【R18】執事と悪役令嬢の色々な世界線

夕日(夕日凪)

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執事のお嬢様開発日記

執事は令嬢と踊る2

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 お嬢様とパーティーの話をした、翌日の放課後。
 私はお嬢様の小さな手を取って、パーティーの買い物のために街へ出た。隣を歩くお嬢様は大変にご機嫌で、大きな瞳で何度も私を見上げてくる。そんなお嬢様を見ていると、私の頬も自然にゆるんでしまう。
 今日の私は執事服ではなく、ディトーズ一式を身に着けている。お嬢様と並んで不自然ではない姿で一緒にいられるのは、私にとっては喜ばしいことだ。

「どこに行きましょうか。……ビアンカ」

 ――今日の私は『執事』ではなく、彼女の『婚約者』だ。
 そんな想いを込めて名前を呼ぶと、お嬢様は白い頬を淡い朱に染めて嬉しそうに微笑んだ。

「まずはお洋服のオーダーをしに行きましょう? 大人っぽいドレスと、可愛らしいドレス。どちらを着ているわたくしを、マクシミリアンは見たい?」

 お嬢様は無邪気な表情で可愛らしいことを訊いてくる。
 それにしても、なんて悩ましい質問なんだ。どちらのお嬢様も愛らしいに決まっているのに。

「……ビアンカは、私にどんなものを着せたいですか? そのつり合いで考えましょう」
「まぁ! それは素敵ね、マクシミリアン!」

 苦し紛れにいった言葉だったが、お嬢様は納得してくださったようだ。
 今日は、パーティーで着る私の礼服も選ぶことになっている。
 お嬢様は『王子様のような服』とおっしゃっていたが……私にフィリップ王子のような白の礼服や、赤の外套は似合わないと思うのだ。
 お嬢様が見たいと言うなら、望んで道化にもなるが。

「マクシミリアンにはね、青を着て欲しいの。……その、私の瞳と、同じ色…………の」

 お嬢様はそう言うと、恥ずかしそうに下を向いた。
 どうやら白の礼服は免れたらしい。そしてそれは、とても素敵なご提案だ。
 お嬢様の色ならば、私はいつでも纏いたいのだ。
 しかし……

「ビアンカに、私の色を着て頂けないのは残念ですね」

 私はどこからどう見ても、『黒』しか見つからない見た目だ。
 そんな喪服のような色を晴れの場でお嬢様に纏わせるなんて、言語道断である。
 自分の見た目が他人にどう見えるかという類のことに――私は正直興味がない。
 しかしお嬢様に纏って頂ける色を持っていないことは、実に残念だと思う。

「じゃあ、青をベースにしたドレスを黒のレースや刺繍で飾ったらどうかしら? わたくしとマクシミリアンの色が一つなの」

 ――なるほど、そういう手もあるのか。
 お嬢様と一つだなんて、とても素晴らしい。この方は本当に素晴らしいご提案をされる。

「行き先は、いつも寮まで来て頂いている商会で宜しいでしょうか」
「そうね、そうしましょう!」

 腕をそっと差し出すと、お嬢様は少し照れながら細い腕を絡めてくる。
 周囲を歩く男たちがそんなお嬢様に目を向け、頬を真っ赤に染めた。私が威嚇するように視線を走らせると、彼らは慌てて視線を逸らす。

 ――まったく。汚れるからお嬢様を見るんじゃない。

 商会に着くと、主人が慌てたような顔で出迎えてくれる。先触れを出していなかったから、焦っただろうな。それを少し、申し訳なく思う。

「侯爵様、お嬢様。よくぞおいでに! 本日はなんのご用件で?」
「二人でパーティーに出る。だから彼女のドレスと、私の礼服を注文しに来たんだ」
「なるほど、なるほど。少しお待ちくださいませね」

 主人は何度も頷いた後に、大きな体を揺らしながらデザイナーを呼びに行く。私とお嬢様はメイドに広い客室に通され、出された紅茶を口にしていると、主人が一人の女性を連れて戻って来た。いつもお嬢様のドレスを作ってくれるデザイナーである。彼女は優美に一礼すると、にこりと笑った。

「もっと深い青はあるかしら? 表面が光っていたり、グラデーションになっているのも見せて欲しいわ」
「お嬢様はいつもお目のつけどころがさすがですわ。でしたらこちらの布地は……」

 ……ファッションの話になれば、男は蚊帳の外である。
 お嬢様とデザイナーが布を広げながら話を進めていく様子を眺めながら、私は時折相槌を打ったり、口を挟んだりをした。
 商会でドレスと礼服の発注を済ませ、揃いの石でアクセサリーも注文する。そちらもお嬢様の瞳の色だ。
「きっとお似合いのお二人になります」という商会の主人のリップサービスにも心が踊るのだから、私は案外単純らしい。

「楽しみね、マクシミリアン」
「そうですね、ビアンカ」

 囁いて額に口づけをすると、お嬢様が楽しそうに小さな笑い声を立てる。そんな私たちを主人や店員たちがなんだか微笑ましげな目で見ているのに気づき、私は少しだけ照れくさい気持ちになった。

「では、二週間後にドレスとアクセサリーをお届けしますので」
「お願いしますわ」
「ああ、頼む」

 商会から出た瞬間……お嬢様がぼふりと勢いよく抱きついてくる。その小さな体を受け止め、私は首を傾げた。

「お嬢様?」
「今日は、ビアンカと呼んでくれるのでしょう?」
「そうですね、ビアンカ。どうしたのです?」

 銀色の髪を撫でると、彼女は気持ち良さそうに目を細める。白い頬を続けて撫でると、少し潤んだ瞳がこちらに向けられた。

「……なんだか、胸がいっぱいで。揃いのものを用意して、一緒にパーティーに出られるなんて。貴方は本当に、わたくしの恋人なのね」

 毎日体を触れ合わせているのになにを今さら……と言うのは野暮だな。私にだってそれくらいはわかる。

「ビアンカ。私達は互いのものです」

 そう囁いて額や頬に口づけると、お嬢様は……花が咲くように笑った。
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