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第1章~レグヌム王国~
孤児院
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「ではエバン、今日もよろしくお願いしますね。」
エバンは普段着ている騎士の正装ではなくラフな格好でいた。最低限の装備であるマントと剣を携えている以外は町人とほとんど変わらない。
「はい。お任せを。」
エバンの目の前にいるレギナも一般の格好――とまではいかないが、きらびやかな装飾はなくシンプルな服装でいた。本日はエバン率いる第七騎士団は休暇の日だ。しかし、エバンはこうしてレギナの護衛係をしている。というのも、レギナから直々に申し出があるためだ。
「今日は孤児院への慰問に行こうかと思います。」
城下町を歩くただの若い男女ということであれば特段珍しいものではないだろう。ただし、その2人とも有名人となると話は別だ。若くして分隊長まで上り詰めた騎士に隣には一国の王女、民衆の目が向かないはずはない。もっともレギナは正体がバレているとは思っておらず、注目を浴びているのはエバンの方だと錯覚しているようだが。
「そうだ。ちょっとお土産を買っていきましょう。」
レギナはスッと文具店に立ち寄りあれもこれもと、まるで別の場所で文房具屋を開くのではと思える程買い込む。当初は怪しげにレギナたちを見る店主だったが、最後にきっちり会計を済ますと当分店を開かなくてよいと上機嫌になった。
「お持ちいたします。」
最初は私が買ったのだからと自分で運ぼうとしたレギナだったが、あまりの重さに買い物袋を持ち上げることすらままならなかった。
「す、すみません、お願いします。」
ひょいと軽々と持つエバンをレギナはじっと見る。
「な、何でしょう?」
エバンはレギナにじっと見つめられ、何だか恥ずかしくなっていた。空いている手で頬を掻く。
「エバンはすごいですね。こんなに重いものをよく片手で。」
「あ、あぁ、まぁ。一応、騎士ですから。」
エバンはまじまじと見てくるレギナに眉を下げて笑いかけた。
=====================================
「何か困っていることはありますか?」
「いえ、おかげさまで何もありませんよ。エバンもよくして下さりますからね。」
「そんな、俺は・・・。」
孤児院に着くとレギナたちは孤児院に勤めるシスターへ簡単に挨拶を済ます。それから子供たちに先程購入した文具を配った。彼らとっては絶好のプレゼントとなったらしく、あっという間に袋から消えていった。
「ありがとうございます!レ・・・お姉ちゃん!」
(あの子、完全にレギナ姫と言おうとしてなかったか?)
案の定レギナの正体は子供達にまでバレていた。勿論、レギナに気を使って涙ぐましいほどに知らないふりをしていたのだが。一通りの子供たちと触れ合った後、シスターとレギナは椅子に腰をかけお茶をすする。
「エバンと初めて会ったのもここでしたね。あの子らと同じ年の頃でした。」
「その度は失礼を・・・。」
「いえ、私は気が置けない友人が欲しかったですから嬉しかったのですよ?」
「そう言っていただけると助かります。」
レギナは元気にはしゃぐ子供たちを見ながらシスターへ懐かしそうに話しかける。レギナのそばにたたずむエバンは恥ずかしい過去を思い出したかのか困ったように笑っていた。それを見たシスターが笑う。
「ふふ。あの小さかった子供がこうして姫様とねぇ。」
くすくすと口元に手を当てているシスターにエバンはムッとした顔で言う。
「マリア先生、俺は別に・・・。」
「あら、そうなの?」
わざとらしく驚くマリアにエバンは呆れたようにため息を漏らす。
「先生はまたそうやって。」
「エバン、何の話ですか?」
分からないといった様子でレギナはエバンに問いかける。それにエバンはたじろいだ。
「あ、えー、そのですね・・・。」
「?」
目を泳がせながら必死に上手い言葉を模索しているエバンをマリアは楽しげに見つめていた。
=====================================
孤児院を離れるころには夕日が昇っていた。エバンとレギナは世間話しながら城に向かう。レギナにとっては国民の間で何が流行っているのかなど、小さなことでも興味があるようだ。それからしばらく他愛もない会話をしていたが、城に近づくにつれレギナの口数が減っていった。
「どうかされましたか?」
エバンは心配になりレギナに問う。これにレギナは迷ったような素振りを見せたが、意を決したのか話を切り出した。
「エバン、少し話があります。」
「話ですか?」
歩みを止めてレギナは周りに人がいないかを確認する。エバンはいきなりのことに困惑しながらもレギナの口から出る言葉を待つ。
「私もこの国の王女としてお父様をはじめ、皆様に今まで立派に育ててもらいました。」
「そして、おかげさまで無事に成人になることができました。」
「私は王家のものとして、この血筋を残しこの国を守る義務があります。」
力強く発せられたレギナの言葉でエバンはすべてを察した。
――そうか、ずっと遠いことだと思っていたけど。もうそんな日が。
「近い日に婚姻の儀を行うことになると思います。」
「・・・それはおめでたいことです。私も心よりお慶び申し上げます。」
エバンはいつものように頭下げる。レギナは小さく口元を開け唇をわずかに震わせた。
「――ありがとうございます。さぁ、帰りましょうか。」
少し、ほんの少しの瞬間だが世界から音が消えた。
エバンは普段着ている騎士の正装ではなくラフな格好でいた。最低限の装備であるマントと剣を携えている以外は町人とほとんど変わらない。
「はい。お任せを。」
エバンの目の前にいるレギナも一般の格好――とまではいかないが、きらびやかな装飾はなくシンプルな服装でいた。本日はエバン率いる第七騎士団は休暇の日だ。しかし、エバンはこうしてレギナの護衛係をしている。というのも、レギナから直々に申し出があるためだ。
「今日は孤児院への慰問に行こうかと思います。」
城下町を歩くただの若い男女ということであれば特段珍しいものではないだろう。ただし、その2人とも有名人となると話は別だ。若くして分隊長まで上り詰めた騎士に隣には一国の王女、民衆の目が向かないはずはない。もっともレギナは正体がバレているとは思っておらず、注目を浴びているのはエバンの方だと錯覚しているようだが。
「そうだ。ちょっとお土産を買っていきましょう。」
レギナはスッと文具店に立ち寄りあれもこれもと、まるで別の場所で文房具屋を開くのではと思える程買い込む。当初は怪しげにレギナたちを見る店主だったが、最後にきっちり会計を済ますと当分店を開かなくてよいと上機嫌になった。
「お持ちいたします。」
最初は私が買ったのだからと自分で運ぼうとしたレギナだったが、あまりの重さに買い物袋を持ち上げることすらままならなかった。
「す、すみません、お願いします。」
ひょいと軽々と持つエバンをレギナはじっと見る。
「な、何でしょう?」
エバンはレギナにじっと見つめられ、何だか恥ずかしくなっていた。空いている手で頬を掻く。
「エバンはすごいですね。こんなに重いものをよく片手で。」
「あ、あぁ、まぁ。一応、騎士ですから。」
エバンはまじまじと見てくるレギナに眉を下げて笑いかけた。
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「何か困っていることはありますか?」
「いえ、おかげさまで何もありませんよ。エバンもよくして下さりますからね。」
「そんな、俺は・・・。」
孤児院に着くとレギナたちは孤児院に勤めるシスターへ簡単に挨拶を済ます。それから子供たちに先程購入した文具を配った。彼らとっては絶好のプレゼントとなったらしく、あっという間に袋から消えていった。
「ありがとうございます!レ・・・お姉ちゃん!」
(あの子、完全にレギナ姫と言おうとしてなかったか?)
案の定レギナの正体は子供達にまでバレていた。勿論、レギナに気を使って涙ぐましいほどに知らないふりをしていたのだが。一通りの子供たちと触れ合った後、シスターとレギナは椅子に腰をかけお茶をすする。
「エバンと初めて会ったのもここでしたね。あの子らと同じ年の頃でした。」
「その度は失礼を・・・。」
「いえ、私は気が置けない友人が欲しかったですから嬉しかったのですよ?」
「そう言っていただけると助かります。」
レギナは元気にはしゃぐ子供たちを見ながらシスターへ懐かしそうに話しかける。レギナのそばにたたずむエバンは恥ずかしい過去を思い出したかのか困ったように笑っていた。それを見たシスターが笑う。
「ふふ。あの小さかった子供がこうして姫様とねぇ。」
くすくすと口元に手を当てているシスターにエバンはムッとした顔で言う。
「マリア先生、俺は別に・・・。」
「あら、そうなの?」
わざとらしく驚くマリアにエバンは呆れたようにため息を漏らす。
「先生はまたそうやって。」
「エバン、何の話ですか?」
分からないといった様子でレギナはエバンに問いかける。それにエバンはたじろいだ。
「あ、えー、そのですね・・・。」
「?」
目を泳がせながら必死に上手い言葉を模索しているエバンをマリアは楽しげに見つめていた。
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孤児院を離れるころには夕日が昇っていた。エバンとレギナは世間話しながら城に向かう。レギナにとっては国民の間で何が流行っているのかなど、小さなことでも興味があるようだ。それからしばらく他愛もない会話をしていたが、城に近づくにつれレギナの口数が減っていった。
「どうかされましたか?」
エバンは心配になりレギナに問う。これにレギナは迷ったような素振りを見せたが、意を決したのか話を切り出した。
「エバン、少し話があります。」
「話ですか?」
歩みを止めてレギナは周りに人がいないかを確認する。エバンはいきなりのことに困惑しながらもレギナの口から出る言葉を待つ。
「私もこの国の王女としてお父様をはじめ、皆様に今まで立派に育ててもらいました。」
「そして、おかげさまで無事に成人になることができました。」
「私は王家のものとして、この血筋を残しこの国を守る義務があります。」
力強く発せられたレギナの言葉でエバンはすべてを察した。
――そうか、ずっと遠いことだと思っていたけど。もうそんな日が。
「近い日に婚姻の儀を行うことになると思います。」
「・・・それはおめでたいことです。私も心よりお慶び申し上げます。」
エバンはいつものように頭下げる。レギナは小さく口元を開け唇をわずかに震わせた。
「――ありがとうございます。さぁ、帰りましょうか。」
少し、ほんの少しの瞬間だが世界から音が消えた。
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