ドロイドベル

ふりかけ大王

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第1章~レグヌム王国~

姫と騎士と

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騎士との食事会では歓迎会も少し兼ねていたこともあり、モーリアは質問攻めにあっていた。彼女は剣を持っていた時とはうって変わり、愛想よく笑顔で対応していた。

「へぇ~。モーリアは雪国出身なんだ。」

「はい、貧しいですが綺麗なところでした。」

モーリアの座っているテーブルには他所の席から騎士が代わるがわる挨拶に来た。中にはモーリアを困らせるような質問(主に異性関係だが)も飛んできたが、嫌な顔一つせず返すあたり中々人付き合いも上手いようだ。

「因みにモーリアは何故騎士になったんだ?」

エバンは酒をグラスに注ぎながらモーリアに問うた。それにモーリアは一瞬手を止めてから答える。

「そうですね、月並みですが大事な人を守りたいからでしょうか。」

ほんの少し恥ずかしそうに俯きながら彼女は言った。それはエバンには嘘偽りない本音のように聞こえた。

「そうか。それはとても大事な気持ちだ。」

グラスに次いだ酒を一口飲んでからエバンは言った。

=====================================

それから月日は経ち、モーリアがエバンのもとに来てから3か月が経った。エバンの心配をよそに彼女は周りの騎士とも随分と仲良くなり、レグヌム王国の生活や文化にもだいぶ馴染んできたようだった。

「本日はスドルフ隊長も来ておられる。日ごろの訓練をしかと示すように!」

エバンは訓練場で部下に対してキビキビと指示を出す。普段からも緊迫した雰囲気があるが、騎士団長であるスドルフが来ているということでより一層張りつめた空気が流れていた。訓練が始まると、その空気を循環させるようにスドルフは周りをぐるっと歩き、ときにはアドバイスをかけていた。

「私の杞憂のようだったな。」

一通り見て回ったスドルフは木にもたれながら腕組をして呟く。

「そのようですね。」

エバンは口元を緩めてスドルフのつぶやきに答える。それにスドルフもつられて小さな笑いを出す。

「まぁ、それは何よりか。」

「スドルフ隊長!エバン分隊長!」

エバンたちの後ろでレギナの声がした。2人が振り返ると騎士を連れたレギナが城内から訓練場へと続く廊下から歩いてきた。レギナの姿を見たスドルフとエバンは深々とお辞儀をする。

「これはレギナ姫。どうかされましたか?」

「ええ、少し皆様にご挨拶を共いまして。」

腕組をほどいたスドルフの問いに笑顔でレギナは答えた。レギナはこうして忙しい合間を縫って訓練場に来ることがある。城内で安全とは言え、仮にも一国の姫なので止めるようにレグヌム王は苦言しているのだが、彼女は王族として兵たちに感謝するとこは当たり前のことと半ば強引に押し切っている。それが彼女のいいところだとレグヌム王も知っているので無理に止めないのも事実だが。

「モーリアさんはどちらに?」

「彼女でしたら中央におります。」

キョロキョロとモーリアを探すレギナにエバンは指で示す。レギナに気づいたのか、兵たちは訓練を止めレギナに一礼する。

「レギナ姫もこうしてお見えになられたのだし、時間もいい頃合いだろう。」

スドルフの提案にエバンは黙って首を縦に振る。

「訓練止め!只今より休憩とする!」

=====================================

エバンの号令に騎士たちは手を止めて各々に休み始める。そんなに過酷な訓練内容ではないはずだが、騎士たちの顔には疲労が見えた。これが気の緩みから来ていないとよいのだが。

「エバン、モーリアのところまで案内していただけますか?」

「ええ、もちろんです。」

エバンはレギナを誘導してモーリアのところまで歩みを進める。途中そばを通った騎士たちが皆レギナに深々とお辞儀をする。それにレギナも軽く会釈して応じた。

「モーリア、レギナ姫がお見えだ。」

座って休んでいたモーリアだったが、レギナの姿を見ると目を見開き慌てて立ち上がる。

「これは姫様!・・・私はモーリアと申します。」

「知っていますよ。以前一度お会いしましたね。」

モーリアの慌てぶりに困ったように笑いながらレギナは声をかける。

「覚えていてくださったのですか?」

顔を上げてレギナの言葉に驚いたようにモーリアは言う。

「はい。一応は騎士たちの顔と名前を把握しているつもりです。」

「流石でございます・・・。」

信じられないといった声色でモーリアは返す。確かに王族が一介の騎士の顔や名前など覚えているとは普通思わないだろう。だがレギナは違う。これが彼女が騎士からも信頼を集める一端なのだ。

「それより、今お時間ありますか?いろいろとお話をしたくて。」

「ええ。勿論でございます。」

=====================================

それからはレギナの流れるような質問にモーリアが答えていった。どんな食べ物が好きなのか、趣味は何なのか、レグヌム王国の暮らしには慣れたか―。それは普通、一国の王女が一人の騎士にするようなことではなかった。モーリアもそれを感じ取っており、あまりにも近い位置にいるレギナにどう対応してよいか分からず、気づかれない程度にエバンに視線を送っていた。

(なんだ、女の子らしいところもあるじゃないか。)

エバンは特に何をすることなく、微笑んでそれに応じた。剣を持てば鬼気迫る彼女も、オロオロとうろたえる姿はいかにも可愛らしい女性だった。先程まで険しい顔で剣を振るっていた周りの騎士もそれを見て笑っていた。

「姫様、そろそろ・・・。」

レギナについていた騎士がばつの悪そうな顔でレギナに声をかける。

「もうそんな時間でしたか。分かりました。行きましょうか。」

ちらりとエバンが時計を見るとレギナが来てから30分程しか経っていなかった。長居したというにはあまりにも短い時間だろう。

「モーリアさん、今日はお話しできて楽しかったです。また今度色々聞かせてくださいね?」

「あっ、はいっ!」

レギナはモーリアの手を取って握手をする。まさかの行動に流石のモーリアも声が裏返ってしまっていた。レギナは軽くモーリアに手を振ってその場を後にする。立ち去るレギナの姿が見えなくなるまで、その場にいた騎士が全員頭を下げた。

「エバン分隊長。」

「ん?なんだ?」

「国を治める方が皆あのようなお方だとよいですね。」

エバンは隣にいるモーリアを見て息をのんだ。彼女のその寂しげな表情と声色は今までの付き合いの中でエバンの知らないものだった。彼女が詳しい生い立ちを語りたがらないのは――。もしかしたらその剣技も望まずとも生きるために必要だったのかもしれない。それを察してエバンも掛ける言葉を探る。

「――俺もそう思う。」

結局最適な言葉が見つからなかったエバンは、ポンとモーリアの肩に手を置いて思いを素直に吐き出した。
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