4 / 30
第一章:二人の出会い
episode-5
しおりを挟む
あの事件から一年が経ち、私は通っていた学園を無事卒業することが出来ました。事件があってからというもの、実を言うところ学園に行ったら腫れ物を触られるがごとく扱われるのかと思いきや、皆さん心配してくれて別段普通通りに学園生活を送り続けることが出来たのです。
やはり持つべきものは友人ですね。
「ハミィ様…これでお別れなんて寂しいですわ。」
「お姉様…また学園にあそびにいらして下さいね。」
「ハミィ嬢!」
「ハミィ様!!」
校門へと出口を進める道すがら、次々と贈られる優しい言葉たちにとうとう涙が溢れてしまいました。
「ありがとう、約束するわ!」
華々しい卒業式も終わり、一週間が経とうとしていました。
「姉様、本を読んで!」
コンコン、と扉を鳴らして入ってきたのはまだ五歳の私の弟、マルタでした。
「いいわよマルタ、さぁお姉ちゃんの横に座って。」
「はい!」
学生中は生徒会やライン・ブラット家の一員として働くことが多かったので、あまり構って挙げられませんでしたが、卒業してからというもの時間は寝ても余るほどあるので弟の相手をするうちに随分と仲が良くなりました。
「今日は何を読むのかしら?」
「精霊の本!この世界の精霊がぜーんぶ載ってるんです。」
少し興奮気味に説明してくれる弟を微笑ましく眺めながら、本を読んでいくことにした。
「シルフ、シルフは風を司る四代精霊の一角でその姿は清いものにしか見えない、ですって。」
「姉様は見たことありますか?」
「そうねぇ、あるかもしれないわ。」
秘密口調で話すとマルタに教えてとねだられましたが、そこは秘密の方が面白いでしょう。あえて黙りました。それから少し読み進めると、マルタがすぅすぅと寝息をたてているのに気が付きました。
「マルタ、マルタ」
呼びかけても起きる気配が無かったので、
「マチルダ、マルタは今日ここで寝かしてあげるとお母様に伝えてくれるかしら。」
乳母のマチルダに伝言を頼み、私も眠りにつくことにしました。
「ハミィ、アナタハヤサシスギヨ。」
「そうかしら、そんなことは無いわ。」
「イイエソンナコトアルワヨ、ネェミンナ。」
「ソウダ」
「エエ、ホントソノトウリ!」
「あら、夜が明けるわ。ごめんなさい精霊さんたち、もう起きなくちゃ。」
「イツカ、ワタシタチノモリニキテネ。」
「ヤクソクヨ」
「ええ、約束する。」
「ジャア、バイバイ。」
「バイバーイ」
「えぇ、さようなら!」
今朝目を覚ますと夢の内容が気になりました。精霊と会話をするというとても不思議な夢を見ていたのです。それも妙に現実的で、まるで自分が起きて精霊さんたちと本当に話しているような感覚だったのです。きっと寝る前にマルタの本を読んだからでしょう。
「ふふっ、私ったら影響されやすいのね。」
その時は、何か大きなものが私に迫っていているなど夢にも思いませんでした。
やはり持つべきものは友人ですね。
「ハミィ様…これでお別れなんて寂しいですわ。」
「お姉様…また学園にあそびにいらして下さいね。」
「ハミィ嬢!」
「ハミィ様!!」
校門へと出口を進める道すがら、次々と贈られる優しい言葉たちにとうとう涙が溢れてしまいました。
「ありがとう、約束するわ!」
華々しい卒業式も終わり、一週間が経とうとしていました。
「姉様、本を読んで!」
コンコン、と扉を鳴らして入ってきたのはまだ五歳の私の弟、マルタでした。
「いいわよマルタ、さぁお姉ちゃんの横に座って。」
「はい!」
学生中は生徒会やライン・ブラット家の一員として働くことが多かったので、あまり構って挙げられませんでしたが、卒業してからというもの時間は寝ても余るほどあるので弟の相手をするうちに随分と仲が良くなりました。
「今日は何を読むのかしら?」
「精霊の本!この世界の精霊がぜーんぶ載ってるんです。」
少し興奮気味に説明してくれる弟を微笑ましく眺めながら、本を読んでいくことにした。
「シルフ、シルフは風を司る四代精霊の一角でその姿は清いものにしか見えない、ですって。」
「姉様は見たことありますか?」
「そうねぇ、あるかもしれないわ。」
秘密口調で話すとマルタに教えてとねだられましたが、そこは秘密の方が面白いでしょう。あえて黙りました。それから少し読み進めると、マルタがすぅすぅと寝息をたてているのに気が付きました。
「マルタ、マルタ」
呼びかけても起きる気配が無かったので、
「マチルダ、マルタは今日ここで寝かしてあげるとお母様に伝えてくれるかしら。」
乳母のマチルダに伝言を頼み、私も眠りにつくことにしました。
「ハミィ、アナタハヤサシスギヨ。」
「そうかしら、そんなことは無いわ。」
「イイエソンナコトアルワヨ、ネェミンナ。」
「ソウダ」
「エエ、ホントソノトウリ!」
「あら、夜が明けるわ。ごめんなさい精霊さんたち、もう起きなくちゃ。」
「イツカ、ワタシタチノモリニキテネ。」
「ヤクソクヨ」
「ええ、約束する。」
「ジャア、バイバイ。」
「バイバーイ」
「えぇ、さようなら!」
今朝目を覚ますと夢の内容が気になりました。精霊と会話をするというとても不思議な夢を見ていたのです。それも妙に現実的で、まるで自分が起きて精霊さんたちと本当に話しているような感覚だったのです。きっと寝る前にマルタの本を読んだからでしょう。
「ふふっ、私ったら影響されやすいのね。」
その時は、何か大きなものが私に迫っていているなど夢にも思いませんでした。
0
あなたにおすすめの小説
おばさんは、ひっそり暮らしたい
波間柏
恋愛
30歳村山直子は、いわゆる勝手に落ちてきた異世界人だった。
たまに物が落ちてくるが人は珍しいものの、牢屋行きにもならず基礎知識を教えてもらい居場所が分かるように、また定期的に国に報告する以外は自由と言われた。
さて、生きるには働かなければならない。
「仕方がない、ご飯屋にするか」
栄養士にはなったものの向いてないと思いながら働いていた私は、また生活のために今日もご飯を作る。
「地味にそこそこ人が入ればいいのに困るなぁ」
意欲が低い直子は、今日もまたテンション低く呟いた。
騎士サイド追加しました。2023/05/23
番外編を不定期ですが始めました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
処刑から始まる私の新しい人生~乙女ゲームのアフターストーリー~
キョウキョウ
恋愛
前世の記憶を保持したまま新たな世界に生まれ変わった私は、とあるゲームのシナリオについて思い出していた。
そのゲームの内容と、今の自分が置かれている状況が驚くほどに一致している。そして私は思った。そのままゲームのシナリオと同じような人生を送れば、16年ほどで生涯を終えることになるかもしれない。
そう思った私は、シナリオ通りに進む人生を回避することを目的に必死で生きた。けれど、運命からは逃れられずに身に覚えのない罪を被せられて拘束されてしまう。下された判決は、死刑。
最後の手段として用意していた方法を使って、処刑される日に死を偽装した。それから、私は生まれ育った国に別れを告げて逃げた。新しい人生を送るために。
※カクヨムにも投稿しています。
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
『まて』をやめました【完結】
かみい
恋愛
私、クラウディアという名前らしい。
朧気にある記憶は、ニホンジンという意識だけ。でも名前もな~んにも憶えていない。でもここはニホンじゃないよね。記憶がない私に周りは優しく、なくなった記憶なら新しく作ればいい。なんてポジティブな家族。そ~ねそ~よねと過ごしているうちに見たクラウディアが以前に付けていた日記。
時代錯誤な傲慢な婚約者に我慢ばかりを強いられていた生活。え~っ、そんな最低男のどこがよかったの?顔?顔なの?
超絶美形婚約者からの『まて』はもう嫌!
恋心も忘れてしまった私は、新しい人生を歩みます。
貴方以上の美人と出会って、私の今、充実、幸せです。
だから、もう縋って来ないでね。
本編、番外編含め完結しました。ありがとうございます
※小説になろうさんにも、別名で載せています
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる