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執事のお嬢様開発日記
執事は令嬢と踊る1
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「マクシミリアン、あのね。お願いがあるの」
学園での授業を終えたお嬢様と寮の部屋へ戻ると、彼女がもじもじと愛らしい手をすり合わせながら話しかけてくる。
「どうしました、お嬢様」
そっと両手を広げると一瞬だけ湖面の色の瞳をぱちくりとさせて躊躇したが、お嬢様は私の腕の中にぽすりと収まった。抱きしめると、か細い体は温かくて抱き心地がいい。近頃はすっかり馴染んだ、私の愛する婚約者の体温と感触だ。
「……抱きしめる意味って、あるのかしら?」
「お嬢様とより近くでお話がしたかったもので。それでお願いとは?」
きょとりと首を傾げる彼女に微笑みながらそう返すと、なんだか腑に落ちないという表情をしながらもお嬢様は話を続けた。
「今度ね、学園主催のパーティーがあるのだけど。マクシミリアンにエスコートをお願いできないかなーって。その……婚約者として」
「お嬢様! それはぜひに!」
学園内の催しとはいえ、お嬢様の正式なパートナーとしてお披露目されるのだ。そのに栄誉を預かれることに否と言うわけがない。
「よかった。断られたらどうしようかと思ったの」
お嬢様はそう言うと、愛らしいお顔に安堵を滲ませた。
「断るわけがないでしょう。お嬢様のお隣に、対等の立場で立てる素晴らしい機会なのですよ?」
「ふふ、お上手ね。マクシミリアン」
「本気です」
跪いてから小さく嫋やかな感触の手を取る。そしてそっと口づけるとお嬢様の白い頬が薔薇色に染まった。
「ビアンカ・シュラット侯爵令嬢。貴女の恋の奴隷を、ぜひお連れください」
「……マクシミリアン・セルバンデス侯爵。ありがとう、嬉しいわ」
屈んだままの私にお嬢様はぎゅっと抱きついてくる。そして頬に頬を擦り寄せながら嬉しそうに笑った。
「物語の一場面みたい。……いつもこんな感じなら、素敵なのになぁ」
「いつもの私とは違いましたか?」
頬を膨らませて言うお嬢様に、心外だという顔を作ってみせる。するとお嬢様は頬をさらにぷくりと膨らませた。
「だってマクシミリアン、やらしいことばかりするんだもの。今みたいな素敵なことも、いっぱいして欲しいわ」
「……そんなにやらしいことばかり、しているでしょうか」
「ひゃ!」
可愛らしいことばかりと言う婚約者を抱きしめて耳に数度口づけると、これまた愛らしい悲鳴が彼女から上がった。続けて小さな耳穴に舌を差し込むと、彼女の体がふるりと震える。可憐な手がぎゅっと執事服のジャケットを掴み、柔らかな体がこちらに擦り付けられた。
「やらしいことは、お嫌いで?」
「も、もう! いい雰囲気だったのに。台無しっ」
「申し訳ありません」
謝罪しながら背中を撫で上げると、その刺激だけで甘い息がお嬢様から漏れる。
お嬢様は私が毎日丁寧に調律した楽器だ。どこに触れれば美しい声で啼いてくれるのか、私だけがよく知っている。
「お嬢様、口づけをしても?」
「……待てができない、犬は嫌い」
「慈悲を。私のお嬢様」
哀れに見えるように眉尻を下げながら、じっとお嬢様を見つめる。するとお嬢様は言葉を詰まらせた。お嬢様にとって幸か不幸か。私の顔は彼女のお好みらしい。それを存分に利用している自覚はあるが、止めるつもりもない。
「お願いを、聞いてくれないと嫌」
そう言ってお嬢様はこちらを見つめながら可愛らしく小首を傾げた。
「お願い?」
「……パーティーの日までに、たくさんデートをして。それでね、身に着けるアクセサリーやドレスを貴方が選んで。当日は会場で一番素敵になるように装って、その姿で薔薇を抱えて迎えに来て。わたくしの王子様になってマクシミリアン」
――なんて愛らしいお願いなのだろう。
王子様、なんて柄ではないが。
お嬢様が欲しがるものに、なれるように努力をしよう。
……王子様と聞くとあのポンコツ王子のことが脳裏を過るな。あれは見た目だけなら王子そのものだ。
「仰せのとおりに、私の姫様」
囁いて、耳に、頬に、唇に。触れるだけの口づけをする。お嬢様は花が咲くように、本当に嬉しそうに笑った。それを見ているだけで、胸に幸福が満ちる。
「やらしいことばかりするなら、わたくし愛想を尽かすんだから」
「……それは、困りますね」
それこそ、今からしようと思っていたのだが。お嬢様の制服の釦にかけていた指を慌てて離す。
「なにか悪いことをしようとしていた? わたくしの可愛い子犬ちゃん」
そう言って微笑むお嬢様は、十三歳の少女とは思えない妖艶さだ。
……これも私の日々の開発の賜物だな。
学園での授業を終えたお嬢様と寮の部屋へ戻ると、彼女がもじもじと愛らしい手をすり合わせながら話しかけてくる。
「どうしました、お嬢様」
そっと両手を広げると一瞬だけ湖面の色の瞳をぱちくりとさせて躊躇したが、お嬢様は私の腕の中にぽすりと収まった。抱きしめると、か細い体は温かくて抱き心地がいい。近頃はすっかり馴染んだ、私の愛する婚約者の体温と感触だ。
「……抱きしめる意味って、あるのかしら?」
「お嬢様とより近くでお話がしたかったもので。それでお願いとは?」
きょとりと首を傾げる彼女に微笑みながらそう返すと、なんだか腑に落ちないという表情をしながらもお嬢様は話を続けた。
「今度ね、学園主催のパーティーがあるのだけど。マクシミリアンにエスコートをお願いできないかなーって。その……婚約者として」
「お嬢様! それはぜひに!」
学園内の催しとはいえ、お嬢様の正式なパートナーとしてお披露目されるのだ。そのに栄誉を預かれることに否と言うわけがない。
「よかった。断られたらどうしようかと思ったの」
お嬢様はそう言うと、愛らしいお顔に安堵を滲ませた。
「断るわけがないでしょう。お嬢様のお隣に、対等の立場で立てる素晴らしい機会なのですよ?」
「ふふ、お上手ね。マクシミリアン」
「本気です」
跪いてから小さく嫋やかな感触の手を取る。そしてそっと口づけるとお嬢様の白い頬が薔薇色に染まった。
「ビアンカ・シュラット侯爵令嬢。貴女の恋の奴隷を、ぜひお連れください」
「……マクシミリアン・セルバンデス侯爵。ありがとう、嬉しいわ」
屈んだままの私にお嬢様はぎゅっと抱きついてくる。そして頬に頬を擦り寄せながら嬉しそうに笑った。
「物語の一場面みたい。……いつもこんな感じなら、素敵なのになぁ」
「いつもの私とは違いましたか?」
頬を膨らませて言うお嬢様に、心外だという顔を作ってみせる。するとお嬢様は頬をさらにぷくりと膨らませた。
「だってマクシミリアン、やらしいことばかりするんだもの。今みたいな素敵なことも、いっぱいして欲しいわ」
「……そんなにやらしいことばかり、しているでしょうか」
「ひゃ!」
可愛らしいことばかりと言う婚約者を抱きしめて耳に数度口づけると、これまた愛らしい悲鳴が彼女から上がった。続けて小さな耳穴に舌を差し込むと、彼女の体がふるりと震える。可憐な手がぎゅっと執事服のジャケットを掴み、柔らかな体がこちらに擦り付けられた。
「やらしいことは、お嫌いで?」
「も、もう! いい雰囲気だったのに。台無しっ」
「申し訳ありません」
謝罪しながら背中を撫で上げると、その刺激だけで甘い息がお嬢様から漏れる。
お嬢様は私が毎日丁寧に調律した楽器だ。どこに触れれば美しい声で啼いてくれるのか、私だけがよく知っている。
「お嬢様、口づけをしても?」
「……待てができない、犬は嫌い」
「慈悲を。私のお嬢様」
哀れに見えるように眉尻を下げながら、じっとお嬢様を見つめる。するとお嬢様は言葉を詰まらせた。お嬢様にとって幸か不幸か。私の顔は彼女のお好みらしい。それを存分に利用している自覚はあるが、止めるつもりもない。
「お願いを、聞いてくれないと嫌」
そう言ってお嬢様はこちらを見つめながら可愛らしく小首を傾げた。
「お願い?」
「……パーティーの日までに、たくさんデートをして。それでね、身に着けるアクセサリーやドレスを貴方が選んで。当日は会場で一番素敵になるように装って、その姿で薔薇を抱えて迎えに来て。わたくしの王子様になってマクシミリアン」
――なんて愛らしいお願いなのだろう。
王子様、なんて柄ではないが。
お嬢様が欲しがるものに、なれるように努力をしよう。
……王子様と聞くとあのポンコツ王子のことが脳裏を過るな。あれは見た目だけなら王子そのものだ。
「仰せのとおりに、私の姫様」
囁いて、耳に、頬に、唇に。触れるだけの口づけをする。お嬢様は花が咲くように、本当に嬉しそうに笑った。それを見ているだけで、胸に幸福が満ちる。
「やらしいことばかりするなら、わたくし愛想を尽かすんだから」
「……それは、困りますね」
それこそ、今からしようと思っていたのだが。お嬢様の制服の釦にかけていた指を慌てて離す。
「なにか悪いことをしようとしていた? わたくしの可愛い子犬ちゃん」
そう言って微笑むお嬢様は、十三歳の少女とは思えない妖艶さだ。
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