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番外編
君と一緒に8(誠也視点)
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「誠也は強引なところがあるから、美咲さんを困らせてるだろう」
祖父ちゃんはにやにやと笑いながら美咲ちゃんに訊ね、ちらりと俺の方を見る。
「そうですね。いえ、その、誠也君はいつも優しいです」
美咲ちゃんは一瞬肯定の言葉を挟んだ後に、ごまかすようにそう言った。
「いやいや、ごまかさなくていいよ」
「祖父ちゃん!」
祖父ちゃんが美咲ちゃんに妙なことを吹き込まないか、はらはらしてしまう。やっと付き合ってもらったのに、幻滅されて「別れる」なんて言い出されたら――どこかに閉じ込めるしかなくなってしまう。
でも監禁は可哀想だな。優しい美咲ちゃんのことだ、子供ができたら逃げないかな。強引に作ってしまった方がいい?
「……誠ちゃん、顔怖い」
小声で美咲ちゃんに言われ、僕はハッとなる。ちらりと見た美咲ちゃんは、なんだか呆れた顔をしていた。
「祖父ちゃんも人のこと言えないじゃん。祖母ちゃんとの馴れ初めとか……」
「いや、うん。まぁ、それは置いておこう」
今度は祖父ちゃんが、僕の言葉を慌てて遮る。祖父ちゃんも祖母ちゃんをかなり強引な手段で手に入れたのだけれど――まぁ、僕と似たりよったりではある。
「お祖母様との馴れ初め、気になります」
美咲ちゃんはきらきらと目を輝かせるけれど、聞いたらたぶんドン引きすると思うよ……
「美咲ちゃん、祖父ちゃんと僕は恋愛面では割と似通ってるんだけど。それでも聞きたい?」
「……え?」
ぽかんとした顔で僕を見た後に、美咲ちゃんはすべてを理解したようでぶんぶんと首を横に振った。そんな美咲ちゃんと見て、祖父ちゃんは気まずそうに目を逸している。
「……恋愛面だけじゃなくて、いろいろなところが誠也は俺と似とる。軟弱だった浩文とは大違いだ」
祖父ちゃんはそう言うと、酒をぐいっと煽った。……そろそろ飲みすぎなんじゃないだろうか。ちなみに浩文というのはうちの父である。
「だから、誠也が会社を継いでくれればいいんだがなぁ」
「祖父ちゃんは、世襲で会社を継ぐ人間を選ばないんだろう」
「当然だ。卒業後うちに入社するのなら、他の社員と一緒に扱う。その上で贔屓目なく、見込みがあれば……という話だ」
「……やだ、面倒」
――そういうのは、美咲ちゃんも嫌がるだろうし。
僕はその言葉を飲み込む。これを口にしたら、祖父ちゃんは『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』とばかりに美咲ちゃんを抱き込みにかかるはずだ。
「僕の将来のため」なんていう耳触りのいい言葉を使いながら。
そうすれば気の弱い美咲ちゃんは、苦しむだろう。
会社の経営自体はやりがいがありそうだなって正直思うし、興味もある。
だけど僕の存在自体が美咲ちゃんの重荷になっているのだ。これ以上の重荷は、背負わせられない。
ちらりと美咲ちゃんをみると、すでになにかを考え込んでいるようだった。彼女がマイナス思考の沼に入る前に、なんとかしないとな。
「美咲ちゃん、僕の海老天食べる?」
「え、いいの?」
「うん、食べて食べて。美味しい! って顔して食べる美咲ちゃんを見るのが、大好きだから」
「……ありがとう、誠ちゃん」
美咲ちゃんはへにゃりと笑うと、僕が口まで運んだ海老天を祖父ちゃんの方を気にしながら、恥ずかしそうに口にした。
「美味しい」
そして、嬉しそうに笑う。
うん、可愛いなぁ。僕はこの笑顔が曇ることは、なに一つする気がないんだ。
祖父ちゃんのことなんて関係ないふつうの会社に就職して、ふつうの生活をする。
美咲ちゃんはそっちの方が、嬉しいはずだ。
「美咲さんは、どう思う?」
「……私、ですか?」
祖父ちゃんに問われ、美咲ちゃんは困った顔になった。
せっかく気を逸したのに、祖父ちゃんめ。僕は恨めしい気持ちになる。
美咲ちゃんは大きな瞳を数度ぱちぱちとさせる。そして少しだけ沈黙した後に――
「誠ちゃんがやりたいなら、私はそれを支えたいです」
祖父ちゃんの方をまっすぐに向いて、きっぱりとそう言ったのだった。
☆
祖父ちゃんは、すっかり美咲ちゃんを気に入ったようだった。
ご機嫌に話しかけ、美咲ちゃんの返答に嬉しそうに頷き……そして酔い潰れた。
そんな祖父ちゃんを迎えの車に押し込んで、僕らもタクシーで帰途に就く。
行きはあんなに震えていた美咲ちゃんは、今は驚くくらいに落ち着いていて――僕はそれが、寂しいと思ってしまった。
「……美咲ちゃんいいの、あんなこと言って。祖父ちゃんは真に受けるよ?」
「あんなこと?」
美咲ちゃんはきょとんと首を傾げる。
「僕を支えるって話」
苦い顔をしながら言う僕を見て、美咲ちゃんは目を丸くした後に――なんだか大人びた笑みを浮かべた。
「支えたいのは本当だよ? 私なんかが誠ちゃんと一緒にいていいのかなって、まだ時々思うけれど。そう思ってばかりじゃいけないなって……思ったの。誠ちゃんがやりたことがあるなら、そのお手伝いをちゃんとしたい。誠ちゃんはバカな私を守ってくれようとするだろうけど……それだけじゃ、嫌だなって」
そう言って美咲ちゃんは僕の肩に頭を寄せた。髪を撫でるとさらりとした感触が手に伝わってくる。
「美咲ちゃん……」
胸中でいくつもの気持ちが渦巻く。
弱いままの美咲ちゃんを僕だけが守りたい。
強くなった美咲ちゃんは、僕のところからいなくなりそうで怖い。
だけど僕の隣に居ようとしてくれる、その美しい覚悟が嬉しい。
――どんな彼女でも……愛おしい。
沈黙に気づいた美咲ちゃんは、優しく僕の頬を撫でる。
そして――
「ずっと一緒だよ、誠ちゃん」
僕の不安を蕩かす言葉を、優しい笑みを浮かべながら言ったのだった。
美咲ちゃんには、本当に敵わない。
僕の隣に立つ覚悟をしてくれた彼女のために……僕も頑張らないとな。
「……美咲ちゃん。頑張ることを許してくれる?」
「うん、一緒に頑張るね」
大きな瞳をまっすぐに見つめて訊ねると、美咲ちゃんははにかみながら頷いてくれる。
「苦労をかけたら、ごめんね」
たぶん、かける。
祖父ちゃんはスパルタだから、会社に入れば家に帰れないことも多いだろう。
「大丈夫。たまに泣いちゃうかもしれないけど……その時は慰めて」
「それは、いつでも。僕もたまに不安になるだろうから、慰めて」
「うん、もちろん!」
僕たちは顔を見合わせ、笑い合って、そっと手を繋ぎあった。
手の中の柔らかな感触を感じながら、僕はこの子を幸せにしたいと……心から思った。
祖父ちゃんはにやにやと笑いながら美咲ちゃんに訊ね、ちらりと俺の方を見る。
「そうですね。いえ、その、誠也君はいつも優しいです」
美咲ちゃんは一瞬肯定の言葉を挟んだ後に、ごまかすようにそう言った。
「いやいや、ごまかさなくていいよ」
「祖父ちゃん!」
祖父ちゃんが美咲ちゃんに妙なことを吹き込まないか、はらはらしてしまう。やっと付き合ってもらったのに、幻滅されて「別れる」なんて言い出されたら――どこかに閉じ込めるしかなくなってしまう。
でも監禁は可哀想だな。優しい美咲ちゃんのことだ、子供ができたら逃げないかな。強引に作ってしまった方がいい?
「……誠ちゃん、顔怖い」
小声で美咲ちゃんに言われ、僕はハッとなる。ちらりと見た美咲ちゃんは、なんだか呆れた顔をしていた。
「祖父ちゃんも人のこと言えないじゃん。祖母ちゃんとの馴れ初めとか……」
「いや、うん。まぁ、それは置いておこう」
今度は祖父ちゃんが、僕の言葉を慌てて遮る。祖父ちゃんも祖母ちゃんをかなり強引な手段で手に入れたのだけれど――まぁ、僕と似たりよったりではある。
「お祖母様との馴れ初め、気になります」
美咲ちゃんはきらきらと目を輝かせるけれど、聞いたらたぶんドン引きすると思うよ……
「美咲ちゃん、祖父ちゃんと僕は恋愛面では割と似通ってるんだけど。それでも聞きたい?」
「……え?」
ぽかんとした顔で僕を見た後に、美咲ちゃんはすべてを理解したようでぶんぶんと首を横に振った。そんな美咲ちゃんと見て、祖父ちゃんは気まずそうに目を逸している。
「……恋愛面だけじゃなくて、いろいろなところが誠也は俺と似とる。軟弱だった浩文とは大違いだ」
祖父ちゃんはそう言うと、酒をぐいっと煽った。……そろそろ飲みすぎなんじゃないだろうか。ちなみに浩文というのはうちの父である。
「だから、誠也が会社を継いでくれればいいんだがなぁ」
「祖父ちゃんは、世襲で会社を継ぐ人間を選ばないんだろう」
「当然だ。卒業後うちに入社するのなら、他の社員と一緒に扱う。その上で贔屓目なく、見込みがあれば……という話だ」
「……やだ、面倒」
――そういうのは、美咲ちゃんも嫌がるだろうし。
僕はその言葉を飲み込む。これを口にしたら、祖父ちゃんは『将を射んと欲すれば先ず馬を射よ』とばかりに美咲ちゃんを抱き込みにかかるはずだ。
「僕の将来のため」なんていう耳触りのいい言葉を使いながら。
そうすれば気の弱い美咲ちゃんは、苦しむだろう。
会社の経営自体はやりがいがありそうだなって正直思うし、興味もある。
だけど僕の存在自体が美咲ちゃんの重荷になっているのだ。これ以上の重荷は、背負わせられない。
ちらりと美咲ちゃんをみると、すでになにかを考え込んでいるようだった。彼女がマイナス思考の沼に入る前に、なんとかしないとな。
「美咲ちゃん、僕の海老天食べる?」
「え、いいの?」
「うん、食べて食べて。美味しい! って顔して食べる美咲ちゃんを見るのが、大好きだから」
「……ありがとう、誠ちゃん」
美咲ちゃんはへにゃりと笑うと、僕が口まで運んだ海老天を祖父ちゃんの方を気にしながら、恥ずかしそうに口にした。
「美味しい」
そして、嬉しそうに笑う。
うん、可愛いなぁ。僕はこの笑顔が曇ることは、なに一つする気がないんだ。
祖父ちゃんのことなんて関係ないふつうの会社に就職して、ふつうの生活をする。
美咲ちゃんはそっちの方が、嬉しいはずだ。
「美咲さんは、どう思う?」
「……私、ですか?」
祖父ちゃんに問われ、美咲ちゃんは困った顔になった。
せっかく気を逸したのに、祖父ちゃんめ。僕は恨めしい気持ちになる。
美咲ちゃんは大きな瞳を数度ぱちぱちとさせる。そして少しだけ沈黙した後に――
「誠ちゃんがやりたいなら、私はそれを支えたいです」
祖父ちゃんの方をまっすぐに向いて、きっぱりとそう言ったのだった。
☆
祖父ちゃんは、すっかり美咲ちゃんを気に入ったようだった。
ご機嫌に話しかけ、美咲ちゃんの返答に嬉しそうに頷き……そして酔い潰れた。
そんな祖父ちゃんを迎えの車に押し込んで、僕らもタクシーで帰途に就く。
行きはあんなに震えていた美咲ちゃんは、今は驚くくらいに落ち着いていて――僕はそれが、寂しいと思ってしまった。
「……美咲ちゃんいいの、あんなこと言って。祖父ちゃんは真に受けるよ?」
「あんなこと?」
美咲ちゃんはきょとんと首を傾げる。
「僕を支えるって話」
苦い顔をしながら言う僕を見て、美咲ちゃんは目を丸くした後に――なんだか大人びた笑みを浮かべた。
「支えたいのは本当だよ? 私なんかが誠ちゃんと一緒にいていいのかなって、まだ時々思うけれど。そう思ってばかりじゃいけないなって……思ったの。誠ちゃんがやりたことがあるなら、そのお手伝いをちゃんとしたい。誠ちゃんはバカな私を守ってくれようとするだろうけど……それだけじゃ、嫌だなって」
そう言って美咲ちゃんは僕の肩に頭を寄せた。髪を撫でるとさらりとした感触が手に伝わってくる。
「美咲ちゃん……」
胸中でいくつもの気持ちが渦巻く。
弱いままの美咲ちゃんを僕だけが守りたい。
強くなった美咲ちゃんは、僕のところからいなくなりそうで怖い。
だけど僕の隣に居ようとしてくれる、その美しい覚悟が嬉しい。
――どんな彼女でも……愛おしい。
沈黙に気づいた美咲ちゃんは、優しく僕の頬を撫でる。
そして――
「ずっと一緒だよ、誠ちゃん」
僕の不安を蕩かす言葉を、優しい笑みを浮かべながら言ったのだった。
美咲ちゃんには、本当に敵わない。
僕の隣に立つ覚悟をしてくれた彼女のために……僕も頑張らないとな。
「……美咲ちゃん。頑張ることを許してくれる?」
「うん、一緒に頑張るね」
大きな瞳をまっすぐに見つめて訊ねると、美咲ちゃんははにかみながら頷いてくれる。
「苦労をかけたら、ごめんね」
たぶん、かける。
祖父ちゃんはスパルタだから、会社に入れば家に帰れないことも多いだろう。
「大丈夫。たまに泣いちゃうかもしれないけど……その時は慰めて」
「それは、いつでも。僕もたまに不安になるだろうから、慰めて」
「うん、もちろん!」
僕たちは顔を見合わせ、笑い合って、そっと手を繋ぎあった。
手の中の柔らかな感触を感じながら、僕はこの子を幸せにしたいと……心から思った。
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これで完結ですか?番外編があればぜひ読みたいですね🎵二人のその後とか見たいです❗これからも応援してますので面白いのお願いいたします。頑張って下さい‼️
とても温かな物語で、幸せな気持ちになりました。
読ませて頂いて有難うございました。
お餅の妖精 初めて聞きました(笑)誠ちゃんの超溺愛っぷり!楽しいです(笑)これから どうなるのでしょうか?