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転生王子と婚約披露パーティー7
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ブリッツなにを笑ってやがるんだ! 元はと言えばお前がいらぬことさえしなければだな!
そう叫びたい気持ちを押し込めて、俺はティアラ嬢と向かい合った。背中ではピナがブルブルと異様なくらいに震えている。ティアたんの目が怖いから少しは離れてくれとも思うが、怯え方が尋常じゃなさすぎて強くも言えない。
「うわーやばい。これ、私オブ・ザ・デッドじゃん。いやぁあ、頑張って私の首ィ」
……ピナの言っていることの意味がわからない。
私オブ・ザ・デッドってなんだ。ゾンビ映画のタイトルみたいなことを。もしかしてコイツも転生者なのか? いや……確信が持てないのに妙なことを口走ってまた誤解を受けるのも面倒だ。
そんなことより、目の前の怒っているティアラ嬢をどうにかしなければ。
「ティアラ嬢。こちらは行儀見習いで来ているノワルーナ伯爵家のピナ嬢だ。ワインが服にかかったので、染みを抜いてもらっていただけだよ。君も俺のトラウザーズが汚れるのは見ていただろう?」
「それだけ、の割にはとっても楽しそうでしたけれど」
ティアラ嬢はそう言って下を向く。その姿がなぜか泣きそうに見えたので、俺は慌てて彼女の前に跪いてその手を取った。するとティアラ嬢と、周囲にいた人々が驚いたようにこちらを凝視する。ええい、誰が見ていようと知るか。俺にとってはティアたんのご機嫌が一番大事だ。とにかく誠意を伝えねば!
「王宮に仕えるものとはいえ、女性と二人になってすまない。男の侍従を付けるような、心の余裕を持てればよかったのだが。気遣いができずに妙な誤解をさせてしまったね」
「……王子」
綺麗なエメラルドグリーンが涙で潤んだ。私が女性と二人で消えてしまい、残されたティアラ嬢は針の筵のような気持ちだったのかもしれない。そう考えると彼女の怒りも理解できる。
「迂闊な俺を、許してはくれないか?」
許して欲しいという想いを込めて、小さな手に口づけを何度もする。
「ひんっ」
すると、ティアラ嬢の方から妙な声が漏れた。
「ひん?」
ひん、ってなんだ?
首を傾げながら見上げると、ティアラ嬢の顔は真っ赤になり、口元は震えている。
あ、俺。またやらかしたな。
そんなことを考えている間に、俺の頬には覚えのある衝撃が走った。うん、ビンタされた。前と違って心構えができていたせいか、さほど痛くは感じないけれど。
――問題は、この場所だ。
会場に続く人気の多い廊下で、許しを請う王太子をティアたんは叩いた訳ですよね。しかも今夜は婚約披露パーティーで、俺の後ろではヒロイン系美少女がいまだ涙目のままである。どんな下世話な噂話も作り放題な状況だ。
「あ、う」
ティアラ嬢は涙目になってブルブルと頭を振っている。うん、悪気はないけど咄嗟に手が出ちゃったんだね。今までの経験でそれはわかっているけれど。
……ここまで拒絶されると、さすがに傷つく。
いや、嫌われているのに不用意に触れてしまった俺が悪いか。女の子のせいにするのはよろしくない。
立ち上がると、小さくため息を吐く。するとティアラ嬢のびくりと怯える気配がした。
手を差し出すと、ティアラ嬢は怯えた視線を向けながら小さな手を乗せる。
エスコートまで拒絶されなくて、俺は正直ほっとした。
「会場に戻ろうか、ティアラ嬢。ピナ嬢、失礼する」
ピナは引きつった顔で礼をし、ティアラ嬢は青褪めた顔でうつむいた。
俺は今、『氷の王子』の顔をしているに違いない。
ブリッツは飄々とした顔で後ろをついてくる。今日のことは概ねお前のせいだからな。減給だ、減給。
――こうして婚約披露パーティーは、重苦しい雰囲気のまま終わりを迎えたのだった。
そう叫びたい気持ちを押し込めて、俺はティアラ嬢と向かい合った。背中ではピナがブルブルと異様なくらいに震えている。ティアたんの目が怖いから少しは離れてくれとも思うが、怯え方が尋常じゃなさすぎて強くも言えない。
「うわーやばい。これ、私オブ・ザ・デッドじゃん。いやぁあ、頑張って私の首ィ」
……ピナの言っていることの意味がわからない。
私オブ・ザ・デッドってなんだ。ゾンビ映画のタイトルみたいなことを。もしかしてコイツも転生者なのか? いや……確信が持てないのに妙なことを口走ってまた誤解を受けるのも面倒だ。
そんなことより、目の前の怒っているティアラ嬢をどうにかしなければ。
「ティアラ嬢。こちらは行儀見習いで来ているノワルーナ伯爵家のピナ嬢だ。ワインが服にかかったので、染みを抜いてもらっていただけだよ。君も俺のトラウザーズが汚れるのは見ていただろう?」
「それだけ、の割にはとっても楽しそうでしたけれど」
ティアラ嬢はそう言って下を向く。その姿がなぜか泣きそうに見えたので、俺は慌てて彼女の前に跪いてその手を取った。するとティアラ嬢と、周囲にいた人々が驚いたようにこちらを凝視する。ええい、誰が見ていようと知るか。俺にとってはティアたんのご機嫌が一番大事だ。とにかく誠意を伝えねば!
「王宮に仕えるものとはいえ、女性と二人になってすまない。男の侍従を付けるような、心の余裕を持てればよかったのだが。気遣いができずに妙な誤解をさせてしまったね」
「……王子」
綺麗なエメラルドグリーンが涙で潤んだ。私が女性と二人で消えてしまい、残されたティアラ嬢は針の筵のような気持ちだったのかもしれない。そう考えると彼女の怒りも理解できる。
「迂闊な俺を、許してはくれないか?」
許して欲しいという想いを込めて、小さな手に口づけを何度もする。
「ひんっ」
すると、ティアラ嬢の方から妙な声が漏れた。
「ひん?」
ひん、ってなんだ?
首を傾げながら見上げると、ティアラ嬢の顔は真っ赤になり、口元は震えている。
あ、俺。またやらかしたな。
そんなことを考えている間に、俺の頬には覚えのある衝撃が走った。うん、ビンタされた。前と違って心構えができていたせいか、さほど痛くは感じないけれど。
――問題は、この場所だ。
会場に続く人気の多い廊下で、許しを請う王太子をティアたんは叩いた訳ですよね。しかも今夜は婚約披露パーティーで、俺の後ろではヒロイン系美少女がいまだ涙目のままである。どんな下世話な噂話も作り放題な状況だ。
「あ、う」
ティアラ嬢は涙目になってブルブルと頭を振っている。うん、悪気はないけど咄嗟に手が出ちゃったんだね。今までの経験でそれはわかっているけれど。
……ここまで拒絶されると、さすがに傷つく。
いや、嫌われているのに不用意に触れてしまった俺が悪いか。女の子のせいにするのはよろしくない。
立ち上がると、小さくため息を吐く。するとティアラ嬢のびくりと怯える気配がした。
手を差し出すと、ティアラ嬢は怯えた視線を向けながら小さな手を乗せる。
エスコートまで拒絶されなくて、俺は正直ほっとした。
「会場に戻ろうか、ティアラ嬢。ピナ嬢、失礼する」
ピナは引きつった顔で礼をし、ティアラ嬢は青褪めた顔でうつむいた。
俺は今、『氷の王子』の顔をしているに違いない。
ブリッツは飄々とした顔で後ろをついてくる。今日のことは概ねお前のせいだからな。減給だ、減給。
――こうして婚約披露パーティーは、重苦しい雰囲気のまま終わりを迎えたのだった。
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