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本編2
モブ令嬢は第二王子と出奔する10
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「兄上と話し合いをしたのだが……アリエルの案を採用することになった」
シャルル王子はそう言うと、大きく息を吐いた。
「まずはエレオノール嬢のことを片づけてから、母上のことは考えよう。居場所がバレても、戻らなければいいだけだしな。場合によってはまた越せばいい。……次はもっと遠い国に逃げるか」
シャルル様はそう言って、眉間に深い皺を寄せる。
(王妃様、かぁ……)
心の中でつぶやいて、私もこっそりとため息を漏らした。
エレオノール嬢のことはともかく、王妃様のことは一生ついて回る問題になるのだろうな。嫁姑問題が一朝一夕に片づきました、という話はなかなか聞かない。
私が努力すれば認めてもらえる、という話ならばがむしゃらに頑張るけれど……王妃様は『私のことがどうやっても気に食わない』のだ。
そういう場合って、私の頑張りでどうにかなる可能性は低いんだよなぁ。
じゃあこのまま逃げ続けるのが得策かというと……それも正しいのか自信がない。
「アリエル?」
またため息をつく私の頬を、シャルル王子が優しく撫でる。そちらを見ると不安げな色を宿した金色の瞳が、じっと私を見つめていた。
「私が、守るから」
「ふふ、ありがとうございます」
嫁姑問題が起きた時、夫が味方してくれず悲嘆に暮れる妻は多いと聞く。百パーセント味方をしてくれるシャルル王子がいるのだから、私は恵まれているのだ。
シャルル王子は私の胸に顔を埋めてすりすりと頬ずりする。その金の綿毛のような頭を撫でながら、私は笑みを漏らした。
「一応ノックはしたのだが。……少し話をしてもいいかな?」
いつの間にか部屋を訪れていたフィリップ王子が、苦笑いを浮かべて立っている。胸の谷間からシャルル王子の頭を引っこ抜こうとしたけれど、なかなか離れてくれない。何度か軽くげんこつを落としたら、涙目でようやく離れてくれた。
「君がこの屋敷に居るという情報を、それとなくエレオノール嬢側に流す。あちらの動きは影に探らせ、この屋敷の警備もヤツらにばれない程度に増やそう。そうだな……この屋敷には元々使用人が少ないから、十名くらいなら増えても不自然ではないか。すべて俺の影たちだから、安心してくれ」
フィリップ王子の言葉を聞きつつ、私はふんふんと頭を振った。
「そして罠にかかったヤツらを……とう! と投げ捨てればいいのですね!」
「……いや、頼むからアリエル嬢は大人しくしていてくれ」
「そうだぞ、アリエル」
……お二人から叱られてしまった。
「ところで、どれくらいで刺客はやって来るんでしょうね」
「アリエル嬢を始末したくてうずうずしてるだろうからな。たぶん、すぐに来ると思うぞ」
疑問を口にした私に、フィリップ王子がなかなかぞっとする答えを返す。こういう時のフィリップ王子は、言葉をあまりオブラートに包まない。
「……兄上、そんな言い方をするとアリエルが怖がるでしょう」
そう言ってシャルル王子がぎゅっと抱きついてくるけれど、胸に頬を擦り寄せられると「それが目当てだろう!?」と思ってしまうんだよな!
「ああ、すまないな」
フィリップ王子は眉尻を下げて謝るけれど、王太子様、そして推し様に謝られるなんて二重の意味で恐れ多い。少し申し訳なさそうなそのお顔も、とっても輝いて見えます!
「いえいえ、お訊きしたのはこちらなので! ご協力も本当にありがとうございます!」
私はシャルル王子を胸から引き離すと、フィリップ王子にお礼を言った。
☆
「やっぱり、少しだけでも護身術を覚えた方がいいと思うのですよね」
「……えぇ~。姫様懲りませんねぇ」
「懲りませんね」
ドロシアさんとコレットさんが、私の言葉に微妙な顔をする。
フィリップ王子は王都に戻られ、その代わりに十人の護衛の方々がやって来た。なのでこの屋敷には、ドロシアさんとコレットさんを合わせて十二人の護衛が居るわけだ。
だけど私一人の時に狙われたら、どうしようもないですしね。
「んー護身術はシャルル王子に怒られるから、教えませんけどぉ」
「……教えないんですね」
あの後二人はシャルル王子にめちゃくちゃ怒られたそうだから、これは当然か。
「これなんかはどうですかねぇ」
ドロシアさんが取り出したのは、手のひらに収まるくらいの本当に小さなナイフだった。刃は潰されていて、どう見ても物が切れるものには見えない。
「ナイフ……?」
「ただのナイフじゃないですよぉ。これ、風の魔石でできてるんです。だから一振りすると、ばーん! と敵をふっ飛ばせます」
「わぁ! すごい!」
「これを差し上げますけど、試し振りとかしないでくださいね。本当に危ないですからぁ」
ドロシアさんはナイフを渡すと、注意点を説明してくれた。
部屋に使うと部屋が半壊する程度に破壊力があるものらしい……気をつけて使おう。
「本当に本当に、試しぶりはしちゃダメですよ」
コレットさんにも真剣な顔で念を押されてしまう。
大丈夫ですよ、ぶん回したりしませんよ。……たぶん。
「……また、二人に頼って」
むぎゅと後ろから抱きしめられ、拗ねた声がかけられた。シャルル王子、だって貴方屋敷の見回りをされてたじゃないですか!
「シャルル様も、頼りにしてますよ!」
振り返り、額を合わせてからぐりぐりと擦り寄せる。するとシャルル王子は嬉しそうに笑い声を立てた。
シャルル王子はそう言うと、大きく息を吐いた。
「まずはエレオノール嬢のことを片づけてから、母上のことは考えよう。居場所がバレても、戻らなければいいだけだしな。場合によってはまた越せばいい。……次はもっと遠い国に逃げるか」
シャルル様はそう言って、眉間に深い皺を寄せる。
(王妃様、かぁ……)
心の中でつぶやいて、私もこっそりとため息を漏らした。
エレオノール嬢のことはともかく、王妃様のことは一生ついて回る問題になるのだろうな。嫁姑問題が一朝一夕に片づきました、という話はなかなか聞かない。
私が努力すれば認めてもらえる、という話ならばがむしゃらに頑張るけれど……王妃様は『私のことがどうやっても気に食わない』のだ。
そういう場合って、私の頑張りでどうにかなる可能性は低いんだよなぁ。
じゃあこのまま逃げ続けるのが得策かというと……それも正しいのか自信がない。
「アリエル?」
またため息をつく私の頬を、シャルル王子が優しく撫でる。そちらを見ると不安げな色を宿した金色の瞳が、じっと私を見つめていた。
「私が、守るから」
「ふふ、ありがとうございます」
嫁姑問題が起きた時、夫が味方してくれず悲嘆に暮れる妻は多いと聞く。百パーセント味方をしてくれるシャルル王子がいるのだから、私は恵まれているのだ。
シャルル王子は私の胸に顔を埋めてすりすりと頬ずりする。その金の綿毛のような頭を撫でながら、私は笑みを漏らした。
「一応ノックはしたのだが。……少し話をしてもいいかな?」
いつの間にか部屋を訪れていたフィリップ王子が、苦笑いを浮かべて立っている。胸の谷間からシャルル王子の頭を引っこ抜こうとしたけれど、なかなか離れてくれない。何度か軽くげんこつを落としたら、涙目でようやく離れてくれた。
「君がこの屋敷に居るという情報を、それとなくエレオノール嬢側に流す。あちらの動きは影に探らせ、この屋敷の警備もヤツらにばれない程度に増やそう。そうだな……この屋敷には元々使用人が少ないから、十名くらいなら増えても不自然ではないか。すべて俺の影たちだから、安心してくれ」
フィリップ王子の言葉を聞きつつ、私はふんふんと頭を振った。
「そして罠にかかったヤツらを……とう! と投げ捨てればいいのですね!」
「……いや、頼むからアリエル嬢は大人しくしていてくれ」
「そうだぞ、アリエル」
……お二人から叱られてしまった。
「ところで、どれくらいで刺客はやって来るんでしょうね」
「アリエル嬢を始末したくてうずうずしてるだろうからな。たぶん、すぐに来ると思うぞ」
疑問を口にした私に、フィリップ王子がなかなかぞっとする答えを返す。こういう時のフィリップ王子は、言葉をあまりオブラートに包まない。
「……兄上、そんな言い方をするとアリエルが怖がるでしょう」
そう言ってシャルル王子がぎゅっと抱きついてくるけれど、胸に頬を擦り寄せられると「それが目当てだろう!?」と思ってしまうんだよな!
「ああ、すまないな」
フィリップ王子は眉尻を下げて謝るけれど、王太子様、そして推し様に謝られるなんて二重の意味で恐れ多い。少し申し訳なさそうなそのお顔も、とっても輝いて見えます!
「いえいえ、お訊きしたのはこちらなので! ご協力も本当にありがとうございます!」
私はシャルル王子を胸から引き離すと、フィリップ王子にお礼を言った。
☆
「やっぱり、少しだけでも護身術を覚えた方がいいと思うのですよね」
「……えぇ~。姫様懲りませんねぇ」
「懲りませんね」
ドロシアさんとコレットさんが、私の言葉に微妙な顔をする。
フィリップ王子は王都に戻られ、その代わりに十人の護衛の方々がやって来た。なのでこの屋敷には、ドロシアさんとコレットさんを合わせて十二人の護衛が居るわけだ。
だけど私一人の時に狙われたら、どうしようもないですしね。
「んー護身術はシャルル王子に怒られるから、教えませんけどぉ」
「……教えないんですね」
あの後二人はシャルル王子にめちゃくちゃ怒られたそうだから、これは当然か。
「これなんかはどうですかねぇ」
ドロシアさんが取り出したのは、手のひらに収まるくらいの本当に小さなナイフだった。刃は潰されていて、どう見ても物が切れるものには見えない。
「ナイフ……?」
「ただのナイフじゃないですよぉ。これ、風の魔石でできてるんです。だから一振りすると、ばーん! と敵をふっ飛ばせます」
「わぁ! すごい!」
「これを差し上げますけど、試し振りとかしないでくださいね。本当に危ないですからぁ」
ドロシアさんはナイフを渡すと、注意点を説明してくれた。
部屋に使うと部屋が半壊する程度に破壊力があるものらしい……気をつけて使おう。
「本当に本当に、試しぶりはしちゃダメですよ」
コレットさんにも真剣な顔で念を押されてしまう。
大丈夫ですよ、ぶん回したりしませんよ。……たぶん。
「……また、二人に頼って」
むぎゅと後ろから抱きしめられ、拗ねた声がかけられた。シャルル王子、だって貴方屋敷の見回りをされてたじゃないですか!
「シャルル様も、頼りにしてますよ!」
振り返り、額を合わせてからぐりぐりと擦り寄せる。するとシャルル王子は嬉しそうに笑い声を立てた。
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