【R18】獅子の麗人は鼠の従者の手のひらの上

夕日(夕日凪)

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獅子の麗人と従僕の夜1※

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 夜になり、風呂に入ろうと部屋に戻ると……メイドたちがずらりと並んで待ち構えていた。
 どうしたのだろうと首を傾げていると、年を経た獅子であるメイド長が音もなく私の前に歩みを進める。

「お嬢様。今晩は『大事な用事』があるのでございますよね」

 私が幼い頃から屋敷に居るメイド長は『お嬢様』という呼び方を変えない。
『大事な用事』……とは。まさか、閨のことか!?

「……どうして、バレて」
「ランディ様がいらした時、執事と一緒に部屋の外に控えておりましたので」

 そう言えばそうだった。来客の際には要望にすぐ応えられるよう、執事とメイド長が部屋の外に控えている。
 アウレールとの会話は、彼らには丸聞こえだったのだろう。なんてことだ……!
 ちなみにランディが暴れても彼らが中に入って来なかったのは、来客がランディだった時点で『一悶着起きた時には、自分で対処する』と伝えていたからだ。
 ……ランディと私は、幼い頃から殴り合いも含むケンカばかりだからな。

「お嬢様。今日はお嬢様のめでたい初陣です。体中磨かせていただきますので、お覚悟を」
「待て! 風呂くらい一人で入れる!」

 真っ赤になって逃げようとする私の服を、メイド長がむんずと掴む。

「平素の入浴と同じでいいわけがないでしょう!」

 私は幼い頃から世話になっているメイド長に頭が上がらない。その上、屈強な獅子や狼のメイドばかり用意しおって!
 数人がかりでずるずると浴室まで引きずられ、卵の殻を剥くようにつるりと服を剥がれる。
 そして花びらが浮かべられた浴槽に、ポイと放り込まれてしまった。

「メイド長……」
「なんです、お嬢様」
「反対しないんだな。その、アウレールと……私が子を作ろうとすることを」

 髪を洗うメイド長に小さな声で問うと、背後からふっと笑うような吐息の音が聞こえた。

「ご当主の決めたことです、反対するわけがありません。それに……お嬢様には幸せになって欲しいと思っておりますので」

 メイド長の言葉に、鼻の奥がツンと痛くなる。
 誰に反対されてもアウレールとの子を作るつもりではあったが。こうやって人に肯定されるとほっとするのも事実だ。

「メイド長……ありがとう」

 溢れる涙をごまかそうと、ばしゃばしゃとお湯で顔を洗う。だけど涙は止まってくれなかった。

 誰かに『女性』として――愛されること。
 そしてその人の子を産むこと。

 少女の頃にくしゃくしゃにして捨てたそんな憧れが、希望とともに胸に帰って来たようで。
 私はまた、涙を零した。

 ☆

 体中を磨き込まれ、体中に花の香りがする香油を塗られ、生地が透けるほどに薄いひらひらとした夜着に着替えさせられて。私は疲労困憊で寝台の上に座っていた。

 ――鍛錬よりも疲れるのだが。
 それにこの夜着が……私に似合うとは思えない。

 青い生地の夜着をつまみ上げると、それは頼りない感触を返してくる。
 恥ずかしい。女性らしい衣類を身に着けるのなんて、何年ぶりなのだろうか。
 こんなにはりきって支度をして、アウレールに呆れられないか?
 いろいろなことを考えながら悶々としている間に時間は過ぎていく。
 そして――小さなノックが聞こえた。

「だ、誰だ?」
「アウレールです、エーファ様」

 誰何すると愛らしい声が返ってくる。とうとう、彼が来てしまったのだ。
 上掛けで体を隠しながら「入っていい」と返事を返す。すると扉がガチャリと開いた。

「エーファ様」

 アウレールは部屋に入ると、すぐさまこちらに駆け寄ってくる。そして寝台に乗り上げ、私の額に額を擦り合わせた。
 彼も入浴したばかりらしく、花のようないい香りがする。シャツの隙間からは白い肌が覗き、綺麗な形の鎖骨が妙に艶めかしい。
 アウレールの端整な顔が目の前にあって、なんだか落ち着かない。
 ……私の顔はこんな間近で見て鑑賞に耐えられるものなんだろうか。
 いろいろな意味で不安になってくるのだが!

「ア、アウレール。その……」
「はい」
「よろしく、頼む」
「……エーファ様。優しくします」

 珊瑚の色の唇が頬に触れる。唇は次に鼻先に触れ、唇に落ちた。
 触れるだけの唇を繰り返すうちに、体を隠していた上掛けははらりと落ちてしまう。そして私が着るには愛らしい夜着の存在を露わにした。
 アウレールの視線が夜着に釘づけになるのがわかる。恥ずかしくて身をよじると、ふっと優しく微笑まれた。

「可愛い。似合っています、エーファ様」
「こんな女が着るようなもの……私には」
「エーファ様は、可愛い女性です」
「……そんな、ことは」

 真っ赤になりながらアウレールを見ると、彼の表情は真剣だ。

「エーファ様。可愛い貴女を僕にください」

 そう言われ、ちゅうと唇を吸われた後に寝台に優しく倒される。アウレールは数度唇を啄んでから、唇の隙間に舌を差し入れた。私はおそるおそる、それを迎え入れる。
 ……先ほどの、気持ちがいい口づけをするのか。
 そんな期待に胸を震わせながら。

「ん、ふっ……んっ!」

 アウレールの舌に口内が甘く蹂躙される。歯列を撫でられ、口蓋を嬲られ。寂しそうにしている舌を捕らえられて擦り合わされる。湿った吐息が絡んで一つになり、どちらのものともつかない唾液が口の端から零れていく。

「あっ……ん」

 覚えたての口づけに夢中になって耽っていると、胸にそっと触れられた。そんなところに触れられると思っていなかった私は、びくりと身を竦ませた。
 アウレールは唇を離すと、楽しそうな笑みを浮かべる。

 それはまるで――捕食者のような笑みだった。

「ふふ、そんなに怖がらないでください。気持ち良くするだけですから」
「その。待っ……!」

 制止も虚しく、手がむにゅりと両胸を揉み込む。
 アウレールの小さな手には私の胸はまったく収まらず、柔らかな肉は手からほとんどはみ出てしまっている。

「大きいですね……」
「馬鹿者!」
「照れてるエーファ様も、とっても可愛い」
「ば、馬鹿! あっ!」

 アウレールの手が夜着の隙間から侵入し、肌に直接触れられる。手はしばらく硬い腹を撫でた後に、胸へと優しく触れた。
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