もののけ執事の今日のお夜食

夕日(夕日凪)

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祖母の家、そして怪奇な現象5

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 テッ……テテッ……テッ……

 小さな生き物が軽快に走る時のような音が耳に届く。
 祖母の家では、昔ミイという猫を飼っていた。この音はミイの足音によく似ている。
 だけどミイは……十年も前に虹の橋を渡ってしまったのだ。
 じゃあこの足音はーー『なに』が出している音なんだろうか。

「ん……?」

 重い頭を振って寝ぼけ眼を擦りながら、私は起き上がった。
 周囲はすっかり夜闇に包まれていて、かなりの時間寝てしまったのだと私は気づく。
 手探りでスマホを探して手に取り時間を確認すると、時刻は零時ーーもう深夜になっていた。
 立ち上がり、ぱちりと電気の紐を引っ張る。すると少しの明滅の後に部屋が灯りに照らされた。

「あれ?」

 ずるりと肩からなにかが落ちる。畳に落ちたそれは、しっかりとした重さの毛布だった。
 私、毛布なんて被って寝たっけ? いや……私はまだ寝室の方の部屋には入ってない。毛布を取ってくる余地なんて、あるはずがない。

「え、怖い。どういうことなの」

 家の管理をしてくれている人が、私が眠っている間に来たんだろうか。
 来たのなら起こして欲しかった。性別もわからない人に毛布をかけられているなんて、どう考えても怖すぎる。
 私は震える体を両手で抱きしめながら、どうしていいのかわからなくて立ち尽くしてしまった。

 テテテッ……テッ……

 また足音のような音が聞こえて、びくりと大きく体を震わせる。
 これは一体、『なに』が出す足音なのだろう。
 音の気配を耳で探る。それは天袋の方から、聞こえているような気がした。
 住居には、ハクビシンなどの動物が住み着くことがあるらしい。そんなことをふと思い出す。
 一年無人だった間に、なにかが住み着いてしまったのだろうか。
 恐ろしいけれど……この足音の主をそのままにしておくのはもっと恐ろしい。謎の来訪者もそうだけれど、正体が知れないものはなおさら恐ろしいのだ。
 カラリと窓を開けた後に、部屋の隅にあったホウキを持って天袋に忍び寄る。天袋を開けたら驚いて、窓から外に逃げてくれないかと思ったのだ。部屋の中を駆け回られたら……泣きながら追い回すしかない。
 ホウキの柄の部分を使って、天袋をそっと開ける。だけど、中からなにかが出てくる様子はない。

「ね、ねぇ。なにかいるの?」

 バカバカしいと思いながらも、天袋に呼びかけてみる。けれど返事が当然ない。

「うう。もう……なんなのぉ」

 電車で出会った謎の少女。
 家の管理をしている謎の人物。
 天袋に潜む、謎の生き物。
 この土地に来てから、怖い出来事にばかりに遭っている。一体私がなにをしたと言うんだろう。

『芽衣ちゃん。この世にはね、不思議な者たちがいるのよ』

 祖母の言葉が脳裏に蘇る。
 一連の出来事はお祖母ちゃんの言う『不思議な者たち』の仕業なんだろうか。

「お祖母ちゃん、私……怖いのは嫌だよ」

 恐怖が最高潮に達してしまい、私は震えながら涙をぼたぼたと零してしまった。

 テッテッ……テテテテテテッ……!

 その時。天袋に潜むなにかの足音が大きく響いた。大きく? こちらに近づいてる!?
 天袋からなにが現れるのか、私は目を離せない。
 じりじりとしながらなにかの登場を待っていると、とうとうそれは姿を現した。
 天袋からなにか小さな生き物が駆け出してくる。
 正体をたしかめるより先に、それは私の胸にぶつかってきた。
 その勢いに負けて、私は畳の上に転倒してしまう。

「いったぁ……っ」

 起き上がろうとしたけれど、胸の上がなんだか重い。天袋から出てきたなにかが私の胸に乗っているのだ。
 じわじわと視線を上げていく。するとぱちりと燃えるように赤い瞳と視線がぶつかった。

「え……」

 胸の上に乗っているものの全容を見て、私は目を丸くする。
 それは……尻尾が『六本』生えた、黒い狐だった。
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