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第4章~青と白~
懇願
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一瞬の出来事だった。その場にいた誰もが、レギナの心の広さに感動し、気を緩めていた。
――たった一人を除いて。
エバンはいつの間にかモーリアの背後に回り首元に剣を突き付けていた。それには敵はおろか、ステッドたちも唖然とした。
「ステッド、ハーパー、レギナ様をこちらに。」
何の前触れも支持もなかっただけに二人も躊躇っていたが、結局はエバンの眼光に押されて指示に従った。
「エバン、これはどういう・・・。」
レギナはたまらずエバンに説明を求める。だが、それにエバンが応じることはなかった。
「お前らには感謝している。こうしてレギナ様を助け出すことができた。だが、これは別問題だ。」
「――モーリアをどうするつもりだ。」
空気は一転していた。もう仲間だという認識はエバンもフラティスも抱いてはいなかった。フラティスの凄みある声にエバンは動じることなく続ける。
「こいつとの関係や事情を説明してもらう。場合によってはこのまま見過ごすわけにはいかない。」
「それは俺たちを敵に回すということか?いくらお前さんが強くても分が悪いと思うが?」
エバンに理性的にフラティスは返す。この男は抜けていそうに見えても、物事を冷静に判断できる頭の切れを持っていた。
それでも彼の部下たちはそうもいかないようで、エバンに対し頭に血が上ったように怒りに満ちた顔で睨んでいた。中にはいつでも開戦できるように剣の柄に手をかけているものさえいた。
(――フラティスの言っていることはもっともだ。)
エバン自身も正直この申し出は、はったりだった。しかしながら、裏切者のモーリアとつながっている彼らに信頼を置く、ましてや彼らの本拠地に行くのはあまりにも危険すぎる。今ならまだこちらから支配できる権利があるとエバンは考えていた。
「エバン、モーリアさんは私を助けてくれました。それ以上に証拠はいらないでしょう?」
エバンの隣に連れてこられたレギナが凛とした態度でエバンを諭す。確かにレギナを助けることができたのはモーリアの協力があったからに違いないだろう。しかし、このような事態を招いたのも彼女であるのも事実で―ー。
「・・・あ、青の、王国に、行けば、・・・私から、話、ます。」
エバンの腕の中、絶え絶えの声でモーリアは言う。
「――それだけでは信じられないな。」
見るに堪えないというレギナの顔を見るのは辛いが、レグヌム王国の騎士としてレギナの安全が第一だ、そのためならエバンはレギナに嫌われようとも、鬼になろうとも構わなかった。
「こ、これを。」
もぞもぞとモーリアは胸元から首元に下げていたものを取り出す。
「モーリア、それは・・・!」
モーリアがエバンに差し出したのは、小さな鈴のようなものだった。エバンにはただの装飾品にしか見えなかったが、フラティスの反応を見る限り彼女にとっても相当大事なもののようだ。
「これは、私の、命より、大事、なものです。」
「・・・。」
エバンはモーリアの首元からそれを外し取る。モーリアはそれを子供と離れる母親のような顔をして見つめていた。
(この反応からして、十分な交渉材料か。)
エバンはそれをズボンのポケットにしまい込むと、モーリアを解放した。
「モーリアさん!」
よろけるモーリアにレギナが近寄づこうとしたが、それよりも早くフラティスが彼女の体を支える。
「エバン、これでいいだろう?」
「――あぁ。」
エバンは剣を鞘に納めた。
=====================================
一触即発な空気は何とか避けたものの、和気あいあいとした雰囲気は消え去り、重々しい見えない壁によってエバンとフラティスの両陣営が分かれていた。
馬車にはレギナとモーリアが乗っている。これはレギナの申し出で、勿論エバンはモーリアとの相乗りを反対したのだが、彼女の強い意志で押し切られた。この行動は、結果として両陣営の緩衝材として大きく貢献した。
レギナは馬車の中で仰向けになるモーリアを見て、息をついた。外を見ればエバンがすぐ近くにいる。だが、彼は自分の知っている彼とは大きく違っていた。いつもの優しいなりは影を潜めて、まるで別人のように見えた。
――生まれて初めて彼を怖いと思った。
レギナは服の裾をぎゅっとつかんでモーリアを見ていた。
=====================================
「・・・。」
アドラムはエバンたちが去っていったあとを呆然と見ていた。後を追うようにしてきた兵士たちが声をかけることができず心配そうに見つめる。
「まぁ、しょうがないか。」
自分にも言い聞かすように兵士たちに言う。
「そうだ、さっきの二人はいるかな?」
兵士たちがざわめく。その中から、恐る恐るモーリアたちを最初に見つけた二人組の騎士が前に出る。
「――いかなる処罰も受けます。」
覚悟を決めたようにアドラムの前にひざまずいた。言葉こそ腹をくくったように聞こえたが、アドラムは彼らの恐れからくるほんの僅かな声、そして体の震えに気づいていた。
「次の機会に頑張ってもらえればそれでいいよ。」
下を向く兵士の肩をポンと叩いてアドラムは城の奥に進んでいった。
――たった一人を除いて。
エバンはいつの間にかモーリアの背後に回り首元に剣を突き付けていた。それには敵はおろか、ステッドたちも唖然とした。
「ステッド、ハーパー、レギナ様をこちらに。」
何の前触れも支持もなかっただけに二人も躊躇っていたが、結局はエバンの眼光に押されて指示に従った。
「エバン、これはどういう・・・。」
レギナはたまらずエバンに説明を求める。だが、それにエバンが応じることはなかった。
「お前らには感謝している。こうしてレギナ様を助け出すことができた。だが、これは別問題だ。」
「――モーリアをどうするつもりだ。」
空気は一転していた。もう仲間だという認識はエバンもフラティスも抱いてはいなかった。フラティスの凄みある声にエバンは動じることなく続ける。
「こいつとの関係や事情を説明してもらう。場合によってはこのまま見過ごすわけにはいかない。」
「それは俺たちを敵に回すということか?いくらお前さんが強くても分が悪いと思うが?」
エバンに理性的にフラティスは返す。この男は抜けていそうに見えても、物事を冷静に判断できる頭の切れを持っていた。
それでも彼の部下たちはそうもいかないようで、エバンに対し頭に血が上ったように怒りに満ちた顔で睨んでいた。中にはいつでも開戦できるように剣の柄に手をかけているものさえいた。
(――フラティスの言っていることはもっともだ。)
エバン自身も正直この申し出は、はったりだった。しかしながら、裏切者のモーリアとつながっている彼らに信頼を置く、ましてや彼らの本拠地に行くのはあまりにも危険すぎる。今ならまだこちらから支配できる権利があるとエバンは考えていた。
「エバン、モーリアさんは私を助けてくれました。それ以上に証拠はいらないでしょう?」
エバンの隣に連れてこられたレギナが凛とした態度でエバンを諭す。確かにレギナを助けることができたのはモーリアの協力があったからに違いないだろう。しかし、このような事態を招いたのも彼女であるのも事実で―ー。
「・・・あ、青の、王国に、行けば、・・・私から、話、ます。」
エバンの腕の中、絶え絶えの声でモーリアは言う。
「――それだけでは信じられないな。」
見るに堪えないというレギナの顔を見るのは辛いが、レグヌム王国の騎士としてレギナの安全が第一だ、そのためならエバンはレギナに嫌われようとも、鬼になろうとも構わなかった。
「こ、これを。」
もぞもぞとモーリアは胸元から首元に下げていたものを取り出す。
「モーリア、それは・・・!」
モーリアがエバンに差し出したのは、小さな鈴のようなものだった。エバンにはただの装飾品にしか見えなかったが、フラティスの反応を見る限り彼女にとっても相当大事なもののようだ。
「これは、私の、命より、大事、なものです。」
「・・・。」
エバンはモーリアの首元からそれを外し取る。モーリアはそれを子供と離れる母親のような顔をして見つめていた。
(この反応からして、十分な交渉材料か。)
エバンはそれをズボンのポケットにしまい込むと、モーリアを解放した。
「モーリアさん!」
よろけるモーリアにレギナが近寄づこうとしたが、それよりも早くフラティスが彼女の体を支える。
「エバン、これでいいだろう?」
「――あぁ。」
エバンは剣を鞘に納めた。
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一触即発な空気は何とか避けたものの、和気あいあいとした雰囲気は消え去り、重々しい見えない壁によってエバンとフラティスの両陣営が分かれていた。
馬車にはレギナとモーリアが乗っている。これはレギナの申し出で、勿論エバンはモーリアとの相乗りを反対したのだが、彼女の強い意志で押し切られた。この行動は、結果として両陣営の緩衝材として大きく貢献した。
レギナは馬車の中で仰向けになるモーリアを見て、息をついた。外を見ればエバンがすぐ近くにいる。だが、彼は自分の知っている彼とは大きく違っていた。いつもの優しいなりは影を潜めて、まるで別人のように見えた。
――生まれて初めて彼を怖いと思った。
レギナは服の裾をぎゅっとつかんでモーリアを見ていた。
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「・・・。」
アドラムはエバンたちが去っていったあとを呆然と見ていた。後を追うようにしてきた兵士たちが声をかけることができず心配そうに見つめる。
「まぁ、しょうがないか。」
自分にも言い聞かすように兵士たちに言う。
「そうだ、さっきの二人はいるかな?」
兵士たちがざわめく。その中から、恐る恐るモーリアたちを最初に見つけた二人組の騎士が前に出る。
「――いかなる処罰も受けます。」
覚悟を決めたようにアドラムの前にひざまずいた。言葉こそ腹をくくったように聞こえたが、アドラムは彼らの恐れからくるほんの僅かな声、そして体の震えに気づいていた。
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