【R18】モブ令嬢は変態王子に望まれる

夕日(夕日凪)

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本編2

モブ令嬢は不安を抱える3

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「アリエル。舞踏会の準備は私に任せてくれ」

 シャルル王子はそう言いながら私の手を優しく握った。事前に知らせがあったならともかく、急遽だと準備が難しいからそれは助かるのだけれど……。

「そもそも、行ってもいいんですかね? 今回のことは王妃様に参加拒否をされたも同然ですし」

 明日の舞踏会は王家主催のものだそうだ。そうなるとかなり行きづらいのよね……王妃様に『呼ばれていないのにいらっしゃったの?』なんて人前で嫌味を言われ、晒し者になる自分の未来が目に見えて暗澹とした気持ちになる。私の言葉にシャルル王子は可愛らしい唇を尖らせた。

「私のパートナーは君しか考えられない。君が入り口で拒否されるようなことがあったら、私も一緒に帰るから」

 彼は私の手の甲にそっと口づけた後に、悲しそうに眉を下げた。

「……母上が本当に済まない」

 そしてそう言うと綺麗な形の唇をきゅっと引き結んだ。

「いえ、そもそもが私の冴えなさや身分が原因ですし。シャルル様はなにも悪くないです」

 例えば……悪役令嬢のビアンカ・シュラットのように美しく、聡明であったら。王妃様も私を認めてくれたかもしれない。実際彼女は王妃様受けがいい。王妃様との不仲の原因を突き詰めると、私が凡庸オブ凡庸であることが悪いということになる。
 ……つまり彼は私のせいで板挟みになっているのだ。

「無理やり君を手に入れたくせに、苦労をかけてしまうなんて……」

 シャルル王子は大きなため息をつくと、ぎゅっと私に抱きついた。しっかり胸に埋もれているのは、もう見ないフリをしよう……。

「いっそ君を連れて、逃げてしまうか」
「……シャルル様、それは無理があると思いますよ?」

 十三歳のなにもできない女と十一歳のショタで駆け落ちをしても……明るい未来の想像は難しい。悪い大人に騙されるか、追手に見つかって連れ戻されるか。そんな落ちになるだろう。

「私は冒険者になれる程度には腕が立つから。生活には困らせない自信はあるぞ」

 ……そんな可愛いおショタの容姿で言われても。シャルル王子は魔法はお得意とは聞くけれど。なににしても私なんかのために身分を捨てるのはご遠慮願いたいなぁ。

「シャルル様は、なにも捨てなくていいんです」

 ぎゅっと彼を抱きしめると胸の谷間で深いため息を漏らされて少しくすぐったい。シャルル王子とずっと一緒にいたいし、そのためなら王妃様の嫌がらせくらい耐えるつもりではいるのだけれど。
 私の存在がシャルル王子の将来に影を落とすようなら……。身を引くという選択肢も、考慮しなければ。
 シャルル王子に甘い王妃様のことだ。私と彼が別れたら、嬉々として身分が高くて、容姿が良くて、お胸が大きい婚約者を見つけてくるだろう。そして彼もきっと、時間が経てば私を忘れてその人に夢中になる。……想像するだけで悲しくて涙が出そうになるなぁ。
 強引な運びでものにされたとはいえ、私はもう彼に夢中なのだ。

「私はアリエル以外、すべて捨てていいんだ」

 胸の谷間から顔を上げて、真摯な顔で彼が囁く。その言葉に曖昧な笑みで答えると、とても不服そうなお顔をされてしまった。

 明日はシャルル王子が舞踏会前に邸に来てくれることになった。彼はドレスなどの一式を用意し持ってきてくれるそうで……。他人に任せるとまた『届かない』ということが考えられるから自分で来るのだそうだ。
 邸に帰宅し、明日彼が来ることを義両親になった方々に告げると、非常に気まずそうな顔をされた。……やっぱり王妃様に言い含められていたんだなぁ。
 権力というのは恐ろしいものだし責める気には一切ならないんだけど。むしろ私のせいで板挟みになっている彼らも被害者だ。
 『ごめんなさい』と口にすると辛そうなお顔で首を横に振られてしまった。

 そして翌日……。

「来たぞ! アリエル!」

 満面の笑みのシャルル王子が侯爵家へと訪れた。迎えに出る義両親を彼がギロリと睨むので、苦笑しながら部屋へと引っ張っていく。

「……ここが、アリエルの部屋か」

 キョロキョロと部屋を見回す彼が可愛くて、私は思わず微笑んでしまう。シャルル王子が連れてきたメイドたちも続けて部屋へと入り、私のお着替えは始まった。
 あっという間に服を脱がされ、コルセットでぎゅうぎゅうとウエストを締めつけられ……ってなんでシャルル王子は部屋から出て行かないのかな。

「シャルル様、私着替え中なんですけど……出て行かないんですか?」
「可愛いアリエルに万が一なにかあったらいけないから見張っているんだ。母上の息がかかる範囲の者を、私は信用していないからな」

 そう言う彼の目は本気で、可愛い牙でも剥きそうなご様子だ。メイドたちはその言葉に少しだけ顔色を変えつつも粛々と私の身なりを整えていく。……なにか企んでいたから顔色を変えたわけじゃないといいんだけど。うう、私まで疑心暗鬼になってしまっている。
 彼が用意してくれたのは金色のさらりとした生地のドレスだった。生地の表面はパールのようにキラキラと輝いて上品な光沢を放っている。上品なドレープが入ったスカート、大きく開いた胸元……この胸元開きすぎなんじゃないかな!? メロンのような胸が半分くらい外に放り出されてしまっている。零れたらどうするんだ。満足そうに頷いているシャルル王子を見るに、彼のご趣味なんだろう。
 ……このドレス、きっと驚くくらいに高いものなんだろうなぁ。そしてシャルル王子の色だ。それを贈ってくれたのが、少し嬉しい。

「本当は最初に贈ったドレスを着て欲しかったんだが。一体どこにやったんだろうな、母上は。問い詰めても白状しなかったし……後で侯爵を締め上げるか」

 ……ああ、義両親がまた妙な板挟みに……!

「わ、私このドレスで十分ですよ!!」
「むぅ……」

 慌てて私がそう言うとシャルル王子は少し不服そうに口を尖らせた。

 ドレスの行方は私も少し気になったけれど。
 私のためにシャルル王子がオーダーメイドしてくださったもののようだし……。そんなものをどこかへやってしまった王妃様に恨み言を言いたくなってしまう。不敬罪が怖いから言えないけど。

 ――そしてそのドレスの現在地は、舞踏会ですぐに判明することになったのだ。
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