態度を変えたりはしない。」
「分かっている。だがそういうものだ、仕方ない。……だろ?」
「俺は少なくとも、お前を認めた。」
「俺も認めてるさ。」
そう答えれば、数拍――深い青の瞳にじっと見つめられて戸惑った。
「……ルシオンと。」
「は?」
なんのことだ、と見つめ返せば深い青が揺れた。
一瞬、言うか迷っている――そんな気配だ。先ほどまで縦横無尽に駆け回っていた獅子のような男とは思えなかった。
「――ルシオンと、呼んでくれ。 『レグナード卿』ではいささか心地が悪い。」
最大限、気を使って心地が悪いとは何ごとだ。そう思ったが、口には出さなかった。
身分の高い奴らはそういった、良く分からない生き物だ。
「ではルシオン――ま、今日の訓練は有意義だった。少なくとも俺はな。」
「ああ――俺も。有意義な、一日だったさ。」
どこか余白を含んだ声だったが、問いかける気は起きなかった。
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