けれど、僕は君のいない(いる)世界を望む

薪槻暁

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第二話 眠っていた過去と真実

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 冬休みを明日に迎えた俺は彼女、千葉彩花とともに喫茶店『アッティモ』へ向かう途中だった。

 狭い横幅の道を歩いている時、運悪く正面から大型トラックが向かってきたのである。さながら暴走列車のように右や左やと行先が変わり、一見避け場が無いと思った俺だったが、ようやく避けられる空間を見つけた。

 だが、その時。

 千葉は俺よりも5mほど先でその恐怖のあまり、立ち尽くしていた。

 そして俺を横切るようにトラックは彼女だけを呑み込んでいってしまった。


 俺は惨憺たる現実を目に入れたくはないと一度瞼を閉じた。

 どう考えても体はむごいことに潰されているに違いない。

 救急車を呼んでも助からないほど、無残になってしまっているはず。

 俺は恐怖に溺れながら、それでも抗おうと瞼を開けようとした時。

「なんで、目を瞑ってるの?」

 視界が真っ白になり、何もかも見えない状況で一言、聞き覚えのある声で。

「おーーーーい、トモーー?」

 二度。耳元で囁かれた。

「ねえってば!!」

 そして三度目には、鼓膜を突き破るかのような声が聞こえた。

 目が周囲の環境に慣れると、もっとも最初に目に入ったのはカラ元気で、ミディアムヘア、毛先が少し丸まっているのがチャーミーで、寝起き顔をぜひとも見てみたい女子。

 さきほど、目の前でトラックに押しつぶされた千葉彩花だった。

 我を取り戻すように俺は眼前に広がるあり得ない光景をその主に聞いた。

「さっき、トラックに轢かれたんじゃなかったのか・・?」

 すると何を言いたいのか、まるっきり分かっていないと言いたげに。そう、この後訪れる行先を決めるときにとった不満そうな表情と仕草で。

「もしかしてさ、トモったら頭でも打ったんじゃないの?ちょっと言動がおかしいから、病院にでも行く?」

「え、だってさっき前から・・」

「トラックなんてどこにあるのさ?」

 俺はすぐに納得した。千葉がなぜこんなにも俺を不自然そうに見つめるのか、そして呆然としている俺をどうして怪しく思うのかを。

 トラックなど、いやそもそも車一台たりとも辺りには全く見当たらなかったのだ。




 どうやら24日クリスマスイブに都内某所のイルミネーションへ行くというのは変わらぬ事実のようだ。

 喫茶店『アッティモ』でお茶をしている時に、彼女から聞いた話によると、トラックが突っ込んでくるまでの会話の内容は全てそのままだったし、ただ、そのトラックの一件だけが千葉の頭からすっぽり抜けているようだった。


 喫茶店を後にした俺たちはそのまま何事もなく帰路をたどり、自宅についた俺自身は自分の部屋に籠ることにした。そして今に至るのである。

 ベッドに仰向けになりながら、天井を仰ぐ。

 今日は酷くひどく酷だった一日のような気がした。今まで、生きてきた以上に精神的にも喰らった日のようだった。

 そういえば。

 とふと何気なく、きっかけもなしに、とある疑問が過った。

 
 千葉と付き合ったきっかけって何だったんだっけ・・・・





 あの時ーー俺と千葉が初めて会った場所は大学のメインホールだった。
 
 俺は、中学、高校と波風一つ立たないポジションに存在する人間だった。大学デビューすればそのスタンスが変わるだろうなどという安直な考えをしていた俺は、大学に入学したとしても、同学部、同学科の人間とも関わろうとすることはなかった。

 顔見知りだった同学部の学生は、仲間内でコロニーを作るように集団が出来ていて、そこに入り込む人も少なくなかった。自分から行動しない俺にとっては当然仲間内に入れるわけがなく、入学式後に行われた説明会でも教室の端に一人座っていた。

 その時だった。

 あまり着慣れないスーツに違和感を感じていた俺は、空いていた隣の席に座り込んできた人物に気が付かなった。

 そして、その人物は何の躊躇もなく聞いてきたのだ。知り合いかどうかなど関係なしに。

「ねえ、キミって友利智ともり とも君?」

 大学に入学して早々、名前を間違えられるとは俺も思ってもいなかった。というか、小学、中学、高校と間違えられたことは一度たりとも無かったし。

 だから俺は不躾ながらも、

「は?」

 と答えるしかなかった。相槌のように、質問を質問で俺は返したのである。そのためか、再び千葉は聞き返してきた。

「だから君は友利くんって呼ぶの?」

 さすがにこれ以上、疑問を疑問で返すのは初対面だったこともあり、失礼だと思ったので俺は「そうですけど」と仕方なく答えた、のだが。

「くくくく・・・・」 

 顔を胸にうずめるようにして笑っていた。初対面で、面識が無い人の顔と名前を確認しただけで笑いを込み上げていた。

『なんだこいつ』

 俺はひしひしと自分の胸底から込み上げていた。

 いきなり横に座ってきて、それでいて名前だけを質問して笑うなんて一般人の常識の範囲外だろ。

 はやく、この突如笑い出す人から離れたかったが、周りには独自の会話で盛り上がっている連中が集団を作り上げていて、どこも通れない状況だった。

 だから仕方なくだ。俺は隣の人物に、笑っている理由を訊くことにしたのである。

「そんなに笑って何がおかしいんだ?俺の顔に何かついているのか?」

「ふふふふふふふっあはははははっ。だってそりゃあ、おかしいでしょ!!氏と名前が被ってるんだよ。普通そんなことしないでしょ」

 もし、その名前を付けている親がいたらその人に頭を下げろ。俺は率直にそう思った。というか、そんなことで、しかも勘違いでそこまでツボにはまることではないだろう。たかが、友利ともりともぐらいで・・・・、限界がある。

「って、それだけのために隣に来たのなら早くどいてくれないか?あいにく俺は独りのほうが気休めになるんでね」

 これ以上関わると面倒事に発展しそうに見えた俺は早めに拒絶すると、意外な返事、というか、もはや尋常ではない返事が返ってきた。

「ねえ、キミっていつも一人だよね?」

 そうして、足早と大学を後にしようとした俺を引き留め、いきなり「私と付き合ってよ」などと軽々しく交際を申し込まれ、現在に至っているのである。

 そうだ。俺が彼女と付き合い始めた理由なんて、結局、真っ当な答えは出ていなかったんだ。
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