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令嬢13歳・初めての女友達と出会う

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話しかけてきた赤い髪の女生徒はくりくりした綺麗なハシバミ色の瞳をキラキラと輝かせてこちらに向け、返事を待っているようだった。
背は低めで童顔。制服の上着の前を大きく開け、かなりの着崩し具合で着ている。
そして、巨乳。わーロリ巨乳だ…羨ましい。
わたくしが、自分の胸に目をやると、相変わらずストン、としていた。貧しい。
それにしても…王子が居るこの卓に気軽に声を掛けて来るなんて、どこの家の方なのかしら?
学園用の貴族名鑑に…こんな特徴の貴族は載っていた…?
わたくしは思考を巡らせたが記憶から引き出せない。
気軽に王族や高位貴族に声をかけて来る身分のこんなに特徴的な容姿の子であれば、覚えているはずなのに。

「ミルカ王女。見ての通り皆でお茶を楽しんでいるんだよ。君もどうかな?」

フィリップ王子が彼女を見て微笑んで言った。おお、余所行き顔だ。
ミルカ王女…?他国の、王女様なの?
なるほど『学園に通うこの国の貴族の家名と特徴を記載した』貴族名鑑に載っていない訳だ。
特別欄を作って記載しておけばいいのに…と思わず毒づきそうになる。

「ビアンカ嬢とマクシミリアンは初対面だよね。この方はパラディスコ王国から留学に来てらっしゃる、ミルカ王女だよ」

ノエル様が彼女の事を紹介してくれた。

――――パラディスコ、王国!?

わたくしの、スローライフ候補ドラフト1位の、パラディスコ王国!?!?

「始めまして~。ビアンカ嬢とマクシミリアンって言うの?宜しくね」

彼女は赤い髪をふわふわと揺らしながら、にっこりと南国の太陽のように笑った。
……彼女と……仲良くなりたい。
かの国のお話を沢山聞きたい。思わず武者震いで体が震える。
ああ、どうしよう、他国の王女様にお話を聞きたいだなんて。
どう切り出せばいいの。

「シュラット侯爵家のビアンカ・シュラットと申しますわ。お見知りおきを、ミルカ王女」

わたくしは席を立ってカーテシーをする。マクシミリアンも隣で丁寧な仕草で礼を取った。
高鳴る胸と、踊る気持ちが抑えられない。

「あっ、あの…。わたくしパラディスコ王国にとても興味がございますの。ミルカ王女のご都合が良い時に…お話をお聞かせ願えますと嬉しいですわ」

挨拶に立て続けてミルカ王女に話しかけてしまう。ああ、不敬にならないかしら…。
フィリップ王子は丸い目でこちらを見ていて、マクシミリアンは何故かなるほど、みたいな顔でこちらを見ている。
ノエル様はマイペースにガトーショコラを食べている。これ、何皿目なんだろう。
騎士訓練でカロリーをかなり使うのか、彼はよく食べる。あっ、また頼んでる。

「いいよーどんな話が聞きたいの?」

にこにこと、人好きする笑みを浮かべてミルカ王女が言う。
なんていい方なの…!

「パラディスコ王国の農業と漁業のお話が聞きたいのです!」

他にも色々聞きたい事がある。物資の流通経路とか、パラディスコ王国内で1番発展している都市の話とか、物価の話とか…。
ああ、学園でまさかパラディスコ王国の生き字引的な情報源と出会えるなんて!

「ふふ、こんな可愛い子にうちの国に興味を持って貰えるなんて嬉しいなぁ。じゃあ、今度図書室でお話しよ?本を見ながら色々教えてあげる」

ウインクして言う彼女に、わたくしはぶんぶんと勢いよく首を縦に振った。
パラディスコ王国の情報も嬉しいんだけど、やっと…やっと女の子と過ごせるんだ…!

「あの……」

あと1つ、ミルカ王女にお願いをしたい。これこそ、不敬かもしれないけど。
思わずもじもじとしながら、話かけてしまう。

「なぁにー?」

ミルカ王女がふにゃん、と笑いながら聞き返してくる。
ああ…なんてお可愛らしい…。

「ミルカ王女にご迷惑で無いのでしたら…。おっ…お友達に…なって下さいませんか…?わたくし、恥ずかしながら女の子のお友達が居なくて…。王女様に失礼だとは…思うんですけど…」

断られたら、その時だ。
口に出すと友達が居ない、って恥ずかしいなぁ、チクショー。

「お友達?いいよー!貴女みたいな可愛い子とお友達なんて、嬉しい!」

ミルカ王女が気さくに言ってくれて、ほっとする。
それに女の子に可愛いって言われると何故かとっても嬉しいのね!心がほっこりするわ。

「ビアンカ。どうして女友達が居ないんだ?」

フィリップ王子がキョトン、と首を傾げる。
やめて、どうして追い打ちを掛けるの!?傷つくわよ!
それに理由は知らない、わたくしも聞きたいくらいなの。

「…わたくしの…性格が悪く見えるから…かしら?」

父様も、美しいけれど怖いお顔だってよく言われるのだけど…。
その父様にわたくしは、よく似ているのだ。
学園入学前に…お茶会に行ってお友達を作ろうと頑張ってみた事もあったんだけど。
何故かね。皆、もじもじして縮こまっちゃうの。
わたくしのこのお顔はそんなに怖いんだろうか…。
しかも、入学早々望んではいないけれど男爵家令嬢と揉めているし。

「ビアンカ嬢は、容姿が綺麗すぎなの。そんで年相応じゃないと言うか…達観してる雰囲気があるでしょ?だから…同い年ってよりもお姉様?百合?そんな感じで近寄り辛いんだと思うよ。付き合いが長いと年相応な部分もちゃんと見えるけどさ」

まくまくと、チーズケーキを食べながらノエル様が言う。
う…それは…。積み重ねた人生経験が皆よりも長いからで…。
それにしても、ノエル様…百合なんて単語どこで覚えて来たの?

「そんで実力テストでもぶっちぎりの成績取っちゃったでしょ?だから尚更高嶺の花感出ちゃったよね」

そうだった…入学早々の実力テストでわたくし、全教科ぶっちぎりで1位を取ってしまったのだ。
自宅学習し過ぎた…のよね、うん。お勉強楽しいんだもの。
本当なら王子がぶっちぎりで1位を取ってヒロインが無邪気に褒めるみたいなイベントがあったんだっけ?
知らないうちにまたシュミナ嬢のイベントを潰してしまっていた事に今更気づく。絡んで来る訳だ。
ちなみに王子は2位で、シュミナ嬢は下位の真ん中くらいの成績だった。
『俺のビアンカはすごいな!』とフィリップ王子にわたくしが褒められたわね…そう言えば。
しかし高嶺の花って……わたくしそんな大層な存在じゃない。中身はただの野生児だ。

「まぁ皆ビアンカ嬢が優しい女の子だってすぐ気づくだろうし。大丈夫だよ」

そう言ってノエル様はへらっと気楽げな笑いを浮かべて、わたくしの口の中にフォークに刺したチーズケーキを放り込んだ。
これって間接…いや、考えないようにしよう。
それにしても、このチーズケーキ美味しいわね。
学園の食堂やカフェテリアの食材はジョアンナの生家であるストラタス商会からの納品らしいけど…もしかして王子の口利きだったりするのかな。

「ビアンカ。俺のクッキーも食え」

眉間に皺を寄せたフィリップ王子にも問答無用でクッキーを口に放り込まれる。
ちょっと、太るから…!最近お腹周りが怪しいのよ!
あっ…でもこのクッキーも美味しい。

「アルフォンス様もあの外見なので、入学当初は遠巻きに見られてばかりで落ち込んでおられましたし。流石お美しいご兄妹ですね」

マクシミリアンが頭を撫で撫でしながらそんな事を言う。
わ…わたくし、お兄様程美しくないから!
と言うかお兄様、遠巻きに見られてたのね…兄妹揃って遠巻きにされるって…。
そしてマクシミリアン相変わらずの撫でテクニシャン…。
ちょっと、顎まで撫でないで!猫じゃないのよ!

「ノエルの言う理由も勿論あるんだろうけどさぁ~。こんなのが常に4人も集まってたら近寄り辛いって。君ら見た目きらっきらなんだもん」

ミルカ王女が両手でカフェオレのボウルを抱え、ふーふーしながら言う。
その瞬間、わたくしの脳裏に良いアイディアが閃いた。

「じゃあ、皆さまと離れていればお友達が増えるのね!?」
「却下」
「そうだね、それは良くないね。いざと言う時守れないし」
「お嬢様。私は貴女の執事なので離れる事は出来ませんよ?」

良いアイディアだと思ったけれど、皆に異口同音に拒絶された。
解せぬ。



何はともあれ、女の子の友達が、出来たのだ!
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