11 / 24
10
しおりを挟む
翌朝になり、嵐が過ぎ去った。
空は晴れ渡り、木々は嵐の余韻に濡れて青々と露で光っている。そんな光景を窓から眺めながら、マリーンはほっと胸を撫で下ろした。
これならば、オスカーの迎えもすぐにやって来るだろう。
振り向けば、寝台の上ですやすやと寝息を立てている子獅子が目に入る。昨夜のオスカーはうとうととしはじめたかと思うと、また子獅子の姿となってしまったのだ。
子獅子になったオスカーは眠気のせいか甘えるように鳴きながらマリーンから離れようとせず、それを撫でたり抱きしめたりしながら宥めているうちに……二人は一緒の寝台で寝落ちてしまった。
(……子獅子相手でも男性は男性。共寝はまずかったかしら)
そんなことも考えたが、マリーンの外聞なんてものはすでに地に落ちて泥まみれになっている。さらに泥が上塗りされたとて、なんの支障もないだろう。
オスカーを起こそうと近づき、柔らかな毛に触れる。そのとたんに体毛の艶やかな感触に魅了され、起こすという目的を忘れてオスカーを撫で続けてしまった。するとオスカーの喉が、猫のように気持ちよさげにぐるると鳴る。
撫でるのをやめてピンク色の鼻先を指先でつつけば、ぱくりと指を咥えられた。そして子猫が母猫の乳首にしゃぶりつくように、ちゅぱちゅぱと指をしゃぶられた。
「か、可愛い」
ずっと家にいてほしい……などという不埒な気持ちになるが、オスカーは愛玩動物ではなく立派な貴公子なのだ。マリーンは後ろ髪を引かれる気持ちでオスカーの口から指を引き抜き、肩に該当しそうな前足の付け根付近を軽い力で叩いた。
「オスカー様、朝になりました」
『みゃ……』
子獅子は眠たげにまぶたを上げて鳴き声を上げる。そして、しばらく視線を彷徨わせたあとにマリーンを見つめた。まだ寝ぼけ眼のその様子に、マリーンの口角は自然に上がる。優しく頭を撫でれば、子獅子は嬉しそうに喉を鳴らした。
「お着替えは椅子の上に置いております。今から部屋を出ますので、着替えてくださいませね。お着替えが済んだら、朝食がそろそろできていると思いますので食堂へといらしてください。えっと……大丈夫でしたら、頷いていただいてもいいですか?」
言葉を聞いて、オスカーはこくりと頷く。それを見てマリーンは笑みを浮かべた。
客間を出てから自室に戻り、ジャクリーンに手伝ってもらいつつ着替えを済ませる。そして階下へ行くと、すでに身支度を整えたオスカーが所在なげな様子で食堂の前に立っていた。
彼が今着ているのはサンのもので、今日もやっぱりぶかぶかだ。
マリーンを目にした瞬間オスカーの瞳が輝き、小さな耳がぴるぴると動いた。
「オスカー様。先に食堂に入ってくださったよろしかったのに……」
「いや。そ、そ、その。昨夜は迷惑をかけた……ことをまずは謝りたくて。二度も獣化し、しかも共寝まで」
「お気にしないでくださいませ! ふわふわで可愛らしかったですし、迷惑はしておりませんわ!」
「ふわふわ……可愛い」
マリーンの言葉にオスカーは複雑な表情になる。小さな紳士の矜持を傷つけてしまったかと、マリーンは内心反省をした。
「朝食を食べましょう、オスカー様!」
これ以上傷つけてしまっては申し訳ない。そんな気持ちもあって勢い込んで言いつつ、オスカーとともに食堂へ入る。そうして食事を摂っていると……。
「……来たか」
そんなオスカーのつぶやきからしばらくして、屋敷の扉が激しく叩かれた。
空は晴れ渡り、木々は嵐の余韻に濡れて青々と露で光っている。そんな光景を窓から眺めながら、マリーンはほっと胸を撫で下ろした。
これならば、オスカーの迎えもすぐにやって来るだろう。
振り向けば、寝台の上ですやすやと寝息を立てている子獅子が目に入る。昨夜のオスカーはうとうととしはじめたかと思うと、また子獅子の姿となってしまったのだ。
子獅子になったオスカーは眠気のせいか甘えるように鳴きながらマリーンから離れようとせず、それを撫でたり抱きしめたりしながら宥めているうちに……二人は一緒の寝台で寝落ちてしまった。
(……子獅子相手でも男性は男性。共寝はまずかったかしら)
そんなことも考えたが、マリーンの外聞なんてものはすでに地に落ちて泥まみれになっている。さらに泥が上塗りされたとて、なんの支障もないだろう。
オスカーを起こそうと近づき、柔らかな毛に触れる。そのとたんに体毛の艶やかな感触に魅了され、起こすという目的を忘れてオスカーを撫で続けてしまった。するとオスカーの喉が、猫のように気持ちよさげにぐるると鳴る。
撫でるのをやめてピンク色の鼻先を指先でつつけば、ぱくりと指を咥えられた。そして子猫が母猫の乳首にしゃぶりつくように、ちゅぱちゅぱと指をしゃぶられた。
「か、可愛い」
ずっと家にいてほしい……などという不埒な気持ちになるが、オスカーは愛玩動物ではなく立派な貴公子なのだ。マリーンは後ろ髪を引かれる気持ちでオスカーの口から指を引き抜き、肩に該当しそうな前足の付け根付近を軽い力で叩いた。
「オスカー様、朝になりました」
『みゃ……』
子獅子は眠たげにまぶたを上げて鳴き声を上げる。そして、しばらく視線を彷徨わせたあとにマリーンを見つめた。まだ寝ぼけ眼のその様子に、マリーンの口角は自然に上がる。優しく頭を撫でれば、子獅子は嬉しそうに喉を鳴らした。
「お着替えは椅子の上に置いております。今から部屋を出ますので、着替えてくださいませね。お着替えが済んだら、朝食がそろそろできていると思いますので食堂へといらしてください。えっと……大丈夫でしたら、頷いていただいてもいいですか?」
言葉を聞いて、オスカーはこくりと頷く。それを見てマリーンは笑みを浮かべた。
客間を出てから自室に戻り、ジャクリーンに手伝ってもらいつつ着替えを済ませる。そして階下へ行くと、すでに身支度を整えたオスカーが所在なげな様子で食堂の前に立っていた。
彼が今着ているのはサンのもので、今日もやっぱりぶかぶかだ。
マリーンを目にした瞬間オスカーの瞳が輝き、小さな耳がぴるぴると動いた。
「オスカー様。先に食堂に入ってくださったよろしかったのに……」
「いや。そ、そ、その。昨夜は迷惑をかけた……ことをまずは謝りたくて。二度も獣化し、しかも共寝まで」
「お気にしないでくださいませ! ふわふわで可愛らしかったですし、迷惑はしておりませんわ!」
「ふわふわ……可愛い」
マリーンの言葉にオスカーは複雑な表情になる。小さな紳士の矜持を傷つけてしまったかと、マリーンは内心反省をした。
「朝食を食べましょう、オスカー様!」
これ以上傷つけてしまっては申し訳ない。そんな気持ちもあって勢い込んで言いつつ、オスカーとともに食堂へ入る。そうして食事を摂っていると……。
「……来たか」
そんなオスカーのつぶやきからしばらくして、屋敷の扉が激しく叩かれた。
96
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】愛する人はあの人の代わりに私を抱く
紬あおい
恋愛
年上の優しい婚約者は、叶わなかった過去の恋人の代わりに私を抱く。気付かない振りが我慢の限界を超えた時、私は………そして、愛する婚約者や家族達は………悔いのない人生を送れましたか?
もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
前世で私を嫌っていた番の彼が何故か迫って来ます!
ハルン
恋愛
私には前世の記憶がある。
前世では犬の獣人だった私。
私の番は幼馴染の人間だった。自身の番が愛おしくて仕方なかった。しかし、人間の彼には獣人の番への感情が理解出来ず嫌われていた。それでも諦めずに彼に好きだと告げる日々。
そんな時、とある出来事で命を落とした私。
彼に会えなくなるのは悲しいがこれでもう彼に迷惑をかけなくて済む…。そう思いながら私の人生は幕を閉じた……筈だった。
番ではなくなった私たち
拝詩ルルー
恋愛
アンは薬屋の一人娘だ。ハスキー犬の獣人のラルフとは幼馴染で、彼がアンのことを番だと言って猛烈なアプローチをした結果、二人は晴れて恋人同士になった。
ラルフは恵まれた体躯と素晴らしい剣の腕前から、勇者パーティーにスカウトされ、魔王討伐の旅について行くことに。
──それから二年後。魔王は倒されたが、番の絆を失ってしまったラルフが街に戻って来た。
アンとラルフの恋の行方は……?
※全5話の短編です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる