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オスカーのことをさらにつぶさに観察すれば、背が少し高くなり、シャツの袖から見える手首も以前よりしっかりしているような気がする。
「オスカー様」
「なんだ? マリーン嬢」
「少し、大人びましたね」
ぽつりと零れたマリーンの言葉を聞いて、オスカーは大きな目をぱちくりとさせた。
「それはそうだ。君と出会って何ヶ月も経っているのだからな」
彼は冷静に言ったつもりのようだったが、その表情はどこか得意げだ。さらに言えば両の口角がぐいと上がろうとし、それを無理やり引き下げようとしている様子も見て取れる。
平静を装いたいが、マリーンの隣に立てる『大人の男』に近づいていることへの喜びが漏れ出てしまっている……というところだろうか。
小さな友人の背伸びをしたがる愛らしい様子を見て、マリーンは頰を緩めた。
「少しずつだが、僕も大人になっていく。……早くマリーン嬢に意識してもらえるくらいに、大きくなりたいものだ。いや、あまり大きくなるのも困るな。マリーン嬢好みの華奢な男になりたい」
「まぁ」
──本当は華奢な男性が好みなのではなく、成人男性が苦手なだけなのだ。
しかしそれを言うとオスカーが泣いてしまうような気がして、出会ったばかりの頃に生じた小さな誤解をマリーンは訂正できないままでいた。
(大人の……オスカー様)
成長したオスカーを想像してみようとするが、それは上手く像を結ばない。目の前の美しい少年は……どのように成長するのだろう。
「そうだ。華奢な男性に育つために、食事を抜いたりしてはダメですよ?」
「そ、それはしていないぞ! ……まだ」
ふと思ったことを言ってみれば、オスカーは図星を指されたようで慌てふためく。
オスカーの感情の乱れを感じてか、彼の腕の中のアルレットが「ふにゃ」と小さな声を上げた。
それを聞いたオスカーは慌てて、ゆっくりと腕を揺らして赤子をあやす。
「無茶はしないと約束してくださいね。どんな大人になっても、オスカー様はオスカー様なのですから」
「……マリーン嬢。わかった、無茶はしない」
「たくさん、ご飯を食べてくださいね。今日の我が家の晩ごはんはジャクリーンの得意料理のビーフシチューです。食べてくださらないと、ジャクリーンも悲しみます」
「ああ、そうだな。たくさんいただこう」
オスカーはそう言って、嬉しそうに笑った。
少年の成長を妨げることにならずに済んだと、マリーンはひとまず安堵する。
「マリーン嬢。その」
「なんでしょう、オスカー様」
「……俺が筋骨隆々な男に育っても、嫌いにならないでほしい」
「ふふ、大丈夫です」
自分で驚くくらいにするりと、『大丈夫』という言葉が口から零れた。
この少年にすっかり心を許している自分に、マリーンは内心驚く。
オスカーの真心を、マリーンは日々受け取っている。
その一切の穢れがない純白の真心は、マリーンのオスカーに対する信頼を確実に培っていたのだ。
「オスカー様。そろそろ交代しましょうか」
アルレットを受け取ろうと、マリーンは屈み込む。その時──。
柔らかなものが、頰にそっと触れた。
それは……オスカーの唇だった。
「オ、オスカー様?」
「頰への……挨拶の方のキスだ」
オスカーは澄ました様子で言ってから身を離し、楽しそうに笑う。
──子どもとはいえ、彼は『捕食者』の側なのだ。
元人妻と思えないくらいに動揺しながら、マリーンはそんなことを思ったのだった。
「オスカー様」
「なんだ? マリーン嬢」
「少し、大人びましたね」
ぽつりと零れたマリーンの言葉を聞いて、オスカーは大きな目をぱちくりとさせた。
「それはそうだ。君と出会って何ヶ月も経っているのだからな」
彼は冷静に言ったつもりのようだったが、その表情はどこか得意げだ。さらに言えば両の口角がぐいと上がろうとし、それを無理やり引き下げようとしている様子も見て取れる。
平静を装いたいが、マリーンの隣に立てる『大人の男』に近づいていることへの喜びが漏れ出てしまっている……というところだろうか。
小さな友人の背伸びをしたがる愛らしい様子を見て、マリーンは頰を緩めた。
「少しずつだが、僕も大人になっていく。……早くマリーン嬢に意識してもらえるくらいに、大きくなりたいものだ。いや、あまり大きくなるのも困るな。マリーン嬢好みの華奢な男になりたい」
「まぁ」
──本当は華奢な男性が好みなのではなく、成人男性が苦手なだけなのだ。
しかしそれを言うとオスカーが泣いてしまうような気がして、出会ったばかりの頃に生じた小さな誤解をマリーンは訂正できないままでいた。
(大人の……オスカー様)
成長したオスカーを想像してみようとするが、それは上手く像を結ばない。目の前の美しい少年は……どのように成長するのだろう。
「そうだ。華奢な男性に育つために、食事を抜いたりしてはダメですよ?」
「そ、それはしていないぞ! ……まだ」
ふと思ったことを言ってみれば、オスカーは図星を指されたようで慌てふためく。
オスカーの感情の乱れを感じてか、彼の腕の中のアルレットが「ふにゃ」と小さな声を上げた。
それを聞いたオスカーは慌てて、ゆっくりと腕を揺らして赤子をあやす。
「無茶はしないと約束してくださいね。どんな大人になっても、オスカー様はオスカー様なのですから」
「……マリーン嬢。わかった、無茶はしない」
「たくさん、ご飯を食べてくださいね。今日の我が家の晩ごはんはジャクリーンの得意料理のビーフシチューです。食べてくださらないと、ジャクリーンも悲しみます」
「ああ、そうだな。たくさんいただこう」
オスカーはそう言って、嬉しそうに笑った。
少年の成長を妨げることにならずに済んだと、マリーンはひとまず安堵する。
「マリーン嬢。その」
「なんでしょう、オスカー様」
「……俺が筋骨隆々な男に育っても、嫌いにならないでほしい」
「ふふ、大丈夫です」
自分で驚くくらいにするりと、『大丈夫』という言葉が口から零れた。
この少年にすっかり心を許している自分に、マリーンは内心驚く。
オスカーの真心を、マリーンは日々受け取っている。
その一切の穢れがない純白の真心は、マリーンのオスカーに対する信頼を確実に培っていたのだ。
「オスカー様。そろそろ交代しましょうか」
アルレットを受け取ろうと、マリーンは屈み込む。その時──。
柔らかなものが、頰にそっと触れた。
それは……オスカーの唇だった。
「オ、オスカー様?」
「頰への……挨拶の方のキスだ」
オスカーは澄ました様子で言ってから身を離し、楽しそうに笑う。
──子どもとはいえ、彼は『捕食者』の側なのだ。
元人妻と思えないくらいに動揺しながら、マリーンはそんなことを思ったのだった。
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