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祖母の家、そして怪奇な現象2
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「……空気が、こもってない」
少し立て付けの悪い戸を引いて屋内の匂いを嗅いだ私が思ったのは、それだった。
長らく締め切った家って、もっと空気がこもるものなんじゃないだろうか。
賃貸だったら、オーナーや管理会社が空気の入れ替えに来たりもするのだろうけど……ここは正真正銘の持ち家なのである。
一歩足を踏み出して玄関に入り、ぱちりと電気を点けてから私は屋内を眺めた。
古い木の廊下が奥に伸びており、廊下の右側にあるくたびれた襖の先には八畳の部屋が存在する。その八畳間から続くのは、祖母が寝室として使っていたもう一つの八畳間だ。左側に見える木の扉二つはトイレと浴室。廊下の終点には台所があり、そこには昔懐かしの勝手口が存在する。
前に来た時となにかが変わっていなければ……その構造のままのはず。
上がり框に足をかけた時。それがピカピカに磨かれ埃一つ見当たらないことに私は気づいた。
「んん……?」
そしてそれは……廊下も同じくだった。
「ええ……? 誰か管理でもしてるのかな。なにも聞いてないんだけど」
知らない誰かが入り込み、庭までならともかく部屋も手入れをしているなんて……。正直『ありがたい』よりも恐怖が勝る。
知らない誰かと鉢合わせをする想像をして、私はぶるぶると体を震わせた。
だけどここに住まないことには……どうしようもないのだ。
そうだよ。荒らされているのではなく、きちんと手入れがされているわけで。これはきっと近所の住人の純然たる善意だ。そう強く自分に言い聞かせる。家で誰かと鉢合わせをしたとしても、近所の人の良さげなおばあちゃんに違いない。
玄関先に『入居しましたので、手入れはもう不要です』という張り紙をした方がいいのかな……なんて考えていると、玄関チャイムが高らかに鳴らされて私はびくんと体を緊張させた。
「すみませーん。都市ガスの者です」
しかしかけられた声の内容に、ほっと緊張を緩ませる。
そうだ、ガスの開栓の立ち会いがあったんだ。すっかり忘れていたことを反省しつつ、私は表に出た。
そこにいたのは、少し恰幅のいいニコニコと笑うおじさんだった。
「じゃあ、開栓作業の方をさせていただきますので」
「はい、よろしくお願いします」
おじさんはテキパキとガスの開栓作業と、台所への警報機の設置を進めていく。
この付近の担当なのだろうおじさんに、「ここ一年の間に、この家で人を見ましたか?」と訊こうか悩んだけれど……。「いる」と言われても怖かったので、私は質問を喉の奥に飲み込んでしまった。
あっという間に作業を終えたおじさんを見送ってから、私はふーっと息を吐いた。
玄関先に張り紙をしてから……予定通り買い物に行こう。
手前の八畳間の襖を開けると、そこには祖母が存命だった頃のままの部屋が広がっていた。
『えもんかけ』と祖母が呼んでいた和風のハンガーラックのようなもの。重々しい深い色をした大きな座卓。洋服を入れるための桐箪笥と、小さな引き出しがたくさん付いた物入れ。
それらを見ていると懐かしい気持ちが胸に蘇り、口元がふっと緩んでしまう。
「えーっと。お祖母ちゃんはここに筆記用具をしまっていたはず」
物入れを開けると、思った通りに数本のペンとメモ帳などが出てくる。メモ帳をぺりりと剥がしてから『入居したので手入れ不要です』と書いた後に、少し考えてから『一年間お手入れをありがとうございました』と私は書き添えた。
少し立て付けの悪い戸を引いて屋内の匂いを嗅いだ私が思ったのは、それだった。
長らく締め切った家って、もっと空気がこもるものなんじゃないだろうか。
賃貸だったら、オーナーや管理会社が空気の入れ替えに来たりもするのだろうけど……ここは正真正銘の持ち家なのである。
一歩足を踏み出して玄関に入り、ぱちりと電気を点けてから私は屋内を眺めた。
古い木の廊下が奥に伸びており、廊下の右側にあるくたびれた襖の先には八畳の部屋が存在する。その八畳間から続くのは、祖母が寝室として使っていたもう一つの八畳間だ。左側に見える木の扉二つはトイレと浴室。廊下の終点には台所があり、そこには昔懐かしの勝手口が存在する。
前に来た時となにかが変わっていなければ……その構造のままのはず。
上がり框に足をかけた時。それがピカピカに磨かれ埃一つ見当たらないことに私は気づいた。
「んん……?」
そしてそれは……廊下も同じくだった。
「ええ……? 誰か管理でもしてるのかな。なにも聞いてないんだけど」
知らない誰かが入り込み、庭までならともかく部屋も手入れをしているなんて……。正直『ありがたい』よりも恐怖が勝る。
知らない誰かと鉢合わせをする想像をして、私はぶるぶると体を震わせた。
だけどここに住まないことには……どうしようもないのだ。
そうだよ。荒らされているのではなく、きちんと手入れがされているわけで。これはきっと近所の住人の純然たる善意だ。そう強く自分に言い聞かせる。家で誰かと鉢合わせをしたとしても、近所の人の良さげなおばあちゃんに違いない。
玄関先に『入居しましたので、手入れはもう不要です』という張り紙をした方がいいのかな……なんて考えていると、玄関チャイムが高らかに鳴らされて私はびくんと体を緊張させた。
「すみませーん。都市ガスの者です」
しかしかけられた声の内容に、ほっと緊張を緩ませる。
そうだ、ガスの開栓の立ち会いがあったんだ。すっかり忘れていたことを反省しつつ、私は表に出た。
そこにいたのは、少し恰幅のいいニコニコと笑うおじさんだった。
「じゃあ、開栓作業の方をさせていただきますので」
「はい、よろしくお願いします」
おじさんはテキパキとガスの開栓作業と、台所への警報機の設置を進めていく。
この付近の担当なのだろうおじさんに、「ここ一年の間に、この家で人を見ましたか?」と訊こうか悩んだけれど……。「いる」と言われても怖かったので、私は質問を喉の奥に飲み込んでしまった。
あっという間に作業を終えたおじさんを見送ってから、私はふーっと息を吐いた。
玄関先に張り紙をしてから……予定通り買い物に行こう。
手前の八畳間の襖を開けると、そこには祖母が存命だった頃のままの部屋が広がっていた。
『えもんかけ』と祖母が呼んでいた和風のハンガーラックのようなもの。重々しい深い色をした大きな座卓。洋服を入れるための桐箪笥と、小さな引き出しがたくさん付いた物入れ。
それらを見ていると懐かしい気持ちが胸に蘇り、口元がふっと緩んでしまう。
「えーっと。お祖母ちゃんはここに筆記用具をしまっていたはず」
物入れを開けると、思った通りに数本のペンとメモ帳などが出てくる。メモ帳をぺりりと剥がしてから『入居したので手入れ不要です』と書いた後に、少し考えてから『一年間お手入れをありがとうございました』と私は書き添えた。
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