18 / 36
もののけ執事とお座敷少女1
しおりを挟む
朝ご飯を食べ終えた座敷ちゃんは、「遊んでくる」と言い残してふっと消えてしまった。
急に出てきたり、急に消えたり……心臓に悪いことこの上ないなぁ。
食器を洗ってから部屋に戻り、座卓の上にノートパソコンを置く。そしてホームwifiを設置したら、仕事の準備は完了である。
引っ越しでバタバタしていたので、昨日はメールのチェックをしていない。
締め切りはまだ先だしなにもきていないだろうな、と思いながらメーラーを立ち上げると……
「あれ? 新着五件? しかも……」
昔仕事した編集プロダクションからの仕事の相談、取引先からの追加発注、SNSを見た会社からの見積もり相談……どれも新規の仕事に関するメールだ。
これが、座敷ちゃん効果か!
そんなことを感動を覚えながら、私はメールへの返信を手早く済ませた。
どの案件も文字単価がよくて、正直とても助かる。
ちなみに私のようなフリーランスのwebライターは、一文字いくらでお仕事を請け負っていることが多い。
そしてその文字単価はライターの経験年数などによって、大きく左右されるのだ。
駆け出しの頃は一文字一円以下のいくら書いてもお金にならない仕事などもやっていたけれど、現在では一文字平均五円から八円程度の単価でやらせてもらっている。
二千文字サイズの記事を一日に一、二本程度納品できればその日は上々……というペースで仕事をしている、と言えば私の収入の想像はつくだろう。
仕事がコンスタントに入りさえすれば、女一人が生きていくにはじゅうぶん足りる。
これからは、家賃分の出費もないわけだし。
「今日は、あの案件を終わらせてしまいたいな……」
テキストソフトを立ち上げる前に、ブラウザを立ち上げる。
今からやるのは『街歩き』に関する記事だ。事前に取材もしているけれど、情報の補足のための調べ物がまだまだ必要だった。
カタカタとキーボードに指を滑らせて、作業に没入していく。
少しずつエンジンがかかっていくこの感覚が、私は好きだ。
そしてそのまま……エンジン全開で走り続けてしまうことも多い。
「芽衣様、まだお仕事をしているのですか?」
そんな声で集中を解かれたのは、二十三時を回った頃合いだった。
声の方を見ると、夜音さんがすぐ隣に立っている。ぜんぜん、気配に気づかなかった……!
「今日中に終わらせたい仕事があって……」
二千四百文字の記事は、現在その三分の二が埋まったくらいだ。調べ物に、思った以上に時間を取られてしまった。
「ご飯はちゃんと食べましたか?」
「いえ、その。……朝は食べました」
「朝から、食べていないんですね」
夜音さんはため息をつくと、私の額をデコピンで弾いた。それは地味に痛い。
「休憩しましょう。休憩をちゃんと取らないと体に悪いですし、効率も下がります」
「はい、そうですね……」
それは元彼にもよく言われていた。『芽衣は根を詰めすぎる時がある』と。
「芽衣様、今日はなにが食べたいですか?」
「……お鍋が、食べたいです」
夜になって空気が冷えていたので、そんな言葉が零れてしまう。
というか、今日も作ってくれるんだ。
「ふむ、台所にあるものでは材料が足りませんね。ちょっとあちらから持ってくるので、待っていてください」
夜音さんはそう言うと、狐姿になって天袋に消える。
そしてしばらくすると、中身がパンパンに詰まったビニール袋を口に咥えてから戻ってきた。
急に出てきたり、急に消えたり……心臓に悪いことこの上ないなぁ。
食器を洗ってから部屋に戻り、座卓の上にノートパソコンを置く。そしてホームwifiを設置したら、仕事の準備は完了である。
引っ越しでバタバタしていたので、昨日はメールのチェックをしていない。
締め切りはまだ先だしなにもきていないだろうな、と思いながらメーラーを立ち上げると……
「あれ? 新着五件? しかも……」
昔仕事した編集プロダクションからの仕事の相談、取引先からの追加発注、SNSを見た会社からの見積もり相談……どれも新規の仕事に関するメールだ。
これが、座敷ちゃん効果か!
そんなことを感動を覚えながら、私はメールへの返信を手早く済ませた。
どの案件も文字単価がよくて、正直とても助かる。
ちなみに私のようなフリーランスのwebライターは、一文字いくらでお仕事を請け負っていることが多い。
そしてその文字単価はライターの経験年数などによって、大きく左右されるのだ。
駆け出しの頃は一文字一円以下のいくら書いてもお金にならない仕事などもやっていたけれど、現在では一文字平均五円から八円程度の単価でやらせてもらっている。
二千文字サイズの記事を一日に一、二本程度納品できればその日は上々……というペースで仕事をしている、と言えば私の収入の想像はつくだろう。
仕事がコンスタントに入りさえすれば、女一人が生きていくにはじゅうぶん足りる。
これからは、家賃分の出費もないわけだし。
「今日は、あの案件を終わらせてしまいたいな……」
テキストソフトを立ち上げる前に、ブラウザを立ち上げる。
今からやるのは『街歩き』に関する記事だ。事前に取材もしているけれど、情報の補足のための調べ物がまだまだ必要だった。
カタカタとキーボードに指を滑らせて、作業に没入していく。
少しずつエンジンがかかっていくこの感覚が、私は好きだ。
そしてそのまま……エンジン全開で走り続けてしまうことも多い。
「芽衣様、まだお仕事をしているのですか?」
そんな声で集中を解かれたのは、二十三時を回った頃合いだった。
声の方を見ると、夜音さんがすぐ隣に立っている。ぜんぜん、気配に気づかなかった……!
「今日中に終わらせたい仕事があって……」
二千四百文字の記事は、現在その三分の二が埋まったくらいだ。調べ物に、思った以上に時間を取られてしまった。
「ご飯はちゃんと食べましたか?」
「いえ、その。……朝は食べました」
「朝から、食べていないんですね」
夜音さんはため息をつくと、私の額をデコピンで弾いた。それは地味に痛い。
「休憩しましょう。休憩をちゃんと取らないと体に悪いですし、効率も下がります」
「はい、そうですね……」
それは元彼にもよく言われていた。『芽衣は根を詰めすぎる時がある』と。
「芽衣様、今日はなにが食べたいですか?」
「……お鍋が、食べたいです」
夜になって空気が冷えていたので、そんな言葉が零れてしまう。
というか、今日も作ってくれるんだ。
「ふむ、台所にあるものでは材料が足りませんね。ちょっとあちらから持ってくるので、待っていてください」
夜音さんはそう言うと、狐姿になって天袋に消える。
そしてしばらくすると、中身がパンパンに詰まったビニール袋を口に咥えてから戻ってきた。
0
あなたにおすすめの小説
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
後宮の偽花妃 国を追われた巫女見習いは宦官になる
gari@七柚カリン
キャラ文芸
旧題:国を追われた巫女見習いは、隣国の後宮で二重に花開く
☆4月上旬に書籍発売です。たくさんの応援をありがとうございました!☆ 植物を慈しむ巫女見習いの凛月には、二つの秘密がある。それは、『植物の心がわかること』『見目が変化すること』。
そんな凛月は、次期巫女を侮辱した罪を着せられ国外追放されてしまう。
心機一転、紹介状を手に向かったのは隣国の都。そこで偶然知り合ったのは、高官の峰風だった。
峰風の取次ぎで紹介先の人物との対面を果たすが、提案されたのは後宮内での二つの仕事。ある時は引きこもり後宮妃(欣怡)として巫女の務めを果たし、またある時は、少年宦官(子墨)として庭園管理の仕事をする、忙しくも楽しい二重生活が始まった。
仕事中に秘密の能力を活かし活躍したことで、子墨は女嫌いの峰風の助手に抜擢される。女であること・巫女であることを隠しつつ助手の仕事に邁進するが、これがきっかけとなり、宮廷内の様々な騒動に巻き込まれていく。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
『後宮薬師は名を持たない』
由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。
帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。
救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。
後宮が燃え、名を失ってもなお――
彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる