【R18】執事と悪役令嬢の色々な世界線

夕日(夕日凪)

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天使は執事見習いに試練を与える

天使は執事見習いに試練を与える・2

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 お嬢様の体が背中にぴったりと寄り添っている。
 柔らかな感触、少し高めの体温、背中に感じる微かな寝息。その全てが私の鼓動を激しくさせる。
 ――落ち着け、落ち着け。マクシミリアン・セルバンデス。
 目を瞑って私は懸命に心を落ち着けようとした。

(――いや、こんなの落ち着けるか!!)

 背中には好きな女性の感触、上掛けの中に立ち込めているのはお嬢様の芳醇な香り。
 こんな状況で落ち着ける男なんているはずがない。
 私は自分の幼い雄が立ち上がるのを感じ慌てふためいた。本当に勘弁してください、お嬢様!

(部屋で一回抜いてから戻ってこよう……。これは、どうしようもない)

 そう思いながらがっちりと腰に回されたお嬢様の手を外そうと、そっとその手を掴んだ時。

「……マクシミリアン……」

 お嬢様がやや不明瞭な声で私の名を呼んだ。
 起こしたかとギクリとしてお嬢様の方を伺うとその瞳はしっかりと閉じられたままだ。
 寝言で私の名前を呼んだのですか?……可愛い、可愛すぎますお嬢様。
 名残惜しい気持ちになったけれど、私は心を鬼にしてお嬢様の手を外しにかかる。
 これはお嬢様の安全のためでもあるのだ。
 そろりそろりと手を外すことに成功し、音を立てないように慎重に寝台から下りようとしたその時。

「マクシミリアン?」

 今度ははっきりとしたお嬢様の声が私を呼んだ。……起こして、しまったか。
 どうしたものかと考えていると、お嬢様にぎゅっと背中にしがみつかれた。

「どこか、いっちゃうの?……やだ」

 甘えるような声音で囁かれる。恐らく少し寝ぼけてらっしゃるのだろう。
 お嬢様の寝起きは普段からよくないからな……。

「えっと。お手洗いにいくだけなので」
「やだ……マクシミリアン、いて」

 甘えた声で名前を呼ばれ、体をすり寄せられ下腹部がずくりと重くなる。
 地獄か。ここは天国に似た地獄だ。
 このままではなにがとは言わないが暴発してしまいそうだ。
 いっそジョアンナでもいいから助けて欲しい。

「お嬢様、このままだと漏らしてしまいますので離してください……!」

 私が涙目で必死に懇願するとお嬢様は少し不満そうな顔で手を離してくれた。
 ――その後、部屋でなにをしてから戻ってくるとお嬢様はすやすやとまた安らかに眠っておられた。
 ……長椅子で寝よう。あそこは危険だ。
 お嬢様の部屋の長椅子に転がって目を瞑る。やっと平穏が訪れた、そんな気持ちで。
 次回は必ずお断りしよう。幼いとはいえ意中の女性と共寝などするべきではないのだ。
 そんなことを考えているうちにウトウトと意識は蕩け、私は眠りに落ちていった。

 朝、目が覚めて目に入ったのは私の体の上で眠っているお嬢様だった。
 お嬢様。何故、こんなところに。
 ぴったりと体を寄り添わせて彼女はすぴすぴと寝息を立てている。

「お嬢様」

 声をかけて揺さぶると、お嬢様はふにゃふにゃと声を漏らすが起きはしない。
 仕方なく私は彼女の軽い体を抱えると慎重に寝台へと横たえ上掛けをかけた。
 時計を確認すると仕事の時間まではまだ少し間があるようだ。
 だがすっかり目が冴えてしまったしな……。そんなことを思いながら自室へ戻り着替えを済ませると、私は台所へと向かった。

「マックス、昨日はどうだった?」

 コックに混じってパタパタと朝食の準備をしていたジョアンナがこちらへ声をかけてくる。

「……どうもこうも」

 私は台所の隅にある椅子に腰かけてため息をつく。

「暇ならほら、ジャガイモ剥いて」

 言いながらジョアンナは俺にジャガイモがたっぷり入った籠を運んできた。
 ……これ、お前の仕事だろう。
 そう思いながらも私はナイフを手に取りジャガイモの皮を剥き始めた。
 無心になれて、案外よいかもしれないと思ったのだ。

「あら、マックスが素直にお手伝いしてる。珍しい! いい子でちゅね」

 小馬鹿にしつつジョアンナがガシガシと頭を撫でてくるものだから、俺……いや、私は思わず半眼になりナイフを彼女に向けた。

「……殺すぞ、ジョアンナ。いや、殺されたいんだよな?」
「マックス。ステイ、ステイ。私が悪かったわ」

 ジョアンナは頬に汗を浮かべながら慌てて謝ると、自分の持ち場へとそそくさと戻っていった。
 ……ショリショリと、ジャガイモを剥き、籠に放り込む。さらに剥いて、放り込む。
 案外楽しいその作業に夢中になっていると、横からなにか恨みがましい視線を感じた。

「……お嬢様!?」

 視線へ目を向けると、頬を膨らませたお嬢様がそこにいた。

「お嬢様、危ないので台所になど……」
「……一緒に、寝てくれなかったわ。おはようを言う前に、どこかに行っちゃうし」

 お嬢様の頬はさらに空気で膨らむ。可愛い、可愛いのだが……男の事情も考えてやって欲しい。

「お嬢様。添い寝は止めましょう」
「どうして……?」
「結婚前の男女が添い寝なんて、はしたないです」

 私がそう言うとお嬢様は涙目になってしまう。

「わたくし、父様からちゃんと許可ももらっているのに。マクシミリアン、職務怠慢ですのよ!」

 ……お嬢様、貴女そんな難しい言葉をどこで覚えてくるんですか。
 そしてそれを言われてしまうと、雇われの身としてはどうしようもない。

「それに子供同士ではしたないことなんて、ある訳ないもの!」

 お嬢様は明るい笑顔でそう言った。
 ……お嬢様、ああ。可愛らしい私のお嬢様。貴女は悪魔ですか。

 ――お嬢様との添い寝は、今晩も決行されるらしい。
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