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30.Matching with you
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***B
僕らは感情思念センター中層を後にした。上階へと急ぐため螺旋階段を登り続けている。金属の板で出来ているためか、上るたびに足元から甲高い音が鳴り響く。
「そういえばさ。ミユは僕のことを止めようとか思わないの?」
「いきなり何を言い出すのよ」
困ったように聞き返すミユ。ごくごく普通の態度だ。僕だってどうしてここまで来て、そんな話を振るのかと疑問に思うからだ。
「だって、僕はこれから施設の最高責任者と会うんだよ?それにMBTの開発者でもある人と」
「それが私にとって悪影響ってわけ?」
「いや……何しろ君たちは生まれた頃からMBTがあるのが当たり前だと思って生きてきたはずだからさ………それを覆してもいいのかなって」
変わらず淡々と登り続けるミユを前にして、僕は彼女の後を追う。
「私はあなたがどんな世界で生きていたのかは分からない。聞いただけで想像しか出来ないもの。もしかしたら、ここと似ているのかもしれないし、全く別世界なのかもしれない」
「だから私たちが住んでいるこの世界とあなたの世界での価値観とか基準とかは違うのは仕方のないことね」
「そう。だから僕は勝手に君たちの世界に干渉していいのかって……」
「そんなの悩む問題じゃないでしょ」
即答した。熟考していた僕が馬鹿みたいだ。
「一人の人間が犠牲になっているのに、それが正しいとは到底思えない」
「価値基準は違う。だけど正しいか否かは私たち人間が決めること。それって至って普通のことでしょ?」
一度たりとも僕の方を振り返ろうとしない。一度決めた決断を破らないと主張しているかのような背中だった。小さな背中なのに、背負っているものは尋常が無いほどの大きさで。潰れてしまわないことが不自然だと思うほどだった。
「僕はどうしてここにいるのかな………」
「何か言った?小さくて全然聞こえなかったんですけど」
「いいや。何も言ってないよ。目的階まであともう少しだなと思っただけ」
10歳の少女が世界の在り方について考える。そんな巨大すぎるスケールの問いを抱えているのに。30年ほど生きてきた僕は彼女に励まされてばかりだ。僕の体は若返っていても中身は受け継がれている、そう信じていたけれど全くの誤解だった。それを活かすことが出来ないのなら、意味がない。
ーーなぜ、僕だったのだろうーー
その答えがもうすぐそこにあるということを知れていたのなら、僕はどんなに自信を持てただろうか。
最上階に辿り着いた。
***
螺旋階段を上り切った先にあったのは、部屋だった。それも中層部、中央管制室兼執務室にそっくりだった。上ってきた階段はその部屋で途絶えていて、代わりに左右に分けられたさらなる螺旋階段が目先に建てられていた。
鉄筋コンクリートで造られた2つの螺旋階段の上部に視線を移す。男が社長机に寄り掛かっていた。僕が見えたのは背中側だったので顔からはいったいどんな人物なのか判断できなかった。
真っ黒なジャケットに、パンツ。黒一色を身に纏っている男は僕らよりも先に話しかけてきた。まるでこの部屋に誘うが如く。
「ようやくここまで来たか」
しかしドクターのようにショーの主催者を気取る姿ではなかった。不気味に感じてしまうくらいに静かで、冷静な声音だった。
「お前がこの施設の最高責任者なのか?」
男が僕の問いに答えようと振り返った時、僕自身の体は硬直した。反射的に、自分ではどうしようも出来ないほどの現象。
「ああ。私がこの世界の開発者。鈴波海人だ」
それは僕の名前だったのだ。
僕らは感情思念センター中層を後にした。上階へと急ぐため螺旋階段を登り続けている。金属の板で出来ているためか、上るたびに足元から甲高い音が鳴り響く。
「そういえばさ。ミユは僕のことを止めようとか思わないの?」
「いきなり何を言い出すのよ」
困ったように聞き返すミユ。ごくごく普通の態度だ。僕だってどうしてここまで来て、そんな話を振るのかと疑問に思うからだ。
「だって、僕はこれから施設の最高責任者と会うんだよ?それにMBTの開発者でもある人と」
「それが私にとって悪影響ってわけ?」
「いや……何しろ君たちは生まれた頃からMBTがあるのが当たり前だと思って生きてきたはずだからさ………それを覆してもいいのかなって」
変わらず淡々と登り続けるミユを前にして、僕は彼女の後を追う。
「私はあなたがどんな世界で生きていたのかは分からない。聞いただけで想像しか出来ないもの。もしかしたら、ここと似ているのかもしれないし、全く別世界なのかもしれない」
「だから私たちが住んでいるこの世界とあなたの世界での価値観とか基準とかは違うのは仕方のないことね」
「そう。だから僕は勝手に君たちの世界に干渉していいのかって……」
「そんなの悩む問題じゃないでしょ」
即答した。熟考していた僕が馬鹿みたいだ。
「一人の人間が犠牲になっているのに、それが正しいとは到底思えない」
「価値基準は違う。だけど正しいか否かは私たち人間が決めること。それって至って普通のことでしょ?」
一度たりとも僕の方を振り返ろうとしない。一度決めた決断を破らないと主張しているかのような背中だった。小さな背中なのに、背負っているものは尋常が無いほどの大きさで。潰れてしまわないことが不自然だと思うほどだった。
「僕はどうしてここにいるのかな………」
「何か言った?小さくて全然聞こえなかったんですけど」
「いいや。何も言ってないよ。目的階まであともう少しだなと思っただけ」
10歳の少女が世界の在り方について考える。そんな巨大すぎるスケールの問いを抱えているのに。30年ほど生きてきた僕は彼女に励まされてばかりだ。僕の体は若返っていても中身は受け継がれている、そう信じていたけれど全くの誤解だった。それを活かすことが出来ないのなら、意味がない。
ーーなぜ、僕だったのだろうーー
その答えがもうすぐそこにあるということを知れていたのなら、僕はどんなに自信を持てただろうか。
最上階に辿り着いた。
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螺旋階段を上り切った先にあったのは、部屋だった。それも中層部、中央管制室兼執務室にそっくりだった。上ってきた階段はその部屋で途絶えていて、代わりに左右に分けられたさらなる螺旋階段が目先に建てられていた。
鉄筋コンクリートで造られた2つの螺旋階段の上部に視線を移す。男が社長机に寄り掛かっていた。僕が見えたのは背中側だったので顔からはいったいどんな人物なのか判断できなかった。
真っ黒なジャケットに、パンツ。黒一色を身に纏っている男は僕らよりも先に話しかけてきた。まるでこの部屋に誘うが如く。
「ようやくここまで来たか」
しかしドクターのようにショーの主催者を気取る姿ではなかった。不気味に感じてしまうくらいに静かで、冷静な声音だった。
「お前がこの施設の最高責任者なのか?」
男が僕の問いに答えようと振り返った時、僕自身の体は硬直した。反射的に、自分ではどうしようも出来ないほどの現象。
「ああ。私がこの世界の開発者。鈴波海人だ」
それは僕の名前だったのだ。
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アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
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