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ep11 獅子の暴走(2)
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揶揄うような視線を向けてきたリオの頭を、ぐしゃぐしゃになるほど撫でてやる。
なぜかどこか誇らしげな顔をするのが可笑しくて、久しぶりに飴をひとつ渡した。
「……おいし。」
リオの魔力がわずかに波立つ。
これから爆心地に踏み込むのだ。何があるか分からない分、強化は多いほどいい。
見上げた空の先に、白く輝く王城があった。
いつも誇らしげにそびえているその姿も、今日ばかりは気圧される気がしない。
「――行くぞ。」
駆けて辿り着いた城内は、どこかざわついていた。
明らかなざわつきでない分、内情は漏れていないのかもしれない。
頻繁に王と会っていた第三騎士団長という身分は便利で、すんなりと執務室に到着する。
足止めされる事もなかったために、ここは改めるべきだな、と頭の片隅に留めておいた。
第二の反乱があったくらいだ。その他の事など、いくらでも可能性がある。
執務室の前には、団員と、簀巻きにして転がされた“元”第二騎士団長らの姿があった。
さすがに危険分子を部屋の中に入れる真似はしなかったらしい。それだけは唯一の安堵だった。
フードを目深に被ったカイルを不審げに見て、剣を構えた団員へ笑いを零す。
「お前ら、構えが遅い――鍛錬不足だ。」
声に反応して、見開かれる目と、わななく口元に安堵した。
『――お前がここに居て、生きてるだけで、俺も、あいつらも救われるんだ。』
昨夜のルシオンの言葉が蘇る。
「また、鍛え直しだな。」
小さく笑ってフードを取ると、団員が声を上げかけるのを手で制した。
「王の御前だ。黙れ。」
本当は騒ぐ声も受け入れたい気分だったが、場所が場所だ。
「誰か透けない衝立をひとつ用意しろ。」
意味が分からないような顔をする団員達に、説明する暇もつもりもない。
ただ、あの男とこれ以上視線を重ねる気はなかった。
「それから、そいつらは早急に牢に放り込め。逃げれば厄介だ。……いや、待て。」
転がる“元”第二騎士団長の、でっぷり太った顔のすぐ横に靴を踏み下ろし、じろりと睨みつける。
全てのきっかけは、こいつと言っても過言ではない。
「よくも俺の国に、無体を働いてくれたな?」
ぶるぶると頭を振る様は、既に戦意など欠片もない。
それを確かめて、鼻で笑った。
「お前のせいで、腹の底が煮え返っている。
――くれぐれも、尋問を“楽しみにしておけ”。……連れて行け。」
言って、多少逡巡しつつも、団員達が離れる前に付け加えた。
「世話をかけたな。――もう、大丈夫だ。」
てきぱき動いていた手が一斉に止まり、「俺、衝立準備します!」と一人が猛然と駆け出していく。
呆気にとられていると、しばらくして「だんちょおぉぉご無事で良かったですぅぅ!」という絶叫が遠くから響いた。
思わず、はっ、と短い笑いが漏れた。遠くなら良いと思ったのだろうが、後で小突いてやらなければならない。
じわじわと戻ってくる実感が、今ここにある現実を教えてくれる。
「言っておくが。お前らは真似して叫ぶなよ。」
案の定、残念そうな顔をした連中に思わず呆れた。
――まさか、本気でやりたかったのか。まったく、本当に、うちの団員は変わっている。
久しぶりの反応に可笑しさを覚えれば、それだけで腹が決まった。
「必ず戻るから、安心しろ。」
ばっと振り返った団員達が無言で必死に頷いた。
“声を出したら叱られる”とでも思っているのだろうか。その様子に、苦笑がこぼれた。
団員達の背中を見送っていると、隣から小さな声がした。
「良かったね。」
リオの声はひどく穏やかだ。
「お前、最近大人びてきたな。」
「だんちょーのせいだよ。」
返答に困って目を向ければ、特に責める色は感じなかった。
「……陛下の件、負担を強いたか。」
問えば、リオは特に気にした風もなく首を振った。
「ぜんぜん。楽しんでるし。それに、俺も、みんなも。だんちょーが、だんちょーで居ればいいって思ってるだけ。」
「……それは、贅沢な事だ。」
衝立を抱えて団員が走ってくる姿が見えた。よほど急いで探してきたのだろう。
「お前のおかげで、あの男も話すだけの理性はありそうだな。」
「たぶんだけどね。」
「悪かった、というのも違うんだろうな。」
「そのとーり。」
軽い返答に思わず笑う。灰金の目がこちらを見上げてくる。
「お前が、お前の思う幸せを掴めるなら、それでいい。」
「そういうとこ、ずるい。」
むっとしたような口調に、自然と笑みがこぼれた。
「同じような事を言っただけだ。」
視界の端で、衝立を持ってきた団員が叫びかけるのを手で止める。
「王の御前だ。控えろ。」
途端に声音が変わったのが面白かったのか、リオが小さく笑った。
なぜかどこか誇らしげな顔をするのが可笑しくて、久しぶりに飴をひとつ渡した。
「……おいし。」
リオの魔力がわずかに波立つ。
これから爆心地に踏み込むのだ。何があるか分からない分、強化は多いほどいい。
見上げた空の先に、白く輝く王城があった。
いつも誇らしげにそびえているその姿も、今日ばかりは気圧される気がしない。
「――行くぞ。」
駆けて辿り着いた城内は、どこかざわついていた。
明らかなざわつきでない分、内情は漏れていないのかもしれない。
頻繁に王と会っていた第三騎士団長という身分は便利で、すんなりと執務室に到着する。
足止めされる事もなかったために、ここは改めるべきだな、と頭の片隅に留めておいた。
第二の反乱があったくらいだ。その他の事など、いくらでも可能性がある。
執務室の前には、団員と、簀巻きにして転がされた“元”第二騎士団長らの姿があった。
さすがに危険分子を部屋の中に入れる真似はしなかったらしい。それだけは唯一の安堵だった。
フードを目深に被ったカイルを不審げに見て、剣を構えた団員へ笑いを零す。
「お前ら、構えが遅い――鍛錬不足だ。」
声に反応して、見開かれる目と、わななく口元に安堵した。
『――お前がここに居て、生きてるだけで、俺も、あいつらも救われるんだ。』
昨夜のルシオンの言葉が蘇る。
「また、鍛え直しだな。」
小さく笑ってフードを取ると、団員が声を上げかけるのを手で制した。
「王の御前だ。黙れ。」
本当は騒ぐ声も受け入れたい気分だったが、場所が場所だ。
「誰か透けない衝立をひとつ用意しろ。」
意味が分からないような顔をする団員達に、説明する暇もつもりもない。
ただ、あの男とこれ以上視線を重ねる気はなかった。
「それから、そいつらは早急に牢に放り込め。逃げれば厄介だ。……いや、待て。」
転がる“元”第二騎士団長の、でっぷり太った顔のすぐ横に靴を踏み下ろし、じろりと睨みつける。
全てのきっかけは、こいつと言っても過言ではない。
「よくも俺の国に、無体を働いてくれたな?」
ぶるぶると頭を振る様は、既に戦意など欠片もない。
それを確かめて、鼻で笑った。
「お前のせいで、腹の底が煮え返っている。
――くれぐれも、尋問を“楽しみにしておけ”。……連れて行け。」
言って、多少逡巡しつつも、団員達が離れる前に付け加えた。
「世話をかけたな。――もう、大丈夫だ。」
てきぱき動いていた手が一斉に止まり、「俺、衝立準備します!」と一人が猛然と駆け出していく。
呆気にとられていると、しばらくして「だんちょおぉぉご無事で良かったですぅぅ!」という絶叫が遠くから響いた。
思わず、はっ、と短い笑いが漏れた。遠くなら良いと思ったのだろうが、後で小突いてやらなければならない。
じわじわと戻ってくる実感が、今ここにある現実を教えてくれる。
「言っておくが。お前らは真似して叫ぶなよ。」
案の定、残念そうな顔をした連中に思わず呆れた。
――まさか、本気でやりたかったのか。まったく、本当に、うちの団員は変わっている。
久しぶりの反応に可笑しさを覚えれば、それだけで腹が決まった。
「必ず戻るから、安心しろ。」
ばっと振り返った団員達が無言で必死に頷いた。
“声を出したら叱られる”とでも思っているのだろうか。その様子に、苦笑がこぼれた。
団員達の背中を見送っていると、隣から小さな声がした。
「良かったね。」
リオの声はひどく穏やかだ。
「お前、最近大人びてきたな。」
「だんちょーのせいだよ。」
返答に困って目を向ければ、特に責める色は感じなかった。
「……陛下の件、負担を強いたか。」
問えば、リオは特に気にした風もなく首を振った。
「ぜんぜん。楽しんでるし。それに、俺も、みんなも。だんちょーが、だんちょーで居ればいいって思ってるだけ。」
「……それは、贅沢な事だ。」
衝立を抱えて団員が走ってくる姿が見えた。よほど急いで探してきたのだろう。
「お前のおかげで、あの男も話すだけの理性はありそうだな。」
「たぶんだけどね。」
「悪かった、というのも違うんだろうな。」
「そのとーり。」
軽い返答に思わず笑う。灰金の目がこちらを見上げてくる。
「お前が、お前の思う幸せを掴めるなら、それでいい。」
「そういうとこ、ずるい。」
むっとしたような口調に、自然と笑みがこぼれた。
「同じような事を言っただけだ。」
視界の端で、衝立を持ってきた団員が叫びかけるのを手で止める。
「王の御前だ。控えろ。」
途端に声音が変わったのが面白かったのか、リオが小さく笑った。
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