52 / 59
花屋のうさぎと赤狼の出会い1
しおりを挟む
リーディさんは二台目の馬車に押し込まれ、声が聞こえないところをみると猿轡でも噛まされているのか、気絶しているのかなのだろう。気にはなるけれど、他人の心配をしている余裕が僕にはない。
「さて、ハルミニア卿のお気に入り君」
金色の瞳を光らせながら、ゆっくりと……昏い炎のような雰囲気を纏う赤狼が近づいて来る。
『逃げられない』。その存在の強大さに、心は一気に諦観に覆われた。
リオネル様から漂う気配は清廉で、奥には優しさを纏っている。対してこのアルファの気配からは、圧倒的な『支配』が迸っていた。
体が震え、その場に膝をつきそうになる。固い地面に額を何度も擦りつけて、『許してください』と喚き散らしてしまいそうだ。そんな衝動を必死に堪え、僕は赤狼を睨みつけた。
「……貴方は、なんなんですか」
乾いた喉から言葉を絞り出す。そんな僕をしばし見つめて、赤狼は口角をゆるりと上げた。
「そういう話は、ここではない場所でしよう。道端では落ち着かないからね」
彼はそう言うと、優美な仕草で手を差し出した。僕は戸惑いながらその手を見つめ……悩みつつも手を載せた。リーディさんがどういう状況なのかわからないし、彼が発した言葉を思い返すにロランが人質に取られているのだろう。
僕の一挙手一投足が彼らの命綱なのだと想像できて、手を取らないという選択肢は選べなかった。
……逃げても、すぐに追いつかれてしまうだろうし。
「うん、いい子だね」
思わずうっとりとするような、だけどどこか嗜虐的な笑みが向けられる。言葉を返さないこちらには構わず、赤狼は僕の手を引いて馬車へと乗り込んだ。
馬車はリオネル様のものと比べても広く立派なもので、男の高貴な身分を思わせる。そしてそんな高貴な人がなぜこんなことを……とそんな疑問を同時に抱かせた。
赤狼は正面には座らず僕の隣に腰を下ろし、優しい手つきで肩を抱いた。
「あ、あの」
「なんだい?」
「状況の説明を、お願いします……」
「ふふ、そうだねぇ」
赤狼は楽しそうに笑うと、肩を抱く手の力を強める。その手は僕の首筋に伸びて……ハルミニア侯爵家の家紋が入った首輪を優しく撫でた。首筋がちりちりと妙な疼きを訴え、僕は思わず首を竦めた。
――怖い。
頭の中で警鐘がうるさいくらいに鳴っている。なにが恐ろしいって……このアルファに対する『嫌悪感』が湧かないことがだ。自分の中のオメガの部分が、圧倒的なアルファを前にねじ伏せられ、歪められている。このままでは感情までも、このアルファに好意的な方向へと塗り替えられてしまいそうだ。
僕はリオネル様の顔を思い浮かべ、心を必死に立て直した。
「さて、ハルミニア卿のお気に入り君」
金色の瞳を光らせながら、ゆっくりと……昏い炎のような雰囲気を纏う赤狼が近づいて来る。
『逃げられない』。その存在の強大さに、心は一気に諦観に覆われた。
リオネル様から漂う気配は清廉で、奥には優しさを纏っている。対してこのアルファの気配からは、圧倒的な『支配』が迸っていた。
体が震え、その場に膝をつきそうになる。固い地面に額を何度も擦りつけて、『許してください』と喚き散らしてしまいそうだ。そんな衝動を必死に堪え、僕は赤狼を睨みつけた。
「……貴方は、なんなんですか」
乾いた喉から言葉を絞り出す。そんな僕をしばし見つめて、赤狼は口角をゆるりと上げた。
「そういう話は、ここではない場所でしよう。道端では落ち着かないからね」
彼はそう言うと、優美な仕草で手を差し出した。僕は戸惑いながらその手を見つめ……悩みつつも手を載せた。リーディさんがどういう状況なのかわからないし、彼が発した言葉を思い返すにロランが人質に取られているのだろう。
僕の一挙手一投足が彼らの命綱なのだと想像できて、手を取らないという選択肢は選べなかった。
……逃げても、すぐに追いつかれてしまうだろうし。
「うん、いい子だね」
思わずうっとりとするような、だけどどこか嗜虐的な笑みが向けられる。言葉を返さないこちらには構わず、赤狼は僕の手を引いて馬車へと乗り込んだ。
馬車はリオネル様のものと比べても広く立派なもので、男の高貴な身分を思わせる。そしてそんな高貴な人がなぜこんなことを……とそんな疑問を同時に抱かせた。
赤狼は正面には座らず僕の隣に腰を下ろし、優しい手つきで肩を抱いた。
「あ、あの」
「なんだい?」
「状況の説明を、お願いします……」
「ふふ、そうだねぇ」
赤狼は楽しそうに笑うと、肩を抱く手の力を強める。その手は僕の首筋に伸びて……ハルミニア侯爵家の家紋が入った首輪を優しく撫でた。首筋がちりちりと妙な疼きを訴え、僕は思わず首を竦めた。
――怖い。
頭の中で警鐘がうるさいくらいに鳴っている。なにが恐ろしいって……このアルファに対する『嫌悪感』が湧かないことがだ。自分の中のオメガの部分が、圧倒的なアルファを前にねじ伏せられ、歪められている。このままでは感情までも、このアルファに好意的な方向へと塗り替えられてしまいそうだ。
僕はリオネル様の顔を思い浮かべ、心を必死に立て直した。
34
あなたにおすすめの小説
のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした
こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
運命の番ってそんなに溺愛するもんなのぉーーー
白井由紀
BL
【BL作品】(20時30分毎日投稿)
金持ち社長・溺愛&執着 α × 貧乏・平凡&不細工だと思い込んでいる、美形Ω
幼い頃から運命の番に憧れてきたΩのゆき。自覚はしていないが小柄で美形。
ある日、ゆきは夜の街を歩いていたら、ヤンキーに絡まれてしまう。だが、偶然通りかかった運命の番、怜央が助ける。
発情期中の怜央の優しさと溺愛で恋に落ちてしまうが、自己肯定感の低いゆきには、例え、運命の番でも身分差が大きすぎると離れてしまう
離れたあと、ゆきも怜央もお互いを思う気持ちは止められない……。
すれ違っていく2人は結ばれることができるのか……
思い込みが激しいΩとΩを自分に依存させたいαの溺愛、身分差ストーリー
★ハッピーエンド作品です
※この作品は、BL作品です。苦手な方はそっと回れ右してください🙏
※これは創作物です、都合がいいように解釈させていただくことがありますのでご了承くださいm(_ _)m
※フィクション作品です
※誤字脱字は見つけ次第訂正しますが、脳内変換、受け流してくれると幸いです
【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~
Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい
俺だけに命令して欲しい
俺の全てをあげるから
俺以外を見ないで欲しい
俺だけを愛して………
Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、
でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ
俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を
Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です!
Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。
こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!
オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う
hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。
それはビッチングによるものだった。
幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。
国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。
※不定期更新になります。
オメガな王子は孕みたい。
紫藤なゆ
BL
産む性オメガであるクリス王子は王家の一員として期待されず、離宮で明るく愉快に暮らしている。
ほとんど同居の獣人ヴィーは護衛と言いつついい仲で、今日も寝起きから一緒である。
王子らしからぬ彼の仕事は町の案内。今回も満足して帰ってもらえるよう全力を尽くすクリス王子だが、急なヒートを妻帯者のアルファに気づかれてしまった。まあそれはそれでしょうがないので抑制剤を飲み、ヴィーには気づかれないよう仕事を続けるクリス王子である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる