ドロイドベル

ふりかけ大王

文字の大きさ
20 / 26
第4章~青と白~

懇願

しおりを挟む
一瞬の出来事だった。その場にいた誰もが、レギナの心の広さに感動し、気を緩めていた。

――たった一人を除いて。

エバンはいつの間にかモーリアの背後に回り首元に剣を突き付けていた。それには敵はおろか、ステッドたちも唖然とした。

「ステッド、ハーパー、レギナ様をこちらに。」

何の前触れも支持もなかっただけに二人も躊躇っていたが、結局はエバンの眼光に押されて指示に従った。

「エバン、これはどういう・・・。」

レギナはたまらずエバンに説明を求める。だが、それにエバンが応じることはなかった。

「お前らには感謝している。こうしてレギナ様を助け出すことができた。だが、これは別問題だ。」

「――モーリアをどうするつもりだ。」

空気は一転していた。もう仲間だという認識はエバンもフラティスも抱いてはいなかった。フラティスの凄みある声にエバンは動じることなく続ける。

「こいつとの関係や事情を説明してもらう。場合によってはこのまま見過ごすわけにはいかない。」

「それは俺たちを敵に回すということか?いくらお前さんが強くても分が悪いと思うが?」

エバンに理性的にフラティスは返す。この男は抜けていそうに見えても、物事を冷静に判断できる頭の切れを持っていた。

それでも彼の部下たちはそうもいかないようで、エバンに対し頭に血が上ったように怒りに満ちた顔で睨んでいた。中にはいつでも開戦できるように剣の柄に手をかけているものさえいた。

(――フラティスの言っていることはもっともだ。)

エバン自身も正直この申し出は、はったりだった。しかしながら、裏切者のモーリアとつながっている彼らに信頼を置く、ましてや彼らの本拠地に行くのはあまりにも危険すぎる。今ならまだこちらから支配できる権利があるとエバンは考えていた。

「エバン、モーリアさんは私を助けてくれました。それ以上に証拠はいらないでしょう?」

エバンの隣に連れてこられたレギナが凛とした態度でエバンを諭す。確かにレギナを助けることができたのはモーリアの協力があったからに違いないだろう。しかし、このような事態を招いたのも彼女であるのも事実で―ー。

「・・・あ、青の、王国に、行けば、・・・私から、話、ます。」

エバンの腕の中、絶え絶えの声でモーリアは言う。

「――それだけでは信じられないな。」

見るに堪えないというレギナの顔を見るのは辛いが、レグヌム王国の騎士としてレギナの安全が第一だ、そのためならエバンはレギナに嫌われようとも、鬼になろうとも構わなかった。

「こ、これを。」

もぞもぞとモーリアは胸元から首元に下げていたものを取り出す。

「モーリア、それは・・・!」

モーリアがエバンに差し出したのは、小さな鈴のようなものだった。エバンにはただの装飾品にしか見えなかったが、フラティスの反応を見る限り彼女にとっても相当大事なもののようだ。

「これは、私の、命より、大事、なものです。」

「・・・。」

エバンはモーリアの首元からそれを外し取る。モーリアはそれを子供と離れる母親のような顔をして見つめていた。

(この反応からして、十分な交渉材料か。)

エバンはそれをズボンのポケットにしまい込むと、モーリアを解放した。

「モーリアさん!」

よろけるモーリアにレギナが近寄づこうとしたが、それよりも早くフラティスが彼女の体を支える。

「エバン、これでいいだろう?」

「――あぁ。」

エバンは剣を鞘に納めた。

=====================================

一触即発な空気は何とか避けたものの、和気あいあいとした雰囲気は消え去り、重々しい見えない壁によってエバンとフラティスの両陣営が分かれていた。

馬車にはレギナとモーリアが乗っている。これはレギナの申し出で、勿論エバンはモーリアとの相乗りを反対したのだが、彼女の強い意志で押し切られた。この行動は、結果として両陣営の緩衝材として大きく貢献した。

レギナは馬車の中で仰向けになるモーリアを見て、息をついた。外を見ればエバンがすぐ近くにいる。だが、彼は自分の知っている彼とは大きく違っていた。いつもの優しいなりは影を潜めて、まるで別人のように見えた。

――生まれて初めて彼を怖いと思った。

レギナは服の裾をぎゅっとつかんでモーリアを見ていた。

=====================================

「・・・。」

アドラムはエバンたちが去っていったあとを呆然と見ていた。後を追うようにしてきた兵士たちが声をかけることができず心配そうに見つめる。

「まぁ、しょうがないか。」

自分にも言い聞かすように兵士たちに言う。

「そうだ、さっきの二人はいるかな?」

兵士たちがざわめく。その中から、恐る恐るモーリアたちを最初に見つけた二人組の騎士が前に出る。

「――いかなる処罰も受けます。」

覚悟を決めたようにアドラムの前にひざまずいた。言葉こそ腹をくくったように聞こえたが、アドラムは彼らの恐れからくるほんの僅かな声、そして体の震えに気づいていた。

「次の機会に頑張ってもらえればそれでいいよ。」

下を向く兵士の肩をポンと叩いてアドラムは城の奥に進んでいった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

サディストの私がM男を多頭飼いした時のお話

トシコ
ファンタジー
素人の女王様である私がマゾの男性を飼うのはリスクもありますが、生活に余裕の出来た私には癒しの空間でした。結婚しないで管理職になった女性は周りから見る目も厳しく、私は自分だけの城を作りまあした。そこで私とM男の週末の生活を祖紹介します。半分はノンフィクション、そして半分はフィクションです。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...