4 / 14
乙女ゲームは始まらず、令嬢の気持ちは千々に乱れる
マクシミリアンとフィリップ王子のわたくしとの接触フラグを折ったお兄様は、その後も順調にフラグを折り続けた。
お兄様は王子との婚約話が再燃すればまたそつなくお断りし、マクシミリアンとの接触を『主人の娘と使用人』以上のものにしなかった。
攻略対象がいるかもしれないからとお兄様に言い含められたわたくしは社交も極力お断りし、滅多に公の場に姿を見せない正しく深窓のご令嬢として過ごした。
仕方なく社交に参加しなければならない時にはお兄様が一緒に参加をしてわたくしの側に寄り添い、攻略対象との接触の隙を与えなかった。
極めつけは学園のことだ。
色々なメリットを考え父様はルミナティ魔法学園……ゲームの舞台の学園に入学させたがったのだけれど、お兄様はそれに猛烈に反対し貴族の令嬢達が通う王都から少し離れたところにある女学園にわたくしを入学させたのだ。
……そう。
乙女ゲームは始まらず、わたくしは他のご令嬢とのんびりお茶や刺繍を嗜みながら十三歳から十五歳までのゲーム期間を過ごしたのだ。
ヒロインと攻略対象がどうなった、なんて噂は女学園にいるわたくしには聞こえて来なかった。
マクシミリアンもわたくしの従者としてルミナティ魔法学園へ行くことが無くなったので、ヒロインと結ばれるどころか出会うこともなく。
現在の彼はお兄様の忠実な僕として常に影のように付き従っている。
その美しい主従は社交界などで令嬢達の心をときめかせているとか……。
……正直妹でも垂涎ものだものね。
休みに邸に帰ればお兄様に相変わらずベタベタとされながら、わたくしは実に平和に十五までの日々を過ごしたのであった。
そして卒業式の日。
「お姉さま、ご卒業おめでとうございます!!」
「お姉さまぁ!!」
「お姉さま、行かないでくださいませ!!」
わたくしはお姉さまと呼んでくれる可愛い下級生達との涙の別れを女学園の校門前で繰り広げていた。
そう……女学園でのわたくしは『銀の薔薇の君』と下級生に何故か慕われ、男子生徒がいない学園の王子さながらの扱いになっていたのである。
……どうしてこうなった。
百合の気はないとはいえ、慕ってくれる下級生達は可愛いのですけどね。
下級生達の頭をなでくりながら『お茶会をまたやりましょうね。我が家にお誘いするわ』なんてやり取りをしていると、シュラット侯爵家の家紋が付いた豪奢な馬車が滑り込むようにして校門の前で停車した。
「ビアンカ、卒業おめでとう!」
馬車を美しい所作で降りてきたのは、アルフォンスお兄様だった。
二十歳になったお兄様は、少年の頃でもこの世のものではないくらいに美しかった美貌に更に拍車がかかっていた。
陽の光の中輝く豊かな金髪、深く濃い色合いの緑色の目、少年の頃は優しい丸みを帯びていた白い頬は今では男性らしく引き締まり、その整った顔にはいつも柔和な笑みを湛えている。
「お兄様……」
周囲の令嬢達はお兄様に見惚れ、ため息や感嘆の声が漏れ聞こえた。
わたくしはお兄様に……複雑な気持ちで視線を向けた。
お兄様と視線が絡まり、優しく微笑まれ。胸がぎゅっと締めつけられるようなような痛みを覚える。
優しく、いつもわたくしのことを1番に考え、いつも側にいてくれるお兄様。
わたくしの話を子供の戯言だと馬鹿にせずに真摯に向き合い、バッドエンドから救い出してくれたお兄様。
……愛していると、呪いのようにいつもわたくしに囁くお兄様。
――お兄様に真綿で包まれるように大事にされ、守られ、愛していると日々囁かれ続けたわたくしは。
実の兄に不毛な恋心を抱いてしまったのだ。
……自分の気持ちに確信を持った時は、これは一過性のものだと思い込もうとした。
数年も経てば、自然に忘れると。いつか他の誰かに恋をすると。
だけどお兄様への想いは、消えずに大きくなるばかりだった。
それならばお兄様かわたくしに婚約者ができれば、この不毛な恋のことを諦められると考えた。
けれど人前にあまり姿を現さない令嬢だったわたくしはともかく、この社交界の華のようなお兄様にも何故か婚約者はいない。
忘れることも出来ず、諦める機会も生まれず。
……いつの頃からか生まれてしまった恋心に、わたくしは翻弄されている。
「卒業おめでとう、僕の天使」
そう言いながらお兄様は柔らかな動作でわたくしを抱きしめた。
その子供の頃から知っている馴染み深い温かさとお兄様の淡い花のような香水の香りに思わず心も体も蕩けそうになってしまい、耐えられずに目を閉じた。
「お兄様、ありがとうございます」
「ビアンカ、今日も奇麗だね。……愛してるよ」
お兄様はうっとりと耳元で囁きながら、わたくしの体を抱きしめる腕に力を込める。
その『愛している』という言葉に『妹として』という言葉を付け加えて、わたくしは勝手に傷つき落ち込んでしまった。
重症だ。こんな不毛な気持ちを抱えていても、どうしようもない。
「ビアンカ、僕達の邸へ帰ろう?」
お兄様はそう言うとわたくしの額に唇を落として、優しく微笑んだ。
お兄様の唇の触れた額が燃えるように熱いような気がして、胸をかきむしって泣き叫びたい気持ちになる。
……邸に帰ったら父様に、すぐにでも婚約者を探して頂こう。
こんな気持ちを抱えたまま……お兄様の側にはいられない。
「本当に美しいご兄妹ね……」
『兄妹』。
誰かが言った邪気の無い感嘆の言葉に、ひどく心が軋んで。
思わず目尻から零れてしまった涙をお兄様に見られないようにわたくしはそっと手のひらで拭った。
お兄様は王子との婚約話が再燃すればまたそつなくお断りし、マクシミリアンとの接触を『主人の娘と使用人』以上のものにしなかった。
攻略対象がいるかもしれないからとお兄様に言い含められたわたくしは社交も極力お断りし、滅多に公の場に姿を見せない正しく深窓のご令嬢として過ごした。
仕方なく社交に参加しなければならない時にはお兄様が一緒に参加をしてわたくしの側に寄り添い、攻略対象との接触の隙を与えなかった。
極めつけは学園のことだ。
色々なメリットを考え父様はルミナティ魔法学園……ゲームの舞台の学園に入学させたがったのだけれど、お兄様はそれに猛烈に反対し貴族の令嬢達が通う王都から少し離れたところにある女学園にわたくしを入学させたのだ。
……そう。
乙女ゲームは始まらず、わたくしは他のご令嬢とのんびりお茶や刺繍を嗜みながら十三歳から十五歳までのゲーム期間を過ごしたのだ。
ヒロインと攻略対象がどうなった、なんて噂は女学園にいるわたくしには聞こえて来なかった。
マクシミリアンもわたくしの従者としてルミナティ魔法学園へ行くことが無くなったので、ヒロインと結ばれるどころか出会うこともなく。
現在の彼はお兄様の忠実な僕として常に影のように付き従っている。
その美しい主従は社交界などで令嬢達の心をときめかせているとか……。
……正直妹でも垂涎ものだものね。
休みに邸に帰ればお兄様に相変わらずベタベタとされながら、わたくしは実に平和に十五までの日々を過ごしたのであった。
そして卒業式の日。
「お姉さま、ご卒業おめでとうございます!!」
「お姉さまぁ!!」
「お姉さま、行かないでくださいませ!!」
わたくしはお姉さまと呼んでくれる可愛い下級生達との涙の別れを女学園の校門前で繰り広げていた。
そう……女学園でのわたくしは『銀の薔薇の君』と下級生に何故か慕われ、男子生徒がいない学園の王子さながらの扱いになっていたのである。
……どうしてこうなった。
百合の気はないとはいえ、慕ってくれる下級生達は可愛いのですけどね。
下級生達の頭をなでくりながら『お茶会をまたやりましょうね。我が家にお誘いするわ』なんてやり取りをしていると、シュラット侯爵家の家紋が付いた豪奢な馬車が滑り込むようにして校門の前で停車した。
「ビアンカ、卒業おめでとう!」
馬車を美しい所作で降りてきたのは、アルフォンスお兄様だった。
二十歳になったお兄様は、少年の頃でもこの世のものではないくらいに美しかった美貌に更に拍車がかかっていた。
陽の光の中輝く豊かな金髪、深く濃い色合いの緑色の目、少年の頃は優しい丸みを帯びていた白い頬は今では男性らしく引き締まり、その整った顔にはいつも柔和な笑みを湛えている。
「お兄様……」
周囲の令嬢達はお兄様に見惚れ、ため息や感嘆の声が漏れ聞こえた。
わたくしはお兄様に……複雑な気持ちで視線を向けた。
お兄様と視線が絡まり、優しく微笑まれ。胸がぎゅっと締めつけられるようなような痛みを覚える。
優しく、いつもわたくしのことを1番に考え、いつも側にいてくれるお兄様。
わたくしの話を子供の戯言だと馬鹿にせずに真摯に向き合い、バッドエンドから救い出してくれたお兄様。
……愛していると、呪いのようにいつもわたくしに囁くお兄様。
――お兄様に真綿で包まれるように大事にされ、守られ、愛していると日々囁かれ続けたわたくしは。
実の兄に不毛な恋心を抱いてしまったのだ。
……自分の気持ちに確信を持った時は、これは一過性のものだと思い込もうとした。
数年も経てば、自然に忘れると。いつか他の誰かに恋をすると。
だけどお兄様への想いは、消えずに大きくなるばかりだった。
それならばお兄様かわたくしに婚約者ができれば、この不毛な恋のことを諦められると考えた。
けれど人前にあまり姿を現さない令嬢だったわたくしはともかく、この社交界の華のようなお兄様にも何故か婚約者はいない。
忘れることも出来ず、諦める機会も生まれず。
……いつの頃からか生まれてしまった恋心に、わたくしは翻弄されている。
「卒業おめでとう、僕の天使」
そう言いながらお兄様は柔らかな動作でわたくしを抱きしめた。
その子供の頃から知っている馴染み深い温かさとお兄様の淡い花のような香水の香りに思わず心も体も蕩けそうになってしまい、耐えられずに目を閉じた。
「お兄様、ありがとうございます」
「ビアンカ、今日も奇麗だね。……愛してるよ」
お兄様はうっとりと耳元で囁きながら、わたくしの体を抱きしめる腕に力を込める。
その『愛している』という言葉に『妹として』という言葉を付け加えて、わたくしは勝手に傷つき落ち込んでしまった。
重症だ。こんな不毛な気持ちを抱えていても、どうしようもない。
「ビアンカ、僕達の邸へ帰ろう?」
お兄様はそう言うとわたくしの額に唇を落として、優しく微笑んだ。
お兄様の唇の触れた額が燃えるように熱いような気がして、胸をかきむしって泣き叫びたい気持ちになる。
……邸に帰ったら父様に、すぐにでも婚約者を探して頂こう。
こんな気持ちを抱えたまま……お兄様の側にはいられない。
「本当に美しいご兄妹ね……」
『兄妹』。
誰かが言った邪気の無い感嘆の言葉に、ひどく心が軋んで。
思わず目尻から零れてしまった涙をお兄様に見られないようにわたくしはそっと手のひらで拭った。
あなたにおすすめの小説
義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話
よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。
「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。
男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました
春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。
名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。
誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。
ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、
あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。
「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」
「……もう限界だ」
私は知らなかった。
宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて――
ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
一夜の過ちで懐妊したら、幼なじみの冷酷皇帝に溺愛されました
由香
恋愛
没落貴族の娘・柳月鈴は、宮廷で医官見習いとして働いていた。
ある夜、皇帝即位の宴で酒に酔い、幼なじみだった皇帝・李景珩と再会する。
遠い存在になったはずの彼。
けれど、その夜をきっかけに月鈴の運命は大きく動き出す。
冷酷と恐れられる皇帝が、なぜか彼女だけには甘すぎて――。
抱かれたい騎士No.1と抱かれたく無い騎士No.1に溺愛されてます。どうすればいいでしょうか!?
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
ヴァンクリーフ騎士団には見目麗しい抱かれたい男No.1と、絶対零度の鋭い視線を持つ抱かれたく無い男No.1いる。
そんな騎士団の寮の厨房で働くジュリアは何故かその2人のお世話係に任命されてしまう。どうして!?
貧乏男爵令嬢ですが、家の借金返済の為に、頑張って働きますっ!
女の子がほとんど産まれない国に転生しました。
さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。
100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳
そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。
当面は2日に1話更新予定!
日常的に罠にかかるうさぎが、とうとう逃げられない罠に絡め取られるお話
下菊みこと
恋愛
ヤンデレっていうほど病んでないけど、機を見て主人公を捕獲する彼。
そんな彼に見事に捕まる主人公。
そんなお話です。
ムーンライトノベルズ様でも投稿しています。