【R18】悪役令嬢は元お兄様に溺愛され甘い檻に閉じこめられる

夕日(夕日凪)

文字の大きさ
4 / 14

乙女ゲームは始まらず、令嬢の気持ちは千々に乱れる

しおりを挟む
 マクシミリアンとフィリップ王子のわたくしとの接触フラグを折ったお兄様は、その後も順調にフラグを折り続けた。
 お兄様は王子との婚約話が再燃すればまたそつなくお断りし、マクシミリアンとの接触を『主人の娘と使用人』以上のものにしなかった。
 攻略対象がいるかもしれないからとお兄様に言い含められたわたくしは社交も極力お断りし、滅多に公の場に姿を見せない正しく深窓のご令嬢として過ごした。
 仕方なく社交に参加しなければならない時にはお兄様が一緒に参加をしてわたくしの側に寄り添い、攻略対象との接触の隙を与えなかった。
 極めつけは学園のことだ。
 色々なメリットを考え父様はルミナティ魔法学園……ゲームの舞台の学園に入学させたがったのだけれど、お兄様はそれに猛烈に反対し貴族の令嬢達が通う王都から少し離れたところにある女学園にわたくしを入学させたのだ。

 ……そう。
 乙女ゲームは始まらず、わたくしは他のご令嬢とのんびりお茶や刺繍を嗜みながら十三歳から十五歳までのゲーム期間を過ごしたのだ。

 ヒロインと攻略対象がどうなった、なんて噂は女学園にいるわたくしには聞こえて来なかった。
 マクシミリアンもわたくしの従者としてルミナティ魔法学園へ行くことが無くなったので、ヒロインと結ばれるどころか出会うこともなく。
 現在の彼はお兄様の忠実な僕として常に影のように付き従っている。
 その美しい主従は社交界などで令嬢達の心をときめかせているとか……。
 ……正直妹でも垂涎ものだものね。
 休みに邸に帰ればお兄様に相変わらずベタベタとされながら、わたくしは実に平和に十五までの日々を過ごしたのであった。

 そして卒業式の日。

「お姉さま、ご卒業おめでとうございます!!」
「お姉さまぁ!!」
「お姉さま、行かないでくださいませ!!」

 わたくしはお姉さまと呼んでくれる可愛い下級生達との涙の別れを女学園の校門前で繰り広げていた。
 そう……女学園でのわたくしは『銀の薔薇の君』と下級生に何故か慕われ、男子生徒がいない学園の王子さながらの扱いになっていたのである。

 ……どうしてこうなった。

 百合の気はないとはいえ、慕ってくれる下級生達は可愛いのですけどね。
 下級生達の頭をなでくりながら『お茶会をまたやりましょうね。我が家にお誘いするわ』なんてやり取りをしていると、シュラット侯爵家の家紋が付いた豪奢な馬車が滑り込むようにして校門の前で停車した。

「ビアンカ、卒業おめでとう!」

 馬車を美しい所作で降りてきたのは、アルフォンスお兄様だった。
 二十歳になったお兄様は、少年の頃でもこの世のものではないくらいに美しかった美貌に更に拍車がかかっていた。
 陽の光の中輝く豊かな金髪、深く濃い色合いの緑色の目、少年の頃は優しい丸みを帯びていた白い頬は今では男性らしく引き締まり、その整った顔にはいつも柔和な笑みを湛えている。

「お兄様……」

 周囲の令嬢達はお兄様に見惚れ、ため息や感嘆の声が漏れ聞こえた。
 わたくしはお兄様に……複雑な気持ちで視線を向けた。
 お兄様と視線が絡まり、優しく微笑まれ。胸がぎゅっと締めつけられるようなような痛みを覚える。
 優しく、いつもわたくしのことを1番に考え、いつも側にいてくれるお兄様。
 わたくしの話を子供の戯言だと馬鹿にせずに真摯に向き合い、バッドエンドから救い出してくれたお兄様。
 ……愛していると、呪いのようにいつもわたくしに囁くお兄様。
 ――お兄様に真綿で包まれるように大事にされ、守られ、愛していると日々囁かれ続けたわたくしは。

 実の兄に不毛な恋心を抱いてしまったのだ。

 ……自分の気持ちに確信を持った時は、これは一過性のものだと思い込もうとした。
 数年も経てば、自然に忘れると。いつか他の誰かに恋をすると。
 だけどお兄様への想いは、消えずに大きくなるばかりだった。
 それならばお兄様かわたくしに婚約者ができれば、この不毛な恋のことを諦められると考えた。
 けれど人前にあまり姿を現さない令嬢だったわたくしはともかく、この社交界の華のようなお兄様にも何故か婚約者はいない。
 忘れることも出来ず、諦める機会も生まれず。
 ……いつの頃からか生まれてしまった恋心に、わたくしは翻弄されている。

「卒業おめでとう、僕の天使」

 そう言いながらお兄様は柔らかな動作でわたくしを抱きしめた。
 その子供の頃から知っている馴染み深い温かさとお兄様の淡い花のような香水の香りに思わず心も体も蕩けそうになってしまい、耐えられずに目を閉じた。

「お兄様、ありがとうございます」
「ビアンカ、今日も奇麗だね。……愛してるよ」

 お兄様はうっとりと耳元で囁きながら、わたくしの体を抱きしめる腕に力を込める。
 その『愛している』という言葉に『妹として』という言葉を付け加えて、わたくしは勝手に傷つき落ち込んでしまった。
 重症だ。こんな不毛な気持ちを抱えていても、どうしようもない。

「ビアンカ、僕達の邸へ帰ろう?」

 お兄様はそう言うとわたくしの額に唇を落として、優しく微笑んだ。
 お兄様の唇の触れた額が燃えるように熱いような気がして、胸をかきむしって泣き叫びたい気持ちになる。

 ……邸に帰ったら父様に、すぐにでも婚約者を探して頂こう。
 こんな気持ちを抱えたまま……お兄様の側にはいられない。

「本当に美しいご兄妹ね……」

『兄妹』。
 誰かが言った邪気の無い感嘆の言葉に、ひどく心が軋んで。
 思わず目尻から零れてしまった涙をお兄様に見られないようにわたくしはそっと手のひらで拭った。
しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

義兄に甘えまくっていたらいつの間にか執着されまくっていた話

よしゆき
恋愛
乙女ゲームのヒロインに意地悪をする攻略対象者のユリウスの義妹、マリナに転生した。大好きな推しであるユリウスと自分が結ばれることはない。ならば義妹として目一杯甘えまくって楽しもうと考えたのだが、気づけばユリウスにめちゃくちゃ執着されていた話。 「義兄に嫌われようとした行動が裏目に出て逆に執着されることになった話」のifストーリーですが繋がりはなにもありません。

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

男として王宮に仕えていた私、正体がバレた瞬間、冷酷宰相が豹変して溺愛してきました

春夜夢
恋愛
貧乏伯爵家の令嬢である私は、家を救うために男装して王宮に潜り込んだ。 名を「レオン」と偽り、文官見習いとして働く毎日。 誰よりも厳しく私を鍛えたのは、氷の宰相と呼ばれる男――ジークフリード。 ある日、ひょんなことから女であることがバレてしまった瞬間、 あの冷酷な宰相が……私を押し倒して言った。 「ずっと我慢していた。君が女じゃないと、自分に言い聞かせてきた」 「……もう限界だ」 私は知らなかった。 宰相は、私の正体を“最初から”見抜いていて―― ずっと、ずっと、私を手に入れる機会を待っていたことを。

【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました

ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。 名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。 ええ。私は今非常に困惑しております。 私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。 ...あの腹黒が現れるまでは。 『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。 個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。

処理中です...