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番外編

短編まとめ2

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お月様の活動報告にアップしている短編まとめその2です。

『綺麗なお顔の婚約者様』(アリエルの悩みごとと恐れていることのお話)
『小さな王子の苦悩』(シャルル王子の苦悩と恐れていることのお話)

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『綺麗なお顔の婚約者様』

「アリエル、可愛い。好きだ」

 シャルル王子は今日も私に愛の言葉を惜しみなく囁く。
 彼は最近、身長が少し伸びて目線がちょっとだけ私と近くなった気がする。それを言うとシャルル王子は嬉しそうに、豪奢な金の髪を揺らして微笑んだ。
 そのうち身長なんて追い抜かれ今は少年然としている彼の体は男の人のものになっていくのだろう。
 そしてこの彼の美貌にも……磨きがかかっていくんだ。
 そう思うと口から思わずため息が漏れてしまう。

「アリエル。悩み事か? 愛おしい婚約者の悩みは私の悩みだ。ちゃんと話して欲しい」

 私の機嫌に敏感なシャルル王子は手をぎゅっと握って、視線を合わせてくる。……うう、綺麗なお顔……素敵すぎでしょ。

「……シャルル様は、大人になっていくんだなと思っていました」

 私の言葉にシャルル王子はこてん、と首を傾げる。可愛いーあざとい! 好き!

「私が大人になるのは、嫌か? 私は早く大人になりたい。そうなればアリエルが……兄上によそ見をしなくなるかもしれないし」
「シャルル様……!!」

 シャルル王子が豪奢な金の睫毛を伏せながらそんなことを言うものだから、私は驚いた。
 た……確かにフィリップ王子は前世の推しだから、たまに凝視していたかもしれないけど。彼がそんなに気にしていたなんて。
 フィリップ王子のことはあまり見ないように気をつけよう。

「アリエル。君の悩みは?」

 背伸びをし、頬に口づけながら婚約者様が言う。私は観念して口を開いた。

「シャルル様が大人になるともっとおモテになるだろうから。私なんて捨てられるんじゃないかって……不安で」

 だって私、モブだから。鏡を毎日眺めてみても地味なお顔は変わらない。
 シャルル王子に私よりも胸が大きな美少女に心変わりされたと言われてしまったら……彼を引き止めることなんてできないし、おこがましいなんて思ってしまう。
 シャルル王子はその大きな目を驚いたように開いて、私の顔を凝視する。うう……そんな風に見ないでよ……!!

「捨てるわけがないと、毎日のように言っているだろう。こんなに私は君を愛してるのに」

 シャルル王子は私の手の甲に口づけながら、少し怒ったような口調で言った。
 そう、彼は常日頃から惜しみなく愛の言葉をくれる。不安になるのは、私が自分に自信がないからだ。

「……君には、お仕置きが必要みたいだな。その体に私がどれだけアリエルを愛しているか教えてやる」

 ……雲行きが、なんだか怪しいですね? 私の手を引いてシャルル王子は寝室の方へと行こうとする。

「ま……待って、シャルル様! 今日は、その……お薬を持ってきてなくて」

 薬とは、避妊薬だ。
 王妃様から頂いたもので薬草学と魔法学の粋を集めた体に負担が一切ない夢の避妊薬らしい。……だけどものすごく高い。ポンポンとくださるものだから、市場価値を知った時には白目になった。
 王家の者であるシャルル王子の婚約者になった時、必ず行為の前にそれを飲むようにと私は王妃様に言い含められた。……このお話が破談になった時に、私が身ごもっていたらいらぬ火種の元になるから。

「避妊なんてしなくていい。アリエルが私のところから逃げないように、繫ぎ止める」

 シャルル王子はそう言って、その豪奢な美しい顔に悪い笑みを浮かべた。

「ダメです、王妃様に怒られてしまいます……!!」

 悲鳴を上げながら、私は王宮の廊下を引きずられていく。
 その様子を城の兵士や侍従の方々に『いつものアレか』みたいな目で見守られていて、私はいたたまれない気持ちになった。

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『小さな王子の苦悩』

 隣でアリエルが眠っている。その可愛らしい寝顔を観察しながら、私は婚約者の白い頬に触れた。

「……柔らかな頬だな。可愛い……。寝ていても可愛いな、我が婚約者殿は……」

 彼女の頬を撫でたり指で突いたりして弄んでいると、少し不満げに眉間に皺が寄る。アリエルは寝が深いので、これくらいでは目を覚まさないと思うが。
 下の方に目を向けると彼女の大きくたわわな胸には紫色の花が無数に散っており、私の独占欲の強さを表していた。
 美しい胸を見ていると思わずゴクリと喉が鳴ったので、上掛けで慌てて隠す。寝ている彼女に性的な悪戯をするまでは、落ちぶれていない。そのはずだ。
 アリエルは何故か、私が彼女を捨てると思っている。そんなことはないのだと……彼女の不安を晴らしてやりたい。
 彼女は自分に自信がないからそういうことを思ってしまうと言うが、自信を無くさせているのは……周囲の馬鹿どもだ。
 破談すると決めつけて、彼女に避妊薬を渡す母上。
 王宮で顔を合わせるたびに彼女の粗を探し非難する、私の婚約者候補だった令嬢たち。
 あの胸で私を釣ったのだと陰口を叩き嘲笑する女官に兵士。
 学園に放った影からの報告で、学園の生徒からもあることないことを言われていると聞いた。
 そんな日々の積み重ねが、可愛いアリエルから自信を奪っていく。
 その全てから……彼女を守ってやりたい。
 処罰を下せるものには容赦なく処罰を下しているが、それでも雨後の筍のようにそんな輩は湧いてくる。……母上にも、口を酸っぱくして言っているのだが……子供の戯言だと流されてしまう。
 早く大人になりたい。大人になれば、もっと彼女を守れるはずだ。
 この王宮で彼女を一番公平な目で見ているのは、悔しいことに兄上だ。
 彼はアリエルのよいところを見抜き、優しく接している。
 そんな兄上を見てアリエルが……密かに頬を染めるのにも、私は気づいている。

「アリエル。私は早く大人になるから」

 無垢な寝顔にそう囁いて頬に口づける。
 君に見限られるのを恐れているのは、私の方だ。
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