もののけ執事の今日のお夜食

夕日(夕日凪)

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もののけ執事とお座敷少女9

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「ほら、貴女は。また集中しすぎている。一時間に一回は休憩を入れろと言ったでしょう」

 辛辣な口調とともに後頭を小突かれて、私は画面から視線を外した。
 私が後ろを振り向く前に、夜音さんの手がすっと伸びて座卓に珈琲と桃が置かれる。
 わ、おやつを用意してくれたんだ……!

「夜音さん、ありがとうございます。座敷ちゃんは?」
「よく寝ていますよ」
「良かった……。じゃあ、いただきます」

 頂いたおやつを食べようとした時。フォークを持った手は綺麗な手にそっと包まれ、強い力で握りしめられた。

「い、痛いです! 夜音さん!」
「食べる前に、立ち上がってください」
「立ち上がる?」

 桃、食べたいんだけどな……
 渋々言われた通りに立ち上がると、夜音さんが私の隣に立つ。

「さ、ストレッチをしましょう」

 そして、輝くような笑顔で言った。

「え。でも、おやつ……。珈琲冷めちゃいますし」
「ストレッチをやったら、食べていいですから。座りっぱなしが、どれだけ体に悪影響を及ぼすと思っているのです。ほら、まずは屈伸からです」

 夜音さんは笑顔のままだけれど、その口調は有無を言わさぬものだ。
 彼の言うことは正論だし、これ以上抵抗すると……たぶんこの笑顔は消える。

「わ、わかりました」

 私は夜音さんの指示に従って、たっぷりと五分間ストレッチをした。
 まさか『もののけ』に指導されながら、ストレッチをやる日がやってくるとは……

「はい、お疲れ様です」
「……ご指導、ありがとうございました」
「いえいえ」

 夜音さんは一礼すると、隣の部屋へ去って行く。
 少し温くなった珈琲と桃を、私は口にした。うん、美味しい。
 時刻はそろそろ十八時。少しずつ夜の気配が忍び寄る時刻だ。
 徹夜は夜音さんが許してくれないだろうし。二十一時……いや。二十三時くらいまでには、一本分記事を書き上げてしまいたいな。

 ☆

「できた……!」

 時刻はそろそろ二十四時になろうかという頃合いに、私は記事を書き終わった。
 なかなか予定通りに行かないなぁ。たまには、早く書ける日もあってもいいと思うんだけど。
 隣の部屋にちらりと目をやると襖はしっかりと閉まり、中は静まり返っている。
 私は音を立てないようにそろそろと襖に近づくと、引手に手をかけて静かに引いた。すると……
 安らかな寝息を立てて眠っている座敷ちゃんと、その頭のあたりで黒狐になって丸まって寝ている夜音さんがいた。
 ……か、可愛い。
 つんつんした態度の夜音さんだけれど、こうして黒狐姿で眠っていると無害で可愛い生き物に見える。
 たっぷりとした六本の尻尾はふわふわと揺れ、大きな耳は時々ピクピクと動いている。

「夜音さんなのに、可愛いなぁ……」
「『なのに』、とはなんですか」
「ひぇ」

 黒狐の瞳がぱちりと開き、赤い瞳が現れる。夜音さんはこちらを見ると、ふんと小さく鼻を鳴らした。
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