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花屋のうさぎの困惑3
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「さ、降りるぞ。レイラ」
騎士団の宿舎に着くと、リオネル様が手を差し出して僕を馬車から降ろそうとしてくれる。しかし僕はその手を、ただオロオロしながら見つめてしまった。
馬車の扉を支えたニルス様が、そんな僕の様子を怪訝そうに見つめる。そして空気をすんとひと嗅ぎして……
「……リオネル様。ちょっと」
怖い顔でリオネル様を手招きした。狼獣人は嗅覚が鋭敏だ。きっと僕の粗相がバレてしまったに違いない。
もしかして、このお仕事を辞めさせられてしまうのかな。この仕事を辞めさせられたら……
いつもの業務に戻って、店への悪戯も無くなって、アルファの多い場所へもう通わなくてよくて……
あれ? 割と願ったり叶ったりだな。
なのに少しだけ寂しいと思ってしまうのは、どうしてだろう。
リオネル様とニルス様は僕から離れたところで声を潜めて話しをしている。……リオネル様がニルス様に叱られているように見えるのは、気のせいかな。
「お待たせ、じゃあ花を運ぼうね」
戻って来たニルス様に手を引かれて、ひょいと馬車から降ろされる。リオネル様はというと、そんな僕とニルス様の様子を耳と尻尾を下げて見つめていた。一体、どうしたんだろう。それに……
「あの、僕はクビなんじゃ……」
「ええ? そんなわけないでしょう!」
恐る恐るニルス様に訊ねると、笑顔でそんな返事が返ってくる。
「でも僕、粗相を……その」
「なんのことかなぁ」
飄々とした様子で答えながらニルス様は花束を抱えた。僕はなんだか腑に落ちない気持ちで、視界がギリギリ確保できる量の花束を抱えてから執務室へと向ったのだった。
「リオネル様、ここに置いても?」
「ああ、構わない」
そして僕はクビになることもなくいつもの通りに、リオネル様の執務室で花を生けていた。しかし気を抜くとリオネル様の手や唇にばかり目が行ってしまい、触れられた感触を思い出してなかなか仕事にならない。
……初めての口づけが、まさかリオネル様になるなんて。
口づけどころか、下腹部にも触れられてしまったのだけれど。
思い返すとどうしていいのかわからなくなって、顔に熱が集まってしまう。
「レイラ?」
僕はまた、リオネル様を見つめていたらしい。不思議そうに名前を呼ばれて、慌てて目を逸したけれど、挙動不審にもほどがある。
顔がぽっと火照って、体もなんだか熱い気がする。このままだと、またおかしなことになりそうだ。
「どうしたんだ? 顔が真っ赤だ」
リオネル様が眉間に小さく皺を寄せながら、心配そうに訊ねてくる。
「あ、あの。ちょっとお手洗いに行ってきます!」
頭と体を冷やそうと、僕は執務室から飛び出した。背後からリオネル様に呼ばれたような気がしたけれど、それには気づかないフリをする。
毎日通い歩き慣れた宿舎の廊下を足早に歩き、お洗いを目指す。この時間帯はリオネル様が以前おっしゃっていた通りに大半の騎士たちは訓練に出ているらしく、廊下ですれ違う人々はいつもまばらだ。うさぎの花屋が出入りしていることは通達されているようで、彼らとすれ違っても見咎められることは一度もなかった。
お手洗いに入り扉を閉めると、僕は洗面台の前に立ち蛇口を捻った。顔を何度も水で洗い、ブルブルと頭を振って水気を切る。冷たい水のおかげで少しだけ、気分が落ち着いた気がした。
ふと鏡を見ると、自分の顔が映っている。凡庸なウサギ族の男の顔だ。僕は無意識に自分の唇に指で触れていた。この唇に、リオネル様が口づけを……そしてあの綺麗な指が、僕の体に。
「――ッ!」
先ほどのことを思い返していると、体が一気に熱くなる。
この感覚は……嘘だろ、発情期!?
次の発情期は二週間後のはずなのに、どうして。リオネル様に触れられたことで、発情の引き金が引かれてしまったのだろうか。
まだ先のことだと思っていたので抑制薬は持ってきていない。こんな状態でアルファと鉢合わせたら、不幸な『間違い』が起きるかもしれない。それを想像すると全身に寒気が走った。
もう一回水で顔を洗って深呼吸をする。落ち着け、まだ動ける。本能に飲まれる前に執務室まで戻るんだ。僕がここで頼れるのは、ニルス様とリオネル様だけだ。
……どうにか、執務室まで戻らないと。
騎士団の宿舎に着くと、リオネル様が手を差し出して僕を馬車から降ろそうとしてくれる。しかし僕はその手を、ただオロオロしながら見つめてしまった。
馬車の扉を支えたニルス様が、そんな僕の様子を怪訝そうに見つめる。そして空気をすんとひと嗅ぎして……
「……リオネル様。ちょっと」
怖い顔でリオネル様を手招きした。狼獣人は嗅覚が鋭敏だ。きっと僕の粗相がバレてしまったに違いない。
もしかして、このお仕事を辞めさせられてしまうのかな。この仕事を辞めさせられたら……
いつもの業務に戻って、店への悪戯も無くなって、アルファの多い場所へもう通わなくてよくて……
あれ? 割と願ったり叶ったりだな。
なのに少しだけ寂しいと思ってしまうのは、どうしてだろう。
リオネル様とニルス様は僕から離れたところで声を潜めて話しをしている。……リオネル様がニルス様に叱られているように見えるのは、気のせいかな。
「お待たせ、じゃあ花を運ぼうね」
戻って来たニルス様に手を引かれて、ひょいと馬車から降ろされる。リオネル様はというと、そんな僕とニルス様の様子を耳と尻尾を下げて見つめていた。一体、どうしたんだろう。それに……
「あの、僕はクビなんじゃ……」
「ええ? そんなわけないでしょう!」
恐る恐るニルス様に訊ねると、笑顔でそんな返事が返ってくる。
「でも僕、粗相を……その」
「なんのことかなぁ」
飄々とした様子で答えながらニルス様は花束を抱えた。僕はなんだか腑に落ちない気持ちで、視界がギリギリ確保できる量の花束を抱えてから執務室へと向ったのだった。
「リオネル様、ここに置いても?」
「ああ、構わない」
そして僕はクビになることもなくいつもの通りに、リオネル様の執務室で花を生けていた。しかし気を抜くとリオネル様の手や唇にばかり目が行ってしまい、触れられた感触を思い出してなかなか仕事にならない。
……初めての口づけが、まさかリオネル様になるなんて。
口づけどころか、下腹部にも触れられてしまったのだけれど。
思い返すとどうしていいのかわからなくなって、顔に熱が集まってしまう。
「レイラ?」
僕はまた、リオネル様を見つめていたらしい。不思議そうに名前を呼ばれて、慌てて目を逸したけれど、挙動不審にもほどがある。
顔がぽっと火照って、体もなんだか熱い気がする。このままだと、またおかしなことになりそうだ。
「どうしたんだ? 顔が真っ赤だ」
リオネル様が眉間に小さく皺を寄せながら、心配そうに訊ねてくる。
「あ、あの。ちょっとお手洗いに行ってきます!」
頭と体を冷やそうと、僕は執務室から飛び出した。背後からリオネル様に呼ばれたような気がしたけれど、それには気づかないフリをする。
毎日通い歩き慣れた宿舎の廊下を足早に歩き、お洗いを目指す。この時間帯はリオネル様が以前おっしゃっていた通りに大半の騎士たちは訓練に出ているらしく、廊下ですれ違う人々はいつもまばらだ。うさぎの花屋が出入りしていることは通達されているようで、彼らとすれ違っても見咎められることは一度もなかった。
お手洗いに入り扉を閉めると、僕は洗面台の前に立ち蛇口を捻った。顔を何度も水で洗い、ブルブルと頭を振って水気を切る。冷たい水のおかげで少しだけ、気分が落ち着いた気がした。
ふと鏡を見ると、自分の顔が映っている。凡庸なウサギ族の男の顔だ。僕は無意識に自分の唇に指で触れていた。この唇に、リオネル様が口づけを……そしてあの綺麗な指が、僕の体に。
「――ッ!」
先ほどのことを思い返していると、体が一気に熱くなる。
この感覚は……嘘だろ、発情期!?
次の発情期は二週間後のはずなのに、どうして。リオネル様に触れられたことで、発情の引き金が引かれてしまったのだろうか。
まだ先のことだと思っていたので抑制薬は持ってきていない。こんな状態でアルファと鉢合わせたら、不幸な『間違い』が起きるかもしれない。それを想像すると全身に寒気が走った。
もう一回水で顔を洗って深呼吸をする。落ち着け、まだ動ける。本能に飲まれる前に執務室まで戻るんだ。僕がここで頼れるのは、ニルス様とリオネル様だけだ。
……どうにか、執務室まで戻らないと。
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