【R18】モブ令嬢は変態王子に望まれる

夕日(夕日凪)

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本編

モブ令嬢は変態王子に望まれる・前

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小説家になろうで連載中の『悪役令嬢は南国で自給自足したい』の番外ですが、
本筋とはほぼ無関係です。
時間軸的には南国本編の春先辺りです。
2話でさくっと終わります。
ヒーローがショタです注意。

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 この世界は『胡蝶の恋』という乙女ゲームの舞台である。
 それに気づいたのは、十歳の頃。猫を追いかけ庭で転んだ瞬間だった。
 メイド達が転んだ私を心配そうに見守る中、私は堂々たるガッツポーズをしながら立ち上がりこう叫んだ。

「ラノベで読んだヤツ!! 乙女ゲーム転生だー!!」

 ……メイド達には奇異の目で見られ、後ではしたないとお母様には鬼の形相で叱られた。
 誰だ、お母様にチクったメイドは。覚えてなさいよ。

 私はアリエル・アーデルベルグ。
 黒髪黒目の取り立てて特筆するべき点がない平凡すぎる容姿の女である。
 前世は日本在住の女子高生で、現世では子爵家のご令嬢をしている。
 この世界が前世で散々遊んだ『胡蝶の恋』という乙女ゲームと色々な符丁が合っていると気づいた瞬間にはテンションがかなり上がったけれど、自分の現世の身の上とゲーム内のキャラクターとを照らし合わせてテンションは一気に急降下した。

 (悪役令嬢のビアンカ・シュラットじゃないし、ヒロインのシュミナ・パピヨンでもない。サポートキャラのミルカ王女でもない……じゃあ私は、誰だ?)

 散々考えた結果出た結論は。

 (うん、モブだわ。私)

 ……というものだった。
 まぁ、モブでもいい。ゲームの舞台であるルミナティ魔法学園に入学したら攻略対象を舐めるように拝めるわけだし、うん。
 推しのフィリップ王子を近くで拝め、同じ空気を吸えるだけでも僥倖ってことにしよう。
 それに乙女ゲームになるような世界だけあってここはモブでもそこそこ顔がいい男が多い。
 魔法学園で適当に家格が合うイケメンを見つけてゴールインして、悠々自適のお貴族生活を送ろう。
 私は現実主義者なので『モブなのに攻略対象に迫られてる!』のルートは期待しないのだ。
 ……あちらから向かって来るのなら、やぶさかではないけれど。
 ……期待なんか断じてしていないのだ。

 そして十三歳の春。
 私はゲームの舞台のルミナティ魔法学園に入学した。

「すごいなー。ゲームのまんまなんだ」

 なんて呟きながら学園の瀟洒な建物を眺めながら、入学式に向かう途中。
 その出来事は起きた。
 周囲から感嘆のような声がざわざわと起きそちらの方に目を向けると……なんと推しのフィリップ王子が歩いて来るのが目に入ったのだ。
 濃い黄金を溶かしたような金色の髪、金色の輝く瞳、荘厳といってもいい絢爛たる美貌。
 その漂う色気と覇気に当てられた私は、思わずこう叫んでいた。

「きゃあー! フィリップ王子だわ、素敵ぃ!」

 私と似たようなことを叫んでいる令嬢達は周囲に多かったので、こんな声を上げても目立ちはしない。
 ……だけど、あれ? この台詞って。
 フィリップ王子の初登場スチルで女生徒Aが叫んだ台詞と同じ……?
 私、あの女生徒Aだったのか! 確かに苗字も名前も頭文字はAだけど!!
 自分のこの世界での役割は、理解した瞬間に終わってしまった。

 (役割なしモブかと思いきや、私にもこの世界での役割があったんだなぁ……)

 遠ざかる推しの背中を拝みつつ、私はそんなことをしみじみと考えた。
 そして推しは本当に美しかった。
 役割を終えたモブの私はもう関わることはないのだろうけど……。

 入学式とホームルームを終え寮に向かって歩いていると、今度は悪役令嬢ビアンカ・シュラットが悪役令嬢の執事でもあり攻略対象でもあるマクシミリアン・セルバンテスとなんだか仲睦まじげに歩いているのが目に入った。
 いい雰囲気で微笑み合ってるけど、あの二人ってゲーム中だとものすごく仲が悪かったよね……?
 あれ?攻略対象の騎士見習いのノエル・ダウストリアもいる……こっちもなんで悪役令嬢と親しげなの?
 もしかして悪役令嬢も転生者だったりするのかな。
 同じ転生者でも家格が違いすぎて彼女と関わることはないのだろうけど。
 それにしても、リアル悪役令嬢めちゃくちゃ可愛いな……。
 銀色の髪の毛が奇麗だし、お肌すごい白いし、天使みたいにお顔は整ってるし、体は華奢だし。
 うわ……笑顔可愛い。ときめく。推せる。リアル悪役令嬢むちゃくちゃ推せる。
 同じ転生者(多分)なのに私のこのモブな見た目との差よ!

 (まぁ、彼女に一か所だけ勝っている場所が……実はあるんだけど)

「わっ!」

 そんなことを考えながら歩いていたせいか前方不注意になっていたらしく、私は誰かにぶつかってしまった。

「ご……ごめんなさい!」

 前を見ると私の胸に、金色の頭の人物が『埋まって』いた。
 ……そう、私が悪役令嬢に勝てる唯一の一部分。
 それはこの下を向いた時に自分の足元が見えない程度に大きいはちきれんばかりの巨乳である。
 私がゲームで唯一登場するフィリップ王子初登場時のスチルも『モブのくせに無駄に巨乳』とか言われてたもんな。
 そういえばこの埋まったままの人……どいてくれないな。さすがに色々心地が悪いというか……!

「あ……あの……」

 むに。むにむにむに。

 私が声をかけると同時に、あろうことか胸に埋まっている人の手が伸びて、思い切り私の胸をわし掴み、そのままの流れで容赦なく揉まれた。
 ちょっ……この人、公共の場で何やってるの!? というか乙女の胸になにしてるの!? お巡りさん、お巡りさーん!!
 周囲の人達もドン引きしてますみたいな目線を投げないで助けてよ!

「……なんて、たわわな果実なんだ……!」

 その金色の頭の人物から漏れたのは、意外なくらいに幼い美声だった。
 そうよね、身長百六十センチの私の胸に埋まるくらいなんだから、まだ子供のはずだ。
 しかし発言は完璧にセクハラジジイじゃない!
 そしてその手はまだ動き続け、私の胸を揉みしだいている。

「……ちょっ……! やっ止めて!」

 揉まれ続けるとなんだかおかしな気持ちになってしまう。
 私が感じやすいのか、この子がテクニシャンなのか。

「お前は、私に命令なんてできる立場なのか?」

 そう言ってようやく胸から顔を放し、こちらを見上げた変態のお顔は……。

「――ッ」

 驚くほどに整って、そしてとても推しに似ていた。
 ふわりと揺れる黄金のような金髪、金色の睫毛に縁取られた蜂蜜色の綺麗な瞳、白い肌、紅い唇……。
 その顔立ちは恐ろしいほどに整っている。
 十歳くらいなのかしら……なんて美しい少年なんだろう。
 胸を揉み続けてなければ、もっと素敵なんだけど。

「えっとね、僕。立場云々の前に、恋人でも婚約者でもない女の人のお胸は揉んじゃダメなの」

 そう言いながらむにゅむにゅと胸を揉みしだく手を離してもらおうと、少年の手の上から私の手を重ねる。
 すると少年の頬にさっと朱が差した。
 ……これだけ人の胸を揉んでおいて手に触れられただけで照れるのか。

「じゃあ、お前を婚約者にすれば……この果実は揉み放題なのか?」
「……まぁ、そうなりますね」

 家格的に私は低いし、この横柄な口調だとこの子は高位貴族なのだろうから私と婚約は無理だと思いますけどね。

「名前を言え」
「アリエル・アーデルベルグですけど……」

 この時私は、なぜ名乗ってしまったのだろう。
 適当な偽名でも使っておけば後々あんなことにはならなかったのに。
 いや、この子の『立場』なら……偽名を名乗っても探し出されてしまったのかな。
 だけどこの時の私は少年がようやく胸から手を離し、豪奢な金髪を翻しながら去って行ったことに心底ほっとしていた。

 ☆★☆

 数日後。

「えっと……何かの間違いなんじゃ……」
「私もそう思うのよねぇ……」

 私は、寮の部屋でお母様が持ってきた一通の手紙を見ながら首を傾げていた。
 その手紙は仰々しい王家の家紋付き……。
 そしてその内容を要約すると、
『第二王子のシャルル様が子爵家子女アリエル・アーデルベルグを婚約者に望んでいる』
 と書いてあったのだ。

「心当たりはないの……?」

 お母様が娘が王子に望まれたというのに何故だか非常に悲痛な面持ちで言う。
 私ががさつな娘だから仕方ないのだけど。
 前世の記憶に影響されて、とかではなく私は生まれた時から悲しいことにがさつだった。
 だけど両親も私も高位貴族に嫁ぐ、みたいな高望みを持っていなかったのでなんだかんだと看過されていたのだ。
 それにしても心当たり……。

「ある気がする……」

 多分、あの子だ。
 先日ぶつかった時にいきなり胸を揉んできた変態少年。
 ……あの子第二王子だったのか。しかも胸を揉むためだけに私を婚約者にしようとするとかどんだけ変態なんだ。
 彼は恐らく兄であるフィリップ王子の入学式を見に学園へいらしていたのだろう。
 お母様に経緯を話すと『その肉塊はいずれ面倒事を呼ぶと思っていたわ……』と胸を見ながら言われ悲しげな目をされた。
 お母様、肉塊ってひどすぎやしませんかね……?
 初対面が初対面だったし、面倒事は正直ごめんだけれど、子爵家ごときが王家からの勅命を無視するなんて無礼はできない。
『顔合わせのため登城するように』と最後に書かれた手紙を見ながらため息をついた時。
 私はあることに気づいてしまった。

 えっ……えっ。万が一シャルル王子と結婚したら、推しがお義兄様になるの!?
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